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著作権判例セレクション

【一般不法行為】ニュースの見出しは法的保護に値する利益となり得る、と認定した事例

▶平成16324日東京地方裁判所[平成14()28035]▶平成171006日知的財産高等裁判所[平成17()10049]
() 本件は,原告が,①主位的主張)被告は原告の著作物である記事見出しを無断で複製するなどして,原告の著作権を侵害している,②予備的主張)原告の記事見出しに著作物性が認められないとしても,その無断複製などの行為は不法行為を構成する,と主張して,被告に対し,記事見出しの複製等の差止等及び損害賠償を求めた事案である。

2 不法行為の成否について
原告は,YOL見出しが著作物と認められないとしても,YOL見出しを複製する等の被告の行為は,不法行為を構成する旨主張する。
しかし,YOL見出しは,原告自身がインターネット上で無償で公開した情報であり,前記のとおり,著作権法等によって,原告に排他的な権利が認められない以上,第三者がこれらを利用することは,本来自由であるといえる。不正に自らの利益を図る目的により利用した場合あるいは原告に損害を加える目的により利用した場合など特段の事情のない限り,インターネット上に公開された情報を利用することが違法となることはない。そして,本件全証拠によるも,被告の行為が,このような不正な利益を図ったり,損害を加えたりする目的で行われた行為と評価される特段の事情が存在すると認めることはできない。したがって,被告の行為は,不法行為を構成しない。原告のこの点についての主張は理由がない。

[控訴審]
3 不正競争防止法違反を理由とする請求について
不正競争防止法2条1項3号における「商品の形態」とは,需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感であると解するのが相当である(平成17年6月22日成立の平成17年法律第75号「不正競争防止法等の一部を改正する法律」は,上記と同旨の定義規定を設けた。本件に同改正法が適用されるものではないが,上記改正は,従来の判例などにより一般に受け入れられた解釈に基づいて規定を明確化したものと解されるので(産業構造審議会知的財産政策部会不正競争防止小委員会「不正競争防止法の見直しの方向性について」平成17年1月),改正前の法律の解釈としても相当なものである。)。
そうすると,仮に,YOL見出しを模倣したとしても,不正競争防止法2条1項3号における「商品の形態」を模倣したことには該当しないものというべきであって,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の不正競争防止法違反を理由とする本訴請求は,理由がない。
4 不法行為を理由とする請求について
(1) 被控訴人の運営するウェブサイトの概要,被控訴人ライントピックスサービスの手順,被控訴人ウェブサイトでの表示,「Yahoo!ニュース」の記事見出しの内容等については,既に引用した原判決のとおりである。
以上に加え,証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
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(2) 不法行為(民法709条)が成立するためには,必ずしも著作権など法律に定められた厳密な意味での権利が侵害された場合に限らず,法的保護に値する利益が違法に侵害がされた場合であれば不法行為が成立するものと解すべきである。
インターネットにおいては,大量の情報が高速度で伝達され,これにアクセスする者に対して多大の恩恵を与えていることは周知の事実である。しかし,価値のある情報は,何らの労力を要することなく当然のようにインターネット上に存在するものでないことはいうまでもないところであって,情報を収集・処理し,これをインターネット上に開示する者がいるからこそ,インターネット上に大量の情報が存在し得るのである。そして,ニュース報道における情報は,控訴人ら報道機関による多大の労力,費用をかけた取材,原稿作成,編集,見出し作成などの一連の日々の活動があるからこそ,インターネット上の有用な情報となり得るものである。
そこで,検討するに,前認定の事実,とりわけ,本件YOL見出しは,控訴人の多大の労力,費用をかけた報道機関としての一連の活動が結実したものといえること,著作権法による保護の下にあるとまでは認められないものの,相応の苦労・工夫により作成されたものであって,簡潔な表現により,それ自体から報道される事件等のニュースの概要について一応の理解ができるようになっていること,YOL見出しのみでも有料での取引対象とされるなど独立した価値を有するものとして扱われている実情があることなどに照らせば,YOL見出しは,法的保護に値する利益となり得るものというべきである。一方,前認定の事実によれば,被控訴人は,控訴人に無断で,営利の目的をもって,かつ,反復継続して,しかも,YOL見出しが作成されて間もないいわば情報の鮮度が高い時期に,YOL見出し及びYOL記事に依拠して,特段の労力を要することもなくこれらをデッドコピーないし実質的にデッドコピーしてLTリンク見出しを作成し,これらを自らのホームページ上のLT表示部分のみならず,2万サイト程度にも及ぶ設置登録ユーザのホームページ上のLT表示部分に表示させるなど,実質的にLTリンク見出しを配信しているものであって,このようなライントピックスサービスが控訴人のYOL見出しに関する業務と競合する面があることも否定できないものである。
そうすると,被控訴人のライントピックスサービスとしての一連の行為は,社会的に許容される限度を越えたものであって,控訴人の法的保護に値する利益を違法に侵害したものとして不法行為を構成するものというべきである。
(3) 損害についてみるに,控訴人が被控訴人に対し請求し得る損害は,被控訴人が無断でYOL見出しを使用したことによって控訴人に生じた損害である。
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以上のように,控訴人には被控訴人の侵害行為によって損害が生じたことが認められるものの,使用料について適正な市場相場が十分に形成されていない状況の現状では,損害の正確な額を立証することは極めて困難であるといわざるを得ない。
そうであってみると,民訴法248条の趣旨に徴し,一応求められた上記損害額を参考に,前記認定の事実及び弁論の全趣旨を勘案し,被控訴人の侵害行為によって控訴人に生じた損害額を求めると,損害額は1か月につき1万円であると認めるのが相当である。
そうすると,控訴人に生じた損害額は,侵害期間が23か月24日間で,1か月につき1万円であるから,23万7741円(1万円×(23+24/31))であるということができる。
(b) 控訴人は,無形的損害として1000万円を主張するが,本件全証拠によっても,被控訴人の前記行為に起因して,控訴人の社会的信用及び信頼並びに報道機関としての公平性,中立性に関する評価などが毀損されたことを認めるには足りない。よって,控訴人の無形的損害の請求は理由がない。
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(d) 以上のとおりであるから,認容されるべき損害額は,23万7741円である。
(4) 不法行為に基づく差止請求について検討する。
一般に不法行為に対する被害者の救済としては,損害賠償請求が予定され,差止請求は想定されていない。本件において,差止請求を認めるべき事情があるかを検討しても,前認定の本件をめぐる事情に照らせば,被控訴人の将来にわたる行為を差し止めなければ,損害賠償では回復し得ないような深刻な事態を招来するものとは認められず,本件全証拠によっても,これを肯認すべき事情を見いだすことはできない。
よって,控訴人の不法行為に基づく差止請求は理由がないというほかない。