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著作権判例セレクション

【過失責任】 委託したライターが写真投稿サイト「Flickr」から写真を複製した事例

令和4531日東京地方裁判所[令和3()9618]
() 本件は、原告が、被告は、原告の著作物である写真を複製して自身のウェブサイトに無断で掲載し、同写真に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)並びに著作者人格権(氏名表示権)を侵害したと主張して、被告に対し、民法709条及び著作権法114条3項に基づき、損害賠償等の支払いなどを求めた事案である。

1 争点1(原告写真は著作物に当たるか)について
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2 争点2(原告写真の利用につき原告の同意があったか)について
(1) 前記前提事実によれば、原告は、本件投稿サイト[注:写真投稿サイト「Flickr」のこと]の利用者が、クリエイティブ・コモンズに規定された条件、すなわち、原告が著作者である旨を表示するという条件を満たす方法で利用する場合に限り、同利用者による原告写真の複製、公衆送信等に同意していたものである。しかして、証拠によれば、被告は、被告写真を本件ウェブサイトに掲載するに当たり、原告がその著作者である旨を表示しなかったと認められる。
その他、原告写真の利用につき原告の同意があったことをうかがわせる事情は認められない。
したがって、被告による原告写真の利用について、原告の同意があったとはいえない。
(2) これに対し、被告は、原告写真は被告が本件投稿サイトで「一切の許諾」等の条件で検索して顕出したものであるから原告の同意があったといえるなどと主張するが、被告が指摘するような事情が存したとしても、それをもって当然に原告の同意があったことの根拠となるものではない。被告の上記主張は採用できない。
3 争点3(被告が原告写真を利用したことにつき故意又は過失があるか)について
(1) 前記前提事実及び証拠によれば、本件ライターは、本件委託契約に基づいて、本件投稿サイトに掲載されていた原告写真を複製して被告写真を作成し、これを使用して記事を作成したこと、本件投稿サイトでは、原告写真の下に「Some rights reserved」の表記があり、同表記部分をクリックするとライセンスの条件が記載されたページに移転する仕組みになっていたこと、及び被告が本件ライターから被告写真が掲載された記事の納品を受けた際、被告写真にはその出典が記載されていなかったことがいずれも認められる。これらの事情に照らせば、被告は、本件ライターの記事をウェブサイトに掲載するに際し、本件ライターに被告写真の出典を尋ねるなどして、被告写真が第三者の著作権ないし著作者人格権を侵害するものに該当しないことを確認することが可能であり、それにより同侵害を回避することが可能であったといえ、被告においてはその旨の注意義務が存したものと認められる。
ところが、証拠によれば、被告は、そのような確認をしないまま被告写真を本件ウェブサイトに掲載したことが認められ、被告が第三者の著作権や著作者人格権を侵害することのないように注意を払ったことをうかがわせる事情は認められない。
したがって、被告には原告写真の利用につき過失があったと認めるのが相当である。
(2) これに対し、被告は、①インターネット利用者はクリエイティブ・コモンズの「コピーレフト」の精神等を信頼してよいはずである、②被告は本件ライターに対してフリーサイトの画像の選定料1枚500円を対価として無償利用可能である画像の選定を委託していた、③本件投稿サイトにおける「Some rights reserved」の表記は一般社会通念上気付き得ないほど小さな表記であり、「クリエイティブ・コモンズライセンス証」と題するページのライセンス条件の記載は日本語として解読不能であるなどと主張して、被告の過失を争っている。
しかしながら、証拠によれば、本件投稿サイトにおける「Some rights reserved」の文字は、掲載写真の利用を検討する者が十分認識し得る大きさで表記されている。また、同表記をクリックした場合の移転先のページには、前記前提事実記載のとおりのライセンス条件が記載されており、その内容は、当該写真の利用に条件が付されていることを十分認識し得るものといえる(上記③)。また、被告は、「コピーレフト」の精神等を指摘するが、本件投稿サイト等に上記ライセンス条件等が明記されている以上、被告の上記指摘をもって、同ライセンス条件を満たさない態様での著作物の利用を正当化する理由になるものではない(上記①)。さらに、証拠によれば、本件委託契約では、フリーサイトの画像の選定料が1枚当たり500円と合意されていたことが認められ、記事の製作に当たって第三者の著作権ないし著作者人格権を侵害しないものを利用することが本件委託契約の前提となっていたと推認できるが、そのような前提の下に契約が締結されるのは第三者が作成した著作物の利用が想定される以上当然のことであって、これをもって直ちに、受託者の故意又は過失による第三者の著作権ないし著作者人格権に対する侵害を実効的に抑止し得るような事情に当たるとはいえない。そのため、被告が第三者の著作権ないし著作者人格権を侵害することのないように注意を払ったとはいえない(上記②)。
