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著作権判例セレクション
【過失責任】持込み企画のテレビドラマの制作放送につき、テレビ局の過失責任(共同不法行為性)を認定した事例
▶平成5年8月30日東京地方裁判所[昭和63(ワ)6004]▶平成8年04月16日東京高等裁判所[平成5(ネ)3610]
八 被告らの故意、過失及び不法行為の成否について
1 被告A
以上の認定判断によれば、被告Aには、本件テレビドラマの制作及び放映が原告が原告著作物について有する翻案権、放送権及び同一性保持権を侵害するものであることを認識していたか過失により認識することができなかったものと認められるから、同人には少なくとも過失があったものと認められる。したがって、被告Aが本件テレビドラマを制作することにより、原告が原告著作物について有する翻案権、同一性保持権を侵害した行為、本件テレビドラマを被告テレビ東京に納入し放映させた行為は、不法行為を構成するものである。
2 被告IVS
被告Aの本件テレビドラマの制作行為及び本件テレビドラマを被告テレビ東京に納入して放映させた行為が不法行為を構成するものであることは右1のとおりであり、本件テレビドラマの制作、納入当時、被告Aは被告IVSの常務取締役であり、被告IVSの業務の執行として、プロデューサーとなって本件テレビドラマの制作に当たっていたものであるから、被告IVSは被告Aの前記不法行為につき、民法44条又は民法715条により責任を負うものといわなければならない。
3 被告テレビ東京
(一) 前記三認定の事実に、(証拠等)を併せれば、次の事実が認められ、被告A本人尋問の結果中、これに反する部分は信用できない。
(略)
(二) 右認定の事実によれば、被告テレビ東京は本件テレビドラマを被告IVSと共同で制作し、これを放映したものであり、放送事業、放送番組の制作を業としている被告テレビ東京には、その制作、放映するテレビドラマが他人の著作権を侵害しないように、原作や翻案の原著作物であるとして問題となる余地のある素材の有無、原作者の許諾の有無等を調査し、制作の作業の一部を第三者にさせる場合にはその者を指揮、監督すべき義務があるところ、本件テレビドラマのチーフプロデューサーであった被告テレビ東京の従業員I及びプロデューサーであった従業員Hが、いずれも本件テレビドラマの企画、脚本化の段階で原作の有無を調査確認することなく、また、本件テレビドラマの放映前に被告Aから原告著作物からアイデアを借りたことを知らされた後も、自ら原告書籍を検討したり、原告と連絡をとって許諾を確認することを怠った過失により、本件テレビドラマの制作により原告が原告著作物について有する翻案権及び同一性保持権を侵害し、本件テレビドラマの放映により、原告が二次著作物である本件テレビドラマについて有する放送権を侵害したものと認められる。
(三) 被告テレビ東京は、本件テレビドラマは被告IVSの持込み企画で、被告IVSが制作したものであり、被告IVSが一切の権利義務関係の処理を自己の負担と責任において行う約定となっていたもので、被告テレビ東京には本件テレビドラマの制作、放映に関し、何らの過失はない旨主張する。
しかし、我が国有数のテレビ局として放送事業、放送番組の制作の事業を行っている被告テレビ東京には、一旦その放送網を通じて他人の著作権を侵害する番組が放送されると、瞬時に広範囲の視聴者に著作権侵害の番組が伝達され、侵害の程度が大きくなる可能性が大きいから、その制作、放映するテレビドラマが他人の著作権を侵害しないように、万全の注意を払う義務があるもので、他社に制作を委託した番組についてもその注意義務が軽減されるものではない。被告テレビ東京は本件テレビドラマが完成し、納入された後に被告IVSとの間で、本番組に使用される一切の著作物の著作権の処理を全て被告IVSの負担と責任において行う旨の条項を含む、本件テレビドラマについてのテレビ番組制作契約書を調印しているが、右契約を理由に、第三者である原告に対する権利侵害についての注意義務が軽減されたり、免除されたりするものではない。
そして、前記(一)認定の事実によれば、被告テレビ東京は、実質的には本件テレビドラマを被告IVSと共同制作したものであり、その内容を実質的に決定、変更する権限を有していたもので、その企画、脚本化の段階から放映直前までその注意義務を果たすことは現実に可能であったのに、前記(二)のとおりの過失があったものである。
被告テレビ東京の前記主張は採用できない。
4 なお、前示被告らの翻案権、放送権、同一性保持権侵害の行為は共同不法行為を構成するものと認められるから、被告らは連帯してその責任を負うものである。
[控訴審同旨]
八 控訴人らの責任について
1 控訴人A及び控訴人IVS原判決理由…を引用する。
