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著作権判例セレクション
【登録制度】契約の性質(信託契約か期限付き譲渡契約か)が争点となった事例/著作権の二重譲渡と対抗要件の例
▶平成12年8月29日東京地方裁判所[平成11(ワ)3137]▶平成15年05月28日東京高等裁判所[平成12(ネ)4759]
(注) 原告は、「本件契約」によりGの作品の著作権をすべて譲り受けたと主張して、被告らに対し、著作権等に基づいて、本件書籍における本件絵画の複製、本件書籍における対象絵画の著作権表示及び本件書籍の頒布の各差止め並びに本件書籍の廃棄を求めるとともに、右の行為が著作権侵害に当たるなどとして、損害賠償及び謝罪文の交付を求めた事案である。
スペイン人の画家であるG(1989年(平成元年)1月23日死亡)は、対象絵画(本件絵画)を著作した。設立準備中であった原告の代表者Hは、1986年(昭和61年)6月13日、Gとの間で、Gの作品について契約を締結した(この契約が「本件契約」である)。本件における争点は、ます、「本件絵画の著作権者は誰か、原告は、被告らに対して、本件絵画の著作権を行使することができるか」についてである。この点、原告は、「本件契約は、譲渡契約であって、信託契約ではないから、Gの死亡によって終了することはない。」と主張した。
一 Gの著作物に関する我が国著作権法上の保護について
日本及びスペイン国は、いずれも文学的および美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約の締結国であるから、同条約三条(1)項a及び我が国の著作権法6条3号により、スペイン国民であったGの著作物である本件絵画は、我が国の著作権法による保護を受ける。
二 争点一について
(略)
2 本件契約の法的性質、本件契約の終了の有無及び原告による著作権の行使について
(略)
(5) 以上の(1)ないし(4)で述べたところを総合すると、本件契約は、信託契約ではなく、Gの作品に関する著作権を原告に対して時間的に一部譲渡する契約であると解するのが相当である。
なお、被告らは、各種法律意見書を根拠として、本件契約の性質は信託契約である旨主張するが、右各法律意見書をもっても、右認定事実を覆すに足りるものということはできない。
(三) そうすると、原告は、時間的な制限があることを除けば、他に制限のない、Gの作品に関する著作権者であるから、補助参加人及び被告らに対し、対象絵画を含むGの作品に関する著作権を行使することを妨げられることはないというべきである。また、本件契約がGの死亡により終了する理由はないから、本件契約Gの死亡により終了したということもできない。
[控訴審]
1 争点(1)(著作権者)について
(略)
ウ 本件契約の法的性質
(ア) 本件契約の準拠法は,前記のとおり,第10条(準拠法及び仲裁)第1項の合意によりスペイン法とされているので,スペイン法の下における本件契約の法的性質について判断する。
(イ) 本件契約及び追加契約においては,契約によりダリ作品に係る権利が譲渡されるとして,スペイン語で「譲渡」を意味する「cesion」(白水社発行「西和辞典」)の用語が一貫して用いられている。また,契約期間満了により権利が「復帰」すると規定されているところ,権利の「復帰」がその「譲渡」を前提とすることは当然である。そして,権利の管理,運用の目的のために,権利の期間を定めた譲渡という法形式を採用することができる。そうすると,本件契約は,単なる委任ではなく,信託的な意味合いを有する,期間を定めた譲渡という法形式が選択され合意されたものであって,本件契約の締結により,ダリ作品に係る著作権は,ダリから被控訴人に移転したというべきである。
(ウ) 他方,上記ア(本件契約の締結に至る経緯)のとおり,ダリは,従前ダリ作品に係る著作権を管理していた SPADEM との関係を終了し,その替わりに被控訴人に対し著作権を管理させる目的で本件契約を締結した事実が認められ,また,上記イ(本件契約及び追加契約の各契約書の記載)のとおり,本件契約は,被控訴人が,ダリの地位に全面的に代位し同人の名において同人を代表して活動すること,ダリ作品に係る権利が本件契約期間満了時にダリ又はその承継人に復帰すること,被控訴人が権利を行使することにより得た純利益等を全世界的なダリ作品の研究及び紹介に関連した活動の資金として使用すること,被控訴人が定期的に運営について報告し,本件契約により譲渡された権利に係る活動,契約,交渉及び事柄についての報告書を送付し,監査報告書の写しを送付する義務を負うこと,被控訴人が補助参加人等の組織と協力すること,本件契約は当事者の事前の合意がない限り譲渡不可とされるほか,その有効期間中における被控訴人の株式も譲渡不可とし被控訴人の減資等により本件契約が自動的に解除されることが合意されている。さらに,追加契約においても,権利の管理及び営業から生ずる利益のすべてがダリ又は補助参加人に帰属するという合意がされたと認められる。
