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著作権判例セレクション
【地図図形著作物の侵害性】 折り紙作品の折り図の侵害性を否定した事例
▶ 平成23年05月20日東京地方裁判所[平成22(ワ)18968]▶平成23年12月26日知的財産高等裁判所[平成23(ネ)10038]
(注) 本件は,折り紙作家である原告が,テレビドラマの番組ホームページに別紙記載の「吹きゴマ」の折り図(説明文を含む。以下「被告折り図」)を掲載した被告に対し,主位的に,被告折り図は,「1枚のかみでおる
おりがみ おって遊ぶ -アクションおりがみ-」と題する書籍(「原告書籍」)に掲載された別紙記載の「へんしんふきごま」の折り図(説明文を含む。以下「本件折り図」)を複製又は翻案したものであり,被告による被告折り図の作成及び番組ホームページへの掲載行為は原告の著作物である本件折り図についての著作権(複製権ないし翻案権,公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)の侵害に当たる旨主張し,著作権侵害及び著作権人格権侵害の不法行為による損害賠償などを求め,予備的に,仮に被告の上記行為が著作権侵害及び著作権人格権侵害に当たらないとしても,原告の有する法的保護に値する利益の侵害に当たる旨主張し,上記利益の侵害の不法行為による同額の損害賠償などを求めた事案である。
1 争点1(著作権侵害の有無)について
(1) 本件折り図の著作物性
ア 前提事実
(略)
イ 検討
(ア) 以上を前提に,本件折り図の著作物性について判断する。
折り紙作品の折り図は,当該折り紙作品の折り方を示した図面であるが,その作図自体に作成者の思想又は感情が創作的に表現されている場合には,当該折り図は,著作物に該当するものと解される。
もっとも,折り方そのものは,紙に折り筋を付けるなどして,その折り筋や折り手順に従って折っていく定型的なものであり,紙の形,折り筋を付ける箇所,折り筋に従って折る方向,折り手順は所与のものであること,折り図は,折り方を正確に分かりやすく伝達することを目的とするものであること,折り筋の表現方法としては,点線又は実線を用いて表現するのが一般的であることなどからすれば,その作図における表現の幅は,必ずしも大きいものとはいい難い。また,折り図の著作物性を決するのは,あくまで作図における創作的表現の有無であり,折り図の対象とする折り紙作品自体の著作物性如何によって直接影響を受けるものではない。
(イ) そこで検討するに,①「へんしんふきごま」の折り方は,32の折り工程からなるところ,本件折り図は,この折り方について,1ないし10の手順に分解した説明図及び完成形を示した説明図を基に説明したものであるが,32の折り工程のうち,どこからどこまでの折り工程を一つの手順にまとめて何個の説明図を用いて説明するかについては選択の幅があること,②本件折り図は,別紙のとおり,最初の折り工程から完成形に至るまでの折り工程について,紙の上下左右の向きを一定方向に固定し,紙の表と裏を色分け(赤色と無色)した各説明図において,折り筋を付ける手順を示す矢印,折り筋を付ける箇所及び向きを示す点線(谷折り線・山折り線),付けられた折り筋を示す実線,折った際に紙が重なる部分を予測させるための仮想線を示す点線によって折り方を示すことを基本とし,これらの折り工程のうち矢印,点線等のみでは読み手が分かりにくいと考えた箇所について説明文及び写真を用いて折り方を補充して説明したものであること,③本件折り図に従えば,「へんしんふきごま」の折り紙作品を特段の支障なく作成できることによれば,本件折り図を全体としてみた場合,上記説明図の選択・配置,矢印,点線等と説明文及び写真の組合せ等によって,「へんしんふきごま」の一連の折り工程(折り方)を見やすく,分かりやすく表現したものとして創作性を認めることができるから,本件折り図は,著作物に当たるものと認められる。
(2) 複製ないし翻案の成否
複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により著作物を有形的に再製することをいい(著作権法2条1項15号参照),著作物の再製は,当該著作物に依拠して,その表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成することを意味するものと解され,また,著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうものと解される(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決参照)。
以上を前提とすると,被告折り図が本件折り図の複製又は翻案に当たるか否かを判断するに当たっては,被告折り図において,本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができるかどうかを検討する必要がある。
