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著作権判例セレクション
【損害額の推定等】法114条3項の意義と解釈
▶平成14年4月16日東京地方裁判所[平成12(ワ)15123]▶平成15年07月18日東京高等裁判所[平成14(ネ)3136]
[控訴審]
(イ) 著作権法114条2項[注:現3項。以下同じ]による損害
著作権法114条2項は,著作権者が著作権侵害行為によりその利用料相当額の損害を被ったとみなす規定であるから,被控訴人は,その額を自己の被った損害の額であると主張することができる。
本件書籍1が1000部発行され,販売価格が1冊1万円であることは,当事者間に争いがない。
控訴人らは,本件書籍1が学院の授業のテキストであり,1万円の販売価格には授業料が包含されているとして,本件書籍1の相当販売価格が制作原価である1冊1800円の2倍に当たる3600円が上限であると主張する。しかしながら,(証拠)によれば,控訴人学院は,学生から,入学金,授業料等の支払を受け,これらとは別に教材として本件書籍1を購入しており,また,制作原価の2倍が販売相当価格であるという根拠も明らかではないから,本件書籍1が現実に販売された価格である1万円をもって,本件書籍1の販売価格というべきである。
(証拠)によれば,本件書籍1の本文部分は106頁であり,19頁ないし20頁にかけて記載されている約1頁にわたる「ほぐし」の一般的な注意事項についての記載,43頁ないし103頁の「第3章〈ほぐし〉基本操作」のうち,「第3章〈ほぐし〉基本操作」とのみ記載された43頁を除き,44頁以降の60頁中,22頁が文章,38頁が写真及び図であり,上記2のとおり,これら文章のほとんどが本件著作物の複製物であることが認められる。本件著作物の複製部分が本件書籍1中に占める寄与度は,本文頁数に対する上記複製部分頁数の割合である21%と推認され,この認定を左右するに足りる証拠はない。被控訴人は,本件書籍1はカイロプラクティックのテキストであり,侵害部分がカイロプラクティックの具体的な技術内容に関するものとして極めて重要な位置を占めていることなどから,侵害部分の寄与度を全体の頁数と侵害部分の頁数の割合で按分すべきではないと主張する。しかしながら,侵害部分以外の文章部分もカイロプラクティックの技術内容に関するものであり,写真及び図の部分も,その理解を容易にするものとして相応の重要性を有するから,上記認定に係る割合を上回る寄与度を認定するに足りる証拠はない。他方,控訴人らは,本件書籍1中の侵害部分を行数で計算すると8.04頁分にすぎないと主張するが,上記1のとおり,本件著作物は,ほぐしの類型の整理分類,名称,体の動作等の文章化,図面及び写真が一体不可分のものとして創作性を有し,したがって,ほぐしの類型については,類型ごとにまとまった思想が表現されているのであるから,侵害部分を行数で計算すべきであるということはできない。
被控訴人は,本件複製権侵害に係る損害賠償請求の予備的請求の原因として,本件著作物の利用料相当額の損害を主張するが,この趣旨は,現行著作権法114条2項所定の「著作権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」を「自己が受けた損害の額」として主張するものと解される。ところで,著作権法114条2項は,平成13年1月1日に施行された平成12年法律第56号(以下「改正法」という。)により,従前の「通常受けるべき金銭」の「通常」の文言が削られており,また,改正法施行前に行われた侵害行為についても改正法による規定が適用されるべきことは,改正法附則の文言上明らかである。改正法が上記「通常」の文言を削除した趣旨については,改正前の著作権法114条2項所定の「通常受けるべき金銭」を算定するに当たって既存の利用許諾契約における利用料率が参酌されたことに起因する問題点,すなわち,侵害者が適法に利用許諾を受けた者と同額を賠償すれば足りるという,いわゆる「侵害し得」の結果を生ずることを回避するため,「通常」の文言を削ることにより,当該事案の具体的事情を考慮した適正な利用料が認定されることを図ったものと解される(本段落につき,東京高裁平成14年9月6日判決参照)。著作権利用許諾契約における一般的な利用料率がおおむね10%程度であることは,当裁判所に顕著な事実であり,また,著作権侵害訴訟における損害額の算定においては,上記契約により合意される利用料率より高率の利用料率に基づく金銭の額を認定しなければ,適法に著作権利用許諾を受けた者と違法に著作権を侵害した者との間に上記「侵害し得」の結果を生ずるから,これを回避することを目的とする改正法の趣旨に本件事案の諸般の事情を総合考慮すると,本件における被控訴人の「受けるべき金銭の額に相当する額」は,本件書籍1の販売価格に上記寄与度及び利用料率15%を乗じた額と認めるのが相当である。控訴人らは,本件著作物の内容が被控訴人独自のものではなく,既存の「ほぐし」のテクニックをマニュアルの体裁に整えたにすぎないとして,その創作性の幅は狭く利用料率は1%が上限であると主張するが,控訴人らは,学院における授業内容を始めとする,本件著作物に先行する同種著作物の内容について何ら具体的に主張立証をしていないのであって,本件著作物の創作性の幅が狭いと認めることはできない。
(ウ) 損害額
そうすると,本件書籍1については,販売価格である1冊1万円に発行部数1000部を乗じた金額に,寄与度21%及び利用料率15%を乗じた額である31万5000円が,被控訴人の被った損害の額と認められる。