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著作権判例セレクション
【職務上作成する著作物の著作者】会社代表者が撮影した写真の職務著作性を認定した事例
▶平成20年06月26日東京地方裁判所[平成19(ワ)17832]
(2) 著作権侵害の成否
ア 本件写真1の著作物性・著作権の帰属
(ア)a 前記のとおり,①本件写真1は,原告代表者が,リフレクティックス社の工場内の天井,左側壁面及び前方奥の壁面を主な被写体として,これらを写真全体の3分の2程度に大きく取り入れた構図とし,低いアングルから工場内全体を撮影したものであること,②原告代表者は,上記工場内の天井及び壁面にリフレクティックス製品が使用されている状況並びに同工場内にエアコンが設置されていない状況などを表現するために,上記構図及びアングルを選択したことに照らすならば,本件写真1は,被写体の構図及びアングルの選択において,撮影者である原告代表者の創作性が認められ,原告代表者の思想又は感情を創作的に表現したものと認められるから,著作物(著作権法2条1項1号)に当たるものと認められる。
b これに対し,被告Aは,本件写真1が与える印象は極めて平凡で,写真だけを見ても,その被写体が何であるのか理解し難く,また,本件写真1は,工場内において撮影者がカメラのシャッターを押せば,工場内のどの地点であろうとも,ほとんどの写真が本件写真1のアングル,画面配置になったと思われる程度の平凡なアングル,画面配置にすぎず,アングル,画面配置の点において独自性は認められないなどとして,本件写真1には,著作物性は認められない旨主張する。
しかし,前記aのとおり,本件写真1は,リフレクティックス社の工場内の天井,左側壁面及び前方奥の壁面を主な被写体として,これらを写真全体の3分の2程度に大きく取り入れた構図とし,低いアングルから工場内全体を撮影した写真であって,構図及びアングルの選択において創作性が認められ,被告Aがいうように工場内のどの地点でカメラのシャッターを押しても本件写真1の構図及びアングルになるものではないから,被告Aの上記主張は採用することができない。
(イ)a そして,①本件写真1は,原告代表者が,米国法人のリフレクティックス社が製造販売する遮熱材であるリフレクティックス製品に着目し,原告の事業として,これを日本に輸入して販売することを企画し,平成14年8月,米国インディアナ州所在のリフレクティックス社を訪問し,同社の工場を見学した際に,リフレクティックス社から撮影の許可を得て,同工場内の天井及び壁面にリフレクティックス製品が使用されている状況並びに同工場内にエアコンが設置されていない状況などを表現するために撮影した写真であること,②原告は,平成15年4月24日,リフレクティックス社との間でリフレクティックス製品について独占販売契約を締結し,日本における同社の総代理店となった上,本件写真1を原告のパンフレット及びホームページに掲載してリフレクティックス製品の広告宣伝を行っていることに照らすならば,本件写真1は,原告代表者が,原告によるリフレクティックス製品の販売事業を企画・展開するために,その業務執行としてリフレクティックス社の工場を見学した際に,同工場内におけるリフレクティックス製品の使用状況等を表現するために撮影した写真であるといえるから,本件写真1は,原告の発意に基づき,原告の業務に従事する原告代表者が職務上作成した著作物であると認められる。加えて,本件写真1は,原告のパンフレット及びホームページに掲載されて公衆に提供されたものであって,パンフレット及びホームページにはそれぞれ原告の名義である「総輸入元
株式会社 佐 武 環境マテリアル研究所」,「総輸入元/株式会社 佐 武」又は「株式会社 佐 武」の表示がされているから,原告が自己の著作の名義の下に本件写真1を公表したものと認められる。
そうすると,本件写真1は,職務著作(著作権法15条1項)に該当し,その著作者は原告であると解される。
b これに対し被告Aは,原告代表者が写真撮影を自らの職務としていたとは考えられず,本件写真1は,原告代表者が職務を遂行している過程において職務との関連で作成されたにすぎないものであって,「職務上作成する」という要件を満たさず,また,本件写真1が掲載された原告のパンフレットには,本件写真1について著作者としての原告の表示が存在せず,「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」との要件も満たしていないから,本件写真1につき,原告の職務著作は成立しないと主張する。
しかし,前記aのとおり,本件写真1は,原告代表者が,原告の業務執行としてリフレクティックス社の工場を見学した際に,同工場内におけるリフレクティックス製品の使用状況等を表現するために撮影した写真であるから,職務上作成されたものと認められ,原告代表者が写真撮影を固有の職務としていたかどうかは問わないというべきである。また,前記aのとおり,原告のパンフレット及びホームページに原告名義の表示がある以上,特に断りのない限り,パンフレット及びホームページに掲載された著作物である本件写真1についても,原告の著作名義で公表されたものと認められる。
