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著作権判例セレクション

【美術著作物】木目化粧紙(原画)の著作物性を否定した事例/所有権と著作権

▶平成2720日東京地方裁判所[昭和60()1527]▶平成31217日東京高等裁判所[平成2()2733]
二 まず、本件原画の著作物性について判断する。
1 成立に争いのない(証拠等)によれば、次の事実が認められる。
(一) 化粧紙とは、一般に、木目や抽象模様等のデザインを紙やフイルム等の上に印刷し、家具や建材等の表面に貼付加工するシートのことをいい、本件原画は、このような化粧紙として印刷されるものの基となる原画として製作されたものである。
(二) 本件原画の製作過程は、次のとおりである。
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(三) 本件原画に表されている模様は、木目を寄木風に組んで天然の木目を幾何学化しているものであり、ところどころに木の節目が配置されているが、その模様は、天然の木の木目をそのまま写したものではなく、天然のそれのパターンをモンタージュ構成して作り出されたものである。そしてまた、本件原画は、実用面からの要請により、後に着色等がされて製品となる木目化粧紙の天地の模様が切れ目なく連続するよう模様の工夫がされており、更に、木目化粧紙の色調を多様なものにすることができるよう彩色されないものとされている。
(四) 本件原画に基づいて印刷用の原版が作成され、企画意図に沿った配色が決められ、印刷されたものが原告製品となる。
(五) 原告は、原告製品のほか、数多くの木目化粧紙を製造販売しているが、これらは、いずれも原告製品とほぼ同様の手順で製造されている。
2 右認定の事実によれば、本件原画は、Aを中心とした原告の従業員によって、その企画意図に基づき、それに沿ったイメージを木目模様を通じて感得しうるよう創作されたものであって、思想又は感情を創作的に表現したものということができる。しかしながら、右認定の事実によれば、本件原画は、家具の表面に貼付加工される量産品である木目化粧紙の模様の原画として製作されたものであり、それ故にまた、実用面からの要請により、それ自体において、後に着色等がされて製品となる木目化粧紙の天地の模様が切れ目なく連続するよう模様の工夫がされており、更に、最終製品である木目化粧紙の色調を多様なものにすることができるよう彩色されないものとされているのであり、そして、本件原画に基づいて印刷用の原版が作成され、配色が決められ、印刷されて原告製品となり、これが市場に販売されているというのである。そこで、右事実に基づいて考察するに、本件原画は、産業用に量産される実用品の模様であって、専ら観賞の対象として美を表現しようとするいわゆる純粋美術ではなく、産業用に利用されるものとして製作され、現にそのように利用されているというのであるから、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属しないものといわざるをえない。そうすると、本件原画は、著作物性を有しないものというべきである。この点に関して、原告は、本件原画は、応用美術ではあっても、専ら美の表現を追及して製作されたものであって、純粋美術と同視することができるものである旨主張するところ、右認定判断によれば、本件原画が美の表現を追及して製作されたものであることは、否定しえないところであるとしても、専ら美の表現を追及して製作されたものではなく、産業用に利用されるものとして製作され、現にそのように利用されているというのであるから、これをもって純粋美術と同視することはできないものというべきであり、したがって、原告の右主張は、採用することができない。
3 以上によれば、原告の本件原画の著作権に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないことに帰する。
三 原告は、予備的に、請求の原因4の被告の行為は、原告が有している本件原版の所有権を侵害するものであると主張するので、審案するに、有体物である本件原版に対する所有権は、その有体物の面に対する排他的な支配権能にとどまるものと解すべきであって、その支配権能をおかすことなく、本件原版上に表現されている模様といった無体物の面を利用したとしても、その行為は、本件原版の所有権を侵害するものではないというべきところ、原告主張の請求の原因4の被告の行為は、本件原版の有体物の面に対する排他的な支配権能をおかすものではないから、原告の本件原版に対して有する所有権を侵害するものではないというべきである。この点に関して、原告は、被告の行為は、原告の本件原版に対する間接的排他的支配権能をおかすものであって、原告の本件原版に対して有する所有権を侵害するものである旨主張するが、被告の行為が原告の本件原版に対して有する所有権を侵害するものでないことは、右認定判断のとおりであって、原告の右主張は、独自の見解であるというほかはなく、採用の限りでない。
そうすると、原告の本件原版の所有権に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないものというべきである。

