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著作権判例セレクション
【過失責任】ポスター制作の注文主である神社の過失責任(共同不法行為性)を認定した事例
▶平成20年03月13日東京地方裁判所[平成19(ワ)1126]
4 本件写真ポスターの制作による原告の氏名表示権侵害に関する被告Sデザイン,被告B及び被告八坂神社に対する請求について
(略)
(3) 争点4(被告八坂神社は,共同して侵害行為を行った者に当たるか)について
ア 証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告八坂神社は,千年以上もの伝統を有する祇園祭を執行する者であって、本件写真ポスターは,その祇園祭のいわば看板ポスターとして,京都市内各所に約1か月間貼付されたものであると認められる。
そして,このようなポスターを必要とするに当たり,被告八坂神社は,神輿を中心としたポスターを作成することとして,三若神輿会の会長である被告Bが代表取締役を務める被告Sデザインに対して,平成15年に本件写真ポスターの制作を初めて依頼し,翌年にも本件写真ポスターの制作を依頼したことが認められる。
イ このような本件写真ポスターの重要性からすれば,被告八坂神社が,初めて依頼する被告Sデザインに対して,そのポスターの写真の具体的選択につき,神輿を中心とすること等の注文をした以外は被告Sデザインの裁量に委ねていたとしても、ポスターを大量に印刷する前には,注文者である被告八坂神社が,本件写真を掲載して制作されたポスターでいいかどうかを最終確認するのが通常であるから,本件写真ポスターに本件写真を使用することを最終的に了解したのは,被告八坂神社であったと解するのが相当である。
したがって,注文者である被告八坂神社は,本件写真ポスターの制作による原告の氏名表示権侵害について,被告Sデザインと共同して侵害行為を行ったものと認めるのが相当である。
(略)
(6) 争点6(被告八坂神社には,故意又は過失があるか)について
ア 証拠によって認められる事実
(略)
イ 争点に対する判断
(前記)のとおり,被告八坂神社は,神社神道に従って祭祀等を行う宗教法人であって,千年以上もの伝統を有する祇園祭を執行するなどして信仰や文化を発信し、日本各地から広く崇敬を集める神社である。
そして,被告八坂神社のホームページには,八坂神社写真展として,本殿(重要文化財 ,西楼門(重要文化財
,境内摂末社その他被告八坂神 ) )社の境内建物の写真を写真集としてまとめて掲載し,これらの写真の利用の許可申請を受け付けるものとしている。また,被告八坂神社は,撮影を許可する際にも,著作権を損なわないよう留意する旨の撮影条件を付していることが認められる。
このように,被告八坂神社は,重要文化財,著作物その他文化的所産を取り扱う立場にある者であって,もとより著作権に関する知識を有するものであるから,著作物を使用するに際しては,当該著作物を制作した者などから著作権の使用許諾の有無を確認するなどして,著作権を侵害しないようにすべき注意義務があるというべきである。
本件についてみるに,上記のとおり,本件写真を選択し,本件写真ポスターとすることを最終的に了解したのは,被告八坂神社であったと解するのが相当であるから,被告八坂神社は,その最終判断に当たり,被告Sデザインに対して,本件写真の著作者名や当該著作者名を表示しないことに対する承諾の有無を具体的に確認し,その状況次第では,更に著作者に当該承諾の有無を直接確認するなどして,著作者人格権を侵害しないようにすべき注意義務があったというべきである。
しかしながら,被告八坂神社は,このような確認行為をすべき注意義務を怠り,本件写真ポスターの制作を依頼した被告Sデザインが本件写真の著作者名を表示せずに本件写真ポスターに本件写真を掲載するのを漫然と容認したものであって,被告八坂神社には,この点において過失があるというべきである。