Kaneda Legal Service {top}
著作権判例セレクション
【同一性保持権】コラム記事のタイトルの変更につき、同一性保持権の侵害を認定した事例
▶平成27年6月25日東京地方裁判所[平成26(ワ)19866]
(注) 本件は,別紙記載の各写真(「本件各写真」)及び同各コラム(「本件各コラム」)の著作者と主張する原告が,被告に対し,被告が本件各写真をパンフレット及びウェブサイトに掲載したことが原告の著作権(複製権及び送信可能化権)の侵害に当たるとして,不法行為による所定の損害賠償金(使用料相当額)の支払を求め,被告が本件各コラムに付されていたタイトルを変更したことが原告の著作者人格権(同一性保持権)の侵害に当たるとして,不法行為による所定の損害賠償金(慰謝料)の支払を求めるとともに,著作権法115条に基づき謝罪広告の掲載を求めた事案である。
(タイトルの変更状況の例)
※目録18:「恋の持続力と気温の関係」→「恋の持続力」
※目録19:「男女で異なる恋愛疲れ」→「男女の恋愛疲れ」
※目録20:「玉の輿を引き寄せるには…」→「玉の輿に乗る方法」
※目録25:「恋愛の大掃除をする方法」→「恋愛をやめる方法は?」
1 争点(1)(本件写真5~17の著作物性及び著作者)について
(略)
(3)次に,本件写真5~17の著作者についてみるに,これらを撮影したのは原告であるから,原告がその著作者であると認められる。
これに対し,被告は,これらの写真は原告が本件会社の業務として,被告の補助者的立場で撮影したものであるから,原告が著作者であるとはいえない旨主張する。しかし,原告は本件会社の従業員ではなく,本件において職務著作の規定を適用すべき事情は見当たらない。また,被告主張によっても,被告は原告に対し,イベント会場の様子を適当に撮っておいてほしいという程度の依頼しかしていないというのであり,撮影対象の選定,構図の決定等は全て原告の判断で行われたことは前記(1)認定のとおりであるから,原告が本件写真5~17の撮影に当たり被告の補助者的な立場にあったとは認められない。したがって,被告の主張を採用することはできない。
2 争点(2)(同一性保持権侵害の有無)について
(1)前記争いのない事実等に加え,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(略)
(2)上記認定事実によれば,本件各コラムは,文章部分を主,グラフ部分を従とするウェブサイト上の記事であり,文章部分を執筆した原告が著作者であると認めることができる。そして,前記前提事実によれば,被告によるタイトルの変更が原告の意に反していることは明らかであるから,被告の行為は,著作物の題号を著作者の意に反して改変したものとして,原告の同一性保持権侵害に当たる(著作権法20条1項)と判断すべきである。
なお,本件各コラムの上記作成過程に照らし,被告がその表現に創作的関与をしたと認めることができるとしても,原告は共同著作物の著作者となるから,被告が原告の意に反してそのタイトルを変更することはできないと解される。
(3)これに対し,被告は,原告の被告に対する平成25年8月5日付けメールの中に「アクセスがあんまりなかったら被告が好きなようにタイトル変えてみるとか?」という趣旨の記載があることを指摘して,原告が被告によるタイトルの改変を許容していた旨主張するが,当該メールは,本件顧問契約の期間中のタイトル変更に言及するものにとどまり,その終了後のタイトル変更を正当化する根拠となるものではない。したがって,被告の上記主張は失当である。
3 争点(3)ア(著作権侵害による原告の損害額)について
(略)
(4)上記事実関係に基づき,本件における使用料相当損害金の額についてみるに,本件写真1~4は,その用途,画質等に照らし,1枚当たり1万円とするのが相当である。一方,本件写真5~17については,撮影目的及び被写体の性質上本件会社のウェブサイトへの掲載以外の使途がないことといった事情に鑑み,1枚当たり5000円とするのが相当と解される。
そうすると,著作権侵害による原告の損害は,合計10万5000円(1万円×4+5000円×13)であると認められる。
4 争点(3)イ(著作者人格権侵害による原告の損害額)について
原告は,同一性保持権侵害に係る慰謝料の額は100万円が相当であると主張する。
そこで判断するに,前記のとおり,被告が本件各コラムのタイトルを変更したのは,本件顧問契約が被告による顧問料不払等を理由に解約され,原告から本件各コラムを削除するよう要求された後のことであり,被告の行為は軽率かつ不適切とのそしりを免れない。しかし,変更の具体的内容は別紙タイトル変更状況のとおりであり,変更後の各タイトルは特段不適切な表現ではない上,従前のタイトルと全く異なっているというものではない。これに加え,前記のとおり,変更前のタイトルが原告の提案に被告が修正を取り入れたものであったことなど本件の諸事情に鑑みると,同一性保持権侵害による慰謝料の額は10万円と認めるのが相当である。
5 争点(4)(謝罪広告の要否)について
原告は,名誉回復措置としての謝罪広告の掲載を求めているところ,本件において原告が主張する著作者人格権侵害は本件各コラムのタイトルを変更した行為のみであり,変更の程度が小さなものであることは上記4で指摘したとおりである。そして,このような変更により原告の社会的な評価ないし声望が害されていることをうかがわせる証拠はないから,謝罪広告の掲載を求める請求は理由がない。
なお,原告は,著作権侵害をも理由として謝罪広告の掲載を求めるようであるが,謝罪広告掲載請求は著作者人格権侵害のみがその根拠となるから(著作権法115条参照),原告の主張は失当である。