Kaneda Legal Service {top}
著作権判例セレクション
【地図図形著作物の侵害性】建築設計図の侵害性
▶平成12年03月08日名古屋地方裁判所[平成4(ワ)2130]
(注) 本件は、建築設計業者である原告が、第一次的に、被告Hフーヅ、被告T建設及び被告I設計及び更生会社日本国土開発株式会社(「更生会社」)が、原告の著作物であるショッピングセンターの設計図のうち一部の図面を無断で複製、改変した上、右複製図面を被告I設計の図面として建築確認申請を行ったとして、被告会社らに対し、連帯して、著作権侵害による不法行為に基づく損害賠償として、著作者人格権侵害による不法行為に基づく慰謝料として、所定の金員の支払などを求めた事案である。
二 争点1(原告設計図は著作物といえるか。)について
(略)
三 争点2(被告設計図は、原告設計図を複製したものか。)について
1 著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうと解すべきであるから、本件において、複製の事実が認められるためには、①被告設計図が原告設計図に依拠して作成されていること、②原告設計図と被告設計図との間に同一性が認められることが必要である。
2 証拠によれば、被告I設計代表者は、被告設計図を作成する以前に、被告T建設から原告設計図書を渡されており、原告設計図を横に置いて被告設計図を作成したのであり、被告設計図のうち、原告設計図を見ないで作成したものはなく、外注した設備図面についても、外注先に、原告設計図書と、被告設計図のうち被告I設計代表者が作成したものを渡しているというのであるから、依拠の機会があったことは明らかである。
被告I設計代表者は、原告設計図を見てはいるが、原告設計図を写す意思(依拠の意思)はなく、被告設計図は独自に作成したものである旨供述する。
しかし、被告I設計代表者の供述を全体として見れば、結局、被告I設計代表者は、被告Hフーヅに依頼されたように、本件建物の建築費を8億円まで下げるためには、原告設計図を大幅に改変する必要があったところ、右改変は、設計変更という程度を越えて、独自に設計したと評価できる程度まで達していた旨述べているにすぎない。
そして、本件で著作物とされるのは図面であるから、たとえ被告I設計代表者が独自に本件建物の設計をし直したとしても、それが図面として表現された場合に、原告の表現と同一と認められる部分があれば、原告設計図を見ている(依拠の機会がある)以上、実際にもそれに依拠しているものと認めざるを得ない。
3 ②の要件である同一性の判断にあたっては、複製であると主張されている被告図面と原告図面を比較することになるが、その際、両図面が全く同じであることは必要でなく、原告図面の内容及び形式を覚知させるに足る同一性があれば、②の要件を満たすものといえる。したがって、異なる部分があったとしても、それが、量的あるいは質的に微細であって、図面全体の同一性が損なわれる程度のものでなければ、右部分の存在は、同一性ありとの判断に影響を及ぼすものではない。
逆に、同じ部分があるとしても、異なる部分の存在により、量的あるいは質的に別の著作と観念される程度に至ったものは、複製ということはできない。
よって、被告図面について、原告図面と同一性があるかについて、判断する
4 被告図面2(配置図)と原告図面2との同一性について
原告図面2は、本件建物の敷地に、本件建物、第一ないし第三駐車場を配置した状態を記載したもの、被告図面2は、本件建物の敷地に、本件建物及び第一駐車場を配置した状態を記載したものである。
被告図面2は、本件建物を囲む道路の線、敷地に対し建物の外形を示す線(設計変更された東側部分は異なる。)、第一駐車場の東端部分の設計変更部分を除いた駐車枠の取り方が、原告図面2とほぼ一致する。
被告らは、被告I設計が設計をするについては、既になされていた開発許可を活かすことが前提となっており、原告もこれを了承していたところ、右開発許可申請書には、原告が作成した原告図面2が配置図として添付されていたから、被告I設計が、建物と駐車場の配置、駐車台数などに関して原告図面2と同じ内容の図面を作成したとしても、これをもって著作権侵害を問うことはできないと主張する。
