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著作権判例セレクション

【著作物の定義】CGで作成した作品の著作物性

平成151218日大阪地方裁判所[平成14()8277]
() 本件で問題となった「原告作品」は、原告が被告専門学校に学生として在籍中、同校の実習設備を用いてコンピュータグラフィックス(「CG」)で作成した次の作品である。
「原告作品①」…人間型のロボットが佇立した姿勢のまま、右腕を肩の高さまで持ち上げた後、その前腕部分が分離し、ロケット噴射しながら飛び出していくという情景を描いたもの
「原告作品②」…軍用ヘリコプターが洋上を飛行中に爆発する情景を描いたもの
「原告作品③」…戦闘機を描いたもの

(1) 請求原因(1)(当事者)の事実は当事者間に争いがない。
(2)ア 請求原因(2)(著作権)ア(原告作品)の事実は当事者間に争いがない。
イ 請求原因(2)イ(著作物)について検討する。
() 著作権法により保護される著作物であるというためには、思想又は感情を創作的に表現したものでなければならない(著作権法2条1項1号)。
思想又は感情を表現するとは、単なる事実にとどまらず、精神的な活動の成果を表現することを意味し、また、創作的に表現するとは、必ずしも独創性が高いことを要せず、作成者の何らかの個性が表現されていることを意味するというべきである。
() そこで、原告作品①ないし③につき、それぞれ、著作物と認められるかについて検討する。
a 原告作品①
 原告作品①は、前記のとおり、人間型のロボットが佇立した姿勢のまま、右腕を肩の高さまで持ち上げた後、その前腕部分が分離し、ロケット噴射しながら飛び出していくという情景を描いたものである。
(証拠等)によれば、ロボットの形状は、原告が考えて作成し、ロボットの表面の質感や火花の出方も、原告が条件を設定して作成したことが認められ、それらの点に原告の精神的活動の成果が表現されており、また、そこに原告の個性の発現としての創作性が認められる。
人間型のロボットが従前から存在し、人間型のロボットが佇立した姿勢のまま、右腕を肩の高さまで持ち上げた後、その前腕部分が分離し、ロケット噴射しながら飛び出していくという情景を描いたアニメーションなどが従前存在したとしても、従前存在したものの中に、原告作品①のロボットの形状や質感、火花の出方などが同一のものが存在することを認め得る証拠はないから、それらのアニメーションなどが従前存在したことによって原告作品①が原告の著作物であることが否定されることはないというべきである。
また、前腕が発射される際の噴射火炎が、CG作成用ソフトウェアであるエイリアス・パワーアニメーターの機能のうち、ダイナミックス機能でパーティクルエフェクトを実行したことにより作成されたとしても、(証拠等)によれば、その機能を実行するに当たっての条件の設定は原告が行ったものと認められる。
したがって、原告作品①は原告の著作物であると認められる。(証拠等)のうち、この認定に反する部分は、採用することができない。
b 原告作品②
原告作品②は、前記のとおり、軍用ヘリコプターが洋上を飛行中に爆発する情景を描いたものである。
(証拠等)によれば、海面とヘリコプターを組み合わせることは原告が考えたこと、ヘリコプターの原型は、無料で使用できるサンプルデータ中にあったものであるが、燃料タンク部分のデータを削除しないと着色ができないというバグがあったので、原告が燃料タンク部分を削除して形状を補正したこと、ヘリコプターの着色、質感、爆発の時の煙の量や流れ方の様子、海面の質感は、原告が条件を設定して作成したことが認められ、それらの点に原告の精神的活動の成果が表現されており、また、そこに原告の個性の発現としての創作性が認められる。
したがって、原告作品②は原告の著作物であると認められる。(証拠等)のうち、この認定に反する部分は、採用することができない。
c 原告作品③
原告作品③は、前記のとおり、戦闘機を描いたものである。
(証拠等)によれば、原告作品③は、実在する戦闘機の遠距離から撮影した3枚の写真を基に、原告が、写真に撮影されていない部分の図面を作成するなどして戦闘機の形状を作成し、質感、光の当たる様子を、原告が条件を設定して作成したことが認められ、それらの点に原告の精神的活動の成果が表現されており、また、そこに原告の個性の発現としての創作性が認められる。
したがって、原告作品③は原告の著作物であると認められる。(証拠等)のうち、この認定に反する部分は、採用することができない。
ウ 請求原因(2)ウ(著作権)について検討する。
() 前記イ()aないしcの認定のとおり、原告作品①ないし③は原告の著作物であると認められるから、原告は、それらの著作権を有しており、その支分権としての複製権を有するものと認められる。
() 被告は、原告作品①ないし③の著作権は原告ではなく被告に帰属し、又は原告は著作権を主張することができないとし、その根拠としてるる主張し、(証拠等)のうちには、そのような主張に沿う陳述がある。そこで、被告のこれらの主張について検討する。
