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著作権判例セレクション
【侵害主体論】旅行に関する情報提供を目的とするウェブサイト運営会社の侵害主体性を認定した事例
▶令和4年4月14日東京地方裁判所[令和3(ワ)13623]▶令和4年12月22日知的財産高等裁判所[令和4(ネ)10058]
(注) 本件は、原告が著作権を有する写真がインターネット上のウェブサイトに無断でアップロードされ、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)、著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)が侵害されたとして、同ウェブサイトを管理運営等している被告に対し、原告写真の複製・自動公衆送信等の差止め並びに損害賠償金等の支払を求めた事案である。
2 争点(1)(複製、公衆送信等の主体)について
(1) 平成30年10月6日、被告が管理運営する本件ウェブサイトのサーバーに被告写真1及び被告写真2が蔵置、記録され、自動公衆送信可能になったといえる。原告は、これらについて、被告が、複製、公衆送信を行ったと主張する。
【⑵ア 原告写真は、被写体の構図、レンズ・カメラの選択、シャッターチャンス、シャッタースピード、絞りの選択等により、被控訴人の思想又は感情を創作的に表現したものであり、被告各写真は、原告写真とその表現上の本質的特徴である創作的表現を共通にするから、原告写真を複製したものと認められる。
そして、前記によれば、本件投稿者は、原告写真の複製物である被告各写真を本件記事の文章と共に投稿システムを用いて控訴人に送信したものと認められる。】
イ もっとも、本件投稿者が被告に上記送信をしたことにより、直ちに、被告各写真が公衆送信されることになったとは認められない。
本件ウェブサイトでは、会員が被告に送信した記事を被告地域パートナーが承認して、初めて、その記事を本件ウェブサイトの一般の閲覧者が閲覧できるようになる。本件投稿者が被告に送信した被告各写真を含む本件記事についても、被告の地域パートナーが、その内容等を審査して、それを承認したことにより、その承認後、被告各写真や本件記事を本件ウェブサイトの一般の閲覧者が閲覧できるようになった【ものと認められる。】
ウ 被告は、旅行に関する情報提供サービス及びその【コンサルティング業務等】を目的とする株式会社であり、本件ウェブサイトには、「ジャパントラベルは、日本の魅力を世界に発信するメディアであり、その他コンサルティングビジネスおよび第二種旅行業登録の訪日専門トラベルエージェンシーを運営」、「【インバウンド】専門旅行会社経験豊富な外国人・日本人スタッフがカスタマイズツアーを主力としたインバウンドツアーをサポートします。」と記載されていること、本件ウェブサイトを通じて、ホテル又は飛行機を予約したり、鉄道切符や施設入場券、各種パッケージツアー、体験型ツアーを購入したり、オーダーメイドの旅の予約をしたりすることができることからすれば、本件ウェブサイトは、会員から【投稿された記事を】表示することで観光地の情報を提供しつつ、それを利用してツアーの企画などの旅行関連事業を行うことも目的としたものといえる。したがって、本件ウェブサイトは、被告の旅行関連事業の営業のために設けられているという性質も有するといえる。
(3) 本件ウェブサイトでは、被告が利用者コンテンツを審査し、編集等する旨の規定が設けられているだけではなく、実際に、会員が記事を被告に送信しても、被告地域パートナーの承認がない限り当該記事は本件ウェブサイトに掲載されず、会員が被告に送信した写真は、被告地域パートナーが承認という作業をすることによって、自動公衆送信装置といえるサーバーに蔵置、記録され、送信可能化されるに至り、公衆送信されることになったといえる。また、前記(2)ウによれば、本件ウェブサイトは、被告が行う旅行関連事業の営業のために設けられているという性質も有するといえる。会員による記事の送信は、そのような被告のための記事の提供という面も有していた。被告地域パートナーは、【控訴人の会員規約】において、会員から送信された記事の内容について、上記のとおりの本件ウェブサイトの目的に沿うものであるかやその目的との関係でその質を維持するものであるかなどを広く【審査し、】承認の可否を決定し、また必要な修正を行っていたと推認でき、また、これらの作業を被告の営業のために被告の履行補助者として行っていたと認められる。
これらによれば、本件投稿者が被告に送信した被告各写真は、被告の履行補助者である被告地域パートナーが被告の営業のために内容を広く審査して承認という作業をしたことによって、【本件ウェブサイトに係るサーバーにアップロード(蔵置、記録、送信可能化)され、複製、】公衆送信されたといえる。これらを考慮すると、被告が、被告各写真の複製、公衆送信をしたと認めることが相当である。
(4) 被告の主張について
