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著作権判例セレクション
【著作者の推定】著作権法14条の趣旨/書籍のカバーデザインの共同著作者性を否定した(著作者の推定を覆した)事例
▶令和3年5月27日東京地方裁判所[令和2(ワ)7469]
(注) 本件は,原告(出版社)が,被告(出版社)が出版している被告書籍の被告カバーデザインは,原告が出版する本件書籍の共有著作権及び著作者人格権を侵害すると主張して,被告に対し,著作権法112条1項に基づき,被告書籍の複製及び頒布の差止めなどを求めた事案である。
(前提事実)
〇原告とAとの間の出版契約書の締結
原告は,平成27年12月15日,A(書籍のデザインを手掛けるデザイナ)との間で,「出版契約書」と題する書面(「本件出版契約書」)において,本件書籍に関し,以下の内容の出版契約(「本件出版契約」)を締結した(括弧内の条文は,本件出版契約書の条番号である。
ア Aは,本件書籍の複製及び頒布の権利を原告に許諾し,他に許諾しない(1条)。
イ Aは,この契約の有効期間中に,本件書籍と明らかに類似すると認められる内容の著作物もしくは本件書籍と同一書籍名の著作物を出版せず,あるいは他人をして出版させない(5条)。
ウ 原告は,Aの権利保全のために所定の位置に下記の著作権表示(「本件著作権表示」)をする(9条)。
「Copyright © 2015「A」/ PIE International」
エ 原告は,Aに対し,本件書籍の著作権使用料を支払う(13条)。
〇原告による本件書籍の出版
原告は,平成27年11月13日,別紙記載のカバーデザイン(「本件カバーデザイン」)を表紙とし,奥付部分に本件著作権表示が記載された本件書籍を出版した。
1 争点1,2について
(1)
認定事実
ア 原告は,平成27年11月13日,本件カバーデザインを表紙とする本件書籍を出版した。本件書籍の奥付部分には,本件著作権表示が記載されている。また,本件カバーデザインの表面には,本件書籍のタイトルとともに,「A」との記載や,「DESIGNED
BY 「A」 」との記載がされている。
イ 原告とAは,平成27年12月15日付けで,本件書籍の出版に関し,以下の内容の本件出版契約を締結した。
(略)
(2)
本件カバーデザインの著作者
著作物とは,「思想又は感情を創作的に表現したものであつて,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」をいい(著作権法2条1項1号),著作者とは,「著作物を創作する者」をいうのであり(同項2号),本件カバーデザインは美術に属するから,本件カバーデザインの作成につき創作的に関与した者が本件カバーデザインの著作者であると認められるべきである(Aが同「著作者」に当たることは明らかであり,当事者間でも争いがない。)。
そして,著作権法14条は,著作物の原作品に,その氏名若しくは名称(以下「実名」という。)又はその雅号,筆名,略称その他実名に代えて用いられるものとして周知のものが著作者名として通常の方法により表示されている者は,その著作物の著作者と推定するとの旨を規定する。しかして,同条の規定は,著作者としての立証に困難を伴うことが多いことから,著作権を行使しようとする者の立証の負担を軽減する趣旨で,当該著作物を創作したことの立証に代えて,著作者を示す方法として通常の方法が採られている場合には,その著作者として表示された者を著作者と推定することとしたものである。そうすると,このような推定を覆す事実の反証があれば,この推定は覆り,当該著作物の作成につき創作的関与をしたと認められる者が,その著作物の著作者といえることとなる。
上記の観点から,原告が原告書籍(本件カバーデザインを含む。)の共同著作者といえるかについて検討すると,前記(1)で認定したとおり,本件書籍については,原告とAとの間で本件出版契約が締結されているところ,本件出版契約においては,Aが本件カバーデザインを含む本件書籍の「著作権者」であるとして,その著作者であることを前提に,「出版者」とされた原告に対し,本件書籍を複製・頒布することを許諾し,原告はその許諾を受ける対価としてAに対して著作権使用料を支払うことが約されていることが認められる。また,本件カバーデザインの表面には,「A」との記載や,「DESIGNED
BY「A」 」との記載がされ,原告の記載はされていない。さらに,原告の従業員等が,本件書籍(本件カバーデザインを含む。)につき,Aとともに共同著作者として認められる程度にまで至るような創作的関与をしたことを根拠付ける具体的な事実の主張,立証はされていない。
これらからすれば,本件著作権表示にかかわらず,本件カバーデザインの著作者は,本件カバーデザインの表面に当該デザインを創作した者であるとの旨が明示され,本件出版契約においても本件書籍(本件カバーデザインを含む。)の著作者であることが前提とされ,ゆえに本件書籍(本件カバーデザインを含む。)の作成に創作的に関与した者であると認められるAのみであるというべきである。そして,原告は,これを前提に,Aの著作物である本件書籍を複製,頒布して出版する権利を取得したに過ぎず,このような原告をもって,本件書籍の共同著作者と認めることはできず,本件書籍(本件カバーデザインを含む。)が,原告とAの共同著作物であるということはできない。
