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著作権判例セレクション

【地図図形著作物の侵害性】積算ソフトの表示画面の侵害性

▶平成120330日大阪地方裁判所[平成10()13577]
() 本件が、原告が、被告らがWARP(被告らが作成販売している、意匠内外装積算を行う建築積算アプリケーションソフト)とその基本入力マニュアルを販売し、頒布する行為は、「積算くん」の表示画面、操作説明書及び出力(印刷)結果に対し原告が有する著作権(複製権及び同一性保持権)を侵害するとして、その行為の差止めを求めるとともに、謝罪広告を求めた事案である。
「積算くん」は、建具工事積算システム、意匠内外装総合積算システム、RC造建物・体積算システム及び見積書作成システム等のソフトウエアがパッケージされたアプリケーションソフトであり、その中の意匠内外装総合積算システムを作動させると、別紙積算くん画面目録掲載のとおりのディスプレイ表示画面(以下単に「表示画面」という。)が表示される。

一 争点一(表示画面の著作物性)について
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 () そこで、具体的に、積算くんの表示画面において、思想又は感情が創作的に表現されているかどうかを検討する必要がある。
しかるところ、複製権侵害が認められるためには、WARPの表示画面と積算くんの表示画面とが実質的に同一であること、換言すれば、WARPの表示画面から積算くんの表示画面の創作的表現形式が直接覚知、感得できなければならないと解されるが、そのように評価できるためには、少なくとも、両表示画面の共通する表現形式において、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていなければならないというべきである。そこで、積算くんの表示画面において、思想又は感情が創作的に表現されているかどうかは、後記四でWARPの表示画面から積算くんの創作的な表現形式を直接覚知、感得することができるかどうかを検討するに当たって、両表示画面の共通する表現形式を抽出した後に、当該共通する表現について検討することとする。
二 争点二(出力(印刷)結果の著作物性)について
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三 争点三(差止請求の必要性について)について
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四 争点四(WARPの表示画面と積算くんの表示画面の実質的同一性)について
(前記三で判断したとおり、WARPバージョン103及び200については、既に差止請求は理由がないものであるが、念のためにこれらについても以下の検討の対象とすることにする。)
1 別紙積算くん画面目録4掲載の表示画面について
() 別紙WARPバージョン103画面目録2掲載の表示画面について
(1) 右両表示画面は、工種項目作成画面であるが、以下の点で共通する。
()
(2) 一方、右両表示画面は、次の異なる表示が存在する。
()
(3) (1)アの共通点のうち、工種項目作成画面に工種名称一覧表を設ける点は、工種項目作成画面に工種名称一覧表を設ける必然性はないことから積算くんの著作者の個性が発揮されているが、それ自体はアイディアに属する事柄であり、著作権法上保護の対象となるものではない。そして、同表に工事名称として具体的に記載されている15種類の工事名称自体は、一般的な工事名称であり、その工事名称の選択、配列順序及び工事名称一覧表を縦5行、横4列の表形式で設けている点に、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。また、(1)イの共通点については、そのような項目入力欄を設けること自体は、積算くんもWARPも積算ソフトであることを考慮すれば、特筆すべきことではなく、しかもその表現形式はありふれたものであるから、その部分に積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されているとは見ることができない。
そうすると、積算くんの右表示画面とWARPバージョン103の右表示画面とが共通する表現形式において、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されている個所は存在しないこととなるから、積算くんの右表示画面を知る通常人が、WARPバージョン103の右表示画面に接した場合に、積算くんの右表示画面の創作的な表現形式を直接覚知、感得することができるとは認められない。
() 別紙WARPバージョン200及び202画面目録2掲載の表示画面について
()
(3) 右(1)の共通点からすると、積算くんの右表示画面とWARPバージョン200及び202の右表示画面とが共通する表現形式において、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されている個所が存在しないことは、()で判示したことから明らかであり、積算くんの右表示画面を知る通常人が、WARPバージョン200及び202の右表示画面に接した場合に、積算くんの右表示画面の創作的な表現形式を直接覚知、感得することができるとは認められない。
2 別紙積算くん画面目録5-1掲載の画面について
() 別紙WARPバージョン103画面目録3-1掲載の表示画面について
