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著作権判例セレクション
【地図図形著作物】現況実測図の著作物性を否定した事例
▶平成27年8月5日知的財産高等裁判所[平成27(ネ)10072]
(注) 本件は,被控訴人が,控訴人に対する民事訴訟の訴状に添付するために,控訴人の作成した現況実測図(「本件実測図」)を控訴人に無断で複製し,本件実測図についての控訴人の著作権(複製権)を侵害したとして,控訴人が,被控訴人に対し,不法行為に基づく損害賠償として50万円及び遅延損害金の支払を求める事案である。
原審は,本件実測図は著作物に該当するものと認められないとして,控訴人の請求を棄却した。控訴人は,これを不服として本件控訴を提起した。
当裁判所も,本件実測図が著作物に該当するものと認めることはできないから,控訴人の請求は,理由がないものと判断する。その理由は,次のとおりである。
1 本件実測図の著作物性について
控訴人は,本件実測図は,万人が一目瞭然に現場の状況の把握等ができるように,公知の事実又は一般常識に属する事柄についても具体的に表現したものであり,一般的に他者が本件土地の測量図を作成する場合と対比しても,作成者である控訴人の個性が発揮されており,控訴人の思想又は感情を創作的に表現したものであるから,「地図又は学術的な性質を有する図面,図表,模型その他の図形の著作物」(著作権法10条1項6号)に該当する旨主張する。
そこで検討するに,本件実測図は,別紙のとおり,本件土地を測量し,その面積を求積した結果を示した「現況実測図」という名称の縮尺250分の1の測量図であり,本件土地と隣地との筆界点及びその座標,各土地上の建物,構築物等が図示され,また,本件土地の面積が「90.66895㎡」,「27.42坪」であること及びその「求積表」などが示されている。
しかるところ,本件実測図については,測量の対象とされた本件土地に係る情報の取捨選択,その作図上の表示方法及び表現内容のいずれにおいても,いかなる点で作成者である控訴人の個性が発揮されているといえるのかについて,控訴人による具体的な主張立証はない。
もっとも,控訴人は,仮に他者が本件土地の測量図を作成した場合の例として控訴理由書の別紙に「添付2.」と記載した「現況実測図」を添付しているが,上記「現況実測図」は,控訴人が自ら作成したものであって,そもそも,第三者が本件土地の測量図を作成した場合の例であるものと認めることはできないから,本件実測図と上記「現況実測図」を対比しても,本件実測図が上記情報の取捨選択,その作図上の表示方法又は表現内容において控訴人の個性が発揮されていることの根拠となるものではない。
したがって,本件実測図は控訴人の思想又は感情を創作的に表現したもの(著作権法2条1項1号)と認めることはできないから,本件実測図が同法10条1項6号の著作物に該当するとの控訴人の上記主張は,理由がない。