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著作権判例セレクション

【同一性保持権】同一性保持権の侵害事例(検定教科書に準拠した小学校用国語テストの事例)/法20条2項4号の解釈

▶平成15328日東京地方裁判所[平成11()13691]▶平成16629日東京高等裁判所[平成15()2467]
() 本件各著作物は,いずれも小学生用国語科検定教科書に掲載されている。被告らは,上記教科書に準拠した小学校用国語テスト(「本件国語テスト」)を印刷,出版,販売している。

4 争点(3)(著作者人格権侵害)について
(1) 同一性保持権侵害について
【一審被告らは,以下に記載するとおり,平成11年度の本件国語テストの印刷,出版,販売に当たり,本件各著作物中の文章を改変したことが認められる。】
()
[注:本件で「改変」と認定された例(一部)]
〇 「(リョウは言います。)」を加筆したこと,「ああ,それも知らないのか」を削除したこと。
〇「少女は」を加筆したこと,「このあたりの田んぼに来慣れている鳥なのか,人をおそれる様子もなく,しきりにどろの中をつついている。」を削除したこと
〇 「風が出てきて,」,「道ばたに」を削除したこと。
〇「キキはいばって言いました。」という部分を,「キキは,言いました。」,「ウーフが,子どものくまだからか,いばっていいました。」という二文を一文にしたこと。
ク 被告らは試験問題としての複製という利用の目的及び態様に照らし,部分的な引用の場合において当然のこととして認められている「公正な慣行」に従い,教科書掲載作品の一部を省略したに過ぎないから,本件各著作物を改変するものではないと主張するが,上記認定のとおり本件国語テストに本件各著作物を掲載することは,著作権法36条1項所定の「試験又は検定の問題」としての複製に当たらないうえ,本件国語テストのような著作物に他の著作物を掲載する場合には,上記認定のような改変が許されるとの「公正な慣行」があるというべき事実も認められない。
著作権法20条2項4号は,同一性保持権による著作者の人格的利益の保護を例外的に制限する規定であり,かつ,同じく改変が許される例外的場合として同項1号ないし3号の規定が存することからすると,同項4号にいう「やむを得ないと認められる改変」に該当するというためには,著作物の性質,利用の目的及び態様に照らし,当該著作物の改変につき,同項1号ないし3号に掲げられた例外的場合と同程度の必要性が存在することを要するものと解される。しかるところ,本件国語テストが同項1号で定める場合に当たらないことは明らかであり,本件国語テストについて同項1号で定める場合と同程度の必要性が存在すると認めることもできない。そして,その他の被告ら主張の事情をもってしても,本件国語テストの発行に当たり上記各著作物に改変を加えるにつき,上記のような必要性が存在すると認めることはできない。したがって,【上記アないしキ認定の各改変は,】著作権法20条2項4号が定める「やむを得ないと認められる改変」に該当するとは認められない。
ケ よって,上記アないしキ認定の各改変がされたことによって,原告Bを除くその余の原告らが本件各著作物について有する同一性保持権が侵害されたものと認められる。
(2) 氏名表示権侵害について
証拠と弁論の全趣旨によると,別紙対比目録記載の【平成11年度の印刷出版販売に係る本件国語テスト】において,原告Iを除くその余の原告らの氏名が表示されていないものと認められるから,原告Iを除くその余の原告らが本件各著作物について有する氏名表示権が侵害されたものと認められる。
[控訴審同旨]