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著作権判例セレクション
【コンテンツ契約紛争事例】グラブ浚渫施工管理システムに関するプログラムの著作権の帰属等が争点となった事例
▶平成19年07月26日大阪地方裁判所[平成16(ワ)11546]
(注) 本件は,原告が,被告に対し,①主位的に,グラブ浚渫施工管理システムに関するプログラムを作成した者から,そのプログラムの著作権を譲り受けたとして,同プログラムの著作権に基づき著作権法112条1項により,予備的に,上記プログラム作成者・被告間の上記プログラムの複製販売の許諾契約に基づき,プログラムの複製,販売の差止めを求め,②主位的に,上記プログラム作成者から債権譲渡された上記プログラムの著作権侵害による損害賠償を求め,予備的に,上記複製販売許諾契約に基づき,上記プログラム作成者から債権譲渡された上記プログラムの複製,販売の許諾料の支払を求め,③別のソフトについて,原告・被告間のソフトの開発ないし改造等の請負契約に基づき,未払代金の支払を求めた事案である。
(前提事実)
〇 原告は,主としてコンピュータソフトの開発,販売,リース等を業とする会社で,代表取締役はAであり,平成15年6月26日に設立された。原告が設立される以前は,Aが個人で「日本システム設計」という屋号でコンピュータソフトの開発等を行っていた。
〇 被告は,業務用ナビゲーションシステムの開発,製造,販売,リース等を業とする会社で,現在の代表取締役はBであり,平成12年8月16日に有限会社として設立された後,株式会社となった。
〇 橘高工学は,業務用ナビゲーションシステムの開発,製造,販売,リース等を業とし,Bが代表取締役を務める会社であった。橘高工学は,平成12年5月22日に1回目の不渡りを出し,同月25日に2回目の不渡りを出して,同年6月15日午後0時,大阪地方裁判所において破産宣告を受けた。なお,Bも,同年7月6日午前10時50分,奈良地方裁判所葛城支部において破産宣告を受けた。
〇 橘高工学は,Aにグラブ浚渫施工管理システムに関するプログラムの作成を発注し,Aは,平成2年11月ころ,グラブ浚渫施工管理プログラムver1.00 MS-DOS C言語版(以下「GDX 等」という。)を完成させた。
〇 Aは,平成8年8月ころ,橘高工学の依頼を受けて,GPS装置からの通信処理を追加したGPS対応グラブ浚渫施工管理プログラム GNX MS-DOSC言語版を作成した(以下「GNX」という。)。
〇 Aは,平成9年5月,喫水計を追加した GPS対応グラブ浚渫施工管理プログラム G1Xver1.20 MS-DOS C言語版(以下「G1Xver1.20」という。)を完成させ,平成11年5月,GPS対応グラブ浚渫施工管理プログラムG1Xver2.00 MS-DOS C言語版(以下「G1Xver2.00」といい,他の G1X についても同様にバージョン名でいう。また,GDX等,GNX,G1Xver1.からG1Xver2.00 までを併せて「G1X
MS-DOS版」という。)にバージョンアップした。上記の各プログラムは,マルチタスク・リアルタイム・モニター(以下「RTM」という。)のもとで作動するものであった。RTM は,Aが平成5年に独自に開発した一種のOSであり,そのプログラムの著作権はAに帰属する(争いがない)。
〇 G1X MS-DOS版は,位置決めプログラムを前提とするプログラムであるが,その創作性については,争いがある。
〇 Aは,平成10年ないし11年ころ,G1X
MS-DOS版をWindows版に変更したプログラムである GPS対応グラブ浚渫施工管理プログラム G1W Windows Visual Basic版(以下「G1W」という。)を作成した。
〇 Aは,GPS応グラブ浚渫施工管理プログラム G1Xver3.00 Windows VisualC++版(以下「G1Xver3.00」という。)を作成した(完成の時期については争いがある。)。
〇 Aは,被告から,G1Xver3.00 のバージョンアップを依頼され,次の各プログラムを作成した(以下,G1Xver3.0に下記の各プログラムを併せて「本件プログラム」という。また,位置決めプログラム,G1X MS-DOS版,G1Wを併せて「本件前プログラム」という。)。本件プログラムは,いずれもバージョンによる細かな違いはあるものの,著作物としては同一のプログラムである。
(ア ) GPS対応グラブ浚渫施工管理プログラム G1X ver5.24 Windows VisualC++版(以下「G1Xver5.24」という。)
(イ ) GPS対応グラブ浚渫施工管理プログラム G1X ver5.40 Windows VisualC++版(以下「G1Xver5.40」という。)
(ウ ) GPS対応グラブ浚渫施工管理プログラム G1X ver5.50 Windows VisualC++版(以下「G1Xver5.50」という。)
(エ ) GPS対応グラブ浚渫施工管理プログラム G1X ver5.60 Windows VisualC++版(以下「G1Xver5.60」という。)
(オ) GPS対応グラブ浚渫施工管理プログラム G1X ver5.70 Windows VisualC++版(以下「G1Xver5.70」という。)
〇 本件プログラムは,少なくともG1X MS-DOS版を前提とするプログラムであるが,その創作性については,争いがある。
1 著作権に基づく請求についての争点の整理と判断の順序
