Kaneda Legal Service {top}
著作権判例セレクション
【登録制度】著作権侵害に係る虚偽事実の告知流布行為の有無が争点となった事例/著作権譲渡を二重譲受人に対抗できないとした事例
▶平成16年01月28日東京地方裁判所[平成14(ワ)18628]▶平成16年8月31日東京高等裁判所[平成16(ネ)836]
(注) 本件は、原告が,被告に対して,被告の各行為(「原告商品1を販売する原告の行為は、被告の有する商標権を侵害する旨を原告の取引先に告知流布した被告の行為」又は「原告商品2を販売する原告の行為は,被告の有する著作権を侵害する旨を原告の取引先に告知流布した被告の行為」)は,不正競争防止法所定の不正競争行為(2条1項21号参照),又は不法行為に該当するとして,各根拠を選択的に主張して,損害賠償金の支払を求めた事案である。
(2) 判断
ア 虚偽事実の告知の有無(著作権侵害の有無)について
(ア) プログラムの著作権侵害の有無
a 前記認定の事実によれば,被告は本件開発委託契約の17条合意により,AMI社が開発した携快電話6のプログラム及びデータファイルの著作権を同社から承継取得したことが認められるが,その後,本件合意書3項により「ソースコード」についてはAMI社が固有の権利を有し,AMI社は「ソースコード」を「自由に付加開発し,他に開示することができる」旨合意している。そして,「ソースコード」の一般的な意味及び本件合意書3項の文言からすれば,本件合意書3項にいう「ソースコード」とは,携快電話6のプログラムのソースコードを意味するものと解するのが相当である。
これに対して,被告は,上記「ソースコード」はAMI社がもともと開発していたドライバ等を意味する旨主張するが,本件証拠上,そのように解すべき事情は窺われないから,被告の主張は採用できない。
したがって,携快電話6のソースコードの著作権はAMI社に帰属する。被告は,携快電話6について,AMI社と共同著作権を有しているとも主張するが,採用の限りでない。
b 前記認定のとおり,原告商品2のプログラムは,AMI社が携快電話6のプログラムのソースコードに改良を加えて製作したものであるが,本件合意書3項によれば,携快電話6のソースコードの著作権はAMI社に帰属し,AMI社は,携快電話6のソースコードを「自由に付加開発し,他に開示することができる」のであるから,被告が携快電話6のプログラム(オブジェクトコード)の著作権を有するとしても,原告商品2のプログラムが被告の著作権を侵害して製作されたものということはできない。
そして,原告はAMI社の使用許諾を得て原告商品2を販売しているのであるから,原告の販売行為は,携快電話6の著作権を侵害しない。
(イ) 画像ファイルの著作権侵害の有無
前記認定のとおり,原告商品2の画像ファイルには携快電話6の画像ファイルと同一のものが存在する。
ところで,証拠及び弁論の全趣旨によれば,携快電話6の画像ファイルはリナコ社が製作したものであることが認められるから,仮に画像に著作物性が肯定されるものが含まれていたとしても,当該画像ファイルの著作権はリナコ社に帰属しているものと解される。本件において,被告が当該著作権を承継取得したとの主張,立証もない。したがって,被告は携快電話6の画像ファイルの著作権を有しないから,原告商品2の画像ファイルが被告の著作権を侵害することはない。
また,被告は,携快電話6の画像ファイルの画像がデータベースの著作物に当たるので,原告商品2の画像ファイルはデータベースの著作権を侵害する旨主張する。しかし,当該画像ファイルは,似顔絵を作るために顔を目,鼻,口,眉,頭髪等の各部分に分け,それらの部分ごとに複数の画像を作成し,データファイルのフォルダに保存しただけのものであって,「情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの」とはいえないから,著作権法2条1項10号の3所定の「データベース」には当たらない。したがって,この点の被告の主張は採用できない。
(ウ) その他のデータファイルの著作権侵害の有無
前記認定のとおり,原告商品2のその他のデータファイル(携帯電話機情報ファイル,音源ファイル)には携快電話6のデータファイルと同一のものが存在する。
ところで,前記のとおり,携快電話6のその他のデータファイルはAMI社が製作し,被告はAMI社からその著作権等を承継取得した。一方で,原告商品2のその他のデータファイルは,原告がAMI社から使用許諾を得て原告商品2の一部として販売している。そうすると,原告商品2のその他のデータファイルのうち,携快電話6のファイルと同一のものについては,被告と原告とはAMI社を起点として,いわゆる二重譲渡と同様の関係にあるということができるから,被告が原告に対し,AMI社からその他のデータファイルの著作権又は著作隣接権を承継取得したことを対抗するためには,著作権法77条1号所定の権利の移転登録を要するというべきである。しかし,被告は移転登録を得ていないのであるから,仮にその他のデータファイルについて著作権又は著作隣接権が成立するものが含まれていたとしても,原告が原告商品2を販売する行為は,当該著作権又は著作隣接権の侵害とはならない。
