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著作権判例セレクション

【著作物の利用の許諾】二次的創作を許諾する規約の利用許諾条件に当たらないとされた事例(ウサギを擬人化したキャラクターのイラスト・動画の侵害性を認定した事例)

▶令和5131日東京地方裁判所[令和4()21198]
1 争点1(本件ツイートにより原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
⑴ 本件投稿者による原告の著作権侵害について
著作権法が、著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいい(著作権法2条1項1号)、複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいう(同項15号)旨規定していることからすると、同法21条の著作物の複製とは、当該著作物に依拠して、その創作的表現を有形的に再製する行為をいうものと解される。
前記前提事実とおり、本件画像は、原告動画の静止画像に、涙や首つり縄の絵柄と「死ぬA」というテキスト等を付加して画像を作成してはいるものの、本件画像と原告動画の静止画像は、イラストの①頭頂部からうさぎの耳が生えているデザインとなっている点、②左側頭部の三つ編みの上部と右側頭部の三つ編みの下部にそれぞれニンジンが1本ずつ挟まっているデザインとなっている点、③首元にウサギを模したマフラー又はショールを身に着けたデザインとなっている点、④目の色が飴色とワインレッドのグラデーションである点、⑤眉毛が円形に近い形状となっている点、⑥髪色はトップから毛先にかけて白色からややくすんだ水色へのグラデーションとなっており、頭部のサイドが白色と水色の三つ編みとなっている点などで共通しており、本件画像から、原告動画の表現上の本質的特徴を直接感得することができる。
そして、本件画像の掲載を含む本件ツイートの投稿は、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に本件画像に係る情報を記録することによって、公衆の求めに応じて自動的に本件動画の送信を可能にする行為であると評価できる。
したがって、本件ツイートの投稿は、少なくとも原告動画に係る原告の公衆送信権を侵害するものというべきである。
⑵ 本件投稿者による原告動画の利用に原告の許諾があるといえるか
前記前提事実とおり、原告は、インターネット上において、本件規約を公表し、原告が著作権を有する著作物を使用して二次的創作をすることを一般に許諾するとともに、その利用許諾の条件として、「公序良俗に反する行為や目的、暴力的な表現、反社会的な行為や目的、特定の信条や宗教、政治的発言のために利用しないこと」(本件規約4条2項⑶)を定めている。
本件画像は、「A」のキャラクターが自殺をしようとしているところをYouTubeで配信することを予告するかのような表現を内容とするものといえるところ、このような表現は、原告イラストに係るキャラクターの死を引き起こす表現であるから、「暴力的な表現」に該当するといえ、本件投稿者による原告動画の利用は、本件規約の利用許諾条件を満たしているとはいえない。
したがって、本件投稿者による原告動画の利用に原告の利用許諾があったとは認められない。
⑶ 小括
以上によれば、本件ツイートは、少なくとも原告の原告動画に係る公衆送信権を侵害するものであって、違法性を阻却する事由があることもうかがわれないから、本件ツイートにより原告の権利が侵害されたことが明らかであると認められる。

