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著作権判例セレクション

【公衆送信権】公衆送信権の侵害認定事例(「集合住宅向けハードディスクビデオレコーダーシステム」が問題となった事例)/複製・公衆送信の侵害主体性

▶平成171024日大阪地方裁判所[平成17()488]▶平成190614日大阪高等裁判所[平成17()3258]
() 本件は、大阪市に所在するテレビ放送事業者である原告らが、被告が販売する別紙記載の商品(「被告商品」)(被告は、集合住宅向けに、「選撮見録」という商品名で、テレビ放送を対象としたハードディスクビデオレコーダーシステムの販売の申し出を行っている。)が、原告らがテレビ番組の著作者として有する著作権(複製権及び公衆送信権)並びに原告らが放送事業者として有する著作隣接権(複製権及び送信可能化権)の侵害にもっぱら用いられるものであると主張し、上記各権利に基づいて、被告に対し、その商品の使用等及び販売の差止め並びに廃棄を請求した事案である。

4 争点(5)(送信可能化性)について
(1) 著作権法における、「送信可能化」(2条1項9号の5)、「自動公衆送信」(同項9号の4)、「公衆送信」(同項7号の2)、「放送」(同項8号)及び「有線放送」(同項9号の2)の定義は、それぞれ以下のとおりである。
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以上を前提として、被告商品の使用時において、被告商品のサーバーのハードディスクに放送番組を録画することは、放送を「送信可能化」するものということができるか、検討する。
(2) 前記2のとおり、被告商品は、個々の利用者が全局予約モードに設定しているか個別予約モードに設定しているかに関係なく、サーバー毎に、これに接続されたビューワーのいずれかから録画予約された番組(全局予約モードに設定しているビューワーがある場合は全番組)について、そのサーバーのハードディスク上の1か所にのみその音声及び映像の信号を記録し、そのサーバーに接続されたビューワーで、当該番組の予約をしたビューワー(全局予約モードに設定しているビューワーは当然にこれに含まれる。)から、録画から1週間の保存期間内に番組再生の要求があった場合には、自動的に、録画した番組の音声及び映像の情報信号を、当該ビューワーにのみ、送信するものである。
そして、前記2のとおり、被告商品は、サーバーとビューワーが有線回線によって電気的に接続され、サーバーは集合住宅の共用部分に、ビューワーは個々の入居者の居室に設置されている。
以上によれば、被告商品の使用時においては、被告商品のサーバーのハードディスクに放送番組を録画することによって、「サーバーに接続されたビューワーの設置された居室の入居者によって直接受信されることを目的とした有線電気通信の送信」であり、「当該入居者からの求めに応じ自動的に行われるもので、放送又は有線放送のいずれにも該当しないもの」が、行われ得る状態になるということができる。
(3) ところで、これが、自動公衆送信し得る状態であるというためには、送信を要求し、信号を受信する者、すなわち各居室の入居者が「公衆」である必要がある。
この点につき、被告は、①あらかじめ録画予約の指示をしたビューワーの利用者のみが、番組の再生指示(送信の要求)をしてその信号を受信し、番組を受信することができるのであるから、送信を要求し、信号を受信する者を「公衆」ということはできない、②「公衆」とは特定かつ多数の者を含むとされているが、被告商品では1サーバーに接続されるビューワー数は50個程度を上限としているから、その数に照らして、その利用者を「公衆」ということはできない、と主張する。
しかしながら、前記2のとおり、被告商品においては、番組の録画は、録画予約をしたビューワーの数にかかわらず、サーバーのハードディスク上の1か所にのみ、1組のみの音声及び映像の情報が記録されるものである。したがって、あらかじめ録画予約の指示をしたビューワーすべてに対し、その要求に応じて、記録された単一の情報が信号として送信されるものであるから、その人数の点を別とすれば、被告商品の利用者は、「公衆」であることを妨げる要素を含んでいるものではない。被告は、公衆送信における「公衆」とは、不特定者や第三者であることを要すると主張するかのようでもあるが、そのように解することができない。