この点について,被告は,原告がいわゆる背信的悪意者に当たるから,被告は権利の移転登録なくしてその他のデータファイルの著作権等の取得を原告に対抗することができると主張する。しかし,本件全証拠によっても原告が背信的悪意者に当たるとすべき事情は認められない。
(3) 小括
以上のとおり,原告が原告商品2を販売する行為は,被告が携快電話6について有する著作権の侵害とはならない。そして,原告と被告とはともにパソコン用ソフトウエアを販売する競業者であるから,被告が,原告の取引先であるヨドバシカメラ及び別紙「ソースネクスト社妨害行為履歴」記載№2ないし№21の小売店に対し,原告商品2は被告の携快電話6についての著作権を侵害している旨告知したことは,その内容,態様等を総合考慮すると,不正競争防止法2条1項14号[注:現21号]所定の不正競争行為に当たると解すべきである。
(以下略)
[控訴審同旨]
2 著作権侵害に関する一審被告の告知行為について
当裁判所も,原告商品2の販売が一審被告の著作権を侵害する旨告知した一審被告の告知行為は,不正競争行為に当たるものと判断する。その理由は,以下のとおり付加するほか,原判決の「2 著作権侵害に係る虚偽事実の告知流布行為の有無」における説示と同一であるから,これを引用する。
(1) 当審における一審被告の主張(1)ないし(3)について
ア プログラムの著作権について
一審被告は,莫大な投資をして製作した主力商品と同じ商品を販売する権利を無償でAMI社に認めることはあり得ず,本件合意書における「ソースコード」とは,ソフトウェアのエンジン部分(基礎操作性のある部分,汎用性のある部分で,他の種類のプログラムに使用・応用ができる部分)のみを指す旨主張する。
しかしながら,一般の用語例からすると,「ソースコード」とは,コンピュータが理解できる機械語に変換する前の,人間が理解できるプログラム言語で書かれたプログラムを意味するものであり,本件全証拠によっても,本件合意書における「ソースコード」が,合意当事者間において,一審被告の主張するような意味で用いられていると認めることができる証拠はないのであって,一審被告の上記主張は採用することができない。
イ データファイルの著作権について
前記引用に係る原判決が認定説示しているとおり,携快電話6のデータファイルについては,一審被告がその著作権を有していないか(画像ファイル),あるいは,その著作権を一審原告に対して対抗することができない(その他のデータファイル)ものである。
一審被告は,データファイルその他のファイルはプログラム部分と連動するものであり,著作権の対象となると主張しているが,たとえ著作権の対象となるものであるとしても,それらは一審被告がAMI社から承継取得したものであるから,権利の移転登録を得ていない以上,二重譲受人である一審原告に対抗することができないことは明らかである。そして,本件全証拠を検討しても,一審原告が背信的悪意者に当たると認めるに足りる証拠はないから,この点に関する一審被告の主張は採用することができない。
ウ 不正競争行為の成否について
一審被告は,ヨドバシカメラに対しては,ヨドバシカメラが株主であることなどから,一審被告の見解等を予め説明しておく必要があったためであり,その他の小売業者に対しては,その照会に応じる形で,一審原告の文書によって生じた誤解を解消するために説明したものであるから,不正競争行為あるいは不法行為に当たるとはいえない旨主張する。
しかしながら,一審被告の主張する告知行為の動機,目的については,証拠上必ずしも明らかではないが,仮に,そのような動機や目的によるものであったとしても,原告商品2が一審被告の著作権を侵害するものでないにもかかわらず,一審原告の取引先に対して,原告商品2が一審被告の著作権を侵害しているとの虚偽の事実を告知したことに変わりはないのであり,一審被告において,その当時,原告商品2が自らの著作権を侵害すると判断したことに相応の事実的,法律的根拠があったとは認め難い本件においては,一審被告の告知行為が不正競争行為に当たらないとする理由とならないことは明らかである。
(2) 以上のとおり,当審における一審被告の主張はいずれも理由がなく,一審被告は,一審原告に対し,その告知行為(一審原告の取引先に対し,原告商品2の販売が一審被告の著作権を侵害する旨告知した行為)によって生じた一審原告の損害を賠償する義務を負うというべきである。