本件においては,船体位置決めプログラムを前提として,G1X MS-DOS版,本件プログラムという順番で,プログラムが順次作成されているところ,著作物性に関しては,船体位置決めプログラムの著作物性は争いがなく,G1X MS-DOS版及び本件プログラムの著作物性は争いがある。他方,プログラムの著作権の帰属については,船体位置決めプログラム,G1X MS-DOS版,本件プログラムのいずれについても争いがある。
したがって,①本件プログラムが著作物であり,その著作権は原告に帰属する,②仮に,本件プログラムがG1X MS-DOS版の複製であって著作物性がないとしても,G1X MS-DOS版が著作物であり,その著作権は原告に帰属する,③仮に,G1XMS-DOS版が船体位置決めプログラムの複製であって著作物性がないとしても,船体位置決めプログラムの著作権が原告に帰属する,のいずれかが認められれば,原告は,本件プログラムの複製販売の差止めを求めたり,同プログラムの著作権侵害による損害賠償請求をすることができる。
もっとも,上記①(本件プログラムが著作物であり,その著作権は原告に帰属する)が認められたとしても,それが二次的著作物であって,原著作物に付加された部分が小さい場合などには,原著作物の著作権の所在も,損害額の認定において相当額の決定に影響を与える。
そこで,本件では,まず,本件前プログラム及び本件プログラムをめぐる事実経過(後記2)について認定した後に,時系列の順序に従って,G1X MS-DOS版の創作性の有無(後記3),本件前プログラムの帰属(後記4)について判断し,次に本件プログラムの創作性の有無(後記5),本件プログラムの帰属(後記6)について判断し,これらの判断を前提として,損害額について判断する(後記9)。
2 本件前プログラム及び本件プログラムをめぐる事実経過
(略)
3 G1X MS-DOS版の創作性の有無
(1) 前記前提となる事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる(争いのない事実及び前記2で認定した事実も含む)。
(略)
(2) G1X MS-DOS版の創作性の有無
以上のとおり,グラブ浚渫施工管理システムは,船体位置決めの機能を担う部分についても,それ以前の位置決めシステムと比較して,処理内容が,重機に備え付けられたセンサーからのデータ(旋回角計,ジブ角計,深度計)等を計測し,これらのデータとあらかじめ入力された船体の寸法データに基づいて演算処理をして,船体の位置情報及びグラブバケットの位置情報を計算する方法と光波計による方法とを一体化して全体として船体位置決めをするというように相当複雑になっており,各プログラムの画面においても共通性が乏しい。
これに加えて,G1X MS-DOS版が位置決めプログラムに用いられていたN88BASICやQuickBASICとは言語体系が全く異なるC言語で記載されていることからすれば,G1X MS-DOS版は,プログラムの表現方法に選択の幅が十分にあるうちから作成者が選択したものであって,作成者の個性が表れているものと認められる。
また,新規追加された堀跡管理機能も,GDX等の浚渫管理メニュー画面をみると,「工区メッシュ設定」「潮位設定」「浚渫作業」「工区座標の設定」「仕掛りデータの編集」「出来高データの編集」等といった項目があり,新規追加された堀跡管理機能の処理部分の内容の複雑さ及びそれらの処理に必要と推測されるプログラムの量からすれば,そのプログラムの表現方法には選択の幅が十分にあり,その中から作成者が選択した表現であって,作成者の個性が表れているものと認められる。
なお,G1X MS-DOS版は,平成2年のGDX等の作成以降,モジュール数が増加し,機能も追加されているが,これらの各プログラムはいずれもG1X MS-DOS版の他のバージョンからの複製又は翻案にすぎないものと認められる。
以上より,G1X MS-DOS版(GDX 等から G1Xver2.00 まで)は,位置決めプログラムと同一の著作物ではなく,少なくとも,位置決めプログラムを原著作物とする二次的著作物であるということができる。
なお,G1Xver1.20ないし G1Xver2.00は,RTM のもとで作動するものであり,RTM は,Aに著作権が帰属する著作物であるが,それ自体はOSであって,G1Xver1.20等とは別個の著作物であることはいうまでもない。
(3) 被告の主張について
被告は,G1X MS-DOS版は,RTMを除くと,位置決めプログラムに付加的な変更を加えたものにすぎず,その内容は,①従前は堀跡管理について深度認識スイッチを押すことで堀跡が画面上に表示されたが,新たに深度信号を自動で取り込み,その深度に伴う色づけを行うように変更した,②従前は方位角表現を本船の絵に基づく捻れ角表現をしていたのを,新たにインジケーター表現に変更した,③メインメニュー画面の項目を増やし見やすくしたというものであるから,独自の創作性はないと主張する。
しかし,前記(1)(2)で認定したとおり,位置決めプログラムとGDX等を比較すると,被告が主張するように,単に画面表示を変更して使いやすくしただけの相違ではないことは明らかであるから,被告の主張は採用できない。
4 本件前プログラムの著作権の帰属について
(1) G1X MS-DOS 版の著作権の帰属
ア G1X MS-DOS 版の開発経緯及びその後の事情
(略)
イ G1X MS-DOS 版の著作権の帰属
(ア) 著作権譲渡の対価の支払の有無について
プログラムの著作権を譲渡する場合,当然のことながら,譲渡後は,譲渡人は同プログラムの著作権(著作者人格権を除く)に関して何らの権利も有さなくなるのであって,同著作権に係る著作物を自らも複製・頒布・翻案することができない上,第三者が同著作物を複製等しても,同著作権に基づく差止請求,損害賠償請求をすることもできなくなる。他方,譲受人は,同著作物を複製・頒布・翻案することができるし,第三者(譲渡人も含む)による同著作物の複製等に対して,同著作権に基づく差止請求や損害賠償請求をすることができる。
