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著作権判例セレクション

【地図図形著作物】建築設計図の著作物性

▶平成120308日名古屋地方裁判所[平成4()2130]
二 争点1(原告設計図は著作物といえるか。)について
1 著作権法(以下「法」という。)上保護される著作物であるためには、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものでなければならないところ(法211号)、建築設計図は、学識、経験、個性によって決定された設計者の思想が図面として表現されたものであり、学術的な表現であるということができるから、その表現に創作性が認められるものについては、著作物性が認められる。
建築設計図を著作物として保護するのは、建築の著作物(法1015号)のように、建築物によって表現された美的形象を模倣建築による盗用から保護する趣旨ではないから、美術性又は芸術性を備えることは必要ない。
また、法は保護の要件として、創作性があることを要求しているだけであって、創作性が高いものであることは要求していないから、設計する建物はありふれたものでもよく、特に新奇なものである必要もない。そして、図面に設計者の思想が創作的に表現されていれば、著作物性としては十分であり、建物の建築図面として、その図面により建築するについて十分であるかどうかという図面の完全性が要求されるものでもない。
2 原告図面1(公図の写し)について
原告図面1は、本件建物の敷地付近の公図の写しに、敷地の周囲の道路の幅、敷地となる土地の周りの長さと面積を記入した図面と敷地の所有者名と地番、地積を記載した敷地面積表からなるものである。
しかしながら、公図は、登記所に備えられているものであり、原告もそれを写したにすぎないから、公図の写し部分に創作性はなく、著作権は発生しない。
原告図面1には、本件建物の敷地の面積、周りの長さ及び道路幅が記載されており、また、所有者ごとに土地の地番や面積等をまとめた敷地面積表が記載されているが、これらの記載は、客観的な事実であって、何人が記載しても同一となるはずのものであり、その表現方法も同一とならざるを得ないから、右部分は創作的表現ということはできず、原告に著作権は成立しない。
原告は、寸法を入れる位置にしても、分かりやすさなどを工夫した旨主張するが、創作的表現と評価できるものではない。
よって、原告図面1には、著作物性を認めることはできない。
3 原告図面6(現況敷地平面図)について
原告図面6は、本件建物の敷地の現況図であるが、現況図とは、原告が設計を依頼された建物自体ではなく、その敷地について、道路との境界線や、長さ、杭の位置などを、現況どおりに図面化したにすぎないものであり、客観な事実の記載であり、縮尺、方角さえ決まれば、ほぼ同一の記載となるものであって、その記載には創作性を認め難いものである。原告は、段差の表現方法について工夫した旨主張するが、創作的表現と評価できるものではない。
よって、原告図面6には、著作物性を認めることはできない。
4 表について
原告設計図のうち、表の形式で記載されているのは、前記原告図面1の敷地面積表のほか、仕上表、空調機器に関する機器表(1)、換気機器に関する機器表(2)、換気計算書の取入外気量、火気使用室換気量、衛生器具表、スプリンクラー設備計算表及び補助散水・設備計算表である。
表については、記載された事項の内容や数値自体は、表現方法ではないから著作物性はなく、表に著作物性が認められる場合は、表の形式そのものが特別のものであったり、表を構成する項目の選択やその記載の順序などに特別の工夫が見られる場合に限られるものである。
原告は、各項目の記載方法や順序が原告のオリジナルであると主張するが、記載内容でなく、その配列に著作物性があると認められるためには、すなわち、編集著作物であると認められるためには、配列がオリジナルであるだけでは不十分なのであって、配列自体に特に創作性が認められる場合でなければならない。
前記原告図面中の表には、特別の表形式のものはなく、表の構成する項目の選択やその記載の順序に特別の工夫はない。
結局、原告設計図中の表部分については、著作物性は認められない。
5 その余の図面について
原告代表者の供述によれば、設備図面を含め原告図面は、原告代表者がその一級建築士としての知識と技術を駆使して、そのスタッフとともに、あるいは設備業者に依頼して、創作したものと認められ、そこには原告の思想が表現されているといえるから、原告の著作物であると認められる。
被告らは、本件建物が、被告Hフーヅの構想、指示に基づいて作られているとして、原告設計図に著作物性はないと主張するが、著作物として保護されるべきは、著作物から読み取ることのできる建築思想(アイデア)ではなく、その表現形式自体であるから、著作権者がアイデアの発案者である必要はないのである。被告Hフーヅが、本件建物自体について、具体的なイメージを有しており、それを原告に伝えていたとしても、原告は、依頼者である被告Hフーヅの希望を容れて、そのイメージが現実に建築が可能なように、設計図として表現したのであって、そこには、原告の個性が現れ、創作性が表現されていることは明らかである。