しかしながら、開発許可で定められた事項は、建物と駐車場の配置、道路との出入方法や駐車台数等の事項に限られるし、これらの事項についても全く変更ができないわけではなく、現に、被告図面2においても第一駐車場の東端部分の出入口について変更をしているから、被告図面が原告図面と全く同一である場合には、原告図面の複製をしたといわれてもやむを得ない。そして、原告が、開発許可に関係する部分について、原告図面と全く同一の図面を作成することまで了承したことを認めるに足る証拠はなく、原告代表者の供述によると、そのような事実はないものと認められる。
前記のとおり、被告図面2と原告図面2では、建物が設計変更されたため当該部分の外形を示す線が異なるほか、第一駐車場の東の入口の位置が変更され、最も東側の部分を通路にし、その分東西に並んだ駐車枠を増やしている点で異なるが、駐車場の駐車枠の取り方は、右変更点を除いて同一であり、全体として被告図面2と原告図面2は同一であり、複製であるといわざるを得ない。
5 被告図面7(外構図)と原告図面7の同一性について
両図面は、本件建物付近の道路の線、敷地に対し建物の外形(東側は除く)を示す線、第一駐車場の位置及び東端部分を除く駐車枠の位置、第二及び第三駐車場の位置及びそれぞれの駐車枠の位置がほぼ一致している。
そして、第一駐車場の位置及び駐車枠が同一であること、第二及び第三駐車場の位置及びそれぞれの駐車枠の位置がほぼ一致していることからすると、被告図面7は原告図面7と同一であり、複製であるといわざるを得ない。
第一駐車場の東端の部分の駐車枠の取り方が異なっていたり、被告図面7には第一駐車場と第二駐車場の間にも駐車スペースが設けられているほか、子細に見れば、原告図面7には存在する車止め表示点線が被告図面7には存在しなかったり、駐車場のフェンスの高さが異なるなど、異なる部分も存在するが、これらの部分は、被告図面7全体の中ではわずかな部分であり、右部分の存在によって、両図面が異なるものということはできない。
6 被告図面8(外構詳細図)と原告図面8について
被告図面8は、被告図面7の外構図の数カ所について、駐車場の舗装の仕方、フェンス等の構造及び道路、側溝との関係について記載した図面であり、舗装の厚さや構造など被告図面8にピンク色で表された部分を除き、原告図面8と同一である。
しかしながら、右図面に記載されている道路、側溝との関係は、開発許可の関係で、大幅な変更はできない事項であり、原告図面8と同じ内容のものとせざるを得ないものであった。そして、原告図面8の表現方法に特別なものはない。
よって、被告図面8も著作権侵害にはあたらない。
7 被告図面9(一階平面図)と原告図面9について
被告図面9は、本件建物の一階平面図であり、原告図面9は、本件建物の一階平面図と、駐車場(第一駐車場)を記載したものである。
両図面は、本件建物部分は、建物の外形を示す線のみならず、建物のほぼ中央部分に被告ハローフーヅの売場を配し、その西側と北側の周辺にテナントを配していること、テナントの業種とその配置順も同一であること、北西端に客用便所を設けその東側に客用入口と二階への階段を設けていること、東側のほぼ同じ位置に客の入口を設け、客用の二階への階段とエスカレーターもほぼ同じ位置にあること、売場の南側と南東側にかけてバックヤードを設けていること、従業員用の更衣室や食堂、便所、鮮魚と精肉の各バックヤード、冷蔵庫、冷凍庫を配していることなどの点において共通し、建物の東西方向の柱が9メートルのスパンで配されていること、ハローフーヅ売場とバックヤードの仕切りの位置、ハローフーヅ売場の中央に置かれたゴンドラの数、位置がほぼ一致するなど、一見すると同一のもののような印象を受けるものではある。
しかしながら、ショッピングセンターの商品売場を真ん中に置き、その周りを囲むようにテナントを配置するという方法は、スーパーなどショッピングセンターとして公知のものである上、前記認定のとおり、テナントの配置順や入口の位置や売場のゴンドラの数とその配置方法等は、客の動線を考慮に入れた被告Hフーヅの構想と指示によるものであって、その配置及びその位置に関しては、原告の創作性は認められない。
しかしながら、原告代表者は、依頼者である被告Hフーヅの希望を容れて、そのイメージが現実に建築が可能なように、設計図として表現したのであって、そこには、原告代表者の個性が現れ、創作性が表現されていることは明らかである。