したがって,被告Aの上記主張は採用することができない。
(ウ) 以上によれば,本件写真1は,原告を著作者とする著作物であり,その著作権(著作財産権,著作者人格権)は原告に帰属する。
イ 本件写真2-1の著作物性・著作権の帰属
(ア) 原告は,本件写真2-1,本件写真2-2及び本件図面はいずれもリフレクティックス社が作成した著作物であり,原告は,リフレクティックス社の日本における総代理店(総輸入元)となり,リフレクティックス社から,本件写真2-1,本件写真2-2及び本件図面の各著作権のうち,日本国内における複製権の譲渡を受けたから,本件写真2-1の複製権は原告に帰属する旨主張する。
しかしながら,原告は,本件写真2-1,本件写真2-2及び本件図面がリフレクティックス社が作成した著作物であることについて具体的な主張立証をしていない。
また,原告提出のリフレクティックス社と原告間の2004年6月3日付け覚書(「Memorandum」)中には,「3.リフレクティックス社は株式会社佐武に,リフレクティックス社及び株式会社佐武の日本市場に於ける知的所有権を守るために訴訟及び解決を委託している。」,「4.上記株式会社佐武宛の権限は株式会社佐武がリフレクティックス社の総代理店である限り有効とする。」との記載があるが,上記記載部分から原告が本件写真2-1,本件写真2-2及び本件図面の各著作権のうち,日本国内における複製権の譲渡を受けた事実を認めることはできない。他に上記譲渡の事実を認めるに足りる証拠はない。
(イ) したがって,本件写真2-1は原告が著作権(複製権)を有する著作物であるとの原告の主張は理由がない。
ウ 差止請求及び廃棄請求
(ア) 本件写真1の著作権が原告に帰属することは,前記アのとおりである。そこで,原告の被告Aに対する著作権法に基づく差止請求及び廃棄請求について判断する。
原告は,被告AとY出版社は,被告Aの執筆による本を発行するとの企画の下に,被告Aにおいて本件書籍を執筆し,Y出版社において本件書籍を発行したのであるから,被告Aは,本件写真1及び本件写真2-1が掲載された本件書籍の増刷,販売又は頒布による本件写真1の著作権(複製権)侵害につき,Y出版社と共同不法行為責任を負い,今後も侵害のおそれがあるから,被告Aに対し,著作権法112条1項,2項に基づき,本件書籍の増刷,販売又は頒布の差止め及び未販売の本件書籍の廃棄を求めることができる旨主張する。
しかし,①原告も認めるとおり,本件書籍を発行したのは,Y出版社であって,被告Aではないこと,②被告Aは,Y出版社との間で本件書籍の出版契約を締結し,Y出版社に対し,本件書籍の出版を許諾したものであり,被告A自身が本件書籍を複製,頒布を行ったものではないこと,③Y出版社作成の平成20年3月31日付け報告書中には,本件書籍の今後の増刷分からは本件写真1及び本件写真2-1を削除し,今後,これらの写真を使用した形で本件書籍を増刷することはない旨の記載があること,④被告Aは,同年5月16日付け準備書面で,今後,Y出版社以外の出版社又は自ら,本件写真1及び本件写真2-1を使用した形で本件書籍が増刷することはない旨述べていることに照らすならば,被告Aが本件写真1を掲載した本件書籍を増刷,販売又は頒布を行うことにより本件写真1の著作権(複製権)を侵害するおそれはないものと認められるから,原告の上記主張は理由がない。
(イ) 以上のとおり,原告の被告Aに対する著作権法に基づく差止請求及び廃棄請求は理由がない。
エ 損害賠償請求
(ア) 氏名表示権侵害について
(証拠)によれば,被告Aは,本件書籍に本件写真1を掲載するに当たり,原告が本件写真1の著作者であることを表示しなかったことが認められる。
したがって,被告Aは,原告主張のとおり,本件写真1についての原告の氏名表示権を侵害したものと認められる。
(イ) 同一性保持権侵害について
原告は,被告Aは,本件書籍に,本件写真1及び本件写真2-1を掲載し,「外気温38.5度でもエアコン不要のSSSの施工工場」との説明を加えたが,本件写真1はリフレクティックス製品を使用した工場内の写真であって,「SSS」の施工工場ではなく,上記説明は虚偽の説明であるから,本件写真1についての原告の同一性保持権を侵害した旨主張する。
しかし,原告の上記同一性保持権侵害の主張は,被告Aが本件写真1について加えた説明が本件写真1の被写体と一致していないというものであって,本件写真1そのもの又は本件写真1の題号を変更,切除その他の改変をしたというものではないから,その主張自体理由がない。
(ウ) 損害額(慰謝料額)について
被告Aが本件写真1についての原告の氏名表示権を侵害したことは,前記(ア)のとおりである。
そして,本件書籍における本件写真1の掲載態様,本件書籍は第5刷分まで発行済みであること,その他本件訴訟に現れた一切の事情を総合考慮すると,原告が被告Aによる本件写真1の氏名表示権の侵害により被った精神的損害に対する慰謝料は,20万円と認めるのが相当である。
(3) 小括
以上によれば,原告の被告Aに対する請求は,本件写真1の氏名表示権侵害の損害賠償として20万円の支払を求める限度で理由があるが,その余の請求は理由がない。