このように,著作権を譲渡するということは,著作権法21条ないし28条が規定する著作者の権利を全て譲渡するということであり,対象となる著作物の経済的価値が大きければ大きいほど,譲渡する著作権の対価も高額なものとなるのは当然である。そして,著作物の経済的価値の大小については,同著作物の複製物が販売されている場合は,その販売価格の多寡が参考となる。
本件において,G1X MS-DOS版の著作権の譲渡の対価であると評価することができる程度の額の金銭の授受の有無について検討すると,GDX等の開発から G1Xシリーズの開発ないし修正に至るまで,例えば,GDX等の複製物が少なくとも一船分200万円ないし300万円で販売されていることに見合うような著作権譲渡の対価が,著作権の譲渡時に授受されたと認めるに足りる証拠はない。
むしろ,G1X MS-DOS版については,GDX等の複製物が一船分200万円ないし300万円で販売されるものについて,Aは,システムを導入する作業船に併せてプログラムを修正し,複製物が作業船所有者に納品,販売される際に,一船につき70万円ないし90万円等の報酬を受領していたというものであった。このことからすると,G1X MS-DOS版に関してAに支払われた対価は,著作権の譲渡代金ではなかったと思われる。
(イ) ソースプログラムの提出について
Aは,G1X MS-DOS版のソースプログラムを橘高工学に提出し,現場で修正が必要な場合に備えて,G1X MS-DOS版のソースプログラムを納入時に納入先のコンピュータのハードディスクに記憶させている。
しかし,Bの説明によっても,これは,平成5年ころ,今後の仕事がなくなるのではないかと心配するAに対し,Bが,①今後の注文もAに回すことを約束し,②橘高工学が依頼してAが作成したプログラムはもともと橘高工学に帰属するから,ソースプログラムを提出するのは当り前である,③納品した製品のメンテナンスにソースプログラムは必要であると説得した結果であるというのである。
そうすると,上記のBの説明は,Aが,ソースプログラムを開示すると,橘高工学にとってそのソースプログラムに基づく G1X MS-DOS版の修正(複製の範囲内に止まる修正と翻案となる修正の両方を含む)が可能となるため,これを恐れてソースプログラムを提出しなかったのに対し,橘高工学が,Aのプログラムを他人に利用されない権利(複製の範囲で修正する権利及び翻案権)を尊重することを約束した趣旨であるように解される。
なお,その際,Bは,「橘高工学が依頼してAが作成したプログラムはもともと橘高工学に帰属する」と説明したというのであるが,これは,当該特定のバージョンの複製物の所有権ないしこれに伴う権利(デッドコピーすることの許諾も問題となるが,平成5年ころは,特定のバージョンをデッドコピーして他の船に使用することはできなかったから,この時点でそこまでの意味があったとは認められない。)を指していると理解する余地がある。したがって,上記Bの説明によるソースプログラム提出の経緯は,AがG1X MS-DOS版について著作権(翻案権及び複製権)を有している(譲渡していない)ことと矛盾するものではない。
(ウ) プログラムの複製について
G1X MS-DOS版は,G1Xver1.62までは,対象の作業船ごとにプログラムを調整する必要があり,橘高工学はその調整をAに依頼していたため,橘高工学がAに対する「バージョンアップ代金」「ソフト修正代」名目での支払なしにプログラムの複製物を販売したことはなかった。
また,G1X MS-DOS版は,平成5年ころにRTMが開発された後には,RTMのもとで作動するもので,RTMについてはAが著作権を主張し,そのソースプログラムを管理し,Bは,RTMを無断使用せず,これを使用するようなソフトを作成する場合にはAに依頼することを約束していた。
したがって,G1X MS-DOS版を大きく翻案して,新たな創作性が加えられたプログラムをAの承諾なく作成して販売する場合は,依然としてRTMを使用するプログラムとなってしまい,RTMの著作権侵害となるとともに,Aに対する約束違反にもなると考えられる。
このことからすれば,G1Xver1.62以降は,橘高工学はAの関与なしにプログラムの複製物を販売することができるようになったものの,その著作権が橘高工学に譲渡されたのではなく,Aが,橘高工学による当該バージョンのデッドコピーを許諾ないし黙認していたにすぎないものと解される。
(エ) 著作権表示
G1X MS-DOS版の各ソースプログラムないしメニュー画面に,橘高工学の表示が現れるが,これらについて「(c)Copyright」等が付された著作権表示はなく,単にAから見た納入先である橘高工学の名称を記載したものにすぎないと考えられる。そして,Aが自らG1X MS-DOS版のプログラムに橘高工学の著作権表示をしたり,第三者によって橘高工学の著作権表示がされている状況を放置・黙認するといった事実はない。
(オ) まとめ
これらの事情に鑑みれば,Aは,G1X MS-DOS版の著作物について,橘高工学に特定のバージョンのデッドコピーによる複製,譲渡を許諾ないし黙認していた可能性はあるものの,その著作権自体までも橘高工学に譲渡し,自らの著作権を失ってしまったと評価することはできない。
したがって,G1X MS-DOS版の著作権はAに帰属し,同著作権は,平成18年5月までにAから原告に譲渡されているので,原告に帰属する。
ウ 被告の主張について
(ア) 共同著作・黙示の譲渡の合意の主張について
a 被告は,Aは,橘高工学従業員から指示を受け,同従業員と協力しながら,G1X MS-DOS版を作成したので,G1X MS-DOS版は,橘高工学従業員との共同著作であると主張する。
