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著作権判例セレクション
【氏名表示権】「リツイート」による氏名表示権侵害を認定した事例
▶平成28年9月15日東京地方裁判所[平成27(ワ)17928]▶平成30年4月25日知的財産高等裁判所[平成28(ネ)10101]
(注) 本件は,原告が,インターネット上の短文投稿サイト「ツイッター」において,原告の著作物である別紙記載の写真(「本件写真」)が,①氏名不詳者により無断でアカウントのプロフィール画像として用いられ,その後当該アカウントのタイムライン及びツイート(投稿)にも表示されたこと,②氏名不詳者により無断で画像付きツイートの一部として用いられ,当該氏名不詳者のアカウントのタイムラインにも表示されたこと,③氏名不詳者らにより無断で上記②のツイートのリツイートがされ,当該氏名不詳者らのアカウントのタイムラインに表示されたことにより,原告の著作権(複製権,公衆送信権等)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権等)が侵害されたと主張して,プロバイダ責任制限法4条1項に基づき,上記①~③のそれぞれについて,主位的に,各氏名不詳者が当該アカウントにログインした際の発信者情報であってそのうちIPアドレス等については本判決確定の日の正午時点で最も新しいもの,予備的に,上記各ツイート等がされた際の発信者情報の開示を求めた事案である。
(前提事実)
氏名不詳者は,本件アカウント2を使用し,別紙流通情報目録記載2の投稿日時欄の日時に,原告に無断で本件写真の画像ファイルを含むツイートを行った。これにより,ツイッターのツイート画像ファイル保存URLに本件写真の画像ファイルが自動的に保存・表示された(流通情報2(2))。
リツイートとは,第三者のツイートについて自己のタイムラインに表示させたり自己のフォロワーにリツイートをしたと知らせたりすることによって,当該第三者のツイートを紹介ないし引用することをいう。氏名不詳者ら(以下「本件リツイート者ら」)は,それぞれ本件アカウント3~5を用いて別紙流通情報目録記載3~5のリツイートの日時欄の各日時に本件ツイート2のリツイートをした。これにより,本件アカウント3~5の各タイムラインに本件写真が表示された(流通情報3~5。以下,本件リツイート者らの行為を併せて「本件リツイート行為」という。)。
インラインリンクとは,ユーザーの操作を介することなく,リンク元のウェブページが立ち上がった時に,自動的にリンク先のウェブサイトの画面又はこれを構成するファイルが当該ユーザーの端末に送信されて,リンク先のウェブサイトがユーザーの端末上に自動表示されるように設定されたリンクをいう。本件アカウント3~5の各タイムラインに本件写真が表示されるのは,本件リツイート行為により当該タイムラインのウェブページ(流通情報3~5の各URL)に本件ツイート2のツイート画像ファイル保存URL(同2(2)のURL)へのインラインリンクが自動的に設定されるためである。
[控訴審]
2 争点(2)(本件アカウント1及び2における本件写真の表示による控訴人の著作権等の侵害の明白性)及び争点(3)(本件リツイート行為による著作権等の侵害の明白性)について
事案に鑑み,争点(3)について判断し,その後に争点(2)について判断することとする。
(1) 事実関係等
前記前提事実記載のとおり,本件リツイート行為により本件アカウント3~5のタイムラインのURLにリンク先である流通情報2(2)のURLへのインラインリンクが設定されて,同URLに係るサーバーから直接ユーザーのパソコン等の端末に画像ファイルのデータが送信され,ユーザーのパソコン等に本件写真の画像が表示されるものである。もっとも,証拠及び弁論の全趣旨によると,ユーザーのパソコン等の端末に,本件写真の画像を表示させるためには,どのような大きさや配置で,いかなるリンク先からの写真を表示させるか等を指定するためのプログラム(HTMLプログラム,CSSプログラム,JavaScriptプログラム)が送信される必要があること,本件リツイート行為の結果として,そのようなプログラムが,リンク元のウェブページに対応するサーバーからユーザーのパソコン等に送信されること,そのことにより,リンク先の画像とは縦横の大きさが異なった画像や一部がトリミングされた画像が表示されることがあること,本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像は,流通情報2(2)の画像とは異なるものであること(縦横の大きさが異なるし,トリミングされており,控訴人の氏名も表示されていない)が認められる。そして,控訴人は,本件写真の画像データのみならず,これらのHTMLプログラム,CSSプログラム,JavaScriptプログラムのデータ等が結合して生成される「ブラウザ用レンダリングデータ」あるいは HTMLデータ等を「侵害情報」と主張するものである。
⑵ 公衆送信権侵害(著作権法23条1項)について