ア 被告折り図の内容
(略)
イ 被告折り図と本件折り図の対比
(ア) 被告折り図と本件折り図は,別紙3のとおり,①32の折り工程からなる「へんしんふきごま」(吹きゴマ)の折り方について,10個の図面(説明図)及び完成形を示した図面(説明図)によって説明している点,②各説明図でまとめて選択した折り工程の内容,③各説明図は,紙の上下左右の向きを一定方向に固定し,折り筋を付ける箇所を点線で,付けられた折り筋を実線で,折り筋を付ける手順を矢印で示している点等において共通している。
(イ) しかし,他方で,本件折り図は,別紙のとおり,折り筋を付ける手順を示す矢印,折り筋を付ける箇所及び向きを示す点線(谷折り線・山折り線),付けられた折り筋を示す実線,折った際に紙が重なる部分を予測させるための仮想線を示す点線によって折り方を示すことを基本とし,これらの折り工程のうち矢印,点線等のみでは読み手が分かりにくいと考えた箇所について説明文及び写真を用いて折り方を補充して説明する表現方法を採っているのに対し,被告折り図は,別紙のとおり,折り工程の順番を丸付き数字で示した上で,折り工程の大部分について説明文を付したものであって,説明文の位置付けは補充的な説明にとどまるものではなく,読み手がこれらの説明文と説明図に示された点線,実線及び矢印等から折り方を理解することができるような表現方法を採っている点で相違している。
このような相違点に加えて,本件折り図では,写真を用いた説明箇所があるのに対し,被告折り図では,写真を用いていない点,本件折り図では,紙の表と裏を色分け(赤色と無色)しているのに対し,被告折り図では,色分けをしていない点,本件折り図における「工夫のヒント」の記載内容と被告折り図における「完成!」の記載内容が全く異なる点,被告折り図の7番目の説明図における折り筋(折り目)を示した点線の位置が,本件折り図の手順7の説明図に示された正しい位置と異なるため,被告折り図に従って折り進めても,完成形に至ることはできない点において相違する。
(ウ) 以上のとおり,被告折り図と本件折り図は,前記(イ)の相違点が存在することから,折り図としての見やすさの印象が大きく異なり,分かりやすさの程度においても差異があるものであって,前記(ア)の共通点を最大限勘案してもなお,被告折り図から,「へんしんふきごま」の一連の折り工程(折り方)を見やすく,分かりやすく表現した本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができるものとは認められない。
したがって,被告折り図は,本件折り図の複製物又は翻案物のいずれにも当たらないというべきである。
ウ 原告の主張について
原告は,本件折り図と被告折り図は,いずれも完成形の折り方を表現するものであり,手順1ないし10の説明図と完成形を示した説明図の選択及び組合せはすべて類似し,また,選択したそれぞれの説明図においては,折り筋・折り目,矢印の配置が些末な点を除いて同一であり,しかも,折り紙の向きがすべて同じであり,重要な説明文においても同様の表現が用いられているから,被告折り図から,本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができる旨主張する。
しかしながら,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア) 原告は,本件折り図と被告折り図は,手順1ないし10の説明図と完成形を示した説明図の選択及び組合せはすべて類似し,また,選択したそれぞれの説明図においては,折り筋・折り目,矢印の配置が些末な点を除いて同一であり,しかも,折り紙の向きがすべて同じである旨主張する。
確かに,原告が主張するように,本件折り図と被告折り図は,32の折り工程からなる「へんしんふきごま」(吹きゴマ)の折り方について,10個の図面(説明図)及び完成形を示した図面(説明図)によって説明し,各説明図でまとめて選択した折り工程の内容及び紙の上下左右の向きを一定方向に固定している点で共通し,また,折り筋・折り目,矢印の配置についても,大部分が共通しているといえる。
しかし,「へんしんふきごま」の折り方そのものは,所与のものであることから,折り筋を付ける箇所,折り筋に従って折る方向を示す矢印の配置が共通することは避けられないことである。
また,32の折り工程のうち,どこからどこまでの折り工程を一つの手順にまとめて何個の説明図を用いて説明するかについては選択の幅があるが,本件折り図のように,各折り工程を1ないし10の手順にまとめて10個の図面(説明図)を用いた構成とすること自体はアイディアであり,著作権法によって保護される表現とはいえない。
