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著作権判例セレクション
【著作者人格権】著作者の死後における保護(法60条の認定事例/法116条の意義と解釈)
▶平成12年9月29日東京地方裁判所[平成10(ワ)21141]▶平成14年02月28日東京高等裁判所[平成12(ネ)5295]
4 被告らによる著作者人格権(同一性保持権)侵害行為について
(一) 証拠及び弁論の全趣旨によると、本件書籍160頁部分には、H自身が読者に直接話しかける形で「このようなノウハウを皆さんにお伝えして本当にうれしいのは、全国のさまざまな人々から『成功ノウハウ』を家庭や職場で利用して成果をあげている、という手紙をいただくことです。このような私の紹介するノウハウを使って、こんないいことがあったということがありましたら、その経験を、手紙でお寄せ下さい[日本での宛先・・・〒△△△-△△ 東京都新宿区<以下略> SSI D・カーネギー・プログラムス係]。」との記載があること、右記載は、本件第二著作物中には存在していないこと、以上の事実が認められる。この事実からすると、被告騎虎書房による本件書籍の発行行為は、本件第二著作物の著作者であるHが生存しているとしたならば、その著作者人格権(同一性保持権)の侵害となるべき行為であるということができる(著作権法60条違反)。
被告らは、本件書籍と本件第二著作物との間に若干の異同があったとしても、それは、本件第二著作物の内容、趣旨を変更せず、本件第二著作物の思想、主張を広く伝える必要に応じてなされたものであって、同一性保持権を害したとはいえないと主張するが、右の改変の程度、内容からすると、被告らの右主張を採用することはできない。
(二) 証拠によると、本件書籍第160頁と第161頁との間には、「SSI D・カーネギー・プログラムス」宛のアンケート返信用はがきが挾まれていること、本件書籍の巻末には、本件カセットテープセット等の広告が掲載されていること、以上の事実が認められ、原告Aは、これらについても、著作者人格権(同一性保持権)の侵害を主張するが、証拠によると、これらは、本件第二著作物を翻訳した部分とは明確に区別されているから、これらの部分について、本件第二著作物に関する著作者人格権(同一性保持権)の侵害を認めることはできない。
(三) 本件カセットテープセットは、後記のような構成のものであるところ、証拠及び弁論の全趣旨によると、本件カセットテープセットのうち、カセットテープ及びマニュアルは、本件第二著作物を翻訳したものであること、本件カセットテープセット及びマニュアルは、本件第二著作物と比較して章の構成が異なっていること、EXトランプは、本件第二著作物の一部を抜粋して各トランプに記載したものであること、以上の事実が認められる。この事実からすると、被告エス・エス・アイによる本件カセットテープセットの発行行為は、本件第二著作物の著作者であるHが生存しているとしたならば、その著作者人格権(同一性保持権)の侵害となるべき行為であるということができる(著作権法60条違反)。
(略)
(二) 右4のとおり、被告騎虎書房による本件書籍の発行行為及び被告エス・エス・アイによる本件カセットテープセットの発行行為は、本件第二著作物の著作者であるHが生存しているとしたならば、その著作者人格権(同一性保持権)の侵害となるべき行為であるということができるが、著作権法は、著作権法60条違反の効果として、差止めと名誉回復等の措置のみを認めており、損害賠償請求は認めていないから、原告Aは、著作者人格権(同一性保持権)の侵害となるべき行為が存したことを理由として、被告らに対して損害賠償請求をすることはできない。
