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著作権判例セレクション
【同一性保持権】同一性保持権の侵害事例(ペンギンの画像がトリミングされた事例)
▶令和元年5月31日東京地方裁判所[平成30(ワ)32055]▶令和元年12月26日知的財産高等裁判所[令和1(ネ)10048]
(注) 本件は,原告が,被告は,原告の著作物である別紙記載の写真(「本件写真」)の画像データを無断で改変の上,2度にわたりオンライン・カラオケサービスのアカウントのプロフィール画像に設定して原告の著作権(複製権及び自動公衆送信権)並びに著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)を侵害して原告に損害を与えたなどと主張して,被告に対し,民法709条,著作権法114条3項に基づき,損害賠償金等の支払を求めた事案である。
2 争点1(被告が原告の著作権及び著作者人格権を侵害したか)について
【(1) 著作物の複製(著作権法21条,2条1項15号)とは,著作物に依拠して,その表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを有形的に再製する行為をいい,著作物の全部ではなく,その一部を有形的に再製する場合であっても,当該部分に創作的な表現が含まれており,独立した著作物性が認められるのであれば,複製に該当するものと解される。
前記の認定事実によれば,本件写真(別紙写真目録記載の写真)は,1審原告が2羽のペンギンが前後(写真上は左右)に並んで歩いている様子を構図,陰影,画角及び焦点位置等に工夫を凝らし,シャッターチャンスを捉えて撮影したものであり,1審原告の個性が表現されているものと認められるから,創作性があり,1審原告を著作者とする写真の著作物(同法10条1項8号)に当たるものと認められる。
また,本件写真の2羽のペンギンのうち,右側のペンギンのみを被写体とする部分は,著作物である本件写真の一部であるが,当該部分にも構図,陰影,画角及び焦点位置等の点において,1審原告の個性が表現されているものと認められるから,創作性があり,独立した著作物性があるものと認められる。同様に,本件写真の2羽のペンギンのうち,左側のペンギンのみを被写体とする部分は,著作物である本件写真の一部であるが,1審原告の個性が表現されているものと認められるから,創作性があり,独立した著作物性があるものと認められる。
しかるところ,前記の認定事実によれば,1審被告は,平成28年1月7日頃,1審原告が本件写真を画像データ化した原告画像をインターネットのウェブサイトからダウンロードし,同日頃には,原告画像の2羽のペンギンのうち,右側のペンギン及びその背景のみを切り出すトリミング処理をし,原告画像に存在した原告氏名表示を削除した上で,当該画像データを本件サービスの被告アカウントのプロフィール画像として使用するためにアップロードし,同年2月18日頃には,原告画像の2羽のペンギンのうち,左側のペンギン及びその背景のみを切り出すトリミング処理をし,原告画像に存在した原告氏名表示を削除した上で,当該各画像データを本件サービスの被告アカウントのプロフィール画像として使用するためにアップロードし,これらのアップロードにより,被告各画像の画像データは,URLが付された状態でSmule社が使用する米国のサーバ内に格納されて,本件写真の一部が有形的に再製され,送信可能化されたものと認められるから,1審被告の上記各行為(行為1及び2)は,それぞれが,1審原告の有する本件写真の複製権及び公衆送信権の侵害に当たるとともに,1審原告の氏名表示権及び同一性保持権の侵害に当たるものと認められる。】
そして,被告は,インターネット上に存在していた原告画像が自由に利用し得るものであるか否かの確認をせずにこれを利用したのであるから,上記著作権及び著作者人格権侵害につき,少なくとも過失がある。
(2) 被告の主張について
ア 被告は,ペンギンの画像を被告プロフィール画像としてアップロードしたのは1回のみであるし,その画像は原告画像とは異なると主張する。
しかし,被告プロフィール画像1と2とを対比すれば,両画像が別のペンギンの画像であることは明らかであり,また,原告画像と被告プロフィール画像1及び2を対比すれば,後者の各画像が前者の一部であることは明らかであるから,ペンギンの画像を被告プロフィール画像としてアップロードしたのは1回のみであるとの被告主張は採用し得ない。
イ 被告は,【被告プロフィール画像1及び2に用いた画像は既に1羽ずつのペンギンの画像に加工された状態で】インターネット上に存在していたのであって,被告が原告画像のトリミングをしておらず,原告画像に依拠して複製を行ったものではないと主張する。
しかし,被告が【被告プロフィール画像1及び2に使用する画像】をアップロードするより前に原告画像を加工した画像がインターネット上に存在していたと認めるに足りる証拠はなく,被告プロフィール画像1及び2に写っているのが原告画像に写った左右それぞれのペンギンであることに照らすと,被告は,原告画像をダウンロードした上で,加工をしたと考えるのが合理的かつ自然である。
