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著作権判例セレクション

【パブリシティ権】パブリシティ権に係る独占的利用権を侵害する不法行為を認定した事例

▶平成29323日大阪地方裁判所[平成27()6459]▶平成291116日大阪高等裁判所[平成29()1147]
(注)
ここでの争点は次のとおり:「原告は,Ritmix のマスタートレーナーのパブリシティ権について独占的な利用許諾を受けるなどしているところ,被告が原告との取引終了後も上記トレーナーの画像をホームページ等に掲載し,上記パブリシティ権を侵害し,原告に固有の損害を被らせた旨主張し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,平成27年3月25日から平成28年3月17日までに生じた損害額である1795万円の賠償金及びこれに対する不法行為の最終日である平成28年3月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。」

[控訴審]
1 当裁判所も,前記…についての被控訴人の請求は,110万円及びこれに対する平成28年3月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないと判断する。
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3 P1の画像の掲載による不法行為の成否
(1) 肖像等が商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合,そのような肖像等を無断で使用する行為は,① 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,② 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し,③ 肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,パブリシティ権を侵害するものとして,不法行為法上違法となると解するのが相当である(最高裁平成24年2月2日第一小法廷判決参照)。
また,パブリシティ権は,人格権に由来する権利の一内容を構成するもので,一身に専属し,譲渡や相続の対象とならない。しかし,その内容自体に着目すれば,肖像等の商業的価値を抽出,純化させ,名誉権,肖像権,プライバシー等の人格権ないし人格的利益とは切り離されているのであって,パブリシティ権の利用許諾契約は不合理なものであるとはいえず,公序良俗違反となるものではない。
そして,パブリシティ権の独占的利用許諾を受けた者が現実に市場を独占しているような場合に,第三者が無断で肖像等を利用するときは,同許諾を受けた者は,その分損害を被ることになるから,少なくとも警告等をしてもなお,当該第三者が利用を継続するような場合には,債権侵害としての故意が認められ,同許諾を受けた者との関係でも不法行為が成立するというべきである。
(2) これを本件についてみるに,P1は,中国,台湾地域のマスタートレーナーとして認定され,台湾のテレビ番組にも出演し,平成28年9月25日に台湾で催された Ritmix のイベントでは,数百人と推測される参加者が集まっているところ,同イベントの写真入りパンフレットで2名のマスタートレーナーのうちの1名として紹介された。
また,控訴人がP1の画像を掲載したのは,楽天市場等の日本人向けの販売サイトであるが,① フィットネスウェアを専門に取り扱う控訴人が契約する約50人のライダーのうち,Ritmix 関係のライダーは10人おり,Ritmix関係は控訴人の事業上一定の比重を占めていたとうかがわれ,このことから,日本でも相応の Ritmix 愛好家が存在するとうかがわれること,② 控訴人でインストラクターをしているP2は,Ritmix のマスタートレーナーとしてのP1のことを知っていたこと,③ 被控訴人が開催したNASのイベントでも,P1は,イベントに参加したファンから相応の商品購入希望を得ていること,④ 控訴人の商品が販売されているBecomeという通販サイトでも,広告として,「RITMIX・リトモスのMTP1先生と台湾イントラも2015年1月に大阪でイベントレッスンを行ってくれました。」と記載され,P1の存在が広告効果を有することが前提とされていることからすると,マスタートレーナーとしてのP1の肖像等は,日本の Ritmix 愛好家の間でも一定の顧客吸引力を有していたと認められる。
以上によれば,P1は,自己の肖像等の顧客吸引力を排他的に利用するパブリシティ権を有していると認めるのが相当である。
(3) 控訴人は,P1には,日本における顧客吸引力があるとはいえない旨主張する。
しかしながら,前記引用の原判決…のとおり,控訴人自身,一時は,P1とのライダー契約の締結に向けて契約書案を作成しており,正式な契約締結には至らなかったものの,P1が日本において顧客吸引力を有することを前提とした行動をとっていた。加えて,上記(2)のとおり,控訴人自身の契約するライダーの約2割が Ritmix 関係のライダーであること,控訴人のインストラクターがP1のことを知っていたこと,控訴人の商品が販売されている通販サイトでのP1の記事の扱い方によれば,P1は日本においても著名性があり,控訴人自身もそのことを十分認識していたと認められる。