そして、建築の設計図という著作物の性質からすると、売場やテナントの配置、入口や階段エスカレーターの位置や仕様がどのようなものとされているかが、設計図としての著作の異同を決定するものであるから、図面に表された具体的な線や図形の表現の異同について更に検討し、建物を建築する図面として見て量的あるいは質的に同一といえるかについて判断する。
そこで、被告図面9を子細に見た場合は、原告図面9とほぼ一致する部分は、建物の外壁線の位置と東西方向における柱のスパンと数、売場とバックヤードとの境の位置などのほか、ゴンドラの位置と数及びその書き方くらいであり、極めて少ない。
一方で、被告図面9が原告図面9と異なる部分としては、次のようなものがある。
(略)
以上のとおり、被告図面9と原告図面9とを比較すると、異なる箇所が多く、設計図として見た場合は同一のものとはいえないといわざるを得ない。
8 被告図面10(二階平面図)と原告図面10の同一性
原告図面10は、本件建物の二階平面図と、駐車場の外枠を記載したものであり、被告図面10は、本件建物の二階平面図である。
両図面は、売場のゴンドラの位置及び数、バックヤードの位置、男女更衣室、会議室及び事務室の位置及び形状、各所のドアの位置などが、ほぼ一致している。また、テナントの位置もほぼ同じであるが、被告図面10では、一階北西の入口の仕様が変更になった関係で、衣料品店の形状が変更されており、ラーメン店やお好み・タコ焼お持ち帰りコーナーの位置も変更されている。
変更点は、階段やエスカレーター、エレベーターの変更に伴うもののほか、二階の外壁より外側に東側から北側、西側の一部にかけて、空調の室外機等を置くためのスペースを帯状に設けていることが、大きく異なっている。
被告図面9に述べたと同一の理由で、売場とテナントの配置が同一であるということだけでは、著作権侵害に該当しない。そして、前記同一の点と異なる点を比較検討すると、設計図として見た場合は同一のものとはいえないといわざるを得ない。
9 被告図面11の1ないし3(立面図、断面図)と原告図面11の1ないし3の同一性について
被告図面11の1は、本件建物の南側及び東側立面図、被告図面11の2は、本件建物の北側及び西側立面図、被告図面11の3は、本件建物の断面図であり、原告図面11は、本件建物の外観を四方から記載した立面図及び本件建物の断面図を記載したものである。
原告図面11の1ないし3(ただし、設計図面としては一枚であり、被告図面との対比のため11の1ないし3とされているにすぎない。)と被告図面11の1と2は、屋階に設けられた看板については、字体に至るまで全く同じであるが、これは、被告ハローフーヅの商標であるから、図面の作成者が創作したものではない。
そして、両図面は、図面を観察したときに印象の大きい、本件建物の窓やドアの大きさ、形、配置、数が異なる。また、被告図面11の1ないし3においては、二階に東側から北側、西側の一部にかけて空調の室外機等を置くためのスペースにアルミ製のパネル板を帯状に設けていることから、外観上異なる印象を強くしている。
したがって、被告図面11の1ないし3と原告図面11の1ないし3との間に同一性は認められない。
10 被告図面12(階段平面詳細図)と原告図面12の同一性について
被告図面12は、北西の入口及び階段詳細図であるが、原告図面12に比べて、階段の幅が広く、踊り場までの階段と踊り場から二階までの階段の間の隙間が小さくなり、踊り場における段数にも違いが生じているほか、一階の高さが低くなった関係で踊り場から二階までの階段の段数が少なくなり、二階に上った部分が広くなっている。また、入口については、風除室の奥にあった回転ドアを入口側に設け、引き戸を入口から風除室の奥に設けることとし、風除室全体を入口に近い方へ移動させている。そして、入口部分の上に位置する二階部分の凹部をなくしている。このように、両図面は異なる部分が多く、同一とは認められない。
