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著作権判例セレクション

【美術著作物】 時計のデザイン原画の著作物性を否定した事例

▶令和3624日大阪地方裁判所[令和2()9992]
1 本件原画の著作物性(争点1)について
(1) 前記のとおり,本件原画は,一般向けの販売を目的とする時計のデザインを記載した原画であり,それ自体の鑑賞を目的としたものではなく,現に,原告は,本件原画に基づき商品化された原告製品を量産して販売している。すなわち,本件原画は,実用に供する目的で制作されたものであり,いわゆる応用美術に当たる。
(2) 「著作物」とは,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)をいい,このうち「美術の著作物」には美術工芸品が含まれる(同条2項)。他方,応用美術のうち,美術工芸品に当たらないものが「美術の著作物」に該当するかどうかについては,明文の規定はない。
しかし,「著作物」の上記定義によれば,「美術の著作物」は,実用目的を有しない純粋美術及び美術工芸品に限定されるべきものではない。すなわち,実用目的で量産される応用美術であっても,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるものについては,純粋美術の著作物と客観的に同一なものとみることができる。そうである以上,当該部分は美術の著作物として保護されるべきである。他方で,実用目的の応用美術のうち,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないものについては,純粋美術の著作物と客観的に同一なものとみることはできないから,美術の著作物として保護されないと解される。
(3) 本件原画について
ア 本件原画は,別紙写真目録記載のとおりであるところ,本件形態1及び2の観点を踏まえると,これには,以下のとおりの形態の時計が表現されているものと認められる。
() 長針,短針,秒針の三種の針を有する壁掛け型アナログ時計であり,各針はいずれも白色である。各針は,いずれも黒色の円盤状部の中心にその回転軸を固定されている。
() 上記円盤状部の頂部上部に数字の「12」を配置し,これを起点として,上記円盤状部の外周に沿って右回りに,黒色太字ゴシック体様の算用数字「1」~「11」を概ね均一の大きさで順に円環状に配置している。これらの数字のうち,「1」,「2」,「5」,「6」,「7」,「11」及び「12」は,上記円盤状部に接着している。また,「6」及び「7」を除く数字は,隣接する別の数字のいずれか又は両者と接着している。
() 前記数字のうち「12」を構成する「2」の頂部から「1」~「8」を経て「9」の下部まで,円環状に配置された各数字の外周側に,これらに沿うと共にそれぞれの数字に接着する形で,黒色の円弧状の枠が配置されている。
イ 本件原画のうち,本件形態1に係る部分(前記ア())について,時計の針が本体の色彩との関係で視認しやすいこと自体は,針の位置により時間を表示するアナログ時計の実用目的に必要な構成といえる。配色に係るデザイン性(本体の黒色と針の白色のコントラスト)も,このような構成を実現するために採用されているものといえるのであって,当該構成と分離して美的鑑賞の対象となるような美的特性を備えている部分として把握することはできない。
ウ 本件形態2に係る部分(前記ア()())については,まず,アナログ時計において,「1」~「12」の各数字及びこれを「12」を頂部として配置して右回りに円環状に配置することは,時間の表示という実用目的に必要な構成といえる。また,これらの数字により形成された円環の内側にある円盤状部及び外側に形成された円弧状の枠は,円環状に配置された数字と互いに接着することにより,全体として時計本体を構成し,その形状を維持している部分と見られるから,これらも実用目的に必要な構成といえる。使用されている数字のフォントや円盤状部の大きさの点も,数字の見易さ及び時計としての使用に耐える一定の強度の実現という時計としての実用目的に必要な構成である。さらに,数字の字体そのものは,何ら特徴的なものではない。
他方,各数字の外周側に円弧状の枠が設けられていない部分は,デザインの観点から目を引く部分と見ることも可能である。もっとも,当該部分は,下部に上記枠の終端部が接する「9」を除くと,2桁の数字(「10」~「12」)が配置された部分であるところ,全ての数字の外側を円弧上の枠により囲んだ製品においては「10」及び「11」の数字のサイズが他の数字に比して明らかに小さいことにも鑑みると,上記枠の設けられていない部分に他の部分と同様に枠を設けた場合,10の桁を示す「1」の部分がそれぞれ円弧状の枠と干渉して数字を読み取り難くなり,時間の把握という時計の実用目的を部分的にであれ損なうことになると考えられる。そうすると,当該部分のデザインについても,時計の実用目的に必要な構成と分離して美的鑑賞の対象となるような美的特性を備えている部分として把握することはできない。
エ したがって,本件原画は,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないものであるから,これを純粋美術の著作物と客観的に同一なものと見ることはできず,著作物とは認められない。
2 小括
以上のとおり,本件原画には著作物性が認められず,原告は,本件原画につき著作権を有しないことから,その余の点について判断するまでもなく,原告の被告に対する著作権に基づく差止等請求権及び著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権は認められない。