Kaneda Legal Service {top}

著作権判例セレクション

【映画著作物の侵害性】 ビデオゲーム「パックマン」に対する侵害性を認定した事例

平成60131日東京地方裁判所[平成4()19495]
() 本件は、被告が別紙記載の書籍(「本件書籍」)の付属ディスクに収納して頒布したゲームのプログラム(「Chomp」)の影像が原告が著作権を有するビデオゲーム「パックマン」(「本件ビデオゲーム」)の影像の複製であるとして、原告が被告に対し、損害賠償及び謝罪広告を求めている事案である。

一 争点(一)(映画の著作物性)について
()
(四) 以上によれば、本件ビデオゲームは、映画の著作物であると認められる。
二 争点(二)(複製)について
前記のとおり、Chompは、本件ビデオゲームのパックマンに相当する主人公と四匹のモンスターに相当する四匹の敵がキャラクターとして登場し、右主人公が中央に敵の巣を配した迷路上を舞台として本件ビデオゲームのエサに相当する多数のドットと、同じくパワーエサに相当する大きなドット及びフルーツターゲットを食べながら動き回り、これを敵が追うという追跡劇であり、かつ、証拠によれば、本件ビデオゲームの影像の内容とChompの影像の内容の詳細及び両者の比較の詳細は、別紙パックマン・Chomp for WINDOWS対照表(画面構成参照図を含む。)記載のとおりであると認められる。
そしてChompの影像は、本件ビデオゲームの影像と比べ、迷路の具体的形状、ワープ(迷路内における左右への瞬間的移動)の有無、モンスターに当たる敵の色やその動き方、エサの数、フルーツターゲットの移動や出現の順序の一部等で若干の差異があるものの、中央に長方形のモンスターの巣を有する、縦の道と横の道が直角に十字形、T字形、L字形に交差したものの組合わせによって形成される迷路の基本的形状が共通し、フルーツターゲットもその相当数が果物であることで共通するのみか、同じ果物もあり、前記差異も、共通性の中の僅かな差異や目立たない差異にすぎず、主人公と敵のキャラクターの形状、動作、数をはじめ、画面構成、ストーリー(影像に現れるゲームの進行やルール)など多くの面で本件ビデオゲームの影像と共通点を有し、両者は、本件ビデオゲームの影像を知る通常人であれば、Chompの影像が本件ビデオゲームに僅かな修正を加えただけのものと覚知できる程度の同一性があるものと認められる。右の事実に、Chompの作者であるAも、Chompをパソコン通信のネットワークにアップロードした際のChompの紹介文の中で「本ゲームはパックマンを詳しく模したマイクロソフト・ウインドーズ環境用ゲームです。私は本ゲームをオリジナルにでき得る限り忠実に作るように努力しました。しかし、パックマンのアーケード機は何年も見ていず、ゲーム要素はすべて記憶から呼び起こしたものです。」と述べており、更に、同人は、原告から本件ビデオゲームの映画の著作権の侵害である旨の警告を受けた後もこれを争わず、パソコン通信のネットワークからChompを削除するなど事後処理をしていること、また更に、本件書籍中のChompの紹介文にも、「あのパックマンゲームだ!」とのタイトルの下に「ゲームの名前はChompとなっているが、中身は、ゲームセンターのゲームで有名になった「パックマンゲーム」である。プレイのしかたはゲームセンターのパックマンとまったく同じで、小さいドット「・」を食べ尽くしてしまうのが目的である。」と記載されていることを合わせ考えれば、Chompの影像は、本件ビデオゲームの影像に依拠し、これに僅かな修正を加えて再製したもの、即ち本件ビデオゲームの影像の複製と認められる。
以上によれば、被告は、本件書籍の付属ディスクにChompのプログラムを収納してこれを一般に販売したことにより、原告が映画の著作物としての本件ビデオゲームについて有する複製権及び頒布権を侵害したものである。
三 争点(三)(同一性保持権及び氏名表示権侵害)について
1 同一性保持権侵害について
Chompの影像は、本件ビデオゲームの影像とほぼ同一でありその複製であるが、本件ビデオゲームの影像と全く同一のものではなく、別紙パックマン・Chomp for WINDOWS対照表記載のとおりの相違点があることは、前記二認定のとおりである。よって、被告は、本件ビデオゲームの複製物であるChompを本件書籍の付属ディスクに収納したことにより、原告が映画の著作物である本件ビデオゲームについて有する同一性保持権を侵害したものというべきである。
被告は、Chompを作成したのは被告ではなく、Aであり、被告は単にChompを紹介したにすぎないから、同一性保持権を侵害していない旨主張する。
しかし、AがChompを作成したのは、前記認定のとおりであるから、Aが原告の本件ビデオゲームの同一性保持権を侵害したものであることは明らかであるが、被告も、前記のとおり、本件ビデオゲームの複製でありかつその影像の内容が本件ビデオゲームと一部異なるChompを本件書籍の付属ディスクに収納してこれを複製(有形的に再製)し一般に頒布したのであるから、被告の右複製行為は、原告が本件ビデオゲームについて有する同一性保持権を侵害する行為というべきであり、被告の右主張は採用できない。
