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著作権判例セレクション
【同一性保持権】改変後の利用行為に同一性保持権は及ぶか(図書館による貸し出し等の行為につき、著作者人格権の侵害を否定した事例)
▶平成22年2月26日東京地方裁判所[平成20(ワ)32593]▶平成22年08月04日知的財産高等裁判所[平成22(ネ)10033]
(注) 本件は,別紙記載の出版物(「原告著作物」)を著作した原告が,韓国の出版社である高麗書林が出版した韓国語の書籍である別紙記載の出版物(「本件韓国語著作物」)が原告の原告著作物に係る著作権(複製権,翻訳権・翻案権)を侵害するものであることを前提に,被告らに対し,被告らが,それぞれ設置する図書館等において本件韓国語著作物を閲覧,謄写,貸与する行為が,原告の著作権(二次的著作物に係る貸与権)を侵害する,被告らが,それぞれ設置する図書館等において本件韓国語著作物を所蔵、貸与する行為が,原告の著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害すると主張して,著作権法112条に基づき,本件韓国語著作物の閲覧,謄写,貸出しの差止め及び廃棄を求めるとともに,主位的に,著作権及び著作者人格権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づき,所定の損害賠償金等の支払を求めた事案である。
2 争点2(著作者人格権侵害の成否)について
被告らが設置する図書館等において本件韓国語著作物を所蔵し,【貸与,複製する】行為自体は,著作物及びその題号を改変するものではないから,原告の同一性保持権を侵害することはない。
【すなわち,同一性保持権とは,その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し,その意に反してこれらの変更,切除その他の改変を受けない権利である(著作権法20条)ところ,同条は,条文上,改変行為だけを侵害行為として,改変された後の著作物の利用行為については規定していないものである。
控訴人は,被控訴人らの行為自体は著作物及び題号を改変するものでないとしても,被控訴人が本件韓国語著作物を所蔵・貸与するなどの行為は,著作物及びその題号の改変を事後的に幇助したと評価できるものであって,実質的には同一性保持権を侵害すると主張するが,著作物及びその題号を改変するものではないにもかかわらず,著作権又は同一性保持権侵害の著作物を所蔵・貸与,複製する行為(又はこれに類する行為)をもって,原著作物及びその題号の同一性保持権を侵害することになるものということはできず,控訴人の主張は採用することができない。
また,前記のとおり,被控訴人らは,それぞれが設置する図書館等において,利用者に対する閲覧,貸与等のために本件韓国語著作物を購入して所蔵しているものであるところ,被控訴人らが本件韓国語著作物を購入してこれを図書館等において貸与することは,当該著作物が控訴人著作物を原著作物とするその二次的著作物であるとしても,二次的著作物の著作者が原著作者である控訴人の氏名表示権を侵害して当該二次的著作物を自ら公衆へ提供又は提示する場合とは異なるものであって,被控訴人らの行為は著作権法19条1項に該当するものではなく,控訴人の主張は採用しない。
したがって,控訴人の著作者人格権に基づく各請求は理由がない。】
3 争点4(一般不法行為の成否:予備的請求)について
著作権及び著作者人格権侵害の不法行為が認められないことは上記1,2のとおりであるところ,民法709条の規定に照らしても,被告らが設置する図書館等において本件韓国語著作物を所蔵し,貸与することは,法令に違反するものとは認められず,また,不公正な行為として社会的に許容される限度を超えるものと認めることもできないから,被告らの行為が一般不法行為を構成するということもできない。
原告は,著作権法の保護の対象とならない著作物(違法複製物)である本件韓国語著作物が保護されることは著作権法の趣旨に反する,被告らによる本件韓国語著作物の所蔵,貸与は複製権侵害の幇助と評価できるなどと主張するが,結局のところ著作権侵害の違法をいうものにすぎず,その主張に理由がないことは上記1,2に説示したとおりである。
よって,原告の民法709条の不法行為に基づく各請求も理由がない。
[控訴審同旨]