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著作権判例セレクション
【損害額の算定例】法114条3項の適用事例(建築設計図書の侵害事例)
▶昭和54年6月20日東京地方裁判所[昭和50(ワ)1314]
六 よつて、亡Fの被つた損害の額について判断する。
1 まず原告らは、原告設計図書の各葉がそれぞれ一個の著作物であるのみならず、原告設計図書33葉全体もまた一個の著作物であり、被告は、被告設計図書を作成することによりこの原告設計図書全体についての著作権を侵害したものであると主張する。
被告が被告設計図書(特に2ないし4)を作成することにより原告設計図書5ないし8についての著作権(複製権)を侵害したこと、かつ、これ以外の原告設計図書についての著作権は侵害していないことは前記のとおりであるところ、原告設計図書1(表紙)を除く原告設計図書32葉全体もまた一個の著作物であるといえるとしても、その一個の著作物が右のように32葉の設計図書から成つていて可分である場合に、その一部分の設計図書についてのみ著作権が侵害されたときは、その被侵害部分の全体に占める割合に応じて損害額を算定するのが衡平に合致するというべきである。
2 しかして、原告らは、著作権法第114条第2項[注:現3項参照]の規定に基づき、原告設計図書についての著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額(以下、「通常使用料」という。)に相当する額を亡Fが被つた損害の額として請求し、社団法人日本建築士会連合会制定の「建築士の業務及び報酬規程」に従つた設計料が右通常使用料に該当すると主張するが、原告B本人尋問の結果その他本件全証拠によるも、右規程に従つた設計料は、具体的な設計請負契約において設計料は右規程の定めるところによるとの合意がある場合の設計料の基準となることがありうることが認められるにとどまり、右規程に従つた設計料をもつて直ちに原告設計図書についての右通常使用料の額と認めることはできない。
そして、証人Hの証言及び被告本人尋問の結果によれば、本件のような設計図書についての通常使用料の額は、当該設計図書に基づく建築工事費の3パーセントと認められ、これを越える額をもつて通常使用料の額と認めるに足る証拠はない。
原告設計図書に基づく建築工事費は前顕(証拠)及び原告B本人尋問の結果により8441万0830円と認められるから、原告設計図書32葉全体についての通常使用料は、その3パーセント、すなわち253万2325円(円未満四捨五入。以下同じ。)となる。
3 そこで、右1に述べたところに従い、原告設計図書中の被侵害部分に相当する通常使用料の額について考えるに、被侵害部分は、原告設計図書32葉中、原告設計図書5、6(平面図)、7(立面図、断面図)8(矩計図)の計4葉であるところ、原告らは、原告設計図書の中核をなすのは平面図、立面図、矩計図であると主張し、原告Bもその本人尋問において、平面図が一番重要である旨述べるが、前顕(証拠)の2ないし33を彼此検討するも、右設計図書が他の設計図書と対比し特に重要であるとは一概に速断できないばかりか、仮に右主張ないし供述のとおりであるとしても、他に特段の証拠がない本件ではその重要性の程度を確定することができないので、結局のところ、葉数により按分する外はない。
してみれば、被侵害部分に相当する通常使用料の額は、右2の253万2325円の32分の4(8分の1)、すなわち31万6541円であり、これが本件著作権侵害により亡Fが被つた損害の額ということになる。