※類似事件▶令和539日知的財産高等裁判所[令和4()10100]
2 争点1(本件ツイートの投稿により控訴人の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
(1) 控訴人イラストの著作物性
ア 著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいうところ(著作権法2条1項1号)、思想又は感情を創作的に表現したものであるといえるためには、創作者の個性が何らかの形で発揮されていれば足りると解するのが相当である。
イ これを本件についてみるに、証拠によると、控訴人イラストは、控訴人キャラクターのイラストであるところ、頭頂部からウサギの耳のような形状の耳が生え、左側頭部の三つ編みの上部、右側頭部の三つ編みの下部及び左腰部のポケットにそれぞれにんじんが1本ずつ挟まり、首元にウサギを模したマフラーないしショールを身につけているなど、ウサギを擬人化したような特徴的なデザインとなっているものと認められる。そうすると、控訴人イラストは、創作者の個性が発揮されているということができるから、思想又は感情を創作的に表現したものに該当する。なお、控訴人イラストが美術の範囲に属するものであることは、その内容に照らし、明らかである。
以上のとおりであるから、控訴人イラストは、著作物に該当する。
(2) 控訴人動画の著作物性
証拠及び弁論の全趣旨によると、控訴人動画は、控訴人イラストを映像化したものであると認められるところ、前記(1)において説示したところに照らすと、控訴人動画も、著作物に該当するといえる。
(3) 控訴人イラスト及び控訴人動画に係る著作権の帰属
証拠及び弁論の全趣旨によると、控訴人キャラクターは、控訴人が、控訴人キャラクターに係る著作権等の権利が控訴人に帰属することを条件とし、外部のイラストレーターに委託して制作させたものであると認められるから、控訴人キャラクターに係る著作権(控訴人イラスト及び控訴人動画に係る著作権)は、控訴人に帰属するものと認めるのが相当である。
(4) 本件ツイートの投稿による著作権侵害の成否
証拠及び弁論の全趣旨によると、本件画像は、控訴人動画を静止させて切り抜いた画像を素材とし、控訴人キャラクターの両目の下にそれぞれ涙の絵柄を付し、また、控訴人キャラクターの顔の周りに首つり用の縄の絵柄を付し、さらに、「死ぬ」及び「ぺこ」との文字を付したいわゆるコラージュ画像であると認められるから、本件発信者が本件画像の掲載を含むツイートである本件ツイートを投稿し、これにより、本件画像をツイッターのサーバにアップロードした行為は、控訴人イラスト及び控訴人動画に係る控訴人の著作権(複製権)を侵害するものであるということができる。
(5) 控訴人による利用許諾の有無
控訴人が定める本件規約によると、控訴人が権利を保有するキャラクターの二次的創作物の作成等に関しては、当該作成等を行う者に対し、当該キャラクターの名誉ないし品位を傷つける行為をしないことなどを条件として、非独占的に許諾することとされている(4条1項及び2項)。
前記(4)によると、本件画像も、控訴人キャラクターの二次的創作物であるといえるが、証拠によると、本件画像の内容は、控訴人キャラクターが自殺しようとしており、かつ、その様子を自ら配信しているというものであると認められるから、本件画像の作成等は、本件規約(4条2項2号)にいうキャラクターの名誉ないし品位を傷つける行為に該当するというべきである。
この点に関し、被控訴人は、自殺は不名誉なものと解されてはならないし、本件画像には自殺について閲覧者の考察を深めるための創作作品としての価値があるなどとして、本件画像の作成等はキャラクターの名誉ないし品位を傷つける行為に該当しないと主張する。しかしながら、社会通念上、自殺が否定的な印象を持って受け止められていることは明らかであるから、控訴人キャラクターが自殺しようとしている様子を描く本件画像の作成等を行うこと自体、控訴人キャラクターの名誉を傷つけるものといえるし、自殺の様子を自ら配信するという行為に至っては、控訴人キャラクターの品性が疑われるものであるといわざるを得ないから、控訴人キャラクターが自己の自殺の様子を配信している様子を描いているという点でも、本件画像の作成等を行うことが控訴人キャラクターの名誉ないし品位を傷つけるものであることは明らかである。なお、仮に本件画像に創作作品としての価値があったとしても、そのことは、本件画像の作成等が控訴人キャラクターの名誉ないし品位を傷つけるとの上記結論を左右するものではない。したがって、被控訴人の上記主張を採用することはできない。
以上のとおりであるから、本件画像に関し、控訴人が本件発信者に対して控訴人イラスト及び控訴人動画の利用(複製)を許諾したものと認めることはできない。
(6) 小括
前記(1)ないし(5)において検討したところによると、本件発信者による本件ツイートの投稿により、控訴人イラスト及び控訴人動画に係る控訴人の著作権(複製権)が侵害されたことは明らかであるといえる。