しかし,技術的説明や指示をしたとしても,そのことにより直ちにプログラムの表現をしたことにはならないところ,被告が,橘高工学のG1X MS-DOS版の各発注時に,プログラムの表現に関わる技術的説明や指示をしたと認めるに足りる証拠はない。また,デバッグや検収の作業を橘高工学の従業員とAが協力して行ったとしても,デバッグはプログラムの修正の作業にすぎないから,同修正により新たに創作性のある表現がされたといった特段の事情のない限り,そのプログラムが橘高工学の従業員とAの共同著作となるものではない。
b 次に,被告は,Aは,橘高工学にソースプログラムを提出し,プログラムに橘高工学の表示をし,橘高工学の指示に基づきかなり高額の作成料でプログラムを作成し,ライセンス料の請求をしたことがない等の事情からすれば,著作権譲渡の明示的な書面はなくても,橘高工学に対し著作権(共同著作と認められる場合は持分)を譲渡し,同一性保持権を放棄する旨の黙示の合意をしたと主張する。
しかし,プログラムにある橘高工学の表示は,前記のとおり,著作権表示ではなく,むしろ,納入先の名称を記載したものにすぎないと認められることは前示のとおりである。
プログラムの作成料ないし開発費についても,前記のとおり,著作権譲渡の対価といえる程度に高額な報酬が支払われたものではないことは前記のとおりである。
また,橘高工学にソースプログラムを提出したとしても,そのことによって直ちに著作権を譲渡したとすることはできない。かえって,橘高工学が,プログラムの修正はAに発注することを約束していたことは,B自身認めるところであり,A自身もソースプログラムを管理しており,自ら複製,翻案することも可能な状態であった。
c さらに,被告は,G1X MS-DOS版がいずれもグラブ浚渫施工管理システムNAV-LAHのGPS受信演算装置にインストールして用いるものであり,他の用途はなく,橘高工学が製造するハード専用で橘高工学以外の者が利用することはできないから,橘高工学がAにプログラムのバージョンアップを依頼する際,それらのプログラムの著作権は橘高工学に帰属することを当然の前提としていたと主張する。
しかし,前記2で認定したとおり,GDX等は,改造,修正を加えれば,他のグラブ浚渫船に用いることができ,当時,グラブ浚渫施工管理システムを導入できる可能性のあるグラブ浚渫船は国内で100隻くらいあったのであり,汎用性がまったくなかったものではない。
d なお,G1Wは,Aが自ら橘高工学の著作権表示を付している。
しかし,G1X MS-DOS版はC言語で記述されているのに対し,G1Wは,系列の異なるVisual Basicで記述されている。このように,G1Wは,G1X MS-DOS版とは別言語による別バージョンとして橘高工学に納入されたものであるから,仮に,G1Wに係る権利を橘高工学に移転する旨の合意があったとしても,G1Wに係る権利の移転に伴って G1X MS-DOS版の権利が移転する契約があったとまで認めることもできない。したがって,G1Wの著作権の有無やその帰趨は,G1X MS-DOS版の著作権の所在に影響するものではない。
また,Aは,G1Wのソースプログラムを橘高工学に渡していないから,橘高工学がG1Wを翻案することはもとより,デッドコピー以外の複製をすることも困難である。他方,Aは,G1Wのソースプログラムを管理しているから,複製・翻案は自由にすることができる。このことからすれば,AがG1Wの著作権を橘高工学に譲渡したと認めることはできない。
e よって,被告の主張は採用することができない。
(イ) 職務著作に該当するとの主張について
被告は,橘高工学とAとの関係は,実質的には,橘高工学の指揮監督下においてAが労務を提供するという実態にあり,橘高工学がAに対して支払う金銭は労務提供の対価と評価できるので,G1X MS-DO版は,いずれも橘高工学の発意に基づき作成されたプログラムであって,職務著作として,橘高工学が著作者であると主張する。
著作権法15条2項は,「法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は,その作成の時における契約,勤務規則その他に別段の定めがない限り,その法人等とする。」と規定する。そして,「法人等の業務に従事する者」とは,法人等との雇用関係の存否が争われた場合であっても,法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに,法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり,法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを,業務態様,指揮監督の有無,対価の額及び支払方法などに関する具体的事情を総合的に考慮して,判断すべきものである(最高裁平成15年4月11日第二小法廷判決参照)。
本件においては,Aが G1X MS-DOS版を開発したのは橘高工学の依頼によるものであるが,Aと橘高工学との間に雇用関係はなく,前述のとおり,橘高工学が G1X MS-DOS版をそれぞれ発注した時に,具体的にどのような技術的指示をしたか被告は明らかにしていない。むしろ,前記認定のとおり,橘高工学が,GDX等の開発をAに依頼した際,プログラムの画面デザインの1つ(主要画面)を示され,それ以外の画面(15枚)の設計及びそれに見合う機能を持つプログラムはAが自己の裁量で開発し,橘高工学の従業員から,プログラムのデザイン,機能,操作等に関するアドバイスは受けなかったことが認められる。
