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著作権判例セレクション
【言語著作物】製品の取扱説明書の著作物性を否定した事例
▶平成23年12月15日大阪地方裁判所[平成22(ワ)11439]
(注) 本件で「原告各製品」とは、原告が販売している浄水器の取扱説明書のことである。
1 争点1(原告各取扱説明書は編集著作物か)について
(略)
(4) 結論
以上のとおりであるから,原告各取扱説明書は,編集著作物とは認められない。
2 争点2(原告各取扱説明書は著作物か)について
(1) 全体としての著作物性
原告が,原告各取扱説明書全体が著作物であるとする根拠は,個々の表現において,インパクトのある表現,わかりやすい表現,読み手の注意を惹く表現が選択されているというものである。
しかしながら,原告各取扱説明書に記載されている内容は,逆浸透膜浄水器の説明,各部の名称,取扱説明書の説明,安全上の注意,設置方法,使用方法,メンテナンス,トラブル対処法,保証の範囲外となる場合についての説明である。
そして,上記各事項は客観的事実に係るものである上,原告各取扱説明書においては,これらの客観的事実について,箇条書きあるいは短い文章により,正確を期した説明がされている。そのため,その表現は,必然的にありふれたものとならざるを得ないところ,原告は,これを超える表現上の特徴が存在すること,それが創作的表現であることについて,具体的に主張しない。
したがって,原告各取扱説明書が,全体として著作物であるとは認められない。
(2) 各頁の著作物性
以下,原告が著作物性を有するという各頁について,個別に著作物性の有無を検討する。
なお,著作物といえるためには,具体的な表現上の創作性が必要であるところ,原告が,著作物性の根拠として,「わかりやすい」,「簡潔」といった抽象的工夫について主張している部分は,具体的な表現について述べるものではなく失当であるので,以下では取り上げない。
ア 原告取扱説明書1の1
上記取扱説明書の具体的記載内容は,別紙4のとおりであるが,そのうち,原告が,著作物性があると主張する点については,次のとおりである。
(ア) 2頁目
大きく記載すること(上段),ダイヤグラムの使用(中段),具体的適用例の列挙(後段)は,いずれも,取扱説明書において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
また,浄水力,ミネラルバランス,衛生的といった単語の使用(中段)をもって,表現に創作性があるということはできない。
なお,NASAで開発されたことや,アメリカ水質協会やFDA(米国食品医薬品局)に公認されていることの記載,公認団体のロゴマークの掲載(上段)は,表現上の創意工夫について述べるものでなく,失当である。
(イ) 4頁目
図を並べて記載すること,説明に不要な部材の省略,重要部材の部分拡大,記号の使用,図面と同じ頁における部材名の記載は,いずれも,取扱説明書において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
(ウ) 5頁目
枠囲い,マーク,大きな文字等の使用や,「警告」という見出しの掲載は,いずれも,取扱説明書において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
(エ) 6頁目
「必ずお守りください。」,「警告」,「厳守」,「禁止」といった見出しの掲載,大きな文字,枠囲い,マーク等の使用は,いずれも,取扱説明書において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
(オ) 7頁目
「注意」,「厳守」,「禁止,」といった見出しの掲載,マーク,大きな文字,枠囲い,太字体,下線等の使用は,いずれも,取扱説明書において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
(カ) 8頁目
イラスト図,矢印,マーク等の使用,「注意」,「禁止」といった見出しの掲載は,いずれも,取扱説明書において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
(キ) 11頁目
表形式の採用は,取扱説明書において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
(ク) 12頁目
枠囲い,マークの使用,「注意」という見出しの掲載,書体の変更や文字を大きくするといった手法は,いずれも,取扱説明書において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
イ 原告取扱説明書1の2
上記取扱説明書の具体的記載内容は,別紙5のとおりであるが,そのうち,原告が,著作物性があると主張する点については,次のとおりである。
(ア) 2,4~8,11,12頁目
原告取扱説明書1の1に係る判断と同様である。
(イ) 9頁目
必要部分のみを選択した図面の掲載,矢印,マーク,大きな文字等の使用,「厳守」,「必ず実行して下さい」といった見出しは,いずれも,取扱説明書において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
(ウ) 10頁目
マークの使用,「注意」,「禁止」といった見出しの掲載,四角線で囲む,イラストの掲載といった手法は,いずれも,取扱説明書において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
ウ 原告取扱説明書2
上記取扱説明書の具体的記載内容は,別紙6のとおりであるが,そのうち,原告が,著作物性があると主張する点については,次のとおりである。
(ア) 2,5,7頁目
原告取扱説明書1に係る判断と同様である。
(イ) 1頁目
大きな文字の使用,製品写真の掲載は,いずれも,取扱説明書において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
また,取扱説明書であること,製品の種類,製品名,型番,ロゴ等の記載については,表現上の創意工夫を述べるものではなく,失当である。
なお,掲載された写真の撮影に係る工夫については,本件で原告が主張している著作権が,取扱説明書(冊子)の各頁に係る著作権であって,写真の著作権ではないことからして(そのため,当該写真の撮影者も,写真の著作権が原告にあることも,主張立証されていない。),意味のない主張である。
(ウ) 4頁目
図面を並べて掲載したり,説明に重要な部材の選定や不要な部材の省略,記号の使用,図面と同じ頁で部材名を記載するといった手法は,いずれも,取扱説明書において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
(エ) 8頁目
必要部分のみ選択した図面の掲載,矢印,マーク,枠囲い等の使用,「注意」,「禁止」といった見出しの掲載は,いずれも,取扱説明書において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
(オ) 11頁目
フロー図の使用は,取扱説明書において頻繁に利用される,ありふれた表現形式である。
エ まとめ
以上のとおりであるから,原告各取扱説明書の各頁も,著作物であるとは認められない。
3 争点6(被告各取扱説明書の作成・頒布は不法行為か)について
原告は,原告各取扱説明書が,様々な創意工夫をし,多大な時間と労力を費やして作成されたものであるから,これらをデッドコピーした被告各取扱説明書を,原告が営業活動を行う地域で頒布することは,取引における公正かつ自由な競争として許される範囲を逸脱し,法的保護に値する原告の営業活動を侵害するものだと主張する。
しかしながら,被告各取扱説明書は,対象製品から独立して頒布されるものではなく,その点は原告各取扱説明書も同様であるところ,被告らが,既に取引が成立した製品に取扱説明書を付して交付することが,同様の行為を行っている原告との関係において,自由な競争の範囲を超える行為であるとは認めがたい。
また,原告は,被告各取扱説明書が原告各取扱説明書のデッドコピーであるというが,仮にそうであるとしても,既に述べたとおり,原告各取扱説明書の表現形式はありふれたものであって,著作権法上の保護を受けられず,その利用は許されるものである。したがって,たとえ,原告各取扱説明書の作成において,創意工夫がされ,時間・労力が費やされていたとしても,その表現形式を利用する行為が,不法行為法上違法になるとは認めがたい。
したがって,原告の上記主張は認められない。
第5 結論
以上のとおりであるから,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。