原告は、入口の幅が被告I設計の設計では4300ミリメートルと原告図面12に比べて1000ミリメートル小さくしているのに、被告図面12では同じ幅で書かれ、寸法も5300ミリメートルと記載されていること、回転ドアの幅は規格品で1873ミリメートルであるのに、原告図面12の引き戸の幅として記載されたと同一の1731ミリメートルと記載されていることをとらえて、被告図面12が原告図面12を写した証拠であると主張するが、複製であるかどうかは図面全体を見て、同一かどうかで決定されるものであり、被告図面12が原告図面12を写したものであるとしても、図面全体を見て異なると評価される本件においては、これを複製に該当するということはできない。
11 被告図面13(便所詳細図)と原告図面13について
被告図面13は、本件建物の客用便所及び従業員用便所の詳細図であり、原告図面13は、客用便所及び従業員用便所の詳細図及び展開図である。
両図面は、男子用便所及び女子用便所の外枠、ドアの位置などがほぼ一致し、個室の割り方も、一致する部分が多い。
しかしながら、被告図面13では、客用女子便所について、一階では和式便器であったものが二階では洋式便器に変更され、それに伴い、右変更部分の図面が、一階部分の図面左側に追加して記載されている。このことによって、客用便所については、追加部分も含めて、一つの広い便所であるような印象を与える図面となっており、客用便所全体について、前記一致部分を感じさせないものとなっている。
また、両図面において印象が強いのは、便器や手洗い場の形(表現)及びその配置であるところ、客用女子便所の個室(便器)について、原告図面13では、北側に一つ、東側に二つ置かれ、西側には手洗い場が設けられているのに対し、被告図面13においては、東側は手洗い場であり、西側に個室(便器)が三つ並べて設けられるという設計変更が行われている。また、原告図面13においては、すべて和式便器が採用され、それと分かる形で記載されているのに対し、被告図面13では、洋式便器が多く採用され、それと分かる形で記載されている。手洗い場の形も、原告図面13では楕円形で記載されているのに対し、被告図面13では四角形で記載されている。これら印象の強い部分の相異は、両図面全体の印象を異ならせるものとなっている。
したがって、両図面に同一性は認められない。
12 被告図面33(R階平面図)と原告図面33の同一性
原告図面33は、本件建物の屋階平面図(エレベーター部分については断面図となる。)と駐車場の外枠及びエレベーターの平面図を記載したものであり、被告図面33は、本件建物の屋階平面図である。
両図面は、本件建物の外枠の大きさが同じであるが、右外枠は、図面として見た場合は単に四角形が書いてあるだけであって、それほど印象の強いものではない。
一方、原告図面33を観察した場合に目を引くのは、本件建物の北西の角に記載された屋上広告塔、東側に記載されたエレベーター機械室及び階段、南東角に記載された補給水槽及びスプリンクラーテスト弁、図面の右側に別に記載されたエレベーター機械室の平面図であるところ、これらはいずれも被告図面33には記載されていないか、あるいは、原告図面33とは異なる位置に記載されているものである。
したがって、両図面に同一性は認められない。
13 設備関係の図面(被告図面14、15、16、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29の1と2、30の1、31、32)について
(一) 被告図面のうち14、15、19、20、21、22、26、27、31、32の各設備関係図面は、被告図面9の一階平面図、図面10の二階平面図を原図とし、これをコピーした図面にそれぞれ設備や機器の位置や配線関係を記載したものであり、被告図面16は図面2の配置図の基となった図面に電気配線関係を記入した図面、被告図面23は、屋上階の平面図に設備関係を記入した図面、被告図面29の1、2は、被告図面13に衛生設備を記入した図面である。
よって、これらの図面についての著作権侵害は、設備や機器の位置や配線について検討することになる。