さらに,本件折り図に示すような向きに紙の向きを固定した上で,各折り工程を説明することは,ありふれた表現である。
したがって,上記の共通点は,本件折り図の表現上の本質的特徴を示したものということはできないから,上記の共通点が存在するからといって,被告折り図から,本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができるものではない。
(イ) 原告は,被告折り図の6番目の説明図では,「四つ角をそれぞれ黒点まで折る。図にある所をよく折り目をつける。」として,四隅を合わせる箇所に黒点を配置し,その部分に向けて矢印を配置し,中央に点線の正方形で折り筋を表しているが,これは,本件折り図の手順6の説明図の表現上の本質的な部分を再現したものである旨主張する。
しかし,折り筋を点線で表すことは一般的な表現方法であって,ありふれたものであり,角を合わせる位置を表現するために黒点を用いたり,折る方向を示すのに矢印を用いることもありふれたものである。
また,紙の中央に折り筋を付ける部分を正方形の点線で表しているのは,ここで付けた正方形の折り筋に従って後の折り工程(手順9)において折りたたむ必要があるためであって,折り筋を正方形で表現することは避けられないことである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 原告は,被告折り図の8番目の説明図では,「4つのポイントそれぞれを矢印の方向へ折り目をつける」として折り筋を点線で配置しているが,これは本件折り図の手順8の説明図の複雑な折り筋・折り目の配置,矢印の配置といった表現上の本質的な部分をそのまま再現したものである旨主張する。
しかし,前述のとおり,折り筋を点線で表したり,折る方向を示すのに矢印を用いることはありふれたものであり,また,折り筋を付ける箇所,折り筋に従って折る方向等は所与のものであって,「へんしんふきごま」の折り図において共通にならざるを得ない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(エ) 原告は,被告折り図の9番目の説明図では,「【難所】4つのポイントをつまんで中心に折る感じで」としており,本件折り図の手順9の説明図における「4つの○からつまんでおりすじたたむ」とした部分,これに付されたつまむ四つのポイント,折り筋や矢印など,手順9の説明図の表現上の本質的な部分が完全に再現されている旨主張する。
しかし,折り筋を点線で表したり,折る方向を示すのに矢印を用いることはありふれたものであり,また,折り筋を付ける箇所,折り筋に従って折る方向等は所与のものであって,「へんしんふきごま」の折り図おいて共通にならざるを得ないことは,前述のとおりである。
また,四つの箇所をつまんで折りたたむことは,所与のものであり,その箇所を「○」で示すことはありふれたものである。
さらに,四つの箇所をつまんで折りたたむことを示した説明文の表現内容は,原告の引用からも明らかなように異なるものである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(オ) 原告は,被告折り図の10番目の説明図では,「羽を間に折り込む」としており,本件折り図の手順10の説明図の表現上の本質的な部分を再現したものである旨主張する。
しかしながら,四つの箇所を紙の間に折り込んで「へんしんふきごま」の羽の部分を形成することは所与のものであり,また,これを本件折り図のように「あいだにおりこむ」と表現することはありふれたものである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(カ) 原告は,被告折り図の11番目の完成形を示した説明図には,「…中心や羽にセロハンテープを貼り,補強することで回りやすくなります。」との説明文を付しており,本件折り図の完成形を示した説明図において「ちゅうしんにセロハンテープをはるとかいてんがあんていします」との説明文を付けるという表現上の本質的な部分が再現されている旨主張する。
しかしながら,中心にセロハンテープを貼ると回転が安定することは事実であり,その事実の表現として「ちゅうしんにセロハンテープをはるとかいてんがあんていします」とするのはありふれたものであり,また,このような機能面に着目した説明をすること自体はアイディアであって,著作権法によって保護される表現とはいえない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(キ) 原告は,本件折り図の創作性については,全体としてみたときに,折り紙作家として技能・知識が駆使されているか否かという観点から判断すべきであるから,本件折り図と被告折り図の類似性についても,細部まで分解して判断するのではなく,全体を観察して判断すべきである旨主張する。