また,Aは,GDX等については,注文書により発注を受け,GPS装置付きグラブ浚渫施工管理システムに対応するプログラムの初期版(GNX)についても,それに対応すると思われる納品書が発行され,報酬が支払われている。このように,Aと橘高工学の関係は,Aが労務を提供して,橘高工学がその対価を支払うというよりは,橘高工学がAに仕事の完成を依頼し,その仕事の結果に対して報酬を支払うというものであった。
したがって,Aは,G1X MS-DOS版の開発に際して,橘高工学の指揮監督の下で労務を提供し,その対価を受けたと認めることはできないから,G1X MS-DOS版が職務著作としてその著作権が橘高工学に帰属することはない。
(ウ) 橘高工学から被告への譲渡
被告は,橘高工学破産管財人が平成13年3月に被告に対して,橘高工学が有していたサーバを動産一式に含まれるものとして譲渡した際,同サーバにはプログラム(G1X MS-DOS版を含む。)が保存されていたので,プログラム著作権も売買の目的物として被告に移転していると主張する。
しかし,前記のとおり,動産であるサーバが譲渡されたからといって,その中に保存されていたプログラムについて,著作権も譲渡されたことになるものではないから,被告の主張は失当である。
(2) 船体位置決めプログラムの著作権の帰属
船体位置決めプログラムNB版はAが作成したものであり,船体位置決めプログラムは,A(のちに原告に譲渡)ないし橘高工学に帰属すると考えられるところ,橘高工学から著作権が譲渡されたことはないので,船体位置決めプログラムの著作権は,少なくとも被告には帰属しない。
5 本件プログラムの創作性の有無について
(1) OS 及び言語の変更
ア 原告は,本件プログラムは,G1X MS-DOS版とは,OSがMS-DOSとWindowsとで異なり,プログラム言語もC言語とVisualC++とで異なるので,創作性が認められると主張する。
イ 確かに,言語の著作物の場合,著作物を言語体系の異なる他の国語で表現して「翻訳」したのものは「二次的著作物」であるとされている(著作権法2条1項11号)。
しかしながら,前述のとおり,プログラムの表現は,所定のプログラム言語,規約及び解法による制約がある上に,その個性を表現できる範囲は,コンピュータに対する指令の表現方法,その指令の表現の組合せ及び表現順序というように,制約の多いものである。したがって,あるプログラムの著作物について,OSやプログラム言語を異なるものに変換したからといって,直ちに創作性があるということはできず,OSや言語を変換することにより,新たな創作性が付加されたか否かをを判断すべきである。
ウ 本件では,原告は,OS及び言語を変更したことによって,どのような創作性が付加されたかについて具体的に主張立証していない。本件プログラムのソースプログラムの文字数は,G1X MS-DOS版の5倍以上に増加しているが,その多くは,言語を変更したことによるというよりは,主として新たな機能を追加したことによるものである可能性もある。このことに加えて,VisualC++はC言語に対して基本的には上位互換性を有する(C言語のモジュールをコピーして使用することもできる)と認められること,G1Xver5.50のソースプログラムの一部(モジュール)である「G1xLan.cpp」,「g1x.h」に平成9年5月のGによるコメントの追加があるように,平成9年以前すなわち
G1X MS-DOS版の記述がそのまま用いられている部分があることに照らせば,本件プログラムが,MS-DOS・C言語から Windows・VisualC++へとOS及びプログラム言語を変更させたことのみによって,創作性があるものとまで認めることはできない。
(2) 追加機能 3)のRTMに相当する部分の関数について
ア 証拠等(各事実の末尾に記載)によると次の事実が認められる。
(略)
イ 以上に認定した事実からすれば,本件プログラムにおいて,G1X MS-DOS版ではRTMがその機能を担っていたマンマシン・インターフェースを担う部分については,同部分がなければ本件プログラム自体がまったく機能しないというものではないが,同部分があることによりプログラムの処理が円滑に行われるというものであって,同部分を設けるか,設けるとした場合に同部分をどのようなプログラムとするのか,その場合の関数の使用の有無・内容,プログラムの量等について,様々な選択肢があり,プログラマーの個性を発揮することが可能であるところ,本件プログラムにおいては,Aは,記憶させるデータのタイプを13分類して,そのタイプを指定することにより,画面からの入出力が共通のルーチンとして使用するという,「******」から始まる列を13列並べるという独特の表現をしており,同部分については,Aの工夫が凝らされていてその個性が認められるから,著作物性を有する。
ウ 被告は,原告の主張する関数は,RTMを用いる前から用いられていたもので,Windowsに対応するように記述したからといって創作性が生じるものではないと主張する。
具体的には,平成4年に作成されたグラブ浚渫施工管理システムのプログラム GDT(RTMが用いられる前のもの)に「********」という関数が用いられているが,G1Xver3.00の「G1xship.h」には「**********************」という関数が用いられ,両者は同じ思想によるものである,G1Xver3.00の「G1x.cpp」には「*****************」「********************」の関数が用いられているが,これはRTMを用いる前から用いられていたと主張する。