子細に検討すると、被告の設備関係図面と原告の設備関係図面では、設備や機器の位置や配線関係に同じものは少ない。もっとも、本件建物の全体の大きさや構造、テナントや売場のレイアウトが似通っていることから、設備関係についても同一の内容となる部分はある。しかしながら、設備関係図面は、設備を示す単純な記号と、その配線によりなるものであって、建物本体の設計図面とは異なり、作成者の知識や経験に裏付けられた、個性を有する創作的表現は見られないのが通常である。原告が、一部の設備関係図面の作成を、設備専門業者に依頼しているのも、設備の位置さえ原告の方で決めておけば、それを図面にする際には工夫の余地がなく、定型的な記載方法となることを前提としたものと考えられる。このような創作性の認められない表現が同一であったとしても、著作権侵害にはあたらない。もちろん、設備関係図面であっても、特に個性を有する表現をとっているのであれば、創作性を認める余地はあるが、原告の設備関係図面にそのような事情は認められない。結局、本件において、前記設備図面に著作物性は認められない。
(二) 被告図面24は、衛生設備の系統図であるが、原告図面24と作成方法が似通っている。原告は、このような系統図は原告独自の図面であり、作図方法にも特徴があるという。
しかしながら、被告図面24には、一階ストア、機械室への系統が記載されていないほか、テナントについて、ガスや水道を、いずれも連結する内容とはなっておらず、手前で止める内容とされており、原告図面24と異なる。そして、原告図面24においては、それぞれの配管の組合せ機器の種類が分かるように厳密に書き分けられているのに対して、被告図面24は配管されることだけしか表されていない。
このように表現方法において重要な点で被告図面24は原告図面24と異なり、全体の印象も異なるので、両図面を同一ということはできない。
(三) 被告図面25は外構設備図であるが、原告図面25とでは道路の位置、第一駐車場の駐車枠が一致する。特に、被告I設計の設計においては、東端部分の駐車枠について設計変更されているにもかかわらず、被告図面25では、原告図面25と同一である。しかしながら、これらの事実は、原告図面25を写したことの証拠にはなり得ても、いずれも創作性の認められない部分であり、これが同一であるからといって著作権侵害になるとはいえない。
ところで、原告図面25は一階平面図に設備関係が記載されているが、被告図面25は配置図らしきもの(原告図面2と最も似通っている。)を基に記載されており、全体に印象が異なる。また、設備関係についても、建物の北側のほか、西側にも排水管を設ける内容となっているし、排水設備の位置、個数も異なる。
よって、両図面が同一であるとはいえない。
(四) 被告図面28は衛生設備の配管平面図である。原告図面28と対照すると、配管の記載方法が似通っていると認められるが、右記載がなされている位置と線の長さ方向は必ずしも同一ではなく、全体から見て同一であると評価できず、複製とは認め難い。
(五) 被告図面30の1(スプリンクラー系統図)と原告図面30の1の同一性
被告図面30の1は、原告図面30の1の系統図をそのまま切り張りしたものである。 系統図は、その創作性の程度は別として、原告の著作物であることは否定できないから、そのままこれを切り取り、使用することは、右図面の複製に該当する。
以上によれば、被告I設計の作成した被告図面中、被告図面2の配置図、被告図面7の外構図及び被告図面30の1のスプリンクラーに関する系統図の3枚は原告図面と同一であると認められ、これらがいずれも原告図面に依拠したことは、前記のとおり容易に認められるから、複製に該当する。
四 争点3(原告は、原告設計図書の使用を許諾したか。)について
1 前記争いのない事実等によれば、本件確認書において、被告Hフーヅは原告に対し設計料3400万円の支払を約し、これを支払ったところ、被告らは、設計料全額を支払ったから、被告らが原告設計図書をそのまま使用できることは当然であると主張し、右確認書二項において、原告設計図書を使用しないとの意味は、別途設計図書を作り直さなければならないことを合意したものにすぎないと主張する。
2 前記争いのない事実等のとおり、平成3年6月8日、本件確認書が取り交わされたが、証拠(原告代表者)によると、その作成経過は次のとおりである。
(略)
3 以上のことからすれば、原告は、これまで、被告Hフーヅの要望に沿うような設計を行うため、原告設計図書の手直しを行い、見積額としても、被告Hフーヅの予算内に収まる状態までもってきたにもかかわらず、被告Hフーヅから、本件工事の設計監理から外されることを一方的に告げられたのであって、そのことに対し強い不満を持っていたものである。また、原告は、原告設計図書が盗用されていたとの思いを強くしていた。そのような状態で、現実に原告が本件工事から外れることになれば、原告は、被告Hフーヅが、本件工事から原告を外しておきながら、原告設計図書を使用するのではないかということに、強い懸念を持つはずであって、そうであるからこそ、本件確認書草稿のすりあわせに際しても、原告設計図書を「一切」使用しないとの、強調文言を挿入することを要求していたものと認められる。
