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著作権判例セレクション

【登録制度】著作権移転登録の欠缺を主張できない「背信的悪意者」性が問題となった事例

▶平成250328日 東京地方裁判所[平成22()31759]▶平成251030日知的財産高等裁判所[平成25()10046]
(前提事実)
〇 原告は,放送コンテンツの輸出,展示,キャラクター商品の製造流通等の事業を営む,韓国法に基づき設立された株式会社である。被告NHKは,放送事業を営む,放送法に基づき設立された法人である。被告NEPは,被告NHKの子会社で,被告NHKのテレビ,ラジオ番組の制作や展示映像,デジタルコンテンツの制作,イベントの企画実施やビデオ,キャラクター商品の販売,権利許諾などのコンテンツ関連事業を営む株式会社である。被告NPSは,被告NHKの子会社で,美術展,歴史・文化展,コンサート,各種イベント等の企画制作・運営等の事業を営む株式会社である。
〇 韓国の放送局である韓国法人株式会社文化放送(「MBC」)は,ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」(「本件ドラマ」)を制作し,平成15年から平成16年にかけて韓国内で放映した。MBCの子会社である韓国法人MBC美術センター株式会社(「MBCA」)は,MBCに対し,本件ドラマに用いる小道具,衣装,ドラマセット等を供給した。

1 事案に鑑み,まず,争点3について判断する。
(1) 前記前提事実に,証拠及び弁論の全趣旨を総合すると,被告らは,被告NEPらがMBCAと本件協約を締結する際には,本件展覧会において,本件小道具等をその原作品又は複製物により展示し,また,本件グッズを製造販売することについて,【各展示品の所有者であるMBCAから】同意又は許諾を得たことが認められる。
著作権の移転は,一般承継によるものを除き,登録しなければ,第三者に対抗することができない(著作権法77条)。被告らは,著作権法77条にいう第三者に当たるから,仮に本件小道具等が著作物であって原告がMBCAからその著作権の譲渡を受けたものであるとしても,原告は,移転登録を経ていないため,被告らが背信的悪意者に当たらない限り,譲渡を受けたとする本件小道具等