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著作権判例セレクション
【著作権法の適用範囲】著作権保護における内国民待遇とは
▶平成11年11月17日東京地方裁判所[平成10(ワ)13236]▶平成13年05月30日東京高等裁判所[平成11(ネ)6345]
[控訴審]
5 著作権表示の要否について
(1) 本件著作物が発行された1913年当時、日米両国は、日米著作権条約により相互に内国民待遇を与えていたところ、アメリカ合衆国国民が同国内において創作、発行した著作物が日米著作権条約及び我が国著作権法により我が国において保護を受けるためには、我が国国民の著作物及び我が国において発行された著作物と同様、何らの方式を要せず、単に著作物を創作するだけで足り、発行に際して著作権表示を付すことを要しないと解するのが相当である。なぜならば、著作権保護における内国民待遇とは、締約国の国民の著作物又は締約国で第一発行された著作物が、他の締約国において当該国の著作物と同様の保護を受けることを意味するところ(万国条約3条1、ベルヌ条約5条(1)参照)、当該国の著作物と同様の保護とは、著作権保護に一定の方式を要する当該国においては、その方式を具備することを要し、上記方式を要しない当該国においては、その方式を要しないと解するのが「同様の保護」という内国民待遇の内容に沿うからである。また、このように解さなければ、無方式主義を採る国において発行された著作物と方式主義を採る国において発行された著作物との間において、合理性を欠く保護の不均衡を生ずるといわなければならない。
そして、方式主義国と無方式主義国との調整を図る万国条約が、方式主義国における著作権保護のために当該方式国外において発行された著作物について著作権表示を要件とし(3条1)、無方式国における保護についてこれに対応する規定を設けていないのは、上記の趣旨に基づくものと解することができる。
そうすると、日米両国が相互に内国民待遇を許与していた日米著作権条約の下において、アメリカ合衆国国民の創作した著作物が無方式主義を採る我が国旧著作権法の下において保護を受けるために、著作権表示を付することは不要であったというべきであるから、本件著作物がアメリカ合衆国において著作権表示を付さずに発行されたとしても、このことにより、我が国において旧著作権法による保護を受けることができなくなるものではない。
(2) 被控訴人は、ローズ・オニールが本件人形と同一形態の意匠について意匠特許登録をし、同意匠に係るアメリカ合衆国意匠特許公報が著作権表示を付さずに公刊されたことを主張するが、上記のとおり、アメリカ合衆国国民の創作した著作物が無方式主義を採る我が国において保護を受けるためには、著作権表示を付することは不要であったというべきであるから、上記意匠特許公報が公刊されたからといって、本件著作物が我が国において保護を受けることができなくなるものではない。
6 意匠特許の取得について
(1) 内国民待遇とは上記のような意味を有し、したがって、日米著作権条約による内国民待遇とは、アメリカ合衆国国内において同国国民の発行した著作物に対し、旧著作権法の下において我が国の著作物が受けるのと同様の保護を与えることを意味する。我が国旧著作権法の下において、著作者が当該著作物と同一の形態の意匠について意匠権を取得しても、当該著作物について旧著作権法上の保護を受けることができなくなると解すべき根拠はないから、ローズ・オニールが本件人形と同一形態の意匠について意匠権を取得したことは、我が国における本件著作権の消滅事由とはならない。
(2) 被控訴人は、1913年当時のアメリカ合衆国法の下においては、著作者がある作品について意匠特許を申請し登録を得た場合には、著作権法上の保護を受けることはできないとされていた旨主張する。
しかしながら、仮に、1913年当時のアメリカ合衆国が意匠特許の取得により同一形態の著作物の著作権が消滅するという法制度を採用していたとしても、日米著作権条約による内国民待遇が我が国において我が国旧著作権法による保護を意味する以上、上記のとおり、本件著作権が我が国において消滅したと解することはできない。また、ローズ・オニールがアメリカ合衆国において意匠特許を取得したとしても、当該意匠特許の効力は、同国国内に限られ、我が国には及ばないから、我が国において著作権と意匠権による二重の保護という事態は生じない。したがって、この点においても、本件著作権が我が国において保護を受けることができなくなるということはできず、被控訴人の主張は採用の限りではない。