被告は、①記事の修正等をする被告地域パートナーはボランティアであること、②被告各写真の投稿者は、被告から経済的利益を得たり、また、指示等を受けておらず、任意に被告各写真を投稿したことを挙げて、被告は、複製、公衆送信の主体ではないなどと主張する。
ア 上記①について、被告地域パートナーがボランティアであったとしても、本件ウェブサイトは被告の旅行関連事業の営業のために設けられているという性質も有し、被告地域パートナーによる記事の承認等は、そのような被告の営業のために行われるものと【認められること】を併せて考えれば、被告地域パートナーは、被告からの直接の報酬の支払を受けていなかったとしても、被告の履行補助者とみるのが相当である。
したがって、被告の上記①の主張を採用することはできない。
イ 上記②について、本件ウェブサイトが前記のとおり被告の営業目的のために設けられているという性質も有し、また、被告各写真についても、他の記事と同様に、被告地域パートナーが内容を広く審査して承認し、公衆送信されるようになったと認められることに鑑みれば、被告各写真が被告に対して送信されたのは会員の自由な意思に基づくものであったとしても、被告各写真を複製し公衆送信したのは被告とみるのが相当である。
したがって、被告の上記②の主張も採用することはできない。
【⑸ 控訴人の当審における補充主張について
控訴人は、①控訴人の会員は、控訴人とは別会社であるメトロワークス社の会員投稿システム(クリエイティブ・システム)の記事作成ツールで文章を作成し、文章とは別に写真をアップロードし、アップロードされた写真は文章に関連付けられるが、そのアップロードの際、自分が撮影したものか、使用許可を得ているかなどの情報を、自己申告で指定することとされており、被告地域パートナーは、控訴人の従業員や履行補助者ではなく、その主な役目は、新人の会員や英語に自信がない会員のヘルパーとなって、その投稿を助け、投稿される記事の品質を保つことにあるところ、会員が本件ウェブサイトに投稿する記事について、地名、駅名、公共交通機関名、店舗名等に基本的な誤りがないかどうかを確認するのみであって、掲載予定の写真については、何ら審査を行っておらず、被告地域パートナーが会員から投稿された写真について著作権侵害の有無をチェックする仕組みは存在しない、②本件記事についても、被告地域パートナーによって、基本的な事実、行程が可能であるかどうかについて確認が行われたにすぎず、掲載予定の写真の著作権侵害の有無については審査が行われていないなどとして、控訴人は、被告各写真の複製、公衆送信等の主体とはいえない旨主張する。
しかしながら、前記の認定事実のとおり、被告地域パートナーは、会員から送信された記事の内容(文章)を審査して、本件ウェブサイトへの掲載を承認しているものであるところ、その承認の作業は、控訴人の委託に基づくものであると認められるから、被告地域パートナーは、控訴人の履行補助者であるというべきである。そして、被告地域パートナーが本件ウェブサイトへの記事の掲載を承認すれば、当該記事に関連する写真も本件ウェブサイトに掲載されることになるところ、被告地域パートナーは、記事の内容(文章)の審査に当たって、当該記事と共に掲載される写真(会員が投稿システムにより別途アップロードしたもの)について当該記事との関連性等を確認しており、本件記事についても同様の確認がされていたことからすれば、被告各写真は、控訴人の履行補助者である被告地域パートナーの承認によって、本件ウェブサイトに係るサーバーにアップロード(蔵置、記録、送信可能化)され、複製、公衆送信され、本件ウェブサイトに掲載されたことが認められるから、控訴人が被告各写真を複製、公衆送信したものと認められる。そして、控訴人が被告各写真について著作権侵害の有無を審査したかどうかは、控訴人による上記複製及び公衆送信の成否に影響を及ぼすものではない。
したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。】
【(6)】 著作者人格権侵害について
前提事実のとおり、本件ウェブサイトにおいて、原告の氏名(ペンネーム)を表示せずに被告各写真が表示され、また、別紙URL目録記載1のウェブページにおいて原告写真の左右が切除されていたと認めることができる。
これらと、本件ウェブサイトにおいて被告各写真が掲載されるに至る過程に照らせば、前記(3)と同様の理由により、被告は、原告の氏名表示権及び同一性保持権を侵害したといえる。
【(7)】 以上によれば、被告は、原告が保有する原告写真の複製権及び公衆送信権を侵害し、【また、被控訴人の】氏名表示権及び同一性保持権を侵害したといえる。
3 争点⑵(差止めの必要性)
前記2(3)のとおり、被告は原告の複製権及び公衆送信権を侵害したと認めることができるところ、被告は、上記各侵害を否定していることに照らせば、被告が被告各写真の掲載を取りやめたことを考慮したとしても、差止めの必要性は認められる。
したがって、原告の被告に対する原告写真の複製、自動公衆送信等の差止請求は理由がある。
4 争点⑶(不法行為の成否及び損害額)