そして、被告商品においては、ビューワーは、集合住宅の各戸に設置されることが予定されているから、1サーバーに接続されるビューワー数は、設置場所によって異なるとしても、集合住宅向けに販売される以上、少なくとも10個以上は接続されるものと推認される。これは、10世帯以上の入居者(したがって、その入居者数は10に留まるものではない。)が利用者となることを意味するものである。ところで、上記のとおり、著作権法における公衆送信の定義においては、有線電気通信設備で、その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内にあるものによる送信を除くこととされているが、その構内が二以上の者の占有に属している場合には、同一の者の占有に属する区域を単位として上記の「同一の構内にある」か否かを判断することとされており、その結果、同一の建物でも、その内部が区分され、占有者を異にする区域が複数存在する場合には、その建物の中で「公衆送信」がされ得ることとされている。このことに照らせば、被告商品の利用者の数は、公衆送信の定義に関して「公衆」ということを妨げない程度に多数であるというべきである。
したがって、被告の上記主張は採用することができず、被告商品の利用者、すなわち、送信を要求し、信号を受信するものは、「公衆」であるということができる。
よって、被告商品の使用時において、被告商品のサーバーのハードディスクに放送番組を録画することにより、その放送番組は自動公衆送信し得る状態になるものである。
(4) さらに進んで、被告商品の使用時において、被告商品のサーバーのハードディスクに放送番組を録画することは、放送を「送信可能化」するものということができるか、検討する。
既に検討したところに照らせば、被告商品において、サーバーとビューワーとを接続している配線が、電気通信回線であり、これが公衆に該当する利用者の用に供されていること、被告商品のサーバーが、自動公衆送信装置に、そのハードディスクが、公衆送信用記録媒体に、それぞれ該当することは、明らかである。
そして、利用者がビューワーにより録画予約の指示をすることにより、被告商品のサーバーに、放送番組の音声及び映像の情報が記録され、これによって、上記(2)(3)のとおり、当該放送番組の情報が自動公衆送信し得るようになるのであるから、被告商品のサーバーのハードディスクに放送番組が録画されることにより、その放送は「送信可能化」されるということができる(上記(1)①イ)。
(5) この点につき、被告は、「送信可能化」とは、いわゆる「ウェブキャスト」のように、受信した番組を録音・録画せず、サーバー等を通じてそのまま流す場合のみを対象とし、いったん録画されたビデオ等を用いて送信可能化する行為は、送信可能化にはあたらないと主張する。
しかしながら、上記(1)①イのとおり、著作権法上、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に、情報を記録することにより、自動公衆送信し得るようにすることも、「送信可能化」として定義されているのであるから、被告の上記主張は採用できない。
(6) 以上のとおりであるから、被告商品の使用時において、被告商品のサーバーのハードディスクに放送番組を録画することは、放送を「送信可能化」するものということができる(ただし、「送信可能化」の主体が誰であるかについては、後記5において検討する。)。
5 争点(6)(被告は、複製行為ないし送信可能化行為の主体か)
(1) 複製及び送信可能化の主体
一般に、放送に係る音及び影像を複製し、あるいは放送を送信可能化する主体とは、実際に複製行為をし、あるいは実際に送信可能化行為をする者である。
そして、被告は、被告商品を販売するとしても、直接には、複製行為や送信可能化行為をするわけではない。
しかしながら、直接には、複製行為あるいは送信可能化行為をしない者であっても、現実の複製行為あるいは送信可能化行為の過程を管理・支配し、かつ、これによって利益を受けている者がいる場合には、その者も、著作権法による規律の観点からは、複製行為ないし送信可能化行為を直接に行う者と同視することができ、その結果、その者も、複製行為ないし送信可能化行為の主体となるということができると解するのが相当である。
(2) まず、被告商品の設置者(集合住宅が賃貸住宅である場合には集合住宅全体の所有者、集合住宅が区分所有に係るものである場合には、管理組合ないし管理組合法人)の立場について検討すると、以下の点からみて、設置者は、本件商品による複製行為あるいは送信可能化行為の過程を管理・支配し、かつ、これによって利益を受けているということができる。
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(3) もっとも、設置者が複製行為ないし送信可能化行為の主体であるとしても、他に同行為の主体が存在し得ないというものではなく、被告も共同で、又は重畳的に同行為の主体となっている可能性もあるので、この点について検討する。
