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著作権判例セレクション
【言語著作物】 求人広告・キャッチコピーの著作物性を認めた事例
▶令和3年4月8日大阪地方裁判所[平成30(ワ)5629]
5 原告原稿1~5及び7について
(1) 著作物性(争点6)について
ア 著作物とは,「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作法2条1項1号)であるところ,「創作的」といえるためには,何らかの個性が表れていれば足りるものの,表現の目的ないし性質上,その表現方法が一義的に決まり,他の表現方法を選択する余地がない場合や,選択の余地はあってもその幅が狭く,誰が行っても同じようなありふれた表現にならざるを得ない場合には,創作性は否定される。
このような観点から,以下,原告原稿1~5及び7の著作物性について検討する。
イ 原告原稿1について
原告原稿1は,建築・土木・設計等を業とする広告主による,分譲マンションの建築設計業務全般のマネージメントを仕事内容とする求人広告である。
このうち,キャッチコピーは,広告の冒頭に大きく掲載されると共に,「設計と同じくらいに「人生の図面」を引く。」とすることで,広告主の業種に対応すると同時に,求人対象にとっては就職が人生における重要な選択であることを踏まえた表現をし,読者の興味,関心を喚起することを意図したものといえる。
また,これに続けて,本文コピー①でキャッチコピーの表現と相通じる表現を行うことで,キャッチコピーから本文にスムーズにつなげると共に,キャッチコピーにより受けた印象を強めているといえる。
さらに,本文コピー②においては,「未来の住人たちから選ばれる」といった特徴的な表現を用いつつ,分譲マンションの建築及び設計のマネージャーという仕事が,マンション居住者の生活に対して影響を与え得ることによることなどを示すことで,仕事の内容ややりがいを伝える一方で,「とは言え」として逆説的に以後の文章とつなぐことにより,マネージャーの役割の重要性を強調している点で,構成における工夫が見られる。
このように,キャッチコピー及び本文コピーの部分のみを見ても,原告原稿1には,求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。しかも,本文コピーは,自ずと字数の制限があるとはいえ,少なくないスペース及び字数が当てられており,物理的な観点からの表現方法の選択の幅が狭いとまではいえない。
したがって,原告原稿1は創作的なものといってよく,著作物性を認められる。
これに対し,被告会社は,原告原稿1につき,ありふれた表現を組み合わせたものに過ぎず,創作性がないなどと主張する。しかし,個々の単語ないし表現には類似の例が見られるとしても,全体としての表現の目的等を踏まえたその選択及び組合せその他の表現方法の点で創作性を認める余地はあるのであって,被告会社指摘に係る事情をもって直ちに著作物性が否定されるものではない。この点に関する被告会社の主張は採用できない。
ウ 原告原稿2について
原告原稿2は,小児科専門のクリニックである広告主による正看護師,准看護師等の求人広告である。
原告原稿2は,リード及びボディコピーの部分において,来院する子供たちの様子や心情及びこれに対するクリニックの対応(待合室の様子等)を具体的に記載することにより,設備・環境面から子供たちをサポートするという広告主の姿勢を伝えると共に,そこで働くスタッフとして求められる人物像を説明している。また,医師を含む既存のスタッフによるサポートを得られることに繰り返し言及するなどして,働きやすさを強調する工夫もしている。
このように,リード及びボディコピーの部分のみを見ても,原告原稿2には,求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。しかも,ボディコピーの部分は,自ずと字数の制限があるとはいえ,少なくないスペース及び字数が当てられており,物理的な観点からの表現方法の選択の幅が狭いとまではいえない。
したがって,原告原稿2は創作的なものといってよく,著作物性を認められる。
これに対し,被告会社は,原告原稿2についても,平易でありふれた表現の組合せに過ぎないなどと主張する。しかし,原告原稿1のと同様に,この点に関する被告会社の主張は採用できない。
エ 原告原稿3について
原告原稿3は,眼科クリニックである広告主による受付・検査補助スタッフ等の求人広告である。
