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著作権判例セレクション
【言語著作物】整体専門医学院の授業内容をもとに作成したマニュアルの著作物性を認めた事例
▶平成14年4月16日東京地方裁判所[平成12(ワ)15123]▶平成15年07月18日東京高等裁判所[平成14(ネ)3136]
1 争点(1)について
(1) 証拠と弁論の全趣旨によると,本件マニュアルは,村上整体専門医学院の生徒であった原告が,村上整体専門医学院の授業内容をもとに作成したものであること,本件マニュアルは,文章の部分,図の部分,写真の部分からなること,以上の事実が認められる。
原告が著作権及び著作者人格権の侵害を主張している部分は,文章の部分と図の部分であるので,以下,これらの部分の著作物性について判断する。
(2) 被告らは,本件マニュアルは,村上整体専門医学院の授業内容を記録したもので,単なる事実の伝達にすぎないと主張する。
しかしながら,証拠によると,村上整体専門医学院の授業における実技指導は,テキストや資料を用いずに行われ,口頭での説明も「このように」などの指示語が多く用いられたものであったこと,本件マニュアルは,原告が,この授業内容を,指示語を具体的な部位の名称に置き換えるなどの工夫をして,文章と図によってその内容を理解できるようにしたものであること,以上の事実が認められる。
そうすると,本件マニュアルは,授業内容をそのまま記録したものではなく,原告がその内容を理解できるように工夫して文章化し図示したものであると認められるから,単なる事実の伝達にすぎないとはいえない。
(3) 証拠と弁論の全趣旨によると,本件マニュアルのうち,原告が著作権及び著作者人格権の侵害を主張している部分は,①ほぐしの一般的注意事項の部分と,②ほぐしの類型ごとの説明の部分と,③図の部分があり,その具体的な内容は,別紙対比表記載のとおりであると認められる。
このうち,①については,ほぐしの注意事項としての10項目の選択及びそれぞれについての説明が,他の選択及び表現方法がないものとは認められず,文章化するのに一定の創作的活動を要するものと認められる。また,村上整体専門医学院の授業において,これらの選択及び説明がされたことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,上記①については,「思想又は感情を創作的に表現したもの」として,著作物性が認められる。
上記②については,各類型につき,文章の部分は,アみだし,イ患者の姿勢,ウ方法,エポイント,オ効果・ねらいからなる。
このうち,アみだしについては,各ほぐしの名称が記載されているもので,一つ又は数個の単語から構成されているにすぎないから,「思想又は感情を創作的に表現したもの」として,著作物性が認められるものではない。
イ患者の姿勢については,本件マニュアルの「13大腿内側面の押圧」以外のほぐしの類型については,一つ又は数個の単語から構成されているにすぎないから,「思想又は感情を創作的に表現したもの」として,著作物性が認められるものではない。
オ効果・ねらいについては,本件マニュアルの「5三の字」,「7八の字」及び「10大腿屈筋群のストレッチ」以外のほぐしの類型については,短文でありふれた表現が用いられているにすぎないから,「思想又は感情を創作的に表現したもの」として,著作物性が認められるものではない。
上記②のうち,その余の部分については,一定の長さの文章又はそれらの文章のまとまりからなるものであって,文章化するのに一定の創作的活動を要するものと認められる。また,村上整体専門医学院の授業において,これらと同じ表現を用いて説明がされたことを認めるに足りる証拠はない。したがって,「思想又は感情を創作的に表現したもの」として,著作物性が認められる。
上記③のうち,原告が著作権及び著作者人格権の侵害を主張しているものについては,図示するために一定の創作的活動を要するものと認められ,村上整体専門医学院の授業において,これらと同じ図を用いて説明がされたことを認めるに足りる証拠もないから,「思想又は感情を創作的に表現したもの」として,著作物性が認められる。
[控訴審]
1 争点(1)(本件著作物の創作性)について
(1) 証拠によれば,以下の事実が認められる。
ア 本件著作物は,学院の生徒であった被控訴人が,学院の授業内容及び自ら学んだカイロプラクティックの知識等を基に作成したものであり,文章,図及び写真の各部分から成る。
イ 本件著作物は,「目次」,「ほぐしとは」で始まるほぐしの一般的な注意事項を記載した部分(以下「一般的注意事項」という。),20種類のほぐしを類型ごとに説明する部分(以下「説明部分」という。)及び「参考」から成り,説明部分は,各類型ごと,「見出し」,「患者の姿勢」,「方法」,「ポイント」,「効果・ねらい」及び写真から成るか,又はこれらに図が加わったものが,不可分一体のものとして,ほぐしの各類型を初学者にも分かりやすく説明するものである。
(2) 以上の事実に照らすと,本件著作物は,「思想又は感情を創作的に表現したもの」として創作性を有するというべきである。
(3) 控訴人らは,本件著作物が学院の授業内容を記録したもので単なる事実の伝達にすぎないと主張するが,上記(1)の認定事実によれば,本件著作物が学院の事業内容の単なる記録にすぎないということはできず,その説明部分は,文章,写真及び図を一体不可分のものとして,ほぐしの各類型を初学者にも分かりやすく説明するものであり,「思想又は感情を創作的に表現したもの」として創作性を認めることができることは上記のとおりであって,本件著作物の一般的注意事項も,文章によってほぐしの一般的注意事項を分かりやすく説明したものとして創作性を認めることができる。
また,控訴人らは,本件著作物が学院の授業内容をそのまま記述表現したものであるとか,その内容に常識的な整理分類や名称が付加されたとしても著作物としての創作性は認められないとか,体の動作等を文章化したこと,図面や写真を活用することも常識的なものにすぎないと主張する。しかしながら,控訴人らは,本件著作物が学院の授業をそのまま記述表現したものであると抽象的な主張をするにとどまり,学院の具体的授業内容及びこれと本件著作物との異同について主張立証していない上,証拠によれば,学院の授業における実技指導は,テキストや資料を用いずに行われ,口頭での説明も「このように」などの指示語が多く用いられ,講師によってその内容も異なるものであったこと,本件著作物は,被控訴人が,自ら学んだカイロプラクティック,解剖学,運動学等の知識を織り込んだ上,学院の授業内容を,ある程度取捨選択し体系的整理をした上,文章,写真及び図を不可分一体的に用いることで,その内容を初学者にも分かりやすく説明したものであって,学院の授業内容をそのまま記録したものということはできない。そして,ほぐしの類型の整理分類,名称,体の動作等を文章化すること,図面や写真を活用することが,それぞれ常識的であるとしても,本件著作物は,これらが一体不可分のものとして表現されているのであるから,個々の要素が常識的であることは,本件著作物の創作性を否定する根拠とはならない。
さらに,控訴人らは,本件著作物が,既存の名称,ごく短い文章,表現形式に制約があっておよそ他の表現形式が想定できない文章,平凡かつありふれた表現から成る文章として創作性が否定されるとも主張するが,本件著作物の一部分に既存の名称,ごく短い文章,他の表現形式が想定できない文章,平凡かつありふれた表現から成る文章があるとしても,このことは,多数の語句及び文章が不可分一体のものとして一個の著作物を構成している場合において,当該著作物の創作性を否定する根拠となるものではない。