しかしながら,例えば,G1X ver2.00の「G1X」というモジュールには,上記の「******」が13列並んでいる部分と同様の表現はなく,その他にも同表現が,本件前プログラムに存在したと認めるに足りる証拠はない。したがって,「******」が13列並んでいる部分の表現は,本件前プログラムにはなかった新しい部分であるし,単にWindowsに対応するように機械的に記述したにすぎないと認めるに足りる証拠はないから,被告の主張は理由がない。
(3) 新可能処理②の鳥瞰図表示について
ア 証拠等によると次の事実が認められる。
(略)
イ 以上に認定した事実からすれば,本件プログラムにおける鳥瞰図の表示は,Ⅰ)ソナー装置がある場合はソナー装置により計測した水底の起伏状況についての位置(座標),深度の3次元データ,グラブバケットの位置・深度データを収集し,Ⅱ)ソナー装置を用いない場合は,位置決めシステムによる位置情報,手動で計測した深度情報,バケットの1堀の範囲等から計算したデータ等を集積して,ソナー装置の計測によるデータに例えて1メートルピッチの密度による深度データを計算し,位置・深度の3次元データを収集し,Ⅲ)収集した3次元データを2次元平面に投射する処理をし,Ⅳ)これを特定のデザイン,大きさ,縮尺,色彩を持った画像に置き換える処理をするという手順を踏むものであることが認められる。
そして,上記のいくつかの段階を踏む処理について,「G1xChokan.cpp」は1万3113バイトの容量(「resource」を除いたモジュールの合計容量の約4パーセントで,30あるモジュールのうち5番目に大きい容量)を用いて記述されていることからすれば,その処理に至る手順,方法に関する表現について選択の余地があり,また,デザイン,大きさ,縮尺,色彩に様々な選択肢がある以上,これを表示するための演算処理等の記述についても,様々な表現が選択可能であり,「G1xChokan.h」及び「G1xChokan.cpp」は,それら中から特定の表現を選択したものと認められる。
したがって,本件プログラムにおいては,その記述ないし表現についてAの個性が現われていると認められるから,本件プログラムの鳥瞰図表示の部分は著作物性を有するものというべきである。
ウ 被告は,鳥瞰図の画面表示は極めてありふれており,視点を移動できる点も,平行移動,回転に行列計算が用いられているが,数学上当然のものであり,プログラムとしては目新しいものではない,陰線処理はZバッファ法というありふれた方法が用いられているとして,創作性を否定する。
しかし,被告がありふれていると指摘するのは,プログラムの表現それ自体ではなく,画面表示や,陰線処理の方法についてのものにすぎない上に,当時,本件プログラムで表される画面表示や陰線処理の方法がありふれていたものであるとの立証はない。また,同部分の処理及びその他の部分の処理をするプログラムの表現について,G1xChokan.cppを前提としても,具体的にどの表現がどうありふれているかについての具体的な指摘や主張立証はない。
被告は,視点を移動できる点についても,行列計算が用いられているのは数学上当然であると主張するが,G1xChokan.cppを前提として本件プログラムで用いられている行列計算等の表現それ自体がありふれていることについての指摘,主張立証はない。
(4) まとめ
本件プログラムにおいては,OSとプログラム言語の変更による創作性の立証があるとはいえないものの,少なくとも,RTMに相当する部分の関数と鳥瞰図表示の部分のプログラムについては,その表現に作成者Aの個性が現れており,著作物性があるものと認められる。よって,本件プログラムは,少なくとも G1X MS-DOS版の二次的著作物として,少なくとも上記の著作物性が認められる範囲で,著作物として保護される。
6 本件プログラムの著作権の帰属について
(1) G1Xver3.00の開発経緯
(略)
(2) 本件プログラムの著作権の帰属
上記のとおり,G1Xver3.00は,Aが,G1X MS-DOS版に新たな創作性を付加して創作した著作物であり,少なくとも G1X
MS-DOS版の二次的著作物ということができる。そして,Aから,橘高工学ないし被告に著作権が譲渡されたと認めるに足りる証拠はない。かえって,橘高工学は,Aに対し,著作権の譲渡代金と評価できる対価はもとより,開発費の支払もせず,ソースプログラムも渡されず,Aのみがソースプログラムを保有し,Aは,橘高工学破産宣告後に別の業者を通じてプログラムの複製物を販売して,橘高工学以外の業者から報酬を得ており,プログラムにAの屋号である「Nihon System Plannnig」の著作権表示が現れるようにして,自己の著作権を主張しているから,G1Xver3.00の著作権は,その著作者であるAに帰属していたと認められる。
次に, G1Xver5.24ないし G1Xver5.70は,被告から依頼を受けて,AがG1Xver3.00をバージョンアップしたものであるが,そのソースプログラムはAのみが保有・管理し,被告は保有しておらず,Aは,G1Xver5.24ないしG1Xver5.70の各バージョン表示メニュー画面に「Nihon System Plannnig」の著作権表示が現れるようにして著作権の主張をしていることからすれば,本件プログラムは,G1Xver5.24ないし G1Xver5.70 にバージョンアップされた後も,引き続きAに著作権が帰属しており,被告に譲渡されることはなかったものと認められる。
そして,Aは,平成15年8月までに,本件プログラムの著作権を原告に譲渡しているので,本件プログラムの著作権は原告に帰属する。
(3) 被告の主張について
ア ソースプログラムの保有・管理
被告は,原告ないしAに対し,専属的にバージョンアップ等を依頼していたので,ソースプログラムは必要なかったから保有していないと主張する。