ア 原告らは、①被告は被告商品を開発、販売から販売後のサービス・サポートまで一貫して行なっている、②被告は、被告商品販売後も、24時間体制でサポート業務を行ない、月々の使用料も徴収している、③被告は、保守業務委託契約において、固定グローバルIPアドレスが割当てられること、及び、設置場所へ施錠が可能であること、また、施錠鍵の管理を被告が受託できること、との条件を付し、被告商品サーバーを常時、遠隔操作によってリモートコントロールし、それによって被告商品の運用保守を行っている、④被告は、保守業務委託契約において、被告の確認なしの設置、移設、増設、撤去等を行った場合の契約解消を規定し、被告が被告商品の所有者に対して被告商品サーバーをブラックボックス化しているとして、被告が被告商品やこれによる管理支配行為を行っていると主張するので、検討する。
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(6) 以上のとおり、被告商品による放送に係る音及び影像の複製ないし放送の送信可能化の主体を、被告と認定することはできない。したがって、被告が集合住宅向けに販売した被告商品による複製行為ないし送信可能化行為に関して、「被告が被告商品を使用している」とか、「被告が集合住宅の所有者をして被告商品を集合住宅の入居者に使用させている」とか、と認めることもできない。

[控訴審]
3 争点(3)(著作権に基づく請求)について
(証拠)によれば,被控訴人らが行う放送番組の中には,他社制作のものだけではなく,一部であるが準キー局として制作するローカルニュースやバラエティ番組のように,被控訴人らが職務著作(法15条1項)として著作権を有する複数の自社制作番組も含まれ,これらの番組は,自局の放送地域内で放送されるほか,系列局への放送許諾や番組販売によりその地域外に放送されることのあることが認められる。
4 争点(4)(複製権侵害)について
(1) 控訴人商品におけるサーバーのハードディスクへの録音・録画が,著作権等の対象である「情報」の「複製」(法2条1項15号にいう「録音・録画…による有形的な再製」)に当たることは明らかである。
(2) 一般に,放送番組に係る音及び影像を複製し,あるいは放送番組を公衆送信・送信可能化する主体とは,前記認定事実によれば,控訴人商品における複製(録画)や公衆送信・送信可能化自体はサーバーに組み込まれたプログラムが自動的に実行するものではあるが,これらはいずれも使用者からの指示信号に基づいて機能するものであるから,指示信号を発して実際に複製行為をし,公衆送信・送信可能化行為をする者を指すところ,各使用者,即ち各居室の入居者は,少なくとも,複製行為,公衆送信・送信可能化行為主体ということができる。
そして,控訴人商品は,いわゆるマンション等集合住宅入居者用のものであって,多数のユーザーの使用を前提としているところ,当該予約指示に基づいて作成される放送番組に係るファイルは,常に単一のファイルであり,同一のファイルがその後の予約指示をした入居者に使用されることになり,最初の予約指示をした者は,自己の個人的又は家庭内等の範囲内の使用とならないから,法30条1項の目的以外の目的のために使用したこととなり,その後の予約指示をして使用する者は,自分で複製をした者には当たらず,いずれも法30条1項柱書,102条1項の適用外の者となる。
もっとも,上記多数のユーザーが全て「個別予約モード」を選択し,録画番組と再生番組とが重ならない場合も想定し得るが,少なくとも,「全局予約モード」の機能がある以上,極めて例外的事態であり,集合住宅が通常予定するユーザー数において通常起こり得ない事態といえる。
この点に関し,控訴人は,各居室のビューワーからの予約指示は,番組毎に作成された録画実行ファイルに記録され,当該番組開始時に,予約指示の先後に関係なく,各ファイルに記録された録画指示が同時に実行される旨主張し,控訴人代表者も乙38においてその旨供述しているが,上記陳述書以外に控訴人商品がかかる構成を有していることを裏付けるに足りる客観的な資料を何ら提出していないから,にわかにこれを採用し難い上,仮に控訴人商品がそのような構成を採用していると仮定しても,控訴人主張のように同時に録画指示がなされたものとは解し難いから,上記の判断を左右するものではない(なお,上記構成に関しては,控訴人代理人自身の意見書でも,単一の情報である場合は複製権侵害になるとの見解があるなどとして,控訴人に対し,単一の情報からの複製にならないような構成にすることを勧めていること,同代理人と民放連等との交渉の中でも,控訴人商品が個々の使用者毎にハードディスクを分ける構成であるとの答弁を繰り返していること,控訴人代表者自身,第二次仕様までは単一の情報からの複製とならないような構成にしようとしていた旨陳述していること,控訴人は,陳述書等を提出するだけで,控訴人商品の構成に係る客観的な裏付け資料を提出していない等の経緯が認められる。)。
(3) 以上のとおりであるから,再抗弁につき判断するまでもなく,控訴人商品による放送番組の複製は,法30条1項,102条1項の私的利用に該当せず,違法であることに変わりはない。