2 氏名表示権侵害について
被告が本件書籍の付属ディスクに本件ビデオゲームの複製であるChompを収納しこれを一般に販売する際に本件ビデオゲームの著作者である原告の氏名を表示しなかったことは、証拠から明らかであり、被告の右行為は、本件ビデオゲームの複製物を公衆に提供するに際し、著作者名を表示することができる原告の氏名表示権を侵害するものである。
四 争点(四)(故意又は過失)について
被告は、その発行する雑誌「MacJapan」の平成四年五月号において、Bという人物が、パソコン通信のネットワークでフリーウェアとして提供していた本件ビデオゲームを模したPacmanというパソコン用ゲームソフトを紹介したことについて原告から抗議を受け、同年七月号の同誌において、「原告のビデオゲーム「パックマン」の影像著作権を侵害したフリーウェアをその雑誌に紹介し、当該フリーウェアを転載することが自由にできるとの誤解を生じさせるような記載について、原告らに迷惑をかけたことを謝罪する」旨の広告を出した。また、被告は、パソコン通信で入手できるMS-Windows上で作動するシェアウェア又はフリーウェアの二四個のゲームソフトを付属ディスクに収納し、各ゲームソフトの解説をした本件書籍を出版したものであるが、本件書籍中にはChompについての解釈として「あのパックマンゲームだ!」とのタイトルの下に「ゲームの名前はCHOMPとなっているが、中身は、ゲームセンターのゲームで有名になった「パックマンゲーム」である。
プレイのしかたはゲームセンターのパックマンとまったく同じで、小さいドット「・」を食べ尽くしてしまうのが目的である。ゲームの進め方はいたって簡単で、上下左右の矢印キーによりパックマンを動かすことができる。あとは、モンスターに食われないように、通路にある小さい「・」印をすべて食いつぶして行くことで、1面はクリアされる。モンスターは4匹おり、通常状態ではコイツラに触れられると死んでしまうが、パワー餌と呼ばれる大柄なドットを食べると一定時間モンスターが情けない状態になり、こちらが相手を食べてしまうことさえできるようになる。また、ときおり出てくるフルーツを食べると、ボーナス・スコアがもらえる。」とChompのゲームの内容が本件ビデオゲームの内容とほぼ同一であることを十分に理解していることを前提とした説明があり、編集の過程で被告の担当者はそのことを充分に認識していたものと認められる。
右事実によれば、被告は、本件書籍を出版する前には、本件ビデオゲームの影像についても映画の著作物として著作権が生じること、原告がその著作権者であること、Chompは、本件ビデオゲームと同じ内容をほぼ再現したシェアウェアのゲームソフトであること、及び、パソコン通信のネットワークにアップロードされているフリーウェア又はシェアウェアであっても、第三者に対する著作権侵害の問題が生じることを認識していたものと認められ、故意に、あるいは、少なくとも漫然とChompが本件ビデオゲームについての映画の著作権を侵害するものではないと判断した過失により、本件フロッピーディスクを付属させた本件書籍を発行販売し、原告の本件ビデオゲームについての複製権及び頒布権を侵害したものであることが認められる。
また、右認定の事実に、本件書籍中に、Chompによって複製された本件ビデオゲームの著作者として原告名が表示されていないことは明らかであり、Chompがパソコン通信によりフリーウェア又はシェアウェアとして提供されていたものであることからすれば、その影像は本件ビデオゲームの影像と全く同一ではなく変更された箇所があることは容易に予想されることを合わせ考えると、氏名表示権及び同一性保持権の侵害についても、被告は、故意又は少なくとも過失があったものと認められる。
五 争点(五)(損害の額)について
()
右認定事実によれば、映画の著作物としての本件ビデオゲームをパソコン用ゲームソフトに使用することに対し通常受けるべき金銭の額(プログラムの著作物の使用料は含まない金額)は、商品(パソコン用ゲームソフト)一個当たり少なくとも500円を下ることはないものと認めるのが相当である。
被告がChompを収納した本件フロッピーディスクを付属させた本件書籍を少なくとも8000冊販売したことは被告の自認するところであるが、被告が本件書籍を8000冊を超えて販売したことを認めるに足りる証拠はない。
以上によれば、原告は、被告に対し、本件ビデオゲーム(映画の著作物)の使用に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額である400万円(500円×8000冊)を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。
(以下略)