ア 著作権法2条1項7号の2は,公衆送信について「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信・・・を行うことをいう。」と定義し,同項9号の4は,自動公衆通信について「公衆送信のうち,公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)をいう。」と定義し,同項9号の5は,送信可能化について「次のいずれかに掲げる行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう。
イ 公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置・・・の公衆送信用記録媒体に情報を記録し,情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え,若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し,又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること。ロ
その公衆送信用記録媒体に情報が記録され,又は当該自動公衆送信装置に情報が入力されている自動公衆送信装置について,公衆の用に供されている電気通信回線への接続・・・を行うこと。」と定義している。そして,著作権法23条1項は,「著作者は,その著作物について,公衆送信(自動公衆送信の場合にあっては,送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。」と規定する。
イ 控訴人が著作権を有しているのは,本件写真であるところ,本件写真のデータは,リンク先である流通情報2(2)に係るサーバーにしかないから,送信されている著作物のデータは,流通情報2(2)のデータのみである。上記のとおり,公衆送信は,「公衆によって直接受信されることを目的として送信を行うこと」であるから,公衆送信権侵害との関係では,流通情報2(2)のデータのみが「侵害情報」というべきであって,控訴人が主張する「ブラウザ用レンダリングデータ」あるいは HTMLデータ等を「侵害情報」と捉えることはできない。したがって,「ブラウザ用レンダリングデータ」あるいは HTMLデータ等が「侵害情報」であることを前提とする控訴人の公衆送信権侵害(送信可能化権侵害,自動公衆送信権侵害)に関する主張は,いずれも採用することができない。
ウ 次に,流通情報2(2)の画像データのみを「侵害情報」と捉えた場合の公衆送信権侵害の主張について検討する。
(ア) 本件リツイート行為によってユーザーのパソコン等の端末に表示される本件写真の画像は,それらのユーザーの求めに応じて,流通情報2(2)のデータが送信されて表示されているといえるから,自動公衆送信(公衆送信のうち,公衆からの求めに応じ自動的に行うもの[放送又は有線放送に該当するものを除く。]に当たる。
(イ) 自動公衆送信の主体は,当該装置が受信者からの求めに応じ,情報を自動的に送信できる状態を作り出す行為を行う者と解されるところ(最高裁平成23年1月18日判決参照),本件写真のデータは,流通情報2(2)のデータのみが送信されていることからすると,その自動公衆送信の主体は,流通情報2(2)の URLの開設者であって,本件リツイート者らではないというべきである。著作権侵害行為の主体が誰であるかは,行為の対象,方法,行為への関与の内容,程度等の諸般の事情を総合的に考慮して,規範的に解釈すべきであり,カラオケ法理と呼ばれるものも,その適用の一場面であると解される(最高裁平成23年1月20日判決参照)が,本件において,本件リツイート者らを自動公衆送信の主体というべき事情は認め難い。控訴人は,本件アカウント3~5の管理者は,そのホーム画面を支配している上,ホーム画面閲覧の社会的経済的利益を得ていると主張するが,そのような事情は,あくまでも本件アカウント3~5のホーム画面に関する事情であって,流通情報2(2)のデータのみが送信されている本件写真について,本件リツイート者らを自動公衆送信の主体と認めることができる事情とはいえない。また,本件リツイート行為によって,本件写真の画像が,より広い範囲にユーザーのパソコン等の端末に表示されることとなるが,我が国の著作権法の解釈として,このような受け手の範囲が拡大することをもって,自動公衆送信の主体は,本件リツイート者らであるということはできない。さらに,本件リツイート行為が上記の自動公衆送信行為自体を容易にしたとはいい難いから,本件リツイート者らを幇助者と認めることはできず,その他,本件リツイート者らを幇助者というべき事情は認められない。
(ウ) 控訴人は,自動公衆送信にも放送にも有線放送にも当たらない公衆送信権侵害も主張するが,前記(ア)のとおり自動公衆送信に当たることからすると,自動公衆送信以外の公衆送信権侵害が成立するとは認められない。
(3) 複製権侵害(著作権法21条)について