なお,本件においては,弁論の全趣旨に照らし,被控訴人らの許諾が得られる見込みのないことが明らかである。
5 争点(5)(6)(控訴人商品の公衆送信・送信可能化)について
(1) 前記のとおり,控訴人商品は,個々の利用者が「全局予約モード」に設定しているか「個別予約モード」に設定しているかに関係なく,サーバー毎に,これに接続されたビューワーのいずれかから録画予約された番組(「全局予約モード」に設定しているビューワーがある場合は全番組)について,そのサーバーのハードディスク上の1か所にのみその音及び影像の信号が記録され,録画の起因となった予約をしているビューワーに限らず,当該番組の予約(全局予約を含む。)をしたビューワーから,録画より1週間の保存期間内に番組再生の要求があった場合には,自動的に,録画した番組の音及び影像の情報を再生要求のあった当該ビューワーにのみ送信するものである。そして,控訴人商品は,サーバーとビューワーが有線回線によって電気的に接続され,サーバーは集合住宅の共用部分に,ビューワーは個々の居室に設置されている。
(2) まず,公衆送信権(法2条1項7号の2,23条)について検討する。
ア 控訴人商品においては,入居者の番組再生の要求に基づき,録画した番組の音及び影像の情報信号が有線回線を介して当該ビューワーに送信されるのであるから,受信者によって直接受信されることを目的として有線電気通信の送信が行われるものであることは明らかである。
イ この点に関し,控訴人は,控訴人商品におけるサーバーからビューワーへのデータの伝達は,製品の内部的なデータのやり取りにすぎないから,そのような伝達は,そもそも法上の「送信」に該当しないとも主張しているが,「送信」(同項7号の2)を「情報の無線通信又は有線電気通信による送信」という意味以上に限定的に解釈すべき法文上の根拠は見出せないから,この点の控訴人の主張は採用できない。
ウ また,控訴人は,控訴人商品が設置される集合住宅の共用部分は入居者の共有に属し,各入居者は共用部分を「占有」しているから,当該共用部分に設置されたサーバーから各居宅のビューワーへの情報の伝達は「同一の者の占有に属する区域内」での伝達にすぎず,「公衆送信」に該当しない旨主張するが,上記共同占有部分と上記単独占有部分とで一部重複があることにすぎず,上記両占有部分が法2条1項7号の2所定の同一の者の占有に属するとはいえないから,その送信は「その構内が二以上の者の占有に属している場合における同一の者の占有に属する区域内」での送信には該当しないと解され,上記控訴人の主張は採用できない。
さらに,控訴人は,控訴人商品の使用者は,あくまでも自らが放送番組を録画して自らが再生することを目的としているにすぎず,「公衆によって直接受信されることを目的」としていないとも主張しているが,既にみたように,控訴人商品が単一の情報を複数の使用者が再生する構成となっている以上,この点の控訴人の主張も採用できない。
ところで,信号の受信者,すなわち各居室の入居者をもって「公衆」といえるか否かの点について,控訴人は,あらかじめ録画予約の指示をしたビューワーの利用者のみが番組の送信の要求をして番組を受信することができるのであるから,送信を要求し,これを受信する者をもって「公衆」ということはできない,控訴人商品では1サーバーに接続されるビューワー数は50個程度を上限としているから,その数に照らして使用者を「公衆」ということはできない旨主張している。
しかしながら,前記のとおり,控訴人商品においては,番組の録画は,録画予約をしたビューワーの数にかかわらず,サーバーのハードディスク上の1か所にのみ1組のみの音及び影像の情報が記録され,あらかじめ録画予約の指示をしたビューワーすべてに対し,その要求に応じて,記録された単一の信号として送信されるものであるから,人数の点を別とすれば,控訴人商品の使用者は,「公衆」であることを妨げる要素を含んでいるものではない。
そして,控訴人商品においては,ビューワーは,集合住宅の各戸に設置されることが予定されているから,1サーバーに接続されるビューワー数は,設置場所によって異なるとしても,集合住宅向けに販売される以上,少なくとも前記認定の24戸以上の入居者が使用者となることに照らせば,控訴人商品の利用者の数は,公衆送信の定義に関して「公衆」といい得る程度に多数であるというべきである(ちなみに,控訴人商品を利用すれば,一つの集合住宅内であっても,サーバーを増設することにより大人数の使用が可能となる。甲10や甲31の集合住宅はその例であると考えられる。)。
エ 以上によれば,控訴人商品においては,法2条1項7号の2にいう「公衆送信」が行われるものである。
(3) 次に,送信可能化権(著作権に関し法2条1項9号の5,23条,著作隣接権に関し法2条1項9号の5,99条の2)について検討する。