本件書籍160頁部分は、Hが読者にその経験を手紙で寄せることを求めるもので、その日本での宛先が「SSI D・カーネギー・プログラムス係」となっているのであるが、右部分の改変行為が、直ちにHの社会的な名誉声望を毀損する行為であるとまでいうことはできない。また、原告らは、被告エス・エス・アイは、購入者との間で法的紛争が絶えない会社であり、被告らにとって本件書籍は、不当に高額な本件カセットテープセットを読者に購入させるための広告としての役割があるにすぎないとも主張するが、これらの事実を認めるに足りる的確な証拠はないから、これらの事実に基づいて、右部分の改変行為が、Hの社会的な名誉声望を毀損する行為であると認めることはできず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。さらに、本件カセットテープセットに関する右改変が、デール・カーネギーの社会的な名誉声望を毀損する行為であるとまでいうべき事情は認められない。そうすると、謝罪広告の請求は認められない。
[控訴審同旨]
(4) 被告らによる著作者人格権(同一性保護権)侵害行為について
ア 本件書籍について
証拠及び弁論の全趣旨によると、本件書籍の160頁には、本文中に、デール・カーネギー自身が読者に直接話しかける形で、「このようなノウハウを皆さんにお伝えして本当にうれしいのは、全国のさまざまな人々から『成功ノウハウ』を家庭や職場で利用して成果をあげている、という手紙をいただくことです。このような私の紹介するノウハウを使って、こんないいことがあったということがありましたら、その経験を手紙でお寄せ下さい〔日本での宛先・・・SSI D・カーネギー・プログラムス係〕。」との記載があること(注.表示の住所は、奥付頁下部に記載された被告騎虎書房の住所と同一である。)、上記記載は本件第二著作物中には存在しないこと、以上の事実が認められる。この「SSI D・カーネギー プログラムス」は、後記のとおり、被告エス・エス・アイが本件カセットテープセットの販売事業について使用している名称であり、故デール・カーネギーとは何の関係もないから、かかる者への読者体験談募集のために前記のごとき記載を付け加えることは、故人の意に反する態様でなされた原著作物の改変であり、著作者であるデール・カーネギーが生存しているとしたならば、その著作者人格権(同一性保持権)の侵害となるべき行為(著作権法60条違反)であるといわざるを得ない。
被告らは、本件書籍と本件第二著作物との間に若干の異同があっても、同一性保持権を侵害したとはいえないと主張するが、本件書籍の160頁と161頁の間には、「SSI D・カーネギー プログラムス」宛の読者アンケート返信用はがきが綴じ込まれていることや本件書籍の巻末に4頁にわたり本件カセットテープセット、速聴機などの広告、紹介文が掲載されていること等の事実をも考慮して本件書籍160頁の前記記載をみると、前記記載が被告らの主張のように本件第二著作物の内容、趣旨を変更することなく同著作物の思想、主張を広く伝える必要に応じてなされたものであるとは到底認めることができず、この点に関する被告らの主張は採用することができない。
なお、前記アンケート用はがきと本件書籍の巻末に掲載された本件カセットテープ等の広告は、本件第二著作物を翻訳した部分とは区別されていると認められるから、これらの部分について著作者人格権(同一性保持権)の侵害を認めることはできない。
イ 本件カセットテープセットについて
本件カセットテープセットは、後記のような構成のものであるところ、証拠及び弁論の全趣旨によると、本件カセットテープセットは、被告Bの提唱に係る「脳(能)力開発」プログラム実践用教材の一つとして宣伝、販売されていること、本件カセットテープセットに入っているカセットテープ及びマニュアルは、本件第二著作物と比較して章の構成が大幅に異なっていること、また、EXトランプは、本件第二著作物の一部を抜粋して各トランプに記載したものであること、以上の事実が認められる。そして、これらの内容が、被告Bの提唱に係る「脳(能)力開発」プログラム用に本件第二著作物の構成を変えたものであることからすると、上記カセットテープ、マニュアル及びEXトランプの各内容は、本件第二著作物を著作者の意に反する態様で改変したものというべきであり、被告エス・エス・アイによる本件カセットテープセットの発行行為は、故デール・カーネギーが生存しているとしたならば、その著作者人格権(同一性保持権)の侵害となるべき行為(著作権法60条違反)であると認められる。