前記⑵イのとおり,著作物である本件写真は,流通情報2(2)のデータのみが送信されているから,本件リツイート行為により著作物のデータが複製されているということはできない。したがって,複製権侵害との関係でも,控訴人が主張する「ブラウザ用レンダリングデータ」あるいはHTMLデータ等を「侵害情報」と捉えることはできず,「ブラウザ用レンダリングデータ」あるいはHTMLデータ等が「侵害情報」であることを前提とする控訴人の複製権侵害に関する主張は,採用することができない。
⑷ 公衆伝達権侵害(著作権法23条2項)について
著作権法23条2項は,「著作者は,公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。」と規定する。
控訴人は,本件リツイート者らをもって,著作物をクライアントコンピュータに表示させた主体と評価すべきであるから,本件リツイート者らが受信装置であるクライアントコンピュータを用いて公に伝達していると主張する。しかし,著作権法23条2項は,公衆送信された後に公衆送信された著作物を,受信装置を用いて公に伝達する権利を規定しているものであり,ここでいう受信装置がクライアントコンピュータであるとすると,その装置を用いて伝達している主体は,そのコンピュータのユーザーであると解され,本件リツイート者らを伝達主体と評価することはできない。控訴人が主張する事情は,本件写真等の公衆送信に関する事情や本件アカウント3~5のホーム画面に関する事情であって,この判断を左右するものではない。そして,その主体であるクライアントコンピュータのユーザーが公に伝達しているというべき事情も認め難いから,公衆伝達権の侵害行為自体が認められない。
このように公衆伝達権の侵害行為自体が認められないから,その幇助が認められる余地もない。
⑸ 著作者人格権侵害について
ア 同一性保持権(著作権法20条1項) 侵害
前記⑴のとおり,本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像は,流通情報2(2)の画像とは異なるものである。この表示されている画像は,表示するに際して,本件リツイート行為の結果として送信されたHTMLプログラムやCSS プログラム等により,位置や大きさなどが指定されたために,上記のとおり画像が異なっているものであり,流通情報2(2)の画像データ自体に改変が加えられているものではない。
しかし,表示される画像は,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものとして,著作権法2条1項1号にいう著作物ということができるところ,上記のとおり,表示するに際して,HTMLプログラムやCSSプログラム等により,位置や大きさなどを指定されたために,本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像は流通目録3~5のような画像となったものと認められるから,本件リツイート者らによって改変されたもので,同一性保持権が侵害されているということができる。
この点について,被控訴人らは,仮に改変されたとしても,その改変の主体は,インターネットユーザーであると主張するが,上記のとおり,本件リツイート行為の結果として送信されたHTMLプログラムや CSSプログラム等により位置や大きさなどが指定されたために,改変されたということができるから,改変の主体は本件リツイート者らであると評価することができるのであって,インターネットユーザーを改変の主体と評価することはできない(著作権法47条の8は,電子計算機における著作物の利用に伴う複製に関する規定であって,同規定によってこの判断が左右されることはない。)。また,被控訴人らは,本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像は,流通情報2⑴の画像と同じ画像であるから,改変を行ったのは,本件アカウント2の保有者であると主張するが,本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像は,控訴人の著作物である本件写真と比較して改変されたものであって,上記のとおり本件リツイート者らによって改変されたと評価することができるから,本件リツイート者らによって同一性保持権が侵害されたということができる。さらに,被控訴人らは,著作権法20条2項4号の「やむを得ない」改変に当たると主張するが,本件リツイート行為は,本件アカウント2において控訴人に無断で本件写真の画像ファイルを含むツイートが行われたもののリツイート行為であるから,そのような行為に伴う改変が「やむを得ない」改変に当たると認めることはできない。
イ 氏名表示権(著作権法19条1項)侵害
本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像には,控訴人の氏名は表示されていない。そして,前記⑴のとおり,表示するに際してHTMLプログラムやCSSプログラム等により,位置や大きさなどが指定されたために,本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像は流通目録3~5のような画像となり,控訴人の氏名が表示されなくなったものと認められるから,控訴人は,本件リツイート者らによって,本件リツイート行為により,著作物の公衆への提供又は提示に際し,著作者名を表示する権利を侵害されたということができる。