ア 既に検討したところに照らせば,控訴人商品において,サーバーとビューワーとを接続している配線が「電気通信回線」であり,これが公衆に該当する入居者の用に供されていること,控訴人商品のサーバーが「自動公衆送信装置」に,そのハードディスクが「公衆送信用記録媒体」に,それぞれ該当することは,明らかである。
そして,利用者がビューワーにより録画予約の指示をすることにより,控訴人商品のサーバーに,放送番組に係る情報が記録され,これによって,当該情報が自動公衆送信し得るようになるのであるから,控訴人商品のサーバーのハードディスクに放送番組が録画されることにより,その放送は「送信可能化」されるということができる。
イ 控訴人は,放送事業者の送信可能化権(法99条の2)について,同条の「送信可能化」とは,いわゆる「ウェブキャスト」のように,受信した番組を録音・録画せず,サーバー等を通じてそのまま流す場合のみを対象とし,いったん録画されたビデオ等を用いて送信可能化する行為は,送信可能化には当たらないと主張するが,法上,公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に,情報を記録することによって自動公衆送信し得るようにすることも,「送信可能化」として定義されているのであるから,この点の控訴人の主張は採用できない。
以上のとおりであるから,控訴人商品の使用時において,控訴人商品のサーバーのハードディスクに放送番組を録画することは,放送を「送信可能化」するものということができる。
6 争点(7)(控訴人の侵害主体性)について
(1) 一般に,放送番組に係る音及び影像を複製し,あるいは放送番組を公衆送信・送信可能化する主体とは,実際に複製行為をし,公衆送信・送信可能化行為をする者を指すところ,前記認定事実によれば,控訴人商品における複製(録画)や公衆送信・送信可能化自体は,サーバーに組み込まれたプログラムが自動的に実行するものではあるが,これらはいずれも使用者からの指示信号に基づいて機能するものであるから,上記指示信号を発する入居者が実際に複製行為,公衆送信・送信可能化行為をするものであり,したがって,少なくとも,その主体はいずれも,現実にコントローラーを操作する各居室の入居者ということができる。
しかし,現実の複製,公衆送信・送信可能化行為をしない者であっても,その過程を管理・支配し,かつ,これによって利益を受けている等の場合には,その者も,複製行為,公衆送信・送信可能化行為を直接に行う者と同視することができ,その結果,複製行為,公衆送信・送信可能化行為の主体と評価し得るものと解される。
(2) 控訴人商品の商品特性等について
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(3) 控訴人商品の保守管理について
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(4) 利益の帰属について
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(6) 以上によれば,控訴人商品においては販売の形式が採られており,控訴人自身は直接に物理的な複写等の行為を行うものではないが,控訴人商品における著作権,著作隣接権の侵害は,控訴人が敢えて採用した放送番組に係る単一のファイルを複数の入居者が使用するという控訴人商品の構成自体に由来するものであり,そのことは使用者には知りようもないことがらであり,使用者の複製等についての関与も著しく乏しいから,その意味で,控訴人は,控訴人商品の販売後も,使用者による複製等(著作権,著作隣接権の侵害)の過程を技術的に決定・支配しているものということができる。
のみならず,控訴人商品の安定的な運用のためには,その販売後も,固定IPアドレスを用いてのリモーコントロールによる保守管理が必要であると推認される上,控訴人は,控訴人商品の実用的な使用のために必要となるEPGを継続的に供給するなどにより,使用者による違法な複製行為等の維持・継続に関与し,これによって利益を受けているものであるから,自らコントロール可能な行為により侵害の結果を招いている者として,規範的な意味において,独立して著作権,著作隣接権の侵害主体となると認めるのが相当である。
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第4 結論
以上のとおりであるから,被控訴人らの請求は,控訴人に対し,本判決主文記載の限度でこれを認容すべきところ(その余の請求は理由がない。),これと結論を一部異にする原判決を,本件控訴及び附帯控訴に基づき,上記主文記載のとおり変更するとともに,その余の請求を棄却し,反訴請求をいずれも却下することとする。