しかしながら,前記(1)イ(イ)のとおり,本件折り図を全体としてみた場合に,説明図の選択・配置,矢印,点線等と説明文及び写真の組合せ等によって,「へんしんふきごま」の一連の折り工程(折り方)を見やすく,分かりやすく表現したものとして創作性を認めることができるが,被告折り図においては,前記イ(イ)の相違点が存在することから,折り図としての見やすさの印象が大きく異なり,分かりやすさの程度においても差異があるため,被告折り図から,本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができないというべきである。
(3) 小括
以上のとおり,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができないから,その余の点について判断するまでもなく,被告折り図は本件折り図を複製ないし翻案したものとは認められない。
したがって,被告による被告折り図の作成及び本件ホームページへの掲載行為は,原告の複製権ないし翻案権及び公衆送信権のいずれの侵害にも当たらない。
2 争点2(著作者人格権侵害の有無)について
(1) 原告は,被告による被告折り図の作成及び本件ホームページへの掲載行為は,原告が保有する本件折り図についての同一性保持権及び氏名表示権の侵害に当たる旨主張する。
しかし,前記1(3)のとおり,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができないのであるから,被告による被告折り図の作成及び本件ホームページへの掲載行為は,同一性保持権及び氏名表示権のいずれの侵害にも当たらない。
(2) 上記(1)及び前記1(3)のとおり,被告による被告折り図の作成及び本件ホームページへの掲載行為は,原告主張の本件折り図の著作権及び著作者人格権を侵害するものではないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の主位的請求は,いずれも理由がない。
3 争点5(法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為の成否等)について(予備的請求関係)
(1) 法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為の成否
原告は,①被告が,本件折り図と同一又は酷似した被告折り図を,本件ドラマの番組宣伝活動の一環として原告に無断で本件ホームページ上に掲載して利用した行為は,創作折り紙作家である原告が長年の研究・試行錯誤・努力の結果,最終成果物として作成した本件折り図を,何らの対価も支払わず,かつ,折り図を作成するまでの人的資源,時間等の負担を全く負わず,原告の努力の成果をかすめ取るものである,②被告は,原告が創作した「へんしんふきごま」の折り紙を,無断で本件ドラマで使用し,被告折り図を本件ホームページに掲載することによって,ドラマの視聴率を高め,ひいては広告収入等の増加という効果を得ており,このように原告が研究・工夫して作製した「へんしんふきごま」とその折り図に視聴者・読者の誘引力が認められる以上,それらの管理及び利用について許諾を与えることによって得られる利益は法的保護に値するのであって,この利益を蔑ろにして収益を上げた被告の行為は違法性が高い,③一般に他者の出版物の無断転用は禁じられているというのが出版業界及び放送事業界で確立された商慣習であって,被告の行為はこのような商慣習を全く無視する,いわゆる「フリーライド(ただ乗り)」行為にほかならず,社会に多大な影響力を有するメディアの一社として知的財産権等の保護に努めるべき社会的責任を負う被告が,かえって他者の権利侵害を助長する行為に及んだという点からも,一層違法性が高いなどとして,被告が被告折り図を作成し,これを本件ホームページに原告に無断で掲載した行為は,公正な自由競争として社会的に許容される限度を超えるものであって,原告の法的保護に値する利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成する旨主張する。
しかしながら,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア 前記1(3)のとおり,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができないのであるから,被告が被告折り図を本件ホームページに掲載して利用したことは,原告が本件折り図の利用に関して保有する法的利益を侵害したものとは認められない。
また,原告が,原告書籍に本件折り図を掲載して「へんしんふきごま」の折り方を公表したのは,「へんしんふきごま」の折り紙作品を普及させることを前提とするものであって,誰もが「へんしんふきごま」の折り紙作品を作成することを認めたものというべきであるから,被告が原告の許諾を得ずに本件ドラマで「へんしんふきごま」の折り紙作品を用いたことが違法な行為に当たるということもできない。