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(3) (1)ア記載の共通点のうち積算くんの右表示画面に部屋の平面図を設けている点は、証拠と弁論の全趣旨によれば、床、壁及び天井の面積や巾木及び廻縁の周長を自動的に算出するなどの機能を果たしており、使用者の便宜に資するものではあるが、そのような機能を果たす平面図を設けるということ自体はアイディアに属する事柄であり、著作権法上保護の対象となるものではない。そして、積算くんの平面図の具体的表現形式を見ると、横長で左下部に突部がある略長方形の図面であって、同図面上の四隅、各辺の中間及び中心に四角いマスが表示されているという、単純な図形が表示されているにすぎず、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。
また、(1)ア記載の共通点のうち「巾木高削除」というチェックボックスが表示されている点は、幅木高を削除するか否かという機能を具備させているという点では、積算くんの著作者の個性が表れているということもできるが、それはアイディアに属する事柄であり、著作権法上保護の対象となるものではない。そして、その表現形式は、「巾木高削除」という文字の左にチェックボックスが表示されているというものであるところ、ある機能を行うか行わないかをアプリケーションソフトの使用者に選択させるために、このようなチェックボックスを設けること自体は、一般的に見られる表現形式であるから、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。このことは、(1)ウ記載の共通点のうち、「床」及び「壁」のチェックボックスが表示されている点にも妥当する。
また、(1)イ記載の共通点のうち入力する柱を「隅柱」、「中間柱」及び「独立柱」に区分すること自体は、アイディアに属する事柄であり、著作権法上保護の対象となるものではない。そして、その表現形式は、隅にある柱を「隅柱」といい、隅柱以外の壁に接する柱(隅柱と隅柱の中間に位置する柱)を「中間柱」といい、壁に接しない柱を「独立柱」と表現しているにすぎないから、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。そして、柱の入力欄を、複数行ずつ画面の上から下に順に設けている点は、1つの部屋に柱は複数本設けられる以上、その表現形式に、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。
さらに、(1)ア記載の共通点のうち、平面図の入力項目を「巾」、「奥行き」、「天井高」及び「巾木高」としている点は、一般的であり、(1)ウ記載の共通点のうち各柱の入力項目が、左から順に、積算くんの右画面では「見付」、「見込」及び「個数」であるのに対し、WARPバージョン103の右画面では「見付」、「見込」及び「個所」である点については、右両表示画面が柱の登録画面である以上、当然必要な事項であり、その表現形式に積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。
なお、右表現形式の各共通点を一つのまとまりとしてみても、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されていると見ることはできない。
そうすると、積算くんの右表示画面とWARPバージョン103の右表示画面とが共通する表現形式において、積算くんの著作者の思想又は感情が創作的に表現されている個所は存在しないこととなるから、積算くんの右表示画面を知る通常人が、WARPバージョン103の右表示画面に接した場合に、積算くんの右表示画面の創作的な表現形式を直接覚知、感得することができるとは認められない。
(以下略)
10 以上によれば、積算くんの表示画面とWARPの表示画面との間には、表現が共通する部分が存在するものの、異なる表現も多々存在するのであり、しかも、両表示画面において表現が共通する部分に、積算くんの著作者の思想又は感情の創作的な表現があるとみることはできない。
したがって、その余の点につき判断するまでもなく、WARPの表示画面が著作物たる積算くんの表示画面を複製したものと認めることはできない。
五 その他
原告は、積算くんの操作説明書を著作物として、複製権侵害を理由に、WARPの基本入力マニュアルの販売、頒布の差止めを求めているところ、WARPの基本入力マニュアルが積算くんの操作説明書を複製したものであることについて、何ら具体的に主張しない。証拠によって、積算くんの操作説明書とWARPバージョン103及びバージョン200の各基本入力マニュアルを対比しても、WARPの基本入力マニュアルの表現が、積算くんの操作説明書の表現形式を直接覚知、感得するものであるとはいえない。原告の右請求を、WARPの基本入力マニュアルにWARPの表示画面が印刷されていることをもって、WARPの表示画面が積算くんの表示画面に関する著作権を侵害するのと同様、積算くんの操作説明書に関する複製権を侵害すると主張するものと理解しても、WARPの表示画面が積算くんの表示画面に関する複製権を侵害するとは認められない以上、WARPの基本入力操作書を対象とする複製権侵害の主張も理由がない。
原告は、現行の積算くんの著作者は原告であるとして、著作者人格権にも基づく請求もしているが、同権利に基づく請求が理由がないことは、既に判示したところから明らかである。