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著作権判例セレクション
【著作権侵害総論】著作権侵害訴訟における「特定性」の問題
▶平成16年3月24日東京地方裁判所[平成14(ワ)28035]▶平成17年10月06日知的財産高等裁判所[平成17(ネ)10049]
(注) 本件は,原告が,①主位的主張)被告は原告の著作物である記事見出しを無断で複製するなどして,原告の著作権を侵害している,②予備的主張)原告の記事見出しに著作物性が認められないとしても,その無断複製などの行為は不法行為を構成する,と主張して,被告に対し,記事見出しの複製等の差止等及び損害賠償を求めた事案である。
[控訴審]
1 著作権侵害を理由とする請求に関する主張のうち,YOL見出しの著作権侵害(複製権侵害,公衆送信権侵害)をいう主張について
(1) 控訴人は,被控訴人によるYOL見出しの著作権侵害行為があった期間につき,平成14年10月8日から平成16年9月30日までの間を主張するものであるところ,平成14年12月8日から平成16年9月30日までの間については当審で追加されたものである。
そして,原判決別紙4「記事見出し対照表」に記載のとおり,平成14年10月8日から同年12月7日までの期間における365個のYOL見出しについては,具体的に主張立証されているものの,上記追加された期間のものについては,具体的なYOL見出しについての主張立証はなく,YOL見出し一般に著作物性があるとする主張に含まれているものと解される。
(略)
(3) 控訴人は,当審において,平成14年12月8日から平成16年9月30日までのYOL見出しの著作権侵害についても追加して主張する。
(3-1) 検討するに,著作権侵害に基づく差止請求や損害賠償請求をするためには,請求する側において,侵害された著作物を特定した上,著作物として保護されるための創作性の要件を具備することを主張立証することが必要であり,特に,本件では,被控訴人が上記期間におけるYOL見出しの著作物性を否認しているのであるから,控訴人としては,上記期間における個々のYOL見出しについて,YOL見出しの表現を具体的に特定し,それに創作性があることを主張立証すべきである。
しかし,控訴人は,上記期間のYOL見出しについては,どのような表現,内容のものであったのかさえ明らかにせず,上記主張立証をしていない。したがって,上記期間におけるYOL見出しの著作権侵害をいう控訴人の主張は,主張自体失当であるというべきである(著作権侵害を裏付ける事実を認めるに足りる証拠もない。)。
(3-2) ところで,控訴人は,前掲のとおり,YOL見出しにはすべてにおいて創意工夫が施されており,そこに作成者の個性が表現されているのであるから,YOL見出し一般に著作物性が認められるべきであると主張する。したがって,控訴人は,この点を前提に,上記期間のYOL見出しの著作権侵害を主張するものとも解される。
しかし,前判示のとおり,ニュース報道における記事見出しは,その表現いかんでは,創作性を肯定し得る余地もないではないのではあるが,一般には,著作物性が肯定されることは必ずしも容易ではないものと考えられるのであり,結局は,個々の記事見出しの表現を検討して,創作的表現であるといえるか否かを判断すべきものであって,およそYOL見出し一般に著作物性が認められるべきであるとの控訴人の主張は,直ちに採用し難いというほかない。
そこで,YOL見出しを個別具体的に検討すると,既に前記(2)で判示したように,控訴人が特に強調したYOL見出し①~⑥を含め,平成14年10月8日から同年12月7日までの365個のYOL見出しのすべてについて,その表現が著作物として保護されるための創作性を有するとは認められない。特に,「Fさまご逝去,47歳」とのYOL見出しは,いわゆる死亡記事として誰が書いても同じような見出しの表現にならざるを得ないものである。このように,控訴人の主張するYOL見出しには,現に上記のような創作性を認め得ない多くの見出しを含むものである。
そうすると,YOL見出しの性質や作成過程等について控訴人が種々主張するところを考慮しても,控訴人作成のYOL見出しについて一般的に著作物性が認められると断ずることはできない(後に判示するように,控訴人が多大の労力,費用をかけて取材し,記事を作成し,YOL見出しの作成に至っているからといって,そのことゆえに,当然にすべてのYOL見出しに創作性があるというべきことにはならない。)。
よって,この観点からしても,平成14年12月8日から平成16年9月30日までのYOL見出しの著作権侵害をいう控訴人の主張は,理由がないというべきである。
2 著作権侵害を理由とする請求に関する主張のうち,YOL記事の複製権侵害をいう主張について
(1) 控訴人は,平成14年10月8日から平成16年9月30日までの間のYOL記事の複製権侵害を主張するものである。
ところで,著作権侵害に基づく差止請求や損害賠償請求をするためには,請求する側において,侵害された著作物を特定した上,著作物として保護されるための創作性の要件を具備することを主張立証することが必要であることは,前判示のとおりである。なお,被控訴人は,控訴人によるYOL記事の複製権侵害の主張につき,時機に後れた攻撃防御方法であるとして却下を求めるとともに,その主張を争っている。そうである以上,控訴人としては,YOL記事における表現内容を示した上で,創作性を有することを基礎付ける事実を主張立証すべきである。
(2) そこで,YOL記事に関する主張立証をみるに,平成14年10月8日から同年12月7日までの間のYOL記事については,原審において証拠として提出されているが,同年12月8日から平成16年9月30日までの間のYOL記事については,その内容を示す証拠は提出されていない。そして,そもそも,控訴人は,証拠が提出されているYOL記事の分を含め,YOL記事における表現が創作性を有することを基礎付ける事実を何ら主張していない(特に,証拠も提出されていない期間のYOL記事は,どのような内容であったかすら,本訴で明らかにされていない。)。
したがって,控訴人のYOL記事の複製権侵害に基づく請求は,それを根拠付ける要件についての主張を欠くものであって,主張自体失当であるというべきである。