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著作権判例セレクション
【地図図形著作物】「株式の値動きを記載した図表」の著作物性を否定した事例
▶平成12年03月23日東京地方裁判所[平成10(ワ)15833]
(注) 本件は、原告が創作したと主張する株式の価格の変化を表す図表である「増田足」につき、原告が被告に対し、著作権及び著作者人格権に基づく差止めなどを求めた事案である。
二 著作権及び著作者人格権に基づく差止請求について
1 著作権法によって保護される「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」ものである(著作権法2条1項1号)。すなわち、著作権法は、「創作的に表現したもの」を保護の対象とするのであって、表現ではあるが「創作的」といえないものは「著作物」に該当しないし、また、「思想又は感情」を創作しても、それ自体は著作権法により保護される「著作物」に当たらないということができる。
2 これを本件についてみるに、原告は、別紙記載の図表の描き方によって作成されたものがすべて差止請求の対象となると主張しているが、右の主張は、右の描き方によって描かれた図表(原告が「増田足」と呼ぶ株式の値動きを記載した図表)がすべて原告の著作物であるというものであり、結局のところ、図表の描き方という思想自体につき著作権法による保護を求めようとするものであって、同法にいう「著作物」の定義に照らし、これを採用することができないことは明らかである。
また、原告は、原告図表が原告の著作物であるとも主張しているが、証拠によれば、株式の値動きを図表として表現するに当たり、縦軸に価格(上方ほど金額が高くなる。)、横軸に時間(左から右向きに時間が経過する。)をとること、単位期間(日、週、月)ごとの価格の変動の幅を長方形により表すこと、価格が上昇したか下落したかによって右の長方形を色分けすること、右のようして単位期間ごとに描いた長方形を時間の経過に沿って横軸方向に並べていくことは、従前から一般に行われているありふれた表現方法であると認められるから、原告図表につき、これを原告が「創作的に表現したもの」であると認めることはできない。なお、右のような表現方法をとるに当たり、一定の日、週又は月数の終値の平均値をもとにし、さらに短期、中期及び長期の三つの指標を組み合わせて図表を作成することが原告の独自の発案によるものであるとしても、原告が創作したと主張するものは思想自体であり、これを表現ということはできないから、著作権法による保護の対象となるものでない。
3 右によれば、原告図表が著作権法上の「著作物」に該当するということはできないから、その余の点につき判断するまでもなく、著作権及び著作者人格権を根拠とする原告の主張は理由がない。