したがって、被告の上記主張はいずれも採用できない。
なお、被告のその他の主張も前記判示を左右するものではない。
5 4 争点4(損害額)について
原告写真は、原告が、シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズホテルを被写体として、ドローンを使用して、同ホテルの屋上を空から見下ろす角度で、同ホテルの屋上全体と周囲の景観等との調和を図りつつ撮影したもので、構図の選択等において原告の個性が表現されていること、被告が被告写真を本件ウェブサイトに掲載した期間は少なくとも令和2年8月17日から同年12月8日までの4か月弱であること、本件ウェブサイトは、不動産の売買等を目的とする株式会社である被告が広報と販売戦略の一環として立ち上げたものと認められること、協同組合日本写真家ユニオンの使用料規程では、写真の著作物を商用広告目的でホームページのトップページ以外のページに掲載する場合の使用料は、3か月以内であれば3万円、4か月以内であれば4万円と規定されていることなど、諸般の事情を考慮すると、本件において原告が原告写真に係る著作権(複製権及び公衆送信権)の行使につき受けるべき金銭の額(著作権法114条3項)は、4万円と認めるのが相当である。
また、上記諸事情に鑑みれば、原告写真に係る原告の著作者人格権(氏名表示権)が侵害されたことにより原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は1万円と認めるのが相当であり、弁護士費用相当額の損害は1万円と認めるのが相当である。
5 争点5(原告の請求は権利の濫用に当たるか)について
被告は、①原告が、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの最新版である第4版ではなく、敢えて第2版を用いて被告に警告書を発し本件訴訟に及んだこと、②原告代理人がコピーレフト・トロールの典型例とされる人物の代理人として警告書を送付したことなどを踏まえると、原告の請求が組織的なコピーレフト・トロールによる権利濫用行為の一環であることは明らかである旨主張する。
しかしながら、被告の主張によっても、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス第4版における主な変更点は、それまでの約款においてライセンス条件に違反すると利用許諾が自動的に終了するとなっていた部分につき、違反を発見してから30日以内に是正すれば利用許諾が自動的に復活する旨のただし書が追加された点にあるというのであって、違反が継続していた期間の損害賠償責任等について影響するものではない。すなわち、第2版を使用したからといって、著作権者がライセンス条件に違反した利用者に対してライセンス条件に違反していた期間の損害賠償を請求できる範囲等に影響はない。そのため、第4版ではなく第2版を使用したという事情は、原告の請求が権利の濫用に当たることの根拠となるものではない。また、原告代理人がコピーレフト・トロールの典型例とされる人物の代理人として活動していた旨の被告の主張については、これを認めるに足りる客観的・具体的な証拠はない。
また、被告のその他の主張を踏まえて本件の全ての証拠を検討しても、原告がいわゆるコピーレフト・トロールに該当し、その請求が権利の濫用に当たることの根拠となる事情は認められない。
したがって、原告の請求が権利の濫用に当たるとは認められない。
6 争点6(過失相殺の成否)について
前記5記載のとおり、本件の全ての証拠を検討しても、原告がいわゆるコピーレフト・トロールに該当することの根拠となる事情は認められない。また、原告がコピーレフト・トロールのスキームをもって故意に被告の過失を誘引したという事実も認めるに足りる証拠はない。
したがって、過失相殺に関する被告の主張には理由がない。
7 争点7(被告が原告の著作権を侵害するおそれがあるか)について
被告は、令和2年12月8日に原告から警告書を受け取り、その後に本件ウェブサイトから被告写真を削除しているが、被告写真の画像データを被告の保有するパソコンから完全に削除するなど、被告が再び本件ウェブサイトに被告写真を掲載することが困難であることを示す客観的な事情を認めるに足りる証拠はない。これに加えて、被告が本件において原告の著作権を侵害した事実を全面的に争い、原告の請求は権利の濫用に当たるなどと主張していることなども考慮すると、被告が原告写真に係る原告の著作権を侵害するおそれが認められるというべきである。