【これに対し1審被告は,1審原告は,原告画像に関して本件と同様の訴訟を複数提起し,例えば,(証拠)の2件の判決においては,「氏名不詳者」が,原告画像をトリミングした画像のデータをサーバ上にアップロードすることによって,不特定多数の者が閲覧できる状態に置いたことなどが認定されており,これらの判決は,1審被告が被告プロフィール画像1及び2をアップロードするより前に原告画像を加工した画像がインターネット上に存在していたことを裏付ける証拠である旨主張する。
しかしながら,証拠及び弁論の全趣旨によれば,1審被告が指摘する(証拠)の判決(札幌地方裁判所平成30年6月15日判決(平成28年(ワ)第2097号))及び(証拠)の判決(札幌地方裁判所平成30年5月18日判決(平成28年(ワ)第2097号))において認定されたアップロードされた原告画像の加工画像は,いずれも2羽のペンギンを被写体とするものであって,1羽のペンギンのみを被写体とする被告プロフィール画像1及び2,被告各画像とはペンギンの数が異なるものと認められるから,(証拠)の2件の判決は,被告プロフィール画像1及び2,被告各画像と同様にトリミングされた画像データが被告プロフィール画像1及び2のアップロード前にインターネット上に存在していたことを裏付けるものではない。
したがって,1審被告の上記主張は採用することができない。】
ウ 被告は,【被告プロフィール画像1及び2】が小さく表示され,画質も粗い上,被告プロフィール画像のペンギンは1羽にすぎないのであるから,本件写真の表現上の本質的特徴を感得することができず,また,被告の各侵害行為は複製に当たらないと主張をする。
【しかしながら,前記(1)認定のとおり,本件写真の2羽のペンギンのうち,右側のペンギンのみを被写体とする部分及び左側のペンギンのみを被写体とする部分は,それぞれ著作物である本件写真の一部であるが,当該部分にも構図,陰影,画角及び焦点位置等の点において,1審原告の個性が表現されているものと認められるから,創作性があり,独立した著作物性があるものと認められる。
そして,被告プロフィール画像1に対応する被告画像1ないし4は,原告画像の画像上右側の1羽のペンギンをその背景とともに切り出したものであり,被告プロフィール画像2に対応する被告画像5ないし8は,原告画像の画像上左側の1羽のペンギンをその背景とともに切り出したものであることに照らすと,上記各画像から本件写真の上記各部分の本質的特徴を感得できるものと認められる。また,被告プロフィール画像1及び2として表示される画像の画質が粗いため,本件写真の上記各部分の本質的特徴を感得することができないとはいえない。
したがって,1審被告の上記主張は採用することができない。】
エ 被告は,Smule社がインラインリンクの切断措置をした後はURLを直接入力しなければ被告画像1~4を閲覧できない状態となったのであり,不特定又は多数人がこれらに係るURLを入手することは容易でなく,被告もこれを拡散する行為を【行っておらず,十分な長さと複雑さを有する被告画像1ないし4のURLを一般公衆が直接ウェブブラウザに入力して被告画像1ないし4のデータを受信することはおよそ考えられないから】,同措置後は公衆送信権の侵害は解消された旨の主張をする。
しかし,【一般人が被告画像1ないし4のURLを入力することが困難であるということはできず,】同措置後も少なくともURLを直接入力しさえすれば,自動公衆送信が行われて誰でも被告画像1~4を閲覧し得る状態が継続していたのであるから,同措置後にも公衆送信権の侵害状態は継続していたものというべきである。
【(3) 以上によれば,1審被告の行為1及び2は,それぞれが,1審原告の有する本件写真に係る著作権(複製権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)の侵害行為に当たるものであって,その侵害について,1審被告には少なくとも過失があったものと認められるから,1審被告は,1審原告に対し,民法709条に基づき,上記各行為により1審原告が被った損害を賠償する責任を負う。】
3 争点2(原告の損害額)について
【(1) 著作権法114条3項に基づく損害額について】
(略)
【(4) 著作者人格権侵害に係る慰謝料について】
被告は,【2羽のペンギンを被写体とする本件写真を電子データ化した原告画像】から1羽のペンギンのみをトリミングしてアップロードし,被告プロフィール画像1が表示されなくなると,再び同様のアップロードをして,原告の氏名表示権及び同一性保持権を侵害したものであって,【改変の程度も大きいことに照らすと,】被告の各侵害行為は,原告に精神的苦痛を与えるものであり,当該画像が被告プロフィール画像として表示されていた期間も,前記のとおり,2年7か月余に及ぶ。
他方,被告は,営利目的で原告画像を用いたわけではなく,被告プロフィール画像を被告アカウントページに掲載することにより,原告のフランドが毀損されたとまでは認められないことは,前記判示のとおりである。
【その他,1審被告が自己の住所及び氏名を1審原告に自ら開示した経緯等】本件に現れた一切の事情を考慮すると,被告による著作者人格権侵害に基づく原告の慰謝料額としては,【10万円(氏名表示権侵害に係る分4万円及び同一性保持権侵害に係る分6万円の合計額)】を認めるのが相当である。