(3)
原告の主張について
原告は,本件書籍には,著作権者を表す通常の方法である©表示を用いて本件著作権表示がされているため,著作権法14条により,原告とAとが本件書籍の共同著作者として推定されると主張する。
しかしながら,©表示によって著作権者を表示することが通常の方法であるどうかは措くとしても,前記(2)のとおり,本件出版契約においては,Aが本件書籍(本件カバーデザインを含む。)の「著作権者」であるとして,その著作者であることを前提に,「出版者」とされた原告に対し,本件書籍を複製・頒布することを許諾することが約されていることに加え,本件カバーデザインの表面には,Aが当該デザインを創作した者であるとの旨が明示されていることからすると,仮に本件著作権表示をもって原告を共同著作者とする著作権法14条の推定が働くとしても,この推定は,上記の旨が反証により認められることにより覆るものというほかなく,本件カバーデザインを創作した者であるAが,その単独の著作者と認められるものというべきである。
また,原告は,原告の従業員であるBが本件書籍(本件カバーデザインを含む。)の制作に当たり,Aに対して,イラスト素材を探して提示し,素材の組合せや配列等デザイン全般にわたり,Aと協議を重ねるなどしており,本件書籍(本件カバーデザインを含む。)の作成に創作的に関与していると主張する。
しかしながら,前記のとおり,Bが本件カバーデザインにつき,Aとともに共同著作者として認められる程度にまで至るような創作的関与をしたことを根拠付ける具体的な事実の主張,立証はされていない。たとえ,Bが,Aが本件カバーデザインを制作するに当たり,イラスト素材を提供し,素材の組合せや配列等についてAと協議を重ねていたとしても,原告の主張するこのようなBの関与は,その内容自体からして,補助的なものにすぎないというほかなく,Bが本件書籍(本件カバーデザイン)の作成に創作的に関与していたと認めるには足りない。
なお,この点に関し,A作成に係る本件確認書1において,Aが,本件書籍の著作権は原告との共有にかかることを確認していることがうかがわれる。しかしながら,前記のとおり,平成27年11月に原告が本件書籍を出版するに際して締結された本件出版契約においては,Aが本件カバーデザインを含む本件書籍の「著作権者」であるとして,その著作者であることを前提に,「出版者」とされた原告に対し,本件書籍を複製・頒布することを許諾し,原告はその許諾を受ける対価としてAに対して著作権使用料を支払うことが約されていること,本件確認書1は,原告と被告との間で本件書籍の著作権侵害の紛争が顕在化してから作成されていること,しかして,本件出版契約の存在にかかわらずこれに沿わない内容の本件確認書1が作成された経緯について合理的に説明できる具体的な事実の主張,立証がされていないことなどからすると,本件確認書1の存在及びその内容は唐突であり不自然なものとの評価を免れず,これを採用して直ちに,本件書籍の作成につき原告が創作的関与をしたと認められるということはできないといわざるを得ない。ゆえに,本件確認書1をもって,原告とAとが本件書籍の共同著作者であると認めることはできず,本件書籍(本件カバーデザインを含む。)が,原告とAの共同著作物であるということはできない。
(4)
著作権持分の譲渡について
原告は,仮に,Aが本件カバーデザインについて単独で著作者となるとしても,原告はAから本件書籍の著作権の持分の譲渡を受けているとして,原告は本件書籍の共同著作権者であると主張し,本件確認書1につき,本件書籍が原告とAとの共同著作とは認められないとしても,Aは原告に対して本件書籍に係る著作権(著作権法27条及び28条の権利を含む。)の持分の半分を譲渡するとの趣旨を含むものであるとのA作成に係る本件確認書2を提出する。
しかしながら,前記のとおり,本件出版契約に沿わない本件確認書1の内容は,唐突かつ不自然なものであり,このことは,それが共同著作者との内容の場合であれ,それが持分2分の1の譲渡との内容の場合であれ,何ら変わるものではないというべきであるから,原告の上記主張のように,本件確認書1に本件確認書2を併せても,これをもって本件書籍の作成につき原告が創作的関与をしたと認められないとの前記認定は左右できないといわなければならない。なお,本件確認書2自体も,本件確認書1と同様の理由により唐突かつ不自然なものというべきであるから,採用することができないものであって,仮に原告の主張が,本件確認書2が作成された令和2年11月24日においてAから原告が本件書籍の著作権の持分譲渡を受けた事実を証するものであるとの旨を含むものとしても,この主張にも理由はないものといわざるを得ない。
(5)
小括
以上のとおり,原告において,本件書籍(本件カバーデザインを含む。)の作成につき創作的関与をしたとは認められず,Aとともにその共同著作者であると認めることはできず,Aから著作権持分の譲渡を受けているとも認められない。
したがって,本件書籍(本件カバーデザインを含む。)が,原告とAの共同著作物であるとはいえず,上記につき,原告が著作者(共同著作者)として共有著作権及び著作者人格権を有しているとは認められない。