a 被告は、原告作品①ないし③は映画の著作物に該当するとし、これらの作品について課題を与えたのは被告専門学校の講師であり、原告は若干のモデリングとソフトウェアの機能を選択しただけであって、ほとんどすべてのアニメーション効果はエイリアス・パワーアニメーターによって自動的に形成されたものであるから、原告は映画の著作物の著作者に該当しない旨主張する。
前記のとおり、原告作品①ないし③は、原告が被告専門学校に学生として在籍中に同校の実習設備を用いて作成したものである。また、被告代表者A本人尋問の結果中には、被告専門学校の講師が、エイリアス・パワーアニメーターのいくつかの機能を実際に使ってみるという課題を与えた旨の供述がある。しかし、講師がそのような課題を与えたとしても、使用する機能の選択や組合せ、各機能について設定する条件については、選択の余地があり、作成者の個性を反映する余地があるものと認められる。原告作品①ないし③がエイリアス・パワーアニメーターのアニメーション効果を利用したものであり、アニメーション効果の中に、エイリアス・パワーアニメーターによって自動的に決められる部分があったとしても、前記イ()aないしcの認定のとおり、原告が各機能の条件の設定等を行ったものであるから、原告作品①ないし③が映画の著作物であるとしても、その著作者は原告であり、著作権は原告に属するというべきである。
b 被告は、原告作品①ないし③を作成するに当たって用いられたハードウェア及びソフトウェアは、いずれも被告の所有物であり、それらを教育目的で学生に使用させるための使用許諾を得たのは被告であり、これらの設備の設置等の経済的負担を行っていたのも被告であると主張する。
しかし、仮にそうであるとしても、前記イ()aないしcの認定によれば、原告作品①ないし③を作成したのは原告であるから、著作権は原告に属するというべきである。
c 被告は、原告は被告専門学校における実習の一環として原告作品①ないし③を作成しているから、被告が原告作品①ないし③の製作について発意と責任を有しており、被告は少なくとも映画製作者(著作権法2条1項10号)に当たり、原告が原告作品①ないし③の著作者であるとしても、映画製作者である被告に対し、原告作品①ないし③の製作に参加することを約束しているから、原告作品①ないし③の著作権は映画製作者である被告に帰属する(著作権法29条1項)と主張する。
しかし、原告が被告専門学校における実習の一環として原告作品①ないし③を作成したとしても、そのことにより、当然に、被告が原告作品①ないし③の製作について発意と責任を有すること、原告がその製作に参加することを約束していることにはならないし、そのほかに、被告が発意と責任を有すること、原告が製作への参加を約束したことを認めるに足りる証拠はないから、被告の上記主張は、採用することができない。
d 被告は、学生が自らの資産としての著作物を作成し、その著作権を主張することは、被告専門学校の設備の使用許諾の範囲を逸脱すること、学生個人の資産としての著作物を作成するためにエイリアス・パワーアニメーターを使用させることは、被告がエイリアス・パワーアニメーターについて、その製造者であるエイリアス・ウェーブフロント社の我が国における代理店である住商エレクトロニクス株式会社から受けている使用許諾の目的を逸脱することを主張する。また、被告は、学生個人の資産としての著作物を作成した場合には、エイリアス・ウェーブフロント社の著作権を侵害することになると主張する。さらに、被告は、正当な使用許諾を得ず又は使用許諾の範囲を超えて、エイリアス・パワーアニメーターを使用して作成した作品は、同ソフトウェアに組み込まれたデータ等に関するエイリアス・ウェーブフロント社の有する著作権(その支分権としての複製権)を侵害することになるとし、原告作品①ないし③は、他人の著作権を侵害するものであるから、原告は、原告作品①ないし③について著作権を主張することができないと主張する。
しかし、仮に原告によるソフトウェアのプログラムの使用が使用許諾の範囲を逸脱していたとした場合、それは、使用許諾契約に違反する余地があるとしても、その故に、原告の作成した作品の著作権が原告に帰属することが否定されるとする根拠はないし、原告による著作権の主張が当然に許されなくなるとする根拠もない。また、著作権の支分権の中には使用権は含まれていないから、プログラムの著作物の使用は、著作権法113条2項に該当する場合以外は著作権侵害とはならないところ、本件では、原告によるソフトウェアのプログラムの使用が同項に該当することを認めるに足りる証拠はなく、さらに、それ以外に、原告によるソフトウェアのプログラムの使用がそのプログラムの複製権等の著作権を侵害することを認めるに足りる証拠もないから、原告がエイリアス・ウェーブフロント社の有する著作権を侵害したとは認められない。したがって、被告の上記主張は、いずれも採用することができない。
e 以上によれば、原告作品①ないし③の著作権が原告ではなく被告に帰属すること、又は原告が著作権を主張することができないことの根拠として被告の主張するところは、いずれも採用することができない。
