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著作権判例セレクション

【登録制度】 譲渡担保契約による著作権の移転と破産管財人への対抗要件

▶平成150317日東京地方裁判所[平成14()21540]
第2 当事者の主張
1 請求原因
(1) 別紙物件目録記載のプログラム(「本件プログラム」)は,同目録添付の機能一覧記載の機能を有し,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」であり,思想又は感情を創作的に表現したプログラムの著作物(著作権法10条1項9号)に該当する。
(2) 株式会社会計情報アカデミー(「情報アカデミー」)は,本件プログラムを開発し,同プログラムに関する著作権を取得した。
(3) 破産者株式会社アカウント(「アカウント」)は,平成12年7月28日,情報アカデミーから,日本システム・ポイント株式会社の会計システムの導入コンサルティング業務等に関する事業を除くすべての営業及びこれに関する一切の財産(本件プログラムに関する一切の権利を含む。)を譲り受けた。
(4) アカウントは,平成14年6月26日,東京地方裁判所により破産宣告を受け,同日,原告が破産管財人に選任された。
(5) 被告は,アカウントから,本件プログラムに関するすべての権利を譲り受けたと主張して,著作権の帰属を争っている。
(6) 被告は,上記(5)の譲受けの際,アカウントから,本件プログラムを格納したCD-ROMの引渡しを受け,現在同CD-ROMを所持している。
よって,原告は,本件プログラムについての著作権がアカウントの破産財団に帰属することの確認,著作権に基づく本件プログラムの製造,頒布,複製及び翻案の差止並びに本件プログラムを格納したフロッピーディスク,CD-ROM,ハード・ディスク等の記憶媒体の廃棄を求める。
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1 請求原因について
(1) 本件プログラムの著作物性について
証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件プログラムは,その制作者が,その専門的知識と技術を用いて,別紙物件目録添付の機能一覧記載の機能を発揮する内容のプログラムを,特定のプログラム言語(Visual Basic)で記述したものであり,その記述には制作者の個性が表れているものと認めることができるから,本件プログラムは「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現した」プログラムの著作物(著作権法10条1項9号)に当たるといえる。
したがって,請求原因(1)の事実(本件プログラムの著作物性)は認められる。
(2) アカウントの著作権の取得について
情報アカデミーが本件プログラムを開発し,その著作権を取得したこと(前記(1)のとおり,本件プログラムは著作物と認められる。),アカウントが情報アカデミーから,本件プログラムに関する一切の権利を譲り受けたこと,アカウントがその後破産宣告を受けたこと,原告が同破産財団の破産管財人に選任されたことは,当事者間に争いがない。したがって,アカウントは,本件プログラムに関する著作権を取得した。
2 抗弁について
被告は,アカウントとの間で,データを化体した,有体動産であるCD-ROMについて,担保権の設定を受ける旨の本件譲渡担保契約を締結し,その後,本件担保権の実行により,上記CD-ROMに関する一切の権利を譲り受けたと主張する。
被告の主張の趣旨は,裁判所の釈明によっても,被告がアカウントから譲り受けた目的物が「有体物としてのCD-ROM」であるということを前提とするものか,又は「本件プログラムの著作権」であるということを前提とするものか,必ずしも明確でない。
この点につき,弁論の全趣旨によれば,被告は一貫して,本件プログラムが著作物であることについて争っていること,被告が譲り受けたのは,有体動産であるCD-ROMであると主張していること,被告は,被告がアカウントから譲り受けたCD-ROMを,既に海外のソフト会社に転売したのであるから,著作権確認を求める訴えは,確認の利益がないと主張していること等の経緯が認められ,上記の経緯に照らすならば,被告の主張の趣旨は,被告が譲り受けた目的物は,「有体動産としてのCD-ROM」であるということを前提とするものと理解するのが相当である。
そこで,被告の主張の趣旨を上記のように理解した上で判断する。そうすると,原告の本件各請求は,いずれも,本件プログラムについての著作権に基づく請求であるから,被告の主張は,そもそも,原告の請求に対する正当な抗弁とはなり得ない。被告の主張は,それ自体失当である。
次に,念のため,被告の主張の趣旨を「被告が譲り受けたとする目的物が,本件プログラムの著作権」であるということを前提とするものと理解した上で,被告の主張の当否を判断する。
ところで,破産管財人は,破産者の一般承継人ではなく,破産債権者のために独立の地位を与えられた破産財団の管理機関として,民法第177条にいわゆる第三者に当たるものと解すべきである(昭和38年7月30日最高裁第3小法廷判決参照)。したがって,仮に,本件譲渡担保契約に基づいてアカウントから被告へ著作権が譲渡されたとしても,被告は,アカウントが破産宣告を受ける前に,著作権譲渡についての対抗要件たるプログラム登録原簿への移転登録手続を経由していなければ,原告に対してその譲受けを対抗することはできない。一方,本件において,被告が本件プログラムの譲受けについてかかる登録手続を経由していないことは,弁論の全趣旨により明らかである。したがって,本件譲渡担保契約に基づいて本件プログラムについての著作権を取得した旨の被告の主張は,主張自体失当である。
なお,被告は,本件プログラムが格納されたCD-ROMの引渡しを受けたことによって,対抗要件を備えたものとも主張する。しかし,プログラムの著作物に係る著作権の移転は,プログラムについての著作権登録原簿へ登録しなければ,第三者に対抗することはできないものであるから(著作権法77条1号,78条1項),この点における被告の主張も理由がない。
3 被告の本案前の抗弁について
被告は,本件訴えのうち,著作権確認を求める部分は,確認の利益が存在しないと主張し,その理由として,被告は,CD-ROMを,既に海外のソフト会社に転売したのであるから,本件プログラムの著作権についての原告の法的地位に対する危険は解消したことを指摘する。
しかし,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件における被告の主張の経緯はさておいて,本件プログラムの著作権の帰属に関しては,原告と被告との間で実質的な争いがあり,本件プログラムの著作権がアカウントの破産財団に属するかが不確定な状態にあることが認められるから,本件訴えのうち,著作権確認の訴え部分に確認の利益が存在すると解すべきである。したがって,著作権確認の訴えに関する被告の本案前の抗弁は理由がない。
4 結語
(1) 原告の請求のうち,本件プログラムの著作権がアカウントの破産財団に属することの確認及び本件プログラムの製造,頒布,複製及び翻案を求める請求は,理由がある。
(2) 原告の請求のうち,フロッピーディスク,CD-ROM,ハード・ディスク等の記憶媒体の廃棄を求める請求については,弁論の全趣旨によれば,被告は,アカウントから引渡しを受けた本件プログラムの複製されたCD-ROMを第三者に売却し,現在被告は所持していないものと認められ,その他被告が本件プログラムを格納した記憶媒体を所持していないものと推認されるから,原告の同請求は理由がない。
(3) 以上のとおりであり,主文のとおり判決する。