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著作権判例セレクション
【職務上作成する著作物の著作者】職務著作(法15条1項)の立法趣旨/教本(コンピューターネットワーク技術者のための入門書)につき、その職務著作性を認定した事例
▶平成20年06月25日東京地方裁判所[平成19(ワ)33577]
1 争点(1)(原告教本についての著作権及び著作者人格権の原告への帰属の有無)について
(1) 証拠及び弁論の全趣旨並びに上記前提となる事実等によれば,次の事実が認められる。
(略)
(2) 我が国の著作権法が職務著作の規定(著作権法15条1項)を設けた趣旨は,著作権法自体が,登録主義を採用する特許法等と異なり,創作主義を採用しているため,著作物を利用しようとする第三者にとって,法人等の内部における権利の発生及び帰属主体が判然としないこと,法人等の内部における著作活動にインセンティブを与えるために,資金を投下する法人等の使用者を保護する必要があること,従業者としても,法人等の使用者名義で公表される著作物に関してはその権利を法人等の使用者に帰属させる意思を有しているのが通常であり,その著作物に関する社会的評価も公表名義人である法人等の使用者に向けられるという実態が存することなどから,著作権及び著作者人格権のいずれについても,個別の創作者による権利行使を制限し,その権利の所在を法人等の使用者に一元化することによって,著作物の円滑な利用・流通の促進を図ったものであると理解すべきである。
そして,職務著作が成立するためには,当該著作物が,①法人等の使用者の「発意に基づき」,②「その法人等の業務に従事する者」により,③「職務上作成」されたものであって,④「その法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」であることが必要とされる(著作権法15条1項。以下,各要件を「要件①」,「要件②」等と表記する。)ところ,上記のような規定の趣旨に照らせば,要件①の「発意」については,法人等の使用者の自発的意思に基づき,従業員に対して個別具体的な命令がされたような場合のみならず,当該雇用関係等から外形的に観察して,法人等の使用者の包括的,間接的な意図の下に創作が行われたと評価できる場合も含まれるものと解すべきである。
また,要件③の「職務」についても,同様の観点から,法人等の使用者により個別具体的に命令された内容だけを指すのではなく,当該職務の内容として従業者に対して期待されているものも含まれ,その「職務上」に該当するか否かについては,当該従業者の地位や業務の種類・内容,作成された著作物の種類・内容等の事情を総合考慮して,外形的に判断されるものと解すべきである。
(3) 上記(1)の認定事実及び上記前提となる事実等によれば,原告教本については,次のとおり,職務著作の各成立要件をいずれも充足するものというべきである。
ア 要件①(原告の発意)
原告教本は,原告の前身である京西テクノスの時代から原告設立後に至るまで,そのエンジニア教育・育成サービスの事業のうちの教育事業のため,京西テクノスないし原告の従業員である講義担当講師らが,その講義の補助教材として作成したものが基本となっているのであるから,少なくとも,使用者である原告の包括的,間接的な意図の下で創作が行われたと評価することができ,①原告の「発意に基づき」作成されたものというべきである。
イ 要件②(原告の業務に従事する者)
原告教本を作成したのは,当時原告の従業員であったAらであるから,要件②の原告の「業務に従事する者」を充足している。
ウ 要件③(原告の職務上作成されたもの)
原告の従業員である講義担当講師らは,原告の業務としてエンジニア教育・育成のための講義において用いることを目的として,原告教本の基本となる講義資料を作成したものであり,前記で認定したその内容も考慮すれば,同講義資料は,上記従業員らが講義において行う説明と一体となるものであり,講義の内容と離れて上記従業員らの興味,関心に従って作成されたものではないと認められる。また,当該講義の内容自体,上記目的に照らして,上記従業員らの興味,関心に従って行われるものではないと認められることから,例えば,大学教授が,大学での研究の過程で講義案や教科書を執筆し,それを講義で用いるような場合とは異なり,上記従業員らによる当該講義資料の作成は,上記従業員らの行う職務の範囲に含まれると認められる。したがって,このような講義資料をとりまとめて作成された原告教本は,③原告の「職務上作成されたもの」ということができる。
エ 要件④(原告の著作の名義の下での公表)
原告教本は,その表紙において,原告を表す「KYOSAI」という表示が付されていることから,要件④の原告が「自己の著作の名義の下に公表するもの」を充足している。
したがって,本件においては,原告教本について職務著作が成立し,その著作権及び著作者人格権が原告に帰属するものと認められる。
被告Aの著作権及び著作者人格権の侵害行為
上記前提となる事実等によれば,被告Aの取締役等であるAらは,原告著作物にアクセスする機会を有していたのであって,原告教本の内容と被告教本の内容は全く同一であるから,被告Aは,原告教本に依拠して被告教本を作成したものであると認められる。
そして,被告Aが原告教本を複製することについて原告の許諾を受けているとの主張はないから,被告Aが被告教本を作成する行為は,原告の著作権(複製権)を侵害していると認められる。
また,上記前提となる事実等によれば,被告Aは,被告教本の表紙に自らをその著作者として表示して,これを被告Kに販売していることから,原告の著作者人格権(氏名表示権)を侵害していると認められる。
被告Kの著作権及び著作者人格権のみなし侵害行為
被告Kは,後記3⑴のとおり,被告教本を販売するに当たり,被告教本が原告の著作権及び著作者人格権を侵害して被告Aにより作成されたものであることを知っていたと認められることから,被告Kが被告教本を販売したことは,原告の著作権及び著作者人格権を侵害する行為とみなされる(著作権法113条1項2号)。