(エ) ところで,スペイン法の下では,財産の管理のため,管理者との内部関係を委任としつつ,外部の第三者に対しては権利を管理者に譲渡する法形式を採用し,管理者が対外関係において権利の譲受人として行動することが許され,このような法形式が,スペイン法における「信託譲渡」であると解される。ピカニョール意見書及びパラウ意見書は,これと同旨の見解を述べており,本件契約が権利の期間を定めた譲渡であるとするバジェス鑑定書も,本件契約がスペイン法上「明確に信託的意味合いを有する」ことを認めている。
上記(ウ)のとおり,本件契約は,ダリのダリ作品に係る権利の管理,行使を目的とするものであり,また,被控訴人が報告義務を始めとする受任者としての各種義務を負い,他方,被控訴人が得た利益は受益者であるダリ及び補助参加人に帰属するから,本件契約は,スペイン法上の信託譲渡契約であって,ダリと被控訴人間の内部関係がスペイン法における委任により規律されると解される。他方,被控訴人は,ダリから委任を受けたダリ作品に係る権利の管理を行うための手段として,ダリ作品に係る権利を譲り受けているから,第三者に対しては,権利者として自己の名義で権利を行使することができるが,その場合でも,権利の行使は,常に委任者であるダリのためにされなければならない。
(略)
2 争点(2)(著作権譲渡の対抗要件)について**
**[注] 本件における「本件著作権」の「譲渡」(二重譲渡)の流れ(ルート)は、概ね次のとおり:
第1のルート:[ダリ]⇒[被控訴人]
第2のルート:[ダリ]⇒[スペイン国・文化省]⇒[補助参加人(ガラ-サルバドール・ダリ財団)]
※「控訴人」は、上記[補助参加人]から本件著作権の利用許諾を受けた者である。
以上のとおり,本件契約は,スペイン法上の信託譲渡契約であって,ダリ作品に係る被控訴人の権利は,1989年(平成元年)1月23日のダリの死亡により,又は遅くとも1994年(平成6年)9月13日付け書面による文化省の通知をもって,確定的に失われたものというべきであるが,被控訴人の主張にかんがみ,念のため,本件契約の法的性質をその主張のとおりの趣旨に解した場合の,本件著作権の帰すうについて判断する。
(1) 準拠法
ア 著作権の譲渡について適用されるべき準拠法を決定するに当たっては,譲渡の原因関係である契約等の債権行為と,目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別し,それぞれの法律関係について別個に準拠法を決定すべきである。著作権の譲渡の原因である債権行為に適用されるべき準拠法については,法例7条1項により,当事者の意思に従って定められるべきものであり,本件契約は,準拠法をスペイン法とする合意がされたから(本件契約第10条第1項),これに従うべきことは当然である。また,ダリの死亡による財産の相続は,法例26条により,被相続人の本国法であるスペイン法による。
イ これに対し,本件著作権の物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法は,スペイン法ではなく,我が国の法令であると解される。すなわち,一般に,物権の内容,効力,得喪の要件等は,目的物の所在地の法令を準拠法とすべきものとされ,法例10条は,その趣旨に基づくものであるが,その理由は,物権が物の直接的利用に関する権利であり,第三者に対する排他的効力を有することから,そのような権利関係については,目的物の所在地の法令を適用することが最も自然であり,権利の目的の達成及び第三者の利益保護という要請に最も適合することにあると解される。著作権は,その権利の内容及び効力がこれを保護する国(以下「保護国」という。)の法令によって定められ,また,著作物の利用について第三者に対する排他的効力を有するから,物権の得喪について所在地法が適用されるのと同様の理由により,著作権という物権類似の支配関係の変動については,保護国の法令が準拠法となるものと解するのが相当である(東京高裁平成13年5月30日判決参照)。