ウ 名誉声望保持権(著作権法113条6項)侵害
本件アカウント3~5において,サンリオのキャラクターやディズニーのキャラクターとともに本件写真が表示されているからといって,そのことから直ちに,「無断利用してもかまわない価値の低い著作物」,「安っぽい著作物」であるかのような誤った印象を与えるということはできず,著作者である控訴人の名誉又は声望を害する方法で著作物を利用したということはできない。そして,他に,控訴人の名誉又は声望を害する方法で著作物を利用したものというべき事情は認められないから,本件リツイート者らは,控訴人の名誉声望保持権(著作権法113条6項)を侵害したとは認められない。
⑹ なお,控訴人は,本件アカウント2,4及び5の各保有者が自然人としては同一人物であり,又はこれらの者が共同して公衆送信権を侵害した旨主張するが,そのような事実を認めるに足りる証拠はない。
⑺ 「侵害情報の流通によって」(プロバイダ責任制限法4条1項1号)及び「発信者」(同法2条4号)について
前記⑸ア,イのとおり,本件リツイート行為は,控訴人の著作者人格権を侵害する行為であるところ,前記⑸ア,イ認定の侵害態様に照らすと,この場合には,本件写真の画像データのみならず,HTMLプログラムやCSSプログラム等のデータを含めて,プロバイダ責任制限法上の「侵害情報」ということができ,本件リツイート行為は,その侵害情報の流通によって控訴人の権利を侵害したことが明らかである。そして,この場合の「発信者」は,本件リツイート者らであるということができる。
[最高裁同旨]
(参考:原審)
2 争点(3)(本件リツイート行為による著作権等の侵害の明白性)について
争点(2)及び(3)に関する原告の主張によれば,争点(3)につき権利侵害の明白性が肯定されなければ争点(2)についても同様に解すべきものとなるので,争点(3)について判断することとする。
(1) 前記前提事実記載のとおり,本件写真の画像が本件アカウント3~5のタイムラインに表示されるのは,本件リツイート行為により同タイムラインのURLにリンク先である流通情報2(2)のURLへのインラインリンクが自動的に設定され,同URLからユーザーのパソコン等の端末に直接画像ファイルのデータが送信されるためである。すなわち,流通情報3~5の各URLに流通情報2(2)のデータは一切送信されず,同URLからユーザーの端末への同データの送信も行われないから,本件リツイート行為は,それ自体として上記データを送信し,又はこれを送信可能化するものでなく,公衆送信(著作権法2条1項7号の2,9号の4及び9号の5,23条1項)に当たることはないと解すべきである。
また,このようなリツイートの仕組み上,本件リツイート行為により本件写真の画像ファイルの複製は行われないから複製権侵害は成立せず,画像ファイルの改変も行われないから同一性保持権侵害は成立しないし,本件リツイート者らから公衆への本件写真の提供又は提示があるとはいえないから氏名表示権侵害も成立しない。さらに,流通情報2(2)のURLからユーザーの端末に送信された本件写真の画像ファイルについて,本件リツイート者らがこれを更に公に伝達したことはうかがわれないから,公衆伝達権の侵害は認められないし,その他の公衆送信に該当することをいう原告の主張も根拠を欠くというほかない。そして,以上に説示したところによれば,本件リツイート者らが本件写真の画像ファイルを著作物として利用したとは認められないから,著作権法113条6項所定のみなし侵害についても成立の前提を欠くことになる。
したがって,原告の主張する各権利ともその侵害が明らかであるということはできない。
(2) これに対し,原告は,本件リツイート行為による流通情報2(2)のURLからクライアントコンピューターへの本件写真の画像ファイルの送信が自動公衆送信に当たり,本件リツイート者らをその主体とみるべきであるから,本件リツイート行為が公衆送信権侵害となる旨主張する。
そこで判断するに,本件写真の画像ファイルをツイッターのサーバーに入力し,これを公衆送信し得る状態を作出したのは本件アカウント2の使用者であるから,上記送信の主体は同人であるとみるべきものである(最三小判平成23年1月18日判決参照)。一方,本件リツイート者らが送信主体であると解すべき根拠として原告が挙げるものについてみるに,証拠及び弁論の全趣旨によれば,ツイッターユーザーにとってリツイートは一般的な利用方法であること,本件リツイート行為により本件ツイート2は形式も内容もそのまま本件アカウント3~5の各タイムラインに表示されており,リツイートであると明示されていることが認められる。そうすると,本件リツイート行為が本件アカウント2の使用者にとって想定外の利用方法であるとは評価できないし,本件リツイート者らが本件写真を表示させることによって利益を得たとも考え難いから,これらの点から本件リツイート者らが自動公衆送信の主体であるとみることはできない。