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著作権判例セレクション
【公衆送信権】 公衆送信権の侵害事例(ソフトウェアのダウンロード販売)
▶平成30年1月30日 東京地方裁判所[平成29(ワ)31837]
(注) 本件は,原告が,「建築
CAD ソフトウェア「DRA-CAD11」(「本件ソフトウェア」)について著作権及び著作者人格権を有し,また「DRA-CAD」との文字からなる商標に係る商標権を有しているところ,被告において,原告の許諾なしに本件ソフトウェアをダウンロード販売等すると共に,本件ソフトウェアのアクティベーション機能(正規品のシリアルナンバー等を入力しないとプログラムが起動・実行されないようにする機能をいう。)を回避するプログラムを顧客に提供して同機能の効果を妨げたものであり,かかる被告の行為は,原告の上記著作権(複製権,翻案権,譲渡権)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害するとともに,原告の上記商標権を侵害するなどと主張して,被告に対し,上記各不法行為に基づき,損害賠償金等の支払を求めた事案である。
1 争点(1)(被告による著作権侵害及び著作者人格権侵害の有無)について
(1) 前記前提事実のとおり,被告は,ヤフオクにおいて,商品名を「『DRA-CAD11』建築設計・製図
CAD」などと記載し,即決価格4980円で多数出品し,その際,「商品説明」欄に「DRA-CAD11」と,「注意事項」欄に「ダウンロード品同等」「インストール完了までフルサポートさせて頂きます」などと,「発送詳細」欄において「ダウンロード販売」であるなどとそれぞれ記載していた。そして,被告は,ヤフオクにおいて本件商品を入札して代金を被告に支払った顧客に対し,本件ソフトウェア及びBのプログラムのクラック版(いずれも原告の許諾がないもの)が蔵置されていたオンラインストレージサイト「C」の URL をダウンロード先として教示し,かつ当該Bのプログラムのクラック版の起動方法及び本件ソフトウェアの起動・実行方法を教示するマニュアル書面を提供していた。その結果,当該顧客は,上記ダウンロード先から本件ソフトウェア(無許諾品)及びセットアップCDの内容とクラックされたBVer.11.0.1.3 を入手することができ,セットアップを行った後,クラック版のBを上書きすることにより,本件ソフトウェアで要求されるアクティベーションを回避することができた,というのである。
(2) 上記事実によれば,①被告は,ヤフオクにおいて,あくまで「DRA-CAD11」建築設計・製図 CAD 自体をオークションの対象物と表示して出品しており,「商品説明」欄には「DRA-CAD11」,「注意事項」欄には「ダウンロード品同等」「インストール完了までフルサポートさせて頂きます」,「発送詳細」欄には「ダウロード販売」と記載されていたこと,②かかる表示を見てオークションに入札した顧客も,当然,本件ソフトウェアを安価に入手する意図で入札を行ったと推認できること,③被告は,顧客に対し,本件ソフトウェア及びそのアクティべーション機能を担うプログラムのクラック版(いずれも原告の無許諾)のダウンロード先をあえて教示し,かつこれらの起動・実行方法を教示するマニュアル書面を提供し,その結果,顧客が,本件ソフトウェア(無許諾品)を入手した上,本件ソフトウェアで要求されるアクティベーションを回避してこれを実行することができるという結果をもたらしており,被告の上記行為は,かかる結果を発生させるのに不可欠なものであったこと,④被告は,営利目的でかかる行為を行い,後記3認定のとおり多額の利益を得ていること,以上の事実が認められる。
これらの事情を総合すれば,上記(1)の一連の経過により,被告は,本件ソフトウェアの一部に原告の許諾なく改変(アクティベーション機能の回避)を加え(本件ソフトウェアの表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,変更等を加えて新たな創作的表現を付加し),同改変後のものをダウンロード販売したものと評価できるから,被告は,原告の著作権(翻案権及び公衆送信権)並びに著作者人格権(同一性保持権)を侵害したものと評価すべきであり,これに反する被告の主張は採用できない。なお,原告は,譲渡権侵害を主張しているが,有体物の譲渡ではなくソフトウェアのダウンロードが行われたものとして,公衆送信権が侵害されたものと解すべきである。
他方で,原告は,被告が本件ソフトウェアをオンラインストレージサイト「C」において記録蔵置(複製)している旨主張するが,本件ソフトウェアを「C」という名前のサーバに保存したのが被告であることを認めるに足りる証拠はないから,原告の上記主張は採用できない。
(略)
3 争点(3)(原告の損害額)について
(1) まず,著作権侵害による損害額についてみる。
前提事実のとおり,本件ソフトウェアの定価は19万9500円(税込み)であったものの,原告は,営業担当者経由での直接販売ないしオンライン販売の場合,本件ソフトウェアを,原則として,定価から10%割引きした17万9550円(税込み)で販売していたものである。
そして,被告による本件ソフトウェアのプログラムの著作権(翻案権及び公衆送信権)侵害の態様は,故意により,本件ソフトウェアのアクティベーション機能を無効化するプログラム(Bのクラック版)の利用を教示することにより,本件商品が本件ソフトウェアと同一であるものとしてヤフオクに出品し,本件商品を落札者に対してダウンロード販売したものと評価できるものであり,違法性が高いものといわざるを得ない。これによって本件ソフトウェアの販売者(原告)や正規購入者に対して与える影響をも考慮すると,本件において,原告が,被告の上記著作権侵害行為について,本件ソフトウェアの上記著作権の行使につき「受けるべき金銭の額に相当する額」(著作権法114条3項)は,本件ソフトウェアの定価19万9500円から10%を控除した17万9550円に,本件商品の落札本数と認められる54本を乗じた969万5700円であると認められる。
なお,被告は,ヤフオクでいったん落札された取引においても,入金後にキャンセルされた場合も多数あると主張するが,同主張を認めるに足りる証拠はない。
また,被告は,両商品の価格差等を考慮すれば,仮に被告の行為がなかったとしても原告が本件ソフトウェアを(対象本数分)販売できたとはいえない旨主張するが,前記のとおり,本件における被告の行為態様の悪質性に鑑みれば,このような理由で損害額を減額するのは相当ではない。
なお,原告は,著作者人格権侵害も主張するが,これと原告の主張する損害との間には因果関係が認められない。
(2) 原告は,著作権侵害以外に,商標権侵害や不正競争防止法違反による不法行為についても損害賠償を請求するところ(原告は,これらが実体法上は請求権競合であるとする。),本件全証拠によっても,商標権侵害及び不正競争防止法違反による原告の損害額のいずれについても,上記(1)の著作権侵害に基づく損害額である969万5700円を超えるものとは認められない。