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著作権判例セレクション
【公衆送信権】公衆送信権の侵害事例
▶平成31年2月28日東京地方裁判所[平成30(ワ)19731]
事案に鑑み,本件投稿による本件写真2に係る公衆送信権侵害の成否について判断する。
1 争点1(本件写真2の著作物性の有無)
写真は,被写体の選択・組合せ・配置,構図・カメラアングルの設定,シャッターチャンスの捕捉,被写体と光線との関係(順光,逆光,斜光等),陰影の付け方,色彩の配合,部分の強調・省略,背景等の諸要素を総合してなる一つの表現であり,そこに撮影者等の個性が何らかの形で表れていれば創作性が認められ,著作物に当たるというべきである。
これを本件についてみると,本件写真2は,別紙写真目録2記載のとおりであるところ,フローリング上にスリッパを履いて真っすぐに伸ばした状態の両脚とテーブルの一部を主たる被写体とし,大腿部の上方から足先に向けたアングルで,右斜め前方からの光を取り入れることで陰影を作り出すとともに脚の一部を白っぽく見せ,また,当該光線の白色と,テーブル,スリッパ及びショートパンツの白色とが組み合わさることで,脚全体が白っぽくきれいに映るように撮影されたカラー写真であり,被写体の選択・組合せ,被写体と光線との関係,陰影の付け方,色彩の配合等の総合的な表現において,撮影者の個性が表れているものといえる。
したがって,本件写真2は,創作的表現として,写真の著作物であると認められる。これに反する被告の主張は採用できない。
2 争点2(公衆送信権侵害の成否)
(1) 本質的特徴を感得できるかについて
著作物の公衆送信権侵害が成立するためには,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができることを要する。
これを本件についてみると,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件画像には,本件写真2の下側の一部がほんの僅かに切り落とされているほかは,本件写真2がそのまま用いられていることが認められる。そして,本件画像は,解像度が低く,本件写真と比較して全体的にぼやけたものとなっているものの,依然として,上記1で説示した,本件写真2の被写体の選択・組合せ,被写体と光線との関係,陰影の付け方,色彩の配合等の総合的な表現の同一性が維持されていると認められる。
したがって,本件画像は,これに接する者が,本件写真2の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるものであると認められる。これに反する被告の主張は採用できない。
(2) 本件画像アップロードと本件投稿の関係について
ア 前記前提事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 「たぬピク」は,「up@vpic(省略)」宛てに画像を添付したメールを送信すると,当該画像がインターネット上にアップロードされたURLが,送信元のメールアドレス宛てに返信され,当該URLを第三者に送るなどして,当該画像を第三者と共有することができるサービスである。
(イ) 本件掲示板を含むたぬき掲示板(2ch2(省略))をスマートフォンで表示する場合には,「たぬピク」により取得した,画像のURLが投稿されると,当該URLが表示されるのではなく,当該URLにアップロードされている画像自体が表示される仕組みとなっている。これにより,当該URLをクリックしなくても,たぬき掲示板上において,他の利用者と画像を共有することが可能となっている。
(ウ) 本件画像は,平成30年3月22日午後11時53分41秒に,「up@vpic(省略)」宛てにメール送信され,本件画像URL上にアップロードされた(本件画像アップロード)。
(エ) 本件画像URLは,同日午後11時54分46秒に,被告の提供するインターネット接続サービスを利用して,本件掲示板に投稿された(本件投稿)。
イ 以上の事実関係を前提に,本件投稿によって公衆送信権の侵害が成立するか検討する。
まず,本件画像は,前記ア(ウ)のとおり,本件投稿に先立って,インターネット上にアップロードされているが,この段階では,本件画像URLは「up@vpic(省略)」にメールを送信した者しか知らない状態にあり,いまだ公衆によって受信され得るものとはなっていないため,本件画像を「up@vpic(省略)」宛てにメール送信してアップロードする行為(本件画像アップロード)のみでは,公衆送信権の侵害にはならないというべきである。
もっとも,本件においては,前記ア(ウ)及び(エ)のとおり,メール送信による本件画像のアップロード行為(本件画像アップロード)と,本件画像URLを本件掲示板に投稿する行為(本件投稿)が1分05秒のうちに行われているところ,本件画像URLは本件画像をメール送信によりアップロードした者にしか返信されないという仕組み(前記ア(ア))を前提とすれば,1分05秒というごく短時間のうちに無関係の第三者が当該URLを入手してこれを本件掲示板に書き込むといったことは想定し難いから,本件画像アップロードを行った者と本件投稿を行った者は同一人物であると認めるのが相当である。そして,前記ア(イ)のとおり,本件画像URLが本件掲示板に投稿されることにより,本件掲示板をスマートフォンで閲覧した者は,本件画像URL上にアップロードされている本件画像を本件掲示板上で見ることができるようになる。そうすると,本件投稿自体は,URLを書き込む行為にすぎないとしても,本件投稿をした者は,本件画像をアップロードし,そのURLを本件掲示板に書き込むことで,本件画像のデータが公衆によって受信され得る状態にしたものであるから,これを全体としてみれば,本件投稿により,原告の本件写真2に係る公衆送信権が侵害されたものということができる。以上の認定に反する被告の主張は採用できない。
3 小括
以上からすれば,本件投稿により,原告の本件写真2に係る著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであると認められる。また,原告がかかる著作権侵害の不法行為による損害賠償請求権を行使するためには,被告が保有する別紙発信者情報目録記載の情報が必要であると認められる。