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著作権判例セレクション

【映画著作物】てんかん発作の13症例に関するアニメーション映像の映画著作物性

▶令和5830日東京地方裁判所[令和3()12304]▶令和6328日知的財産高等裁判所[令和5()10093]
2 争点1(本件映像の著作物性)について
(1) 本件映像の創作性について
ア 本件映像[注:てんかん発作の13症例に関するそれぞれ1ないし2分程度の長さの独立した別個のアニメーション映像のこと]は、てんかん発作を正しく理解してもらうことを目的として制作されたものであって、本件映像におけるてんかん発作の動きは、医学的に正確なものとなるよう、C医師、D医師及びE医師による確認及び修正指示を経たものである。そうすると、本件映像において表現されているてんかん発作の動きは、医学的にあるべき表現に収斂したものであって、選択の幅があるとはいえないから、この点において思想又は感情を創作的に表現したものと認めることはできない。
また、ナレーションについても、冒頭の「ここでは…の一例を紹介します。」の部分は、ある事柄を紹介する文章の冒頭に設けられるありふれた表現であるから、表現上の創作性があるものと認めることはできないし、その後に続く各症例の特徴を紹介する部分は、医学的知見に属する事実を述べるものであるから、思想又は感情を創作的に表現したものとは認められない。
この点、原告は、原告が作成したナレーション原稿の草案に原告以外の人間による様々な指摘や修正意見が付されていることを根拠に、上記ナレーションには創作性が認められる旨を主張する。しかし、証拠及び弁論の全趣旨によれば、それらの指摘等は、上記ナレーションの表現を医学的に正確なものにすることを企図したものと認められ、むしろ、表現の選択の幅が狭いことを示すものといえるから、上記の認定を左右するものではない。しかも、原告は、個々のナレーションの表現について、他に採り得る医学的に正確な表現が複数存在することや、そのような複数の表現の中から敢えて当該表現が選択されたことについて、具体的に主張立証するものではない。したがって、原告の上記主張は採用することはできない。
イ これに対し、本件映像は、前記1のとおり、人物が日常生活を送っている最中にてんかん発作が起こる状況を描写しているものであるところ、人物が日常生活を送っている様子を描写するためには、その人物の体格、人相、着衣、発作前後の動作及び仕草、所在する場所、背景となる造作及び家具等のほか、人物を捉える方向や画角など様々な要素を考慮する必要があると考えられる。
本件映像は、上記のような、日常生活を送っている様子を描写するための多種多様な要素の中から、視聴者が、敢えて意識をしなくとも、てんかん発作として見られる特徴的な動きに集中できるよう、人物の体格、人相、着衣、発作前後の動作及び仕草、所在する場所、背景となる造作及び家具等のほか、人物を捉える方向や画角について、表現の選択がされているものと認められ、これらの点において作成者の個性が発揮されているものといえる。
ウ また、本件映像において、どの症例を取り上げるのか、選択した症例をどのような順序で表示させるのかについては、様々な組合せがあり得ると考えられるから、本件映像においては、素材である症例ごとの映像の選択及び配列にも作成者の個性が発揮されているといえる。
(2) 小括
したがって、本件映像は、前記(1)イ及びウの点において、作成者の「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)に当たるというべきであり、よって、著作物性を認めることができる。
3 争点2(本件映像の著作者)について
(1) 映画の著作物該当性について
前記2、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件映像は、映画の効果に類似する視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物であると認められるから、映画の著作物に当たるというべきである(著作権法2条3項)。

[控訴審]
2 争点1(本件映像の著作物性及び「映画の著作物」該当性)について
前提事実、認定事実及び証拠によれば、本件映像は、一般人にてんかん発作を正しく理解してもらう目的で作成されたものであり、てんかん発作の13症例に関する個別のアニメーション映像から構成され、各アニメーション映像では、登場人物が日常生活を送っている中で起きたてんかん発作に特徴的な動きや、この人物を介助する者の様子等が描写されていること、本件映像の制作に当たっては、控訴人が、絵コンテ、レイアウト、背景、原画及び動画の作成を自ら、又はその一部を他の業者に委託して行い、これらの作業により制作された本件映像は、症例とされた各てんかん発作が起こりやすい年齢等に合致した人物が描かれ、視聴者が、てんかん発作として見られる特徴的な動きに集中できるよう、描かれた人物の体格、人相、着衣、発作前後の動作、所在する場所、背景となる造作や家具、人物を捉える方向や画角等について、表現の選択がされ、発作の特徴を説明するナレーションが組み込まれるといった加工が施されたことが認められる。
このような本件映像は、映画の効果に類似する視聴覚的効果を生じさせる方法で作成されたものであり、かつ、思想又は感情を創作的に表現したものであると認められる。
そして、本件映像は、本件書籍の付属物として、DVDに固定されたものである。
したがって、本件映像は、著作権法2条3項にいう「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、かつ、物に固定されている著作物」に当たるから、映画の著作物(同法10条1項7号)であると認められる。
この点に関し、被控訴人は、原判決(被告の主張)のとおり、本件映像を構成する三つの要素である発作を起こすキャラクター、キャラクターのデザイン、背景等及びナレーションのいずれの要素も創作性を有さず、本件映像は創作性を欠いて著作物に当たらないと主張するが、上記のとおり、本件映像を全体として見れば、思想又は感情を創作的に表現したものであると認められ、被控訴人の上記主張は採用することができない。