2 控訴人テレビ東京
(一) 前記三1に認定のとおり、控訴人テレビ東京は、昭和62年2月初旬頃、本件テレビドラマと基本的ストーリーが類似したドラマの企画書が他社から提出されていることに気付き、右企画書の表紙に「D著『妻たちがガラスの靴を脱ぐ』(汐文社刊)より」と表示されていることを知り、同月6日、担当者のEが控訴人Aに対し、本件テレビドラマの原作はどうなっているか確認したところ、控訴人Aは、原作ではないが、被控訴人の著作からアイデアを借りていることがあると説明したこと、そのため、Eは控訴人Aに対し、被控訴人との間で問題が生じないように被控訴人の了解を得るように指示したこと、同月8日、控訴人Aから控訴人テレビ東京に対し、被控訴人の了解が得られた旨の連絡があったので、同月9日に本件テレビドラマを放映したこと、他社から前記企画書が提出されていることを知ったときから右放映に至るまでの間に、控訴人テレビ東京の担当者は、原告書籍を読んで本件テレビドラマと類似しているか否かなどについて検討したことはなかったことが認められる。
ところで、放送事業、放送番組の制作等を業としている控訴人テレビ東京としては、その制作、放映するテレビドラマが他人の著作権や著作者人格権を侵害することのないように万全の注意を払う義務があることは当然であり、このことは、当該テレビドラマの制作を第三者に委託し、これを放映する場合であっても同様であるところ、控訴人テレビ東京は控訴人Aや控訴人IVSに対し、本件テレビドラマの企画提案、制作の段階で、本件テレビドラマには原作なり、使用している素材があるのかどうかについて確認しなかったものであり、しかも、本件テレビドラマの放映前に、本件テレビドラマと基本的ストーリーが類似した内容の企画書が他社から提出されていることや、その企画書に被控訴人名や著書名が表示されていることを知りながら、また、控訴人Aからは、被控訴人の著作からアイデアを借りていることがあるとの説明を受けていながら、自ら原告書籍を読んで、本件テレビドラマの制作、放映が被控訴人の著作権や著作者人格権を侵害するものではないか否かを検討することもなく、また、被控訴人の了解を得た旨の控訴人Aの回答を安易に信用して、被控訴人に許諾の確認をしなかったものであって、これらの過失により、本件テレビドラマの制作、放映により被控訴人が原告著作物について有する翻案権及び同一性保持権を侵害し、被控訴人が二次的著作物である本件テレビドラマについて有する放送権を侵害したものと認められる。
(二) 控訴人テレビ東京は、本件テレビドラマは控訴人A及び控訴人IVSの持込み企画であり、しかも、本件テレビドラマの制作については、控訴人IVSが一切の権利義務関係の処理を自己の負担と責任において行う約定になっていたうえ、控訴人A及び控訴人IVSは、本件テレビドラマの企画提案から制作、納入、放映の全期間にわたり、控訴人テレビ東京に対し一貫して原告著作物の存在(放映前にはその内容)を隠蔽し、控訴人テレビ東京を偽り続けたものであるから、控訴人テレビ東京に対し過失責任を負わせるのは著しく公平を欠くものである旨主張する。
前記三1に認定のとおり、控訴人テレビ東京と控訴人IVSとの間で本件テレビドラマについて調印されたテレビ番組製作契約書の条項の一部である「テレビ番組製作契約基準条項」の第12条には、控訴人IVSは、この契約により控訴人テレビ東京が取得する諸権利を支障なく行使できるように、本番組に使用される一切の著作物の著作権等の処理をすべて控訴人IVSの負担と責任において行うものとすることが定められているが、右約定を理由として、第三者である被控訴人に対する権利侵害についての注意義務が軽減されたり、免除されたりするものではない。また、控訴人A及び控訴人IVSが控訴人テレビ東京に対し、原告著作物の存在・内容を隠蔽していたものであるとしても、控訴人テレビ東京においては、本件テレビドラマの放映前に偶然とはいえ、本件テレビドラマと基本的ストーリーが類似した内容の企画書が他社から提出されていることや、その企画書に被控訴人名や著書名が表示されていることを知ったものであり、控訴人Aからは被控訴人の著作からアイデアを借りているとの説明を受けたこと、控訴人Aが控訴人テレビ東京から指摘されて初めて被控訴人の著作からアイデアを受けている旨説明したことからしても、控訴人テレビ東京としては、本件テレビドラマの制作、放映が被控訴人の著作権等を侵害するものではないかという疑いを持って当然であると考えられることからすると、控訴人テレビ東京に過失責任を負わせることが著しく公平を欠くものであるとは認められない。
したがって、控訴人テレビ東京の右主張は採用できない。
3 なお、被控訴人らの翻案権、放送権、同一性保持権侵害の行為は共同不法行為を構成するものと認められるから、控訴人らは連帯してその責任を負うものである。