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著作権判例セレクション

【引用】検定教科書に準拠した小学校用国語テストの適法引用性を否定した事例

▶平成15328日東京地方裁判所[平成11()13691]▶平成16629日東京高等裁判所[平成15()2467]
() 本件各著作物は,いずれも小学生用国語科検定教科書に掲載されている。被告らは,上記教科書に準拠した小学校用国語テスト(「本件国語テスト」)を印刷,出版,販売している。

1 本件国語テストにおける本件各著作物の掲載態様について
証拠と弁論の全趣旨によると,本件国語テストにおける本件各著作物の掲載態様は次のとおりと認められる。
(1) 本件各著作物は,本件国語テスト中において,同著作物の表題によって特定される単元のうち,「よんでこたえましょう。」,「物語を読んで答えましょう。」,「次の文章を読んで,問題に答えなさい。」等と指示された見開きページに掲載されている。
(2) 本件国語テストには,本件各著作物が,(1)の見開きページ上段のほぼ全面に罫線によって四角で囲まれた中に挿し絵又は写真とともに掲載されており,これらの掲載行数は,おおむね15行以上ある(もっとも,それに満たないものも一部存する)。そして,【本件国語テスト】に掲載されている本件各著作物は,それ自体で,表現されている登場人物の言動やその心理,場面の状況等を理解することができる。なお,末尾には教科書からの引用であることが明示されている。
(3) 本件国語テストには,(2)のように掲載された本件各著作物の一部に傍線若しくは波線又は点線が付されているもの,(2)のように掲載された本件各著作物の一部に番号又は記号とともに傍線,波線又は点線が付されているもの,【(2)】のように掲載された本件各著作物の各行の上又は下に記号又は番号が付されているものが存する。
(4) 本件国語テストには,(2)のように掲載された本件各著作物の一部を省略し,その部分に四角又は中に番号を付した四角を挿入し,合うことばを児童に書かせる形式となっているものが存する。
(5) 本件国語テストには,(1)の見開きページ下段の半面又はほぼ全面に,3個ないし10個の選択式又は記述式の問題が設けられており,これらは,(3)のように特定された著作物の部分や掲載された著作物全体についての読解力を問うものである。
2 争点(1)について
(1) 公表された著作物を引用して利用することが許容されるためには,その引用が公正な慣行に合致し,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行わなければならないとされている(著作権法32条1項)ところ,この規定の趣旨に照らすと,ここでいう「引用」とは,報道,批評,研究その他の目的で,自己の著作物中に,他人の著作物の原則として一部を採録するものであって,引用する著作物の表現形式上,引用する側の著作物と引用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができるとともに,両著作物間に,引用する側の著作物が「主」であり,引用される側の著作物が「従」である関係が存する場合をいうものと解するべきである。
(2) 前記1のような本件各著作物の掲載態様に照らすと,引用される側の著作物である本件各著作物の全部又は一部と引用する側の著作物である本件国語テストを明瞭に区別して認識することができるというべきである。
また,前記1認定の事実に証拠と弁論の全趣旨を総合すると,本件国語テストの設問部分には,本件各著作物からの本件国語テストに収録する部分の選定,設問部分における問題の設定及び解答の形式の選択,その配列,問題数の選択等に,被告らの創意工夫があることが認められる。
しかし,これらの設問は,本件各著作物に表現された思想,感情等の理解を問うものであって,上記問題の設定,配列等における被告の創意工夫も,児童に本件各著作物をいかに正確に読みとらせ,それをいかに的確に理解させるかということにあり,本件各著作物の著作物としての創作性を度外視してはあり得ないものである(この点について,被告らは,内容それ自体の創作性を利用しているかどうかは引用の判断に関係ない旨主張するが,ここでいう読みとらせ,理解させる対象は,内容それ自体のみならず,表現を含むものであるから,本件国語テストは,本件各著作物の著作物としての創作性を度外視してはあり得ないということができる。また,被告らは,本件国語テストは,児童に本件各著作物をいかに正確に読みとらせ,また,それをいかに的確に理解させるかではなく,正確に読みとっているか,的確に理解しているかを評価測定するものである旨主張するところ,後記3認定の事実からすると,本件国語テストは上記のとおり評価測定するという目的を有するものと認められるが,それとともに,児童に解答をするに当たって考えさせたり,採点返却すること等を通じて,児童に本件各著作物についての理解を深めさせるという目的を有するものと認められるから,上記評価測定のみが本件国語テストの目的であるとは認められない。)。そして,このことに,前記1認定の本件国語テストにおける本件各著作物とそれ以外の部分の量的な割合等を総合すると,引用される側の著作物である本件各著作物が「従」であり,引用する側の著作物である本件国語テストが「主」であるという関係が存するということはできない。
(3) したがって,本件各著作物の本件国語テストへの掲載は著作権法32条1項の規定により認められる「引用」には当たらない。】
[控訴審同旨]