このような事情に鑑みれば、原告は、被告Hフーヅに対し、原告設計図書を、いかなる形であっても使用することは許諾していなかったはずであり、原告設計図をそのまま使用することはできないが、別途設計図面を作り直しさえすればよい旨合意したとの被告らの主張は不自然である。本件確認書の文言どおり、原告設計図書の使用は、いかなる形であっても許されていなかったものと認められる。
4 被告らは、被告Hフーヅが原告に対し、設計料として3400万円を支払っていることからすれば、本来原告設計図書を使用できることは当然であると主張する。しかし、(証拠)の記載内容、及び前記認定のとおり、本件建物の設計や、地元との折衝、開発許可申請行為等に携わってきた原告が、これから工事を開始するという段階になって、本件建物に関する業務から外されたことについて、被告Hフーヅと原告との間に確執があったことなどからして、3400万円は、覚書で合意、確認したとおり、設計料ではなく、本件契約の解約に伴う解決金的なものであると認められるから、被告らの主張はその前提を欠き理由がない。
5 以上によれば、原告が、被告らに対して、原告設計図書の使用を許諾したことはなく(開発許可の関係書類は別である。)、被告I設計の前記複製行為は、著作権の侵害になる。
五 争点4(原告の損害及びその額)について
1 著作権侵害による損害額
(証拠)によると、原告設計図書全体は128枚からなるところ、前記認定のとおり、被告I設計が原告の著作権を侵害したと認められる図面は、3枚だけであり、原告に損害が発生したことは明らかであるものの、その額を立証させることは著しく困難であると認められる。
そこで、当裁判所において、相当額を認定することとするが、原告が、原告設計図書の作成により通常得べかりし設計料は、本件工事の現実の請負代金額9億5275万円を基準にすると、その4.3パーセントである4096万8250円であり、右設計料は、本件原告設計図書全体(128枚の図面)の対価であるから、単純計算すると、1枚当たり32万円強である。そして、右3枚の図面が、本件建物の設計に占める重要度が特に大きいものとも思われない。
これらの事情を総合考慮して、本件著作権侵害による原告の損害は、100万円をもって相当と認める。
2 著作者人格権侵害による損害額
被告I設計が、被告設計図を前提にした本件建物の建築確認申請において、原告の氏名を表示しなかったことについては争いがなく、また、被告I設計が右三枚の図面の一部について改変を行っていることは明らかであるところ、右行為は、原告の氏名表示権(法19条)と同一性保持権(法20条)を、それぞれ侵害するものである。これにより、原告は、本来であれば自己のものとなるはずであった名声を被告I設計に奪われ、一方で、被告I設計による改変部分については、原告の関知しないところで、意に副わない表現を採用されたのであるから、これにより原告の被った精神的損害は、30万円と認めるのが相当である。
3 被告らの責任
被告I設計は、原告設計図書に依拠して複製行為をなし、著作権及び著作者人格権の侵害行為をなしたものであり、同被告に故意があったことは明らかである。
被告Hフーヅは本件工事の発注者、被告T建設及び更生会社は本件工事の請負者ではあるが、右被告らが、被告I設計の右著作権や著作者人格権の侵害行為を知っていたことを認めるに足りる証拠はないから、右被告らは、被告I設計の著作権及び著作者人格権の侵害行為について、共同不法行為責任を負うものではない。
4 本件訴訟の追行を考えると、著作権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権についての弁護士費用は10万円、著作者人格権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権についての弁護士費用は3万円と認めるのが相当である。