原告原稿3は,ボディコピーの部分において,医師や既存のスタッフの人柄などに言及して職場環境の良さをうかがわせつつ,そのサポートを得られることに繰り返し言及するなどして,働きやすさを強調したり,地域ないし患者との関わり方に関する方針を示したりしつつ,求められる人物像を説明したりしている。
このように,ボディコピーの部分のみを見ても,原告原稿3には,求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。しかも,ボディコピーの部分は,自ずと字数の制限があるとはいえ,少なくないスペース及び字数が当てられており,物理的な観点からの表現方法の選択の幅が狭いとまではいえない。
したがって,原告原稿3は創作的なものといってよく,著作物性を認められる。
これに対し,被告会社は,原稿3についても,ありふれた平易な表現の組合せにすぎないなどと主張する。しかし,原告原稿1と同様に,この点に関する被告会社の主張は採用できない。
オ 原告原稿4について
原告原稿4は,眼科クリニックである広告主による受付・事務・診療助手の求人広告である。
原告原稿4は,ボディコピーの部分において,来院する患者の不安や心配に配慮した環境設備がクリニック内に整っていることを紹介すると共に,同様の配慮から,クリニックで働くスタッフの就労環境に対しても配慮していることを説明している。合わせて,そこで働くスタッフとして求められる人物像についても,上記の観点と結びつけながら説明している。
このように,ボディコピーの部分のみを見ても,原告原稿4には,求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。しかも,ボディコピーの部分は,自ずと字数の制限があるとはいえ,少なくないスペース及び字数が当てられており,物理的な観点からの表現方法の選択の幅が狭いとまではいえない。
したがって,原告原稿4は創作的なものといってよく,著作物性を認められる。
これに対し,被告会社は,ありふれた平易な表現の組合せのみで構成されたものであるなどと主張する。しかし,原告原稿1と同様に,この点に関する被告会社の主張は採用できない。
カ 原告原稿5について
原告原稿5は,建築業者である広告主による仮設足場の組立・解体スタッフの求人広告である。
原告原稿5のキャッチ及びカセット職種は,全体を通じて若者言葉による口語調が用いられている。このうち,キャッチの部分は,そのような表現を採用すると共に,「▶」,「!」「!!」といった記号を重ね,かつ,同部分が広告内の約4分の1に当たるスペースに,他の記載部分と比較して際立つよう大きな文字で記載されていることで,一見して目を引くものとなっている。
このように,原告原稿5は,物理的な広告掲載スペースの制約が厳しい中で,なお求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。
したがって,原告原稿5は創作的なものといってよく,著作物性を認められる。
これに対し,被告会社は,ありふれた表現や表現手法の組合せのみで構成されたものであるなどと主張する。しかし,上記のとおり,原告原稿5には表現上の工夫が見受けられることから,この点に関する被告会社の主張は採用できない。
キ 原告原稿7について
原告原稿7は,建築業者である広告主による仮設足場の組立・解体スタッフの求人広告である。
原告原稿7のリードの部分は,字数の制限が厳しい部分であるようにもうかがわれるところ,原告原稿7では,そうした制限の中で,求職者の心情に特に着目し,これに寄り添う広告主の姿勢を示す表現を重ねることで読者の関心を喚起することに向けた工夫が見受けられる。求人のポイントの部分においても,同様の広告主の姿勢が端的に示されており,重ねて読者の関心を喚起する工夫が施されている。
このように,リード及び求人のポイントの部分のみを見ても,原告原稿7には,求人広告として読者の関心を喚起するための工夫が見受けられる。しかも,リードの部分は,自ずと字数の制限があるとはいえ,原告原稿5と比較すればなお少なくないスペース及び字数が当てられており,やはり物理的な観点からの表現方法の選択の幅が狭いとまではいえない。
したがって,原告原稿7は創作的なものといってよく,著作物性を認められる。
これに対し,被告会社は,ありふれた平易な表現の組合せのみで構成されたものであるなどと主張する。しかし,原告原稿1と同様に,この点に関する被告会社の主張は採用できない。
ク 小括
以上のとおり,原告原稿1~5及び7については,いずれも著作物性が認められる。