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著作権判例セレクション

【二次的著作物】「キューピー」(イラストと人形)の創作性

▶平成111117日東京地方裁判所[平成10()13236]▶平成130530日東京高等裁判所[平成11()6345]
[控訴審]
3 本件著作物の創作性について
(1) キューピーイラスト(本件イラスト著作物中のキューピーのイラスト)の形態は、①裸で立っている、②全身が三頭身である、③掌を広げている、④頭は丸い、⑤髪の毛は中央部が突出して額にまで細く流れている、⑥耳のそばにカールした髪がある、⑦顔は頬がふっくらと丸い、⑧目は丸くパッチリしている、⑨眉毛は小さく目との間隔が広い、⑩鼻は小さく丸い、⑪口はほほ笑んでいる、⑫背中に小さな双翼がある、⑬腹が膨れている、⑭性別は判別できない、⑮陽気に笑っているか茶目っ気のある表情をしている、という特徴を有するものと認められ、その他の特徴を含め総合的に考察すると、キューピーイラストは、従来のキューピッドのイラストと異なり、新たな空想上の存在を感得させる独創的なものであって、従来、子供、天使、キューピッド等の題材を扱った作品におけるこれらの表現として不可避又は一般的なものにとどまらない創作性を有するものと認められる。
また、本件著作物の複製物である本件人形を撮影した(証拠)によれば、本件人形の形態は、キューピーイラストの有する上記表現上の特徴をすべて具備していることに加え、これを変形して立体的に表現したという点において新たな創作性が付与されたものと認められる。したがって、本件著作物は、ローズ・オニールがその制作に先立って創作したキューピーイラストの二次的著作物として創作性を有するというべきである。なお、1910年作品中のキューピーのイラストは、キューピーイラスト(本件イラスト著作物中のキューピーのイラスト)の複製物であって、その創作により新たな著作権が生ずるものではないから、本件著作物の原著作物であるということはできない。
(2) 被控訴人は、本件人形の表現上の特徴について、いずれも「かわいらしい幼児の天使の立像」の一般的特徴であり、他の著作物にも多く認められるものであると主張する。しかしながら、「かわいらしい幼児の天使の立像」自体、その表現が多種多様であり得るのであって、そのような立像に新たな創作性が付与されたものであれば、旧著作権法及び現行著作権法上の著作物というべきである。上記のとおり、キューピーイラストが従来の作品における子供、天使、キューピッド等の表現として不可避又は一般的な表現にとどまらず、むしろ、新たな空想上の存在を感得させる表現上の創作性を有する以上、これを立体的に表現した本件著作物もまた、その創作性を認めることができる。
(3) また、被控訴人は、ローズ・オニールの先行著作物が本件人形の特徴である、①先のとがった頭髪、②背に付された小さな双翼、③ふっくらした幼児の体型等すべての特徴を備えており、本件人形がこれら作品の複製物にすぎないと主張するので、検討する。
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(4) 本件著作物は、これら先行著作物と異なり、キューピーイラストの表現上の特徴をすべて備えており、これを立体的に表現したという点においてのみ創作性を有すると認められることは上記のとおりであるから、本件著作物は、キューピーイラストを原著作物とし、これを立体的に表現したという点においてのみ創作性を有する二次的著作物であるというべきであって、被控訴人主張の先行著作物の二次的著作物ということはできない。
4 美術の著作物の該当性について
(1) 本件著作権は、日米著作権条約及び旧著作権法により我が国国内において生ずる著作権であるから、権利発生の実体的要件については、我が国の旧著作権法が適用されるべきである。上記のとおり、本件著作物は、キューピーイラストを原著作物とし、これを立体的に表現した二次的著作物であるところ、キューピーイラストは、美術の著作物に属するイラストとして著作物性を有し、本件著作物は、これを立体的に表現したという点において更に創作性が付加されているから、旧著作権法1条に規定する「美術ノ範囲ニ属スル著作物」として旧著作権法により保護されるということができる。なお、1903年アメリカ合衆国著作権法が保護の対象としていなかったものについては、日米著作権条約に規定する内国民待遇の射程が問題となる余地がないわけではないが、美術の著作物である本件著作物については、1903年アメリカ合衆国著作権法によっても保護されることは明らかであり、現に上記のとおり同国において著作権登録もされているから、この点でも、本件著作物が旧著作権法により保護を受けることに問題はない。
(2) 被控訴人は、本件人形が金型を用いて大量生産され、いわゆる応用美術に当たるから、原図又は原型を離れて独立した著作物として旧著作権法及び現行著作権法による保護を受けることはできないと主張する。しかしながら、上記認定のとおり、本件人形は、ローズ・オニール自身が戯れに彫ったキューピーの小さな彫像を複製して制作されたものであるところ、控訴人の主張する本件著作権は、玩具工場等において大量に複製されたキューピー人形そのものではなく、ローズ・オニール自身が彫った上記キューピーの小さな彫像(本件著作物)に係る著作権をいうものと解すべきであるから、甲第2号証に撮影された人形自体が金型を用いて大量生産されたものであるとしても、そのことは、本件著作物が美術の著作物であることを否定する理由とはならない。
(3) また、被控訴人は、本件人形が制作された1913年当時、意匠に係るものが意匠法で保護されるのは別として、工業上の利用を目的とする美術品及び工芸品に旧著作権法の適用はなかったと主張するが、上記認定のとおり、ローズ・オニール自身が戯れに彫った上記キューピーの小さな彫像(本件著作物)は、複数の玩具工場がキューピー人形の工業的大量生産を申し出た以前に、キューピーイラストを立体的に表現した美術の著作物として制作されたものということができる。なお、本件人形が、その後、玩具工場からの申出により大量に複製頒布されたとしても、このことによって本件著作物の著作物性が喪失すると解すべき理由はない。
(4) なお、万国条約特例法11条が本件人形に適用される余地はないとする被控訴人の主張は、本件著作物が美術の著作物に当たらないことを前提とするものであり、また、本件人形が大量生産品であり美の表現を追求して制作されたものとはいえないとする被控訴人の主張は、本件著作物の制作経緯に係る上記認定事実と異なる事実を前提とするものであり、いずれもその前提を欠き採用することができない。