しかし,橘高工学は,従前,Aにソースプログラムの提出させていた。このこととの比較で考えると,バージョンアップを依頼しているからといって,ソースプログラムが必要ないということはできない。むしろ,被告がソースプログラムを原告ないしAに提出させていないのは,被告が,ソースプログラムの提出を要求できる立場になかった(橘高工学のように「橘高工学が依頼してAが作成したプログラムはもともと橘高工学に帰属するから,ソースプログラムを提出するのは当り前である」と主張することもできなかった)ものであり,著作権に関して,橘高工学よりも更に弱い立場にあったこと(もっとも,デッドコピーについては許諾ないし黙認されていた可能性がある。)を示すように思われるところである。
イ 対価の支払
(略)
ウ 各人の行動・認識,システム全体におけるプログラムの位置づけ
被告は,本件プログラムは,橘高工学が開発したグラブ浚渫施工管理システム専用のプログラムで,複製して同システムにインストールして,これらを多数販売することを目的としたもので,その後のバージョンアップも予定しているものであるから,複製の都度,Aに許諾料を支払うつもりで依頼したとは考えられない,また,本件プログラムは,グラブ浚渫施工管理システム全体において占める割合は小さく,システム自体は橘高工学が開発したものであると主張する。
しかし,前認定のとおり,G1Xver3.00あるいは本件前プログラムはまったく汎用性がないものではない。また,橘高工学が,G1Xver3.00の複製物の販売を予定していたとしても,Aが橘高工学に包括的にプログラムの複製を許諾し,開発費に複製許諾料も含めて対価を支払うことも可能であるし,バージョンアップについては,著作権法20条2項3号の範囲を超える改変が見込まれる場合は,同一性保持権の放棄あるいは包括的に翻案を許諾することも可能であるから,橘高工学が G1Xver3.00の複製販売を多数予定しバージョンアップを予定していたことのみをもって,Aから橘高工学へ同プログラムの著作権の譲渡の合意があったと認めることはできない。
なお,被告は,Aないし原告が,平成16年4月まで本件プログラムの著作権者である旨の主張はしなかったと主張する。しかし,前認定のとおり,Aないし原告は,本件プログラムの画面のバージョン情報等に日本システムプランニングの著作権表示をしており,ソースプログラムを独占管理しつつ,「ソフト代」「バージョンアップ費」等の名目で被告から金員を受領しているから,敢えて著作権に基づく何らかの請求をする必要がなかったと考えれば,その行動が特に不合理であるとはいえない。被告の指摘する上記事実は,A及びその後の原告の著作権の帰属を否定するものとはならない。
エ 著作権表示
(ア) 取扱説明書に記載の画面の著作権表示
被告は,G1Xver3.00の取扱説明書の起動時画面及びバージョン情報画面に「 (c)Copyright by Kittaka Engineering Laboratory Co.,ltd 2000 All
Right reserved」があり,これはA自身が記載したものであると主張する。
確かに,Aは,平成12年4月の段階では,上記のとおり,橘高工学の著作権表示をしたことが認められるが,その後,著作権表示を日本システムプランニング名義のものに変更している。しかも,Aは,橘高
工 学 に ソ ー ス プ ロ グ ラ ム を 交 付 し て い な い か ら , 橘 高 工 学 はG1Xver3.00を修正することができないのに対し,Aは自由に修正(複製の範囲内の修正や翻案)ができる。上記事実に照らせば,Aによる上記の橘高工学の著作権表示は,G1Xver3.00の著作権がAから橘高工学に譲渡されてはいないとの上記認定を覆すに足りるものではない。
なお,Aは,G1Xver3.00の取扱説明書の起動時画面及びバージョン情報画面に「(c)Copyright by Kittaka Engineering Laboratory Co.,ltd 2000 All
Right reserved」を記載した時点では,それが完成して十分な対価が支払われたあかつきには,橘高工学がG1Xver3.00という特定のバージョンについて,対外的に著作権があるように振る舞うことを許容する意思があった可能性もなくはない。しかし,結局,橘高工学からは対価が支払われず,Aは,橘高工学にソースプログラムも交付せず,著作権表示を日本システムプランニング名義のものに変更し,自らSKKにプログラムの複製物を納品するなど,橘高工学を無視して著作権者として振る舞っている。このことからすれば,仮に,完成して十分な対価が支払われたあかつきには,橘高工学がG1Xver3.00という特定のバージョンについて,対外的に著作権があるように振る舞うことを許容するという意思がAにあったとしても,それは対価の支払を受けた後の予定に止まり,橘高工学からの対価支払がないために実現しなかったもののように思われる。
したがって,上記可能性も,上記認定を左右するものではない。
(イ) モジュール「CalhaVa.cpp」の著作権表示
被告は,G1Xver5.50のソースプログラムのモジュール「CalhaVa.cpp」のトップには平成12年2月1日付けで橘高工学の著作権表示が現れるので,G1Xver3.00の4月版及び7月版にも橘高工学の著作権表示のある「CalhaVa.cpp」が入っているはずであると主張する。
確かに,G1Xver5.50のソースプログラムのモジュール「CalhaVa.cpp」のトップには橘高工学の著作権表示が現れる。これに対し,原告は,同モジュールは,実際の船体傾斜の位置補正ルーチンを内容とし,G1Xver3.00のモジュール「G1x.cpp」の「RotZpr」「RotPr」をもとに作成した社外説明のためのソナー制御装置のプログラミング用のもので,G1Xver3.00の一部ではなく,本来 G1Xver3.00に不必要なものであると主張する。