控訴人の上記主張は採用できない。
(4) 控訴人は,当審において,P1に顧客吸引力が認められるとしても,控訴人は,P1の肖像が有する顧客吸引力を専ら利用する目的で使用したのではなく,控訴人商品の形状等を顧客にわかりやすくするためにP1の画像を利用したにすぎないと主張する。
確かに,P1の画像は,P1が控訴人商品(フィットネス関係の衣料品)を着用している態様のもので,控訴人商品(衣類)の形状が,着用することによりわかりやすくなっているということは認められる。しかしながら,控訴人商品の形状等を顧客にわかりやすくする目的であれば,P1が着用する必要はない。
前記(3)で検討した事情に加え,フィットネスウェアである控訴人商品を着用しているのが,上記(2)及び(3)のとおり,Ritmix のマスタートレーナーであり,日本でも顧客吸引力のあるP1であるということから,フィットネスウェア販売の対象となる顧客層に対して,P1の画像を使用することにより,P1の顧客吸引力を利用して控訴人商品をより多く販売することが期待されており,控訴人がP1の顧客吸引力を利用しようと考えていたことが画像から優に認められる。
控訴人の上記主張は採用できない。
(5) そして,前記引用した原判決…によれば,被控訴人は,P1から独占的にパブリシティ権の利用許諾を受けているところ,被控訴人代表者が中国,台湾において「Ritmix」等の商標権を取得していること,被控訴人代表者がP1と控訴人との間のライダー契約のP1側の交渉を行っていたことに鑑みると,控訴人も上記独占的利用許諾を認識できたものと認められる。
(6) 本件において,控訴人と被控訴人との間の協議が継続している間は,控訴人がP1の画像をウェブサイト等に掲載することについて,被控訴人の承諾があったと認められる。しかし,控訴人が,平成27年3月25日付けの本件通知を送付して被控訴人との協議を終了させたことにより,被控訴人のP1の画像の掲載についての承諾も当然に撤回されたものと認めることができる。しかるに,控訴人は,自ら本件通知をしながら,その後もホームページ等からP1の画像を削除することなく掲載し続けており,それは,P1の肖像等を広告として使用したと評価できるのであるから,控訴人の行為は,P1のパブリシティ権に係る被控訴人の独占的利用権を侵害する不法行為を構成すると認められる(なお,被控訴人は,P1の肖像権の侵害も主張するが,パブリシティ権を離れた純然たる肖像権の侵害をいうものとは解されない。)。
(7) 控訴人は,P1の画像を顧客吸引のために使用していない旨主張する。しかしながら,上記(4)のとおり,控訴人は,P1の顧客吸引力を利用して商品を販売しようと考えていたと認められる。そして,当該画像を掲載した商品自体は品切れで販売されない状態となっていたとしても,控訴人の商品を着用したP1の画像の掲載が継続する限り,フィットネスウェアの販売については,P1の顧客吸引力・宣伝効果により,控訴人の商品全体に対する宣伝広告,ひいては控訴人自身の宣伝広告となるものであり,控訴人がP1の肖像等の顧客吸引力を利用していることに変わりはない。
控訴人の主張は採用できない。
4 損害額
(1) 控訴人による掲載の期間
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(2) 損害額の算定
ア 被控訴人が独占的に利用を許諾されたP1のパブリシティ権は,肖像等が有する商品の販売等を促進する顧客吸引力を排他的に利用する権利であるから,被控訴人は,控訴人の行為により,画像の使用を許諾する場合に通常受領すべき金銭に相当する額の損害を受けたものと認められる。
そこで,被控訴人がP1の画像の使用を許諾する場合に通常受領すべき金銭の額について検討する。
前記引用した原判決…のとおり,控訴人は,他の約50名のライダーに適用される契約書の様式に基づいて,P1に関するライダー契約書を作成し,1か月当たり,通常販売価格で6万円程度を上限とする商品の無償提供を提案しており,ライダーに控訴人の商品の販売促進を依頼する場合の対価として上記商品提供程度の経済的負担を見込んでいたとみることができる。一方,被控訴人は,自らの利益にはならないと考えて上記の提案には応じておらず,広告宣伝の際にP1の画像の掲載を許諾する場合に,上記の金額を超える対価を想定していたと認められる。このような事情に加え,P1の顧客吸引力の程度,内容,P1の画像の掲載場所の数,掲載期間等を総合して考慮すると,P1の画像の掲載により被控訴人に生じた損害額は,1か月当たり10万円と認めるのが相当である。
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ウ そして,控訴人が本件通知により被控訴人との取引を終了してからP1の全ての画像を削除するまでには一定期間を要するものと認められるため,被控訴人は,合計して,平成27年3月25日から平成28年3月17日までのうちの11か月分である110万円の損害を被ったと認めるのが相当である。