Kaneda Legal Service {top}
著作権判例セレクション
【美術著作物】「鍋の持ち手のデザイン」の著作物性を否定した事例その他
▶平成24年03月22日知的財産高等裁判所[平成23(ネ)10062]
(3) 著作権侵害に基づく請求[前記…の各請求]について
要するに,上記各請求は,控訴人が被控訴人に対して,被控訴人の各行為(①本件三徳包丁等を製造,販売した行為,②本件三徳包丁等のデザイナーとして第三者の名を表示した上でグッドデザイン賞に応募等をした行為,③本件鍋シリーズについて,デザイナーとして控訴人及び第三者の名を表示した上でデザイナー協会のコンテストに応募等をした行為」が,原告の創作した①本件デザイン1,②「別紙原立体図面」(甲4の1添付の図面2枚目),③「別紙原デザイン図面」(甲4の1添付の図面1枚目),④「平面の製作図面」⑤「立体のデザインモデル」に係る著作権・著作者人格権(複製権,翻案権,譲渡権,氏名表示権)を侵害すると主張して,損害賠償を求める請求である。
著作権法は,著作物について,「思想又は感情を創作的に表現したものであつて,・・・美術・・・の範囲に属するものをいう。」と規定するが,さらに「この法律にいう『美術の著作物』には,美術工芸品を含むものとする。」と重ねて規定する(2条1項1号,2項)。また,意匠法は,「この法律で『意匠』とは,物品・・・の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であつて,視覚を通じて美感を起こさせるものをいう」と規定する(2条1項)。上記の規定振りなどに照らすならば,産業上利用されることを予定して製作される商品等について,その形状,模様又は色彩の選択により,美的な価値を高める効果がある場合,そのような効果があるからといって,その形状,模様又は色彩の選択は,当然には,著作権法による保護の対象となる美術の著作物に当たると解すべきではなく,その製品の目的,性質等の諸要素を総合して,美術工芸品と同視できるような美的な効果を有する限りにおいて,著作権法の保護の対象となる美術の著作物となると解すべきである。
この観点から,検討する。
ア 「本件デザイン1」,「立体のデザインモデル」を保護の対象とする著作権等侵害の請求について
本件デザイン1について,控訴人は,「本件デザイン1の製品化の経緯に照らし,侵害の客体となる著作物を,立体のデザインモデル及び平面の製作図面との両者の一方又は双方である」と主張しているが,それが何を指すかは,必ずしも明らかでない。一応,立体的な物を念頭に置いた主張と平面的な図形を念頭に置いた主張がされていることを前提として,その両者の場合について,判断する。
本件デザイン1は,実用品である鍋の持ち手のデザインであること,鍋本体側の断面が横長楕円(35度楕円),手元側の断面が縦長楕円(45度楕円)の二つの楕円を直線の集合からなる曲面で覆われていること,鍋本体に近接した部分に指止め部分が設けられていること,下方に折れ曲がったジョイント部があることなどの形態を呈したデザインであると推認される。上記の形態からなるデザインは,美的な観点から選択された面もあるが,実用品である鍋等の取っ手としての持ちやすさ,安定性など,機能的な観点から選択されたものともいえる。
そのような点を勘案すると,本件デザイン1は,美術工芸品と同視できるような美的な効果を有するものとまではいえず,著作権法の保護の対象となる美術の著作物に当たるとすることはできない。したがって,本件デザイン1が著作権法による保護の対象となるとは認められない。
また,立体のデザインモデルについても,同様の理由により,著作権法による保護の対象となるとは認められない。
イ 別紙原立体図面,別紙原デザイン図面,平面の製作図面を保護の対象とする著作権等侵害の請求について
控訴人は,別紙原立体図面は,鍋本体側の断面が横長楕円(35度楕円),手元側の断面が縦長楕円(45度楕円)として描かれているのに対し,本件三徳包丁等の握り部は,その手元側と他方が楕円面を有しており,楕円上の二点を結ぶ直線からできる曲面と端部楕円により構成された筒状からなる点において,共通するから,別紙原立体図面の複製物又は翻案物に該当すると主張する。
しかし,控訴人の主張は,以下のとおり採用することはできない。すなわち,別紙原立体図面において,鍋本体側の断面が横長楕円(35度楕円),手元側の断面が縦長楕円(45度楕円)として描かれている手法は,ごく一般的な手法であって,この点に,表現上の個性の発揮と認められる点はない。また,別紙原立体図面により表現しようとした立体的な製品については,前記のとおり,美術工芸品と同視できるような美的な効果を有するものとはいえないから,著作権法の保護の対象となる美術の著作物に当たるとすることはできない。以上のとおり,本件三徳包丁等を製造する行為は,控訴人の図面における創作的表現を再製するなどの行為には該当しないから,別紙原立体図面について控訴人が有する著作権(複製権,翻案権)を侵害しない。
また,控訴人は,別紙原デザイン図面は,鍋本体側の断面が横長楕円(35度楕円),手元側の断面が縦長楕円(45度楕円)として描かれているのに対し,本件三徳包丁等の握り手部分は,ジョイント部や握り部の鍋本体側下部の突起を除いた部分を,楕円の大きさを変更した上,立体化したものである点において,共通するから,別紙原デザイン図面の複製物又は翻案物に該当すると主張する。しかし,控訴人の主張は,上記と同様の理由により失当であり,採用することはできない。
さらに,控訴人は,平面の製作図面についても,同様の主張をする。しかし,控訴人の主張は,①平面の製作図面の内容は,明らかでなく,控訴人の主張は,採用できない。②また,仮に,平面の製作図面が,別紙原立体図面や別紙原デザイン図面と同一又は類似のものであったとの主張であったとしても,控訴人の主張は,上記と同様の理由により失当である。
ウ 小括
以上によれば,控訴人の前記…の各請求は,いずれも,失当である。
(4) 本件三徳包丁等への本件デザイン1の使用行為が不法行為を構成することを理由とする請求[前記…の各請求]
控訴人は,「被控訴人のした本件三徳包丁等への本件デザイン1の使用行為」,及び「被控訴人のした,三徳包丁等のデザイナーとして第三者の名を表示した行為」がいわゆる一般不法行為を構成すると主張する。
しかし,上記のとおり,本件デザイン1が,著作権の保護の対象となる著作物とはいえない以上,特段の事情のない限り,本件三徳包丁等への本件デザイン1の使用行為及び本件三徳包丁等に関連して第三者の名を表示した行為が,不法行為を構成することはないといえる。特段の事情に関する主張,立証のない本件においては,控訴人の不法行為に該当するとの主張を採用することはできない。