(3)() 請求原因(3)(複製)ア(原告作品の複製)()のうち、被告が、平成10年11月ごろ、原告作品①、②の画像を被告のテレビコマーシャルに使用したこと、()のうち、被告が、平成10年11月ごろ、原告作品①ないし③の画像を静止画として被告のパンフレット及びホームページに使用したことは、当事者間に争いがない。
() 著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その著作物の創作性を基礎付ける特徴的部分を再現することにより、一般人をしてその内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することである。
前記(2)()aのとおり、原告作品①は、ロボットの形状を作成し、ロボットの表面の質感や火花の出方を、原告が条件を設定して作成した点に創作性が認められるところ、(証拠等)によれば、被告のテレビコマーシャル、被告のパンフレット及びホームページには、原告作品①のロボットの形状、ロボットの表面の質感や火花の出方など、原告作品①の創作性を基礎付ける特徴的部分が再現されており、一般人をして原告作品①の内容及び形式を覚知させるに足りるものが再製されていると認められるから、被告のテレビコマーシャル、被告のパンフレット及びホームページには、原告作品①が複製されているものと認められる。
前記(2)()bのとおり、原告作品②は、海面とヘリコプターを組み合わせたこと、ヘリコプターの燃料タンク部分を削除してその形状を補正したこと、ヘリコプターの着色、質感、爆発の時の煙の量や流れ方の様子、海面の質感を、原告が条件を設定して作成したことなどの点に創作性が認められるところ、(証拠等)によれば、被告のテレビコマーシャル、被告のパンフレット及びホームページには、海面とヘリコプターの組合せ、燃料タンク部分を削除して補正されたヘリコプターの形状、ヘリコプターの着色、質感、爆発の時の煙の量、煙の流れ方の様子、海面の質感など、原告作品②の創作性を基礎付ける特徴的部分が再現されており、一般人をして原告作品②の内容及び形式を覚知させるに足りるものが再製されていると認められるから、被告のテレビコマーシャル、被告のパンフレット及びホームページには、原告作品②が複製されているものと認められる。
前記(2)()cのとおり、原告作品③は、原告が、写真に撮影されていない部分の図面を作成するなどして戦闘機の形状を作成し、質感、光の当たる様子を、原告が条件を設定して作成したことなどの点に創作性が認められるところ、(証拠等)によれば、被告のパンフレット及びホームページには、戦闘機の形状、質感、光の当たる様子など、原告作品③の創作性を基礎付ける特徴的部分が再現されており、一般人をして原告作品③の内容及び形式を覚知させるに足りるものが再製されていると認められるから、被告のパンフレット及びホームページには、原告作品③が複製されているものと認められる。
イ 被告は、原告作品①、②の画像のテレビコマーシャルにおける使用は、わずか数秒間、一画面で同時に放映された四つの学生の作品の一つとして使用されたものであって、映画の著作物としての創作的な表現部分を直接感得できるような態様での使用とはいえないと主張し、また、原告作品①ないし③の静止画としての被告のパンフレットへの使用は、一こま当たりのサイズが5センチメートル四方であるから、三次元のCGとしての美的要素を直接感得することができる程度には再現されていないと主張する。(証拠)によれば、原告作品①、②の画像のテレビコマーシャルにおける使用は、数秒間であり、一画面で同時に放映された四つの学生の作品の一つとして使用されたものであることが認められ、(証拠等)によれば、原告作品①ないし③の静止画としての被告のパンフレットへの使用は、一こま当たりのサイズが5センチメートル四方であることが認められる。しかし、再製の態様がそのようなものであり、原告作品①ないし③のすべてがそのまま再製されていないとしても、前記アの認定のとおり、原告作品①ないし③の創作性を基礎付ける特徴的部分が再現されており、一般人をしてそれらの作品の内容及び形式を覚知させるに足りるものが再製されていると認められるから、それらの作品の複製を認めることは妨げられないものというべきである。
2 抗弁(1)(原告の同意)について検討する。
()
3 以上によれば、原告作品①ないし③は、原告の著作物であり、その著作権は原告が有し、被告のテレビコマーシャルは原告作品①、②を複製したものであり、被告のパンフレット及びホームページは、原告作品①ないし③を複製したものであるが、原告は、原告作品①ないし③が被告のパンフレットに複製されて使用されていること、及び原告作品①ないし③が被告のパンフレット、ホームページ、テレビコマーシャルなどに複製されて使用されることに同意を与えていたものである。
したがって、本件においては、その余の点について判断するまでもなく、原告の著作権侵害の主張は理由がない。