ウ スペイン国及び我が国は,いずれも文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約の同盟国であるから,同条約3条(1)(a)及び我が国著作権法6条3号により,スペイン国民であったダリの本件著作物に係る本件著作権は,我が国においても保護される。我が国において保護される本件著作権の物権類似の支配関係の変動については,保護国である我が国の法令が準拠法となることは上記のとおりであるところ,我が国の法令は,著作権の移転の効力が原因となる譲渡契約の締結により直ちに生ずるとしているから,ダリと被控訴人が本件契約を締結したことにより,第三者に対する対外的関係において,ダリ作品に係る本件著作権は,ダリから被控訴人に移転したものというべきである。
(2) 法律上の利益
ダリは,1982年(昭和57年)9月20日付けの本件遺言により,全財産の包括承継人をスペイン国と指定したから,1989年(平成元年)1月23日のダリの死亡及び89年勅令による上記包括承継の承認により,スペイン国はダリの全財産を包括承継した。そして,上記のとおり,スペイン国は,95年勅令により,文化省に対し,全世界のダリ作品に係る著作権について管理権及び利用権を付与し,文化省は,1995年(平成7年)7月25日付け文化省令により,ダリ作品に係る権利の管理権及び利用権を補助参加人に譲渡することとし,同年8月4日,文化省令を実施するために締結された補助参加人との間の契約により,全世界のダリ作品に係る著作権の管理権及び利用権を補助参加人に譲渡した。
ところで,スペイン知的所有権法17条は,「著作者は,自己の著作物を利用する権利を排他的に行使することができ(その方法のいかんを問わない),特に複製権,頒布権,公の伝達権及び変形権を排他的に行使することができる。これらの利用は,この法律に定める場合を除き,著作者の許諾を取得することなく行うことができない。」と規定し,利用権(derecho de explotacin)を排他的な権利として定めており,我が国著作権法上これに相当する権利は著作権であるから,文化省が上記譲渡契約を締結して補助参加人に対し全世界の上記利用権を譲渡したことにより,我が国におけるダリ作品に係る著作権は,スペイン国ないし文化省から補助参加人に移転したというべきである。補助参加人が,本件巨匠展に先立って,控訴人に対し本件著作権の利用を許諾した事実は,被控訴人において明らかに争わないから,これを自白したものとみなす。そうすると,控訴人は,ダリから被控訴人に対する本件著作権の移転について法律上の利害関係を有する第三者である。
(3) 対抗要件の欠如
本件著作権の移転の対抗要件についても,保護国である我が国の法令が準拠法となるから,著作権法77条1号,78条1項により,被控訴人は,本件著作権の取得について対抗要件である著作権の移転登録を了しない限り,控訴人に対し,本件著作権に基づく請求をすることはできないところ,被控訴人は,この登録を了していないので,控訴人に対し,本件著作権を対抗し,これに基づく請求をすることができない。
(4) 被控訴人は,ダリが被控訴人に対し,本件契約によりダリ作品に係る著作権を2004年(平成16年)5月11日まで譲渡したことから,文化省がダリ作品に係る著作権の利用権を補助参加人に譲渡した当時,スペイン国は無権利者であったと主張する。しかしながら,スペイン国は,本件遺言によりその法律上の地位を包括承継し,文化省が勅令によりその利用権を付与されたのであるから,ダリが本件契約により被控訴人に対してした本件著作権の譲渡と,ダリの包括承継人であるスペイン国から補助参加人への本件著作権の譲渡とは,対抗関係に立つのであって,いずれかの譲渡について登録がされるなど,一方が確定的に有効となるまでの間は,いずれの譲渡も権利者による譲渡というべきであるから,スペイン国からの譲渡を無権利者によるものということはできない。
(5) 被控訴人は,補助参加人について,本件契約が著作権の有効な譲渡契約であり被控訴人がその著作権者であることを知っており,スペイン国と結託して上記契約を締結したと主張する。しかしながら,スペイン国から補助参加人に本件著作権が譲渡された1995年(平成7年)当時,スペイン法人であり全世界のダリ作品に係る権利を扱うことが予定されていた補助参加人が,我が国において本件契約に係る著作権の譲渡が登録されていないことを知っていたなどということは,およそ考えられず,他に,補助参加人が本件著作権の移転登録が未了であることを奇貨として,あえて上記契約を締結したなど,対抗要件の欠如を主張し得ない第三者に当たることをうかがわせる証拠はない。
