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著作権判例セレクション

【損害額の推定等】法1142項の意義と解釈

▶平成14416日東京地方裁判所[平成12()15123]▶平成150718日東京高等裁判所[平成14()3136]

[控訴審]
5 争点(5)(損害額)について
(1) 財産的損害
ア 本件書籍1
() 著作権法114条1項[注:現2項。以下同じ]による損害
被控訴人は,本件において,著作権法114条1項により,控訴人学院が本件書籍1の販売により得た利益を被控訴人の被った損害と推定すべきであると主張する。しかしながら,損害の認定に係る同項の規定は,推定規定であって,著作権者がそのような推定により認定された損害額と同額の利益を得ることができない事情が主張立証されたときは,上記推定は破られると解するほかはない。
本件において,証拠によれば,被控訴人は,本件著作物の利用行為としては,知人にコピーを配布しその実費を受け取っただけであることが認められ,控訴人らによる本件書籍1の出版等がされなかったとしても,その間に,本件著作物を利用して利益を得ることはなかったと推認されるから,上記規定による推定は破られるといわざるを得ない。したがって,本件書籍1の販売によって控訴人らが得た利益をもって,被控訴人の損害と推定することはできない。
被控訴人は,特許法などの工業所有権法と著作権法との立法目的や保護法益の相違からすると,著作権侵害の場合は,特許権侵害などと異なり,権利者が自ら当該著作物の出版,販売等を行っていなくても,侵害者の得た利益を著作権者の損害と推定することができると解すべきであると主張する。しかしながら,工業所有権法と著作権法が立法目的及び保護法益を異にするとしても,特許法102条2項など,工業所有権の侵害行為により侵害者の得た利益の額を権利者が被った損害の額と推定する規定は,権利者が侵害行為と損害との因果関係を立証することが一般に困難であることにかんがみ,その立証責任を転換して権利者の保護を厚くする趣旨のものであるという点で,著作権法114条1項と異なるところはない。
したがって,工業所有権と著作権の相違をいう被控訴人の主張は,採用することができない。