証拠によれば,「CalhaVa.cpp」には「****************」のプログラムであることや,Input,Output,Retuern
や「****************」等の説明が日本語で冒頭に記載され,G1Xver3.00のモジュールとは体裁が異なることが認められる。また,原告が「CalhaVa.cpp」のモジュールの問題を指摘した平成18年3月ころより前である平成17年10月31日の第2回弁論準備手続期日で提出された本件プログラムのモジュール一覧表にも「CalhaVa.cpp」の記載はない。さらに,たった1つのモジュール「CalhaVa.cpp」にだけ,全体とは異なる著作権表示がされるというのも不自然である。
以上の点からみれば,これが G1Xver3.00 の一部ではなく,社外用の説明のために作成したモジュールであるとの原告の主張も,肯認することができる。そして,社外用の説明のために作成したモジュールであれば,橘高工学が販売するシステムにインストールされるプログラムであることから,対外的に橘高工学の著作権表示を入れていたとしても不自然ではない。
よって,「CalhaVa.cpp」において橘高工学の著作権表示があることは,前記のAに G1Xver3.00 の著作権が帰属するとの認定を覆すものとはならない。
7 著作権の権利主張についての対抗要件の要否について
被告は,原告が著作権移転のための対抗要件である登録をしていないので,被告に対し,著作権を有していることを対抗できないと主張する。
しかし,著作権の移転を登録しなければ対抗できない「第三者」(著作権法77条)とは,登録の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する者であると解されており(大審院昭和7年5月27日判決参照),単なる著作権の侵害者はこれにはあたらない。よって被告の主張は失当である。
8 差止請求の可否について
被告は,現在,G1Xver5.24ないしG1Xver5.70をグラブ浚渫施工管理システムに使用していないと主張するが,過去に別紙1のとおり,本件プログラムの複製物を販売しているので,著作権を侵害するおそれは認められる。
9 損害論について
(1) 被告の著作権侵害についての故意・過失の有無
被告は,G1Xver3.00の著作権がAに帰属していたとしても,Aが自ら,G1Xver3.00のトップページに橘高工学の著作権表示をしている以上,被告が橘高工学に帰属していたと認識していたことについて過失はないと主張する。
しかし,前記のとおり,平成12年4月時点では,G1Xver3.00のトップページに橘高工学の著作権表示があったが,その後,Aは,G1Xver3.00について,著作権表示を日本システムプランニングに書き直しているし,G1Xver5.24以降については,当初から日本システムプランニングの著作権表示を記載している。
そして,被告が複製物を販売したプログラムに,日本システムプランニング(原告ないしA)の著作権表示がある以上,過去にこれと異なる著作権表示のある時期が一時的にあったとしても,現に著作権表示をしている者に対する問い合わせ等,著作権の帰属について十分な注意を払うべきであり,被告にはこれを怠った過失がある。
したがって,被告には,本件プログラム及びG1X
MS-DOS版の各著作権を侵害することについて過失があったということができる。
(2) 損害発生の有無及びその数額
ア 被告が別紙1のとおり,本件プログラムを複製販売したことは争いがない。
被告による上記の本件プログラムの同複製販売は,原告ないしAの本件プログラムの著作権(複製権)を侵害するので,被告は,原告ないしAに対し,その損害を賠償する責任を負う。なお,Aの損害賠償債権は原告に譲渡されている。
(略)
コ 本件プログラムのうち,少なくとも創作性があると認定したRTMに相当する部分の関数と鳥瞰図表示の部分のプログラム以外の部分については,創作性が認められる余地がないとはいえないが,その表現により処理される機能が比較的ありふれたものであることからすれば,本件プログラムの経済的価値の評価に当たって特段の考慮をしなければならないものとまでは認められない。
サ 以上の事実を斟酌すれば,本件プログラムの著作権侵害により請求できる損害金は,1つの複製につき35万円と認めるのが相当である。したがって,別紙1のとおりの合計20の複製行為により請求できる損害金は,合計700万円である(原告は消費税相当額は請求していない。)。
(略)
14 結論
以上の次第で,
(1) G1X MS-DOS 版は,少なくとも位置決めプログラムを原著作物とする二次的著作物であり(前記3),その著作権は著作者であるAから譲渡を受けた原告に帰属している(同4)。本件プログラムは,G1X MS-DOS 版の二次的著作物であり(同5),その著作権は著作者であるAから譲渡を受けた原告に帰属している(同6)。したがって,原告は,本件プログラムについて,二次的著作物の著作権者の立場と,その原著作物に当たる G1X MS-DOS 版の著作権者の立場の両面で,本件プログラムについて著作権を有している。
よって,主位的請求たる原告の本件プログラムの著作権に基づく差止請求は理由がある。
(2) 本件プログラムの複製販売を理由とする金銭請求は,
ア 主位的請求であるプログラムの著作権侵害に基づく損害賠償請求は,700万円(1複製35万円で20回分)及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は(著作権侵害の事実調査費用相当損害も含めて)理由がない(前記9)。
(以下略)