また,被控訴人は,補助参加人に対し警告したと主張するところ,我が国の法令の下で,第三者が上記背信的悪意者に該当するかどうかは,当該第三者が法律上の利害関係を有するに至った時点における認識を問題とするから,この点においても,被控訴人の主張は採用することができない。
さらに,被控訴人は,控訴人について,被控訴人の警告を無視して本件著作物の無断複製頒布に及んだと主張するが,補助参加人が背信的悪意者でない以上,補助参加人から本件著作権の利用許諾を受けた控訴人も,また,背信的悪意者であるとは認め難く,他に,控訴人が背信的悪意者に当たると認めるに足りる証拠はない。
3 以上のとおり,被控訴人の控訴人に対する請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから,原判決中,これと異なる控訴人敗訴の部分を取り消し,被控訴人の控訴人に対する請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
※参照(同種事件)▶平成12年8月29日東京地方裁判所[平成11(ワ)14658]▶平成15年5月28日東京高等裁判所[平成12(ネ)4720]
[控訴審]
2 争点(2)(著作権譲渡の対抗要件)について
以上のとおり,本件契約は,スペイン法上の信託譲渡契約であって,ダリ作品に係る被控訴人の権利は,1989年(平成元年)1月23日のダリの死亡により,又は遅くとも1994年(平成6年)9月13日付け書面による文化省の通知をもって,確定的に失われたものというべきであるが,被控訴人の主張にかんがみ,念のため,本件契約の法的性質をその主張のとおりの趣旨に解した場合の,本件著作権の帰すうについて判断する。
(1) 準拠法
ア 著作権の譲渡について適用されるべき準拠法を決定するに当たっては,譲渡の原因関係である契約等の債権行為と,目的である著作権の物権類似の支配関係の変動とを区別し,それぞれの法律関係について別個に準拠法を決定すべきである。著作権の譲渡の原因である債権行為に適用されるべき準拠法については,法例7条1項により,当事者の意思に従って定められるべきものであり,本件契約は,準拠法をスペイン法とする合意がされたから(本件契約第10条第1項),これに従うべきことは当然である。また,ダリの死亡による財産の相続は,法例26条により,被相続人の本国法であるスペイン法による。
イ これに対し,本件著作権の物権類似の支配関係の変動について適用されるべき準拠法は,スペイン法ではなく,我が国の法令であると解される。すなわち,一般に,物権の内容,効力,得喪の要件等は,目的物の所在地の法令を準拠法とすべきであること,法例10条は,その趣旨に基づくものであるが,その理由は,物権が物の直接的利用に関する権利であり,第三者に対する排他的効力を有することから,そのような権利関係については,目的物の所在地の法令を適用することが最も自然であり,権利の目的の達成及び第三者の利益保護という要請に最も適合することにあると解される。著作権は,その権利の内容及び効力がこれを保護する国(以下「保護国」という。)の法令によって定められ,また,著作物の利用について第三者に対する排他的効力を有するから,物権の得喪について所在地法が適用されるのと同様の理由により,著作権という物権類似の支配関係の変動については,保護国の法令が準拠法となるものと解するのが相当である(東京高裁平成13年5月30日判決参照)。
ウ スペイン国及び我が国は,いずれも文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約の同盟国であるから,同条約3条(1)(a)及び我が国著作権法6条3号により,スペイン国民であったダリの本件著作物に係る本件著作権は,我が国においても保護される。我が国において保護される本件著作権の物権類似の支配関係の変動については,保護国である我が国の法令が準拠法となることは上記のとおりであるところ,我が国の法令は,著作権の移転の効力が原因となる譲渡契約の締結により直ちに生ずるとしているから,ダリと被控訴人が本件契約を締結したことにより,第三者に対する対外的関係において,ダリ作品に係る本件著作権は,ダリから被控訴人に移転したものというべきである。
(2) 法律上の利益
ダリは,1982年(昭和57年)9月20日付けの本件遺言により,全財産の包括承継人をスペイン国と指定したから,1989年(平成元年)1月23日のダリの死亡及び89年勅令による上記包括承継の承認により,スペイン国はダリの全財産を包括承継した。そして,上記のとおり,スペイン国は,95年勅令により,文化省に対し,全世界のダリ作品に係る著作権について管理権及び利用権を付与し,文化省は,1995年(平成7年)7月25日付け文化省令により,ダリ作品に係る権利の管理権及び利用権を控訴人ダリ財団に譲渡することとし,同年8月4日,文化省令を実施するために締結された控訴人ダリ財団との間の契約により,全世界のダリ作品に係る著作権の管理権及び利用権を控訴人ダリ財団に譲渡した。