イ なお,前記のとおり,被告折り図は,7番目の説明図における折り筋(折り目)を示した点線の位置が,本件折り図の手順7の説明図に示された正しい位置と異なるため,被告折り図に従って折り進めても,完成形に至ることはできないものであるが,このような不完全な被告折り図を本件ホームページに掲載したことによって原告の法的利益が具体的に侵害されたことを認めるに足りる証拠はない。
かえって,①被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴を直接感得することができないこと,②本件ドラマの視聴者と思われる者が,インターネットの質問投稿サイトで,本件ドラマで用いられた「へんしんふきごま」の折り紙作品について質問をしたのに対して,原告書籍の出版社のホームページを紹介する回答が寄せられていること,③本件ドラマの視聴者と思われる者が,自身のブログで,原告書籍を紹介していること,④被告は,平成21年7月2日,原告から,本件ホームページから被告折り図を削除するようメールで抗議を受けた後,同月7日に本件ホームページに被告折り図を掲載することを止めて,その代わりに,「へんしんふきごま」の「正しい折り方」として,原告について紹介し,原告のホームページへのリンクを貼っていることからすると,本件ドラマの視聴者など本件ホームページの閲覧者において被告折り図と本件折り図を誤認混同したり,原告が被告折り図を作成したかのような誤解が生じることはなかったというべきである。
ウ 以上を総合すれば,被告が平成21年6月28日に本件ホームページに被告折り図を掲載し,原告からの抗議を受けた後も5日間にわたって本件ホームページに被告折り図を掲載したままにしておいたという事実を踏まえたとしても,原告が主張する被告の一連の行為が原告の法的保護に値する利益を侵害する違法なものとして不法行為を構成するものと認めることはできない。
(2) 小括
以上によれば,原告主張の法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為の成立は認められないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の予備的請求は,いずれも理由がない。
4 結論
以上によれば,原告の請求は理由がないからいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
[控訴審]
1 当裁判所は,原告の請求にはいずれも理由がないと判断する。その理由は,後記2のとおり,当審における当事者の補足的主張に対する判断を付加するほかは,原判決…のとおりであるから,これを引用する(なお,以下では,原審の判示と重複して記載した部分がある。)。
2 当審における当事者の補足的主張に対する判断
(1) 争点1(著作権侵害の有無)について
ア 被告折り図と本件折り図とを対比すると,①32の折り工程からなる「へんしんふきごま」(吹きゴマ)の折り方について,10個の図面(説明図)及び完成形を示した図面(説明図)によって説明している点,②各説明図でまとめて選択した折り工程の内容,③各説明図は,紙の上下左右の向きを一定方向に固定し,折り筋を付ける箇所を点線で,付けられた折り筋を実線で,折り筋を付ける手順を矢印で示している点等において共通する。
しかし,他方で,本件折り図は,折り筋を付ける手順を示す矢印,折り筋を付ける箇所及び向きを示す点線(谷折り線・山折り線),付けられた折り筋を示す実線,折った際に紙が重なる部分を予測させるための仮想線を示す点線によって折り方を示すことを基本とし,これらの折り工程のうち矢印,点線等のみでは読み手が分かりにくいと考えた箇所について説明文及び写真を用いて折り方を補充して説明する表現方法を採っているのに対し,被告折り図は,折り工程の順番を丸付き数字で示した上で,折り工程の大部分について説明文を付したものであって,説明文の位置付けは補充的な説明にとどまるものではなく,読み手がこれらの説明文と説明図に示された点線,実線及び矢印等から折り方を理解することができるような表現方法を採っている点において相違する。
このような相違点に加えて,本件折り図では,写真を用いた説明箇所があるのに対し,被告折り図では,写真を用いていない点,本件折り図では,紙の表と裏を色分け(赤色と無色)しているのに対し,被告折り図では,色分けをしていない点,本件折り図における「工夫のヒント」の記載内容と被告折り図における「完成!」の記載内容が異なる点などにおいて相違する。
以上のとおり,被告折り図と本件折り図とは,上記のとおりの相違点が存在し,折り図としての見やすさの印象が大きく異なり,分かりやすさの程度においても差異があることから,被告折り図は本件折り図の有形的な再製には当たらず,また,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴が直接感得できるともいえない。