⑴ 不法行為の成否
被告に著作権(複製権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)の侵害が認められることは前記2のとおりであるところ、【前記3⑸のとおり、控訴人は、被告各写真を複製、公衆送信したものと認められるから、本件ウェブサイトに係るサーバーへの被告各写真のアップロード】に当たって、他人の著作権、著作者人格権を侵害しないように注意すべき義務があるにもかかわらず、これを怠った過失を認めることができ、被告には不法行為が成立するといえる。
⑵ 損害額
ア 著作権(複製権及び公衆送信権)侵害について
証拠によれば、協同組合日本写真家ユニオン作成の使用料規程(以下「本件規程」という。)は、同組合がその管理の委託を受けた写真の著作物の利用に係わる使用料を定めるものであること、インタラクティブ配信の場合(写真の著作物をデジタル記録媒体に複製し、利用者がコンピュータネットワークと受信装置を用いて著作物を選択的に利用することができるように配信して使用する場合)において、「商用広告目的」の「HPセカンダリーページ」、「使用の期間」2年間の使用料額は、7万円となることが認められる。
【また、控訴人は、当審において、①被控訴人は、プロの写真家として写真のライセンス販売をしたこともなく、日本写真家ユニオンの会員でもないから、原告写真の商業価値はゼロである、②著作権法114条3項に基づく損害額算定の基礎となる被告各写真の使用期間は、米国で原告写真の著作権登録がされた2020年5月29日から起算すべきであるから、被控訴人主張の2年以上ではなく、4か月と17日である旨主張する。
しかしながら、控訴人主張の①の事情を踏まえても原告写真の商業価値がないものとはいえず、また、②の米国における原告写真の著作権登録は、被控訴人による原告写真の著作権の取得とは関係がない事情であって(著作権法17条2項)、いずれも、前記(ア)の著作権法114条3項に基づく使用料相当額の損害額の認定を左右するものではない。
したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。】
本件において、原告は、日本写真家ユニオンの会員ではないものの、原告は、スウェーデンの写真家であること、原告写真の内容や被告による使用態様等に照らせば、原告写真の使用料相当額の算定に当たり、本件規程を参酌するのが相当である。
本件ウェブサイトは、被告の旅行関連事業の営業目的の性質を有するものであり、被告各写真は商用目的で利用されていたといえ、その使用期間も約2年間にわたるものであった。他方、実際に一般の閲覧者が被告各写真を閲覧するのは本件記事の末尾の表示といえるところ、それは、京都に関連する6つの写真のうちの1つとして表示されたものであり、本件記事に占める割合も小さい。このような被告各写真の使用目的や使用期間、使用態様に加えて、原告写真の内容などその他一切の事情を考慮すれば、原告が著作権の行使につき受けるべき金銭の額(著作権法114条3項)は、4万円と認めるのが相当である。
(略)
イ 著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)侵害について
被告には氏名表示権及び同一性保持権侵害が認められるのは【前記3(6)】のとおりである。もっとも、同一性保持権侵害について、原告写真は別紙著作物目録記載のとおり、北野天満宮にて紅梅を手前に、奥には着物を着た女性2名が参拝する風景を撮影したものであるところ、被告写真1は、その左右部分である上記梅の花と木の一部を切除したものであり、改変の程度は小さい。
このような同一性保持権侵害の態様や程度に加えて、氏名表示権侵害の態様や本件に現れた一切の事情を考慮すれば、氏名表示権侵害及び同一性保持権侵害によって原告に生じた慰謝料としては2万円と認めるのが相当である。
【これに対し、控訴人は、当審において、著作者人格権侵害に係る慰謝料については、ウェブサイトのサイズ規格に合わせるための両端の単純なトリミングは、ウェブサイトの表示の際にシステムによって自動的に行われるものであり、世界的にも認められているから、原判決認定の慰謝料2万円は不当である旨主張する。
しかしながら、控訴人が主張する上記事情は、上記慰謝料額の認定を左右するものではなく、控訴人の上記主張は理由がない。】
ウ 弁護士費用
本件事案の性質・内容、本件訴訟に至る経過、本件審理の経過等諸般の事情に鑑みれば、被告の著作権侵害行為及び著作者人格権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害は、1万円と認めるのが相当である。
【⑶ 小括
以上によれば、被控訴人は、控訴人に対し、著作権侵害及び著作者人格権侵害の不法行為に基づく損害賠償として7万円(前記⑵アないしウの合計額)及びこれに対する不法行為の日である平成30年10月6日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。】