ところで,スペイン知的所有権法17条は,「著作者は,自己の著作物を利用する権利を排他的に行使することができ(その方法のいかんを問わない),特に複製権,頒布権,公の伝達権及び変形権を排他的に行使することができる。これらの利用は,この法律に定める場合を除き,著作者の許諾を取得することなく行うことができない。」と規定し,利用権(derecho de explotacin)を排他的な権利として定めており,我が国著作権法上これに相当する権利は著作権であるから,文化省が上記譲渡契約を締結して控訴人ダリ財団に対し全世界の上記利用権を譲渡したことにより,我が国におけるダリ作品に係る著作権は,スペイン国ないし文化省から控訴人ダリ財団に移転したというべきである。控訴人ダリ財団が,本件ダリ展に先立って,その余の控訴人らに対し本件著作権の利用を許諾した事実は,被控訴人において明らかに争わないから,これを自白したものとみなす。そうすると,控訴人らは,いずれも,ダリから被控訴人に対する本件著作権の移転について法律上の利害関係を有する第三者である。
(3) 対抗要件の欠如
本件著作権の移転の対抗要件についても,保護国である我が国の法令が準拠法となるから,著作権法77条1号,78条1項により,被控訴人は,本件著作権の取得について対抗要件である著作権の移転登録を了しない限り,控訴人らに対し,本件著作権に基づく請求をすることはできないところ,被控訴人は,この登録を了していないので,控訴人らに対し,本件著作権を対抗し,これに基づく請求をすることができない。
(4) 被控訴人は,ダリが被控訴人に対し,本件契約によりダリ作品に係る著作権を2004年(平成16年)5月11日まで譲渡したことから,文化省がダリ作品に係る著作権の利用権を控訴人ダリ財団に譲渡した当時,スペイン国は無権利者であったと主張する。しかしながら,スペイン国は,本件遺言によりその法律上の地位を包括承継し,文化省が勅令によりその利用権を付与されたのであるから,ダリが本件契約により被控訴人に対してした本件著作権の譲渡と,ダリの包括承継人であるスペイン国から控訴人ダリ財団への本件著作権の譲渡とは,対抗関係に立つのであって,いずれかの譲渡について登録がされるなど,一方が確定的に有効となるまでの間は,いずれの譲渡も権利者による譲渡というべきであるから,スペイン国からの譲渡を無権利者によるものということはできない。
(5) 被控訴人は,控訴人ダリ財団について,本件契約が著作権の有効な譲渡契約であり被控訴人がその著作権者であることを知っており,スペイン国と結託して上記契約を締結したと主張する。しかしながら,スペイン国から控訴人ダリ財団に本件著作権が譲渡された1995年(平成7年)当時,スペイン法人であり全世界のダリ作品に係る権利を扱うことが予定されていた控訴人ダリ財団が,我が国において本件契約に係る著作権の譲渡が登録されていないことを知っていたなどということは,およそ考えられず,他に,控訴人ダリ財団が本件著作権の移転登録が未了であることを奇貨として,あえて上記契約を締結したなど,対抗要件の欠如を主張し得ない第三者に当たることをうかがわせる証拠はない。
また,被控訴人は,控訴人ダリ財団に対し警告したと主張するところ,我が国の法令の下で,第三者が上記背信的悪意者に該当するかどうかは,当該第三者が法律上の利害関係を有するに至った時点における認識を問題とするから,この点においても,被控訴人の主張は採用することができない。
さらに,被控訴人は,控訴人ダリ財団を除くその余の控訴人らについて,被控訴人の警告を無視して本件著作物の無断複製頒布に及んだと主張するが,控訴人ダリ財団が背信的悪意者でない以上,同控訴人から本件著作権の利用許諾を受けたその余の控訴人らも,また,背信的悪意者であるとは認め難く,他に,その余の控訴人らが背信的悪意者に当たると認めるに足りる証拠はない。
3 以上のとおり,被控訴人の控訴人らに対する請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから,原判決中,これと異なる控訴人ら敗訴の部分を取り消し,被控訴人の控訴人らに対する請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。