[控訴審]
二 控訴人は、本件原画が著作物性を有することを前提として、請求の原因4記載の被控訴人の行為(被控訴人が昭和5911月中旬ころから、原告製品をそのまま写真撮影し、製版印刷して被告製品を製作し、これに「カジアルウッド」という商品名を付して販売している行為)は控訴人が本件原画に対して有する複製権を侵害するものであり、仮に右権利侵害が認められないとしても、被控訴人の右行為は控訴人の本件原版の所有権に含まれる無体物としての側面から生じる間接的排他的な支配権能を侵害する旨主張し、主位的に著作権侵害に基づき、予備的に本件原版の所有権に基づき、被告製品の製造、販売及び頒布の差止め並びに損害賠償を請求する。
しかしながら、当裁判所も、本件原画は、産業用に量産される実用品の模様であって、著作権法第2条第1号にいう「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とはいえないから著作物性を有しないこと、有体物である本件原画に対する所有権は、有体物としての排他的な支配権能にとどまるものであり、被控訴人の前記行為は所有権侵害に当たらないから、控訴人の前記請求はいずれも理由がないと判断するものであり、その点に関する認定、判断は次のとおり付加するほか、原判決理由説示と同一であるから、ここに原判決…の記載を引用する。
著作権法は、第2条第1項第1号において著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と規定した上、同条第2項において「この法律にいう美術の著作物には、美術工芸品を含むものとする。」と規定している。右第2項の規定は、いわゆる応用美術、すなわち実用品に純粋美術(専ら鑑賞を目的とする美の表現)の技法感覚などを応用した美術のうち、それ自体が実用品であって、極少量製作される美術工芸品を著作権法による保護の対象とする趣旨を明らかにしたものである。著作権法は、応用美術のうち美術工芸品以外のものについては、それが著作権法による保護の対象となるか否かを何ら明らかにしていないが、応用美術のうち、例えば実用品の模様などとして用いられることのみを目的として製作されたものは、本来、工業上利用することができる意匠、すなわち工業的生産手段を用いて技術的に同一のものを多量に生産することができる意匠として意匠法によって保護されるべきであると考えられる。けだし、意匠法はこのような意匠の創作を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする(同法第1条)ものであり、前記の品の形状、模様、色彩又はそれらの結合は正に同法にいう意匠(同法第2条)として意匠権の対象となるのに適しているからである。もっとも、実用品の模様などとして用いられることのみを目的として製作されたものであっても、例えば著名な画家によって製作されたもののように、高度の芸術性(すなわち、思想又は感情の高度に創作的な表現)を有し、純粋美術としての性質をも肯認するのが社会通念に沿うものであるときは、これを著作権法にいう美術の著作物に該当すると解することもできるであろう。
この点に関連して、控訴人は、木目化粧紙は実用的機能は求められておらず、専ら高級感のある美感を与えることを企図して製作されるのであり、同一天然木目材料を使用してもデザイナーの個性によって全く異なる原画が製作されるから、原判決が実用品特有の制約があることを理由に本件原画の著作物性を否定したのは誤りである旨主張する。
しかしながら、本件原画の製作過程は原判決…記載のとおりであって、これらの工程には、実用品の模様として用いられることのみを目的とする図案(デザイン)の創作のために工業上普通に行われている工程との間に何ら本質的な差異を見いだすことができず、その結果として得られた本件原画の模様は、まさしく工業上利用することができる、物品に付せられた模様というべきものである。そして、(証拠)を子細に検討しても、本件原画に見られる天然木部分のパターンの組合わせに、通常の工業上の図案(デザイン)とは質的に異なった高度の芸術性を感得し、純粋美術としての性質を肯認する者は極めて稀であろうと考えざるを得ず、これをもって社会通念上純粋美術と同視し得るものと認めることはできない。したがって、本件原画に著作物性を肯認することは、著作権法の予定していないところというべきである。
以上のとおりであるから、本件原画は著作物性を有するという控訴人の主張は採用できない。