以上のとおり,被告が被告折り図を作成する行為は,本件折り図について有する原告の複製権ないし翻案権を侵害しない。
イ また,原告は,本件折り図の「32の折り工程のうち,どの折り工程を選択し,一連の折り図として表現するか,何個の説明図を用いて説明するか」は,アイデアではなく,表現であるとして,被告折り図と本件折り図とは,上記の点において共通するので,被告が被告折り図を作成する行為は,本件折り図について有する原告の複製権ないし翻案権を侵害すると主張する。
しかし,原告の主張は,主張自体失当である。
すなわち,著作権法により,保護の対象とされるのは,「思想又は感情」を創作的に表現したものであって,思想や感情そのものではない(著作権法2条1項1号参照)。原告の主張に係る「32の折り工程のうち,10個の図面によって行うとの説明の手法」それ自体は,著作権法による保護の対象とされるものではない。
上記アのとおり,被告折り図と本件折り図とを対比すると,①32の折り工程からなる折り方について,10個の図面(説明図)及び完成形を示した図面(説明図)による説明手法,②いくつかの工程をまとめた説明手法及び内容,③各説明図は,紙の上下左右の向きを一定方向に固定し,折り筋を付ける箇所を点線で,付けられた折筋を実線で,折り筋を付ける手順を矢印で示しているという説明手法等において共通する。しかし,これらは,読者に対し,わかりやすく説明するための手法上の共通点であって,具体的表現における共通点ではない。そして,具体的表現態様について対比すると,本件折り図と被告折り図とは,上記アのとおり,数多くの相違点が存在する。被告折り図は本件折り図の有形的な再製には当たらず,また,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴が直接感得できるともいえない。
したがって,被告が,被告折り図を作成することによって本件折り図を複製ないし翻案した旨の原告の主張は採用できない。
(2) 争点2(著作者人格権侵害の有無)について
原告は,「へんしんふきごま」の「折り方」は,アイデアではなく,表現の本質的部分であり,「へんしんふきごま」の「折り方」をどのように表現するかも,表現の本質的部分であるとして,被告による被告折り図の作成及び本件ホームページへの掲載行為は,原告が保有する本件折り図についての同一性保持権及び氏名表示権を侵害すると主張する。
しかし,原告の主張は失当である。
上記(1) と同様の理由により,被告折り図から本件折り図の表現上の本質的特徴が直接感得できない以上,原告の主張は前提を欠き,失当である。
(3) 争点5(法的保護に値する利益の侵害を理由とする不法行為の成否等)について(予備的請求関係)
原告は,原告が独自に創作した著作物である「へんしんふきごま」という折り紙作品を,原告の許諾なくこれをテレビで放映することは,公衆送信権の侵害に当たり,不法行為が成立する,被告が,原告の本件折り図を無断で改変し,原告から許諾を得ることなく自身のホームページに掲載し,原告がこれに気付いて被告に平成21年7月2日に抗議したにもかかわらず,相当期間経過後である同月7日まで放置した行為は,不法行為を構成する旨主張する。
しかし,原告の主張はいずれも失当である。
証拠によれば,原告は,平成21年9月5日の被告PRセンター担当者宛てメールで,作品を番組の中に登場させるのに許可は必要だとは思っていない旨回答しており,同年10月20日の被告宛て「通知書」でも,「へんしんふきごま」という折り紙作品が番組で放映されたことについての抗議はしていない。そうすると,原告は,「へんしんふきごま」という折り紙作品がテレビ番組において放映されることについては,事後的に許諾を与えたと認められるか,又は,少なくとも社会通念に照らして容認したものと認められるから,被告による上記放映によって原告の公衆送信権が侵害されたとはいえない。
また,被告が,原告から許諾を得ることなく,被告折り図を被告のホームページに掲載し,原告が平成21年7月2日に抗議したにもかかわらず,同月7日まで放置する行為をしたとしても,被告折り図が原告の著作権ないし著作者人格権を侵害しないものである以上,被告の上記行為が不法行為を構成するとはいえない。また,前記の事実経過に照らし,被告の行為によって,原告の法律上保護される利益は侵害されていない。
3 小括
以上のとおり,原告の主張はいずれも理由がない。原告は,その他縷々主張するが,いずれも上記認定判断を左右しない。
第4 結論
原告の請求はいずれも棄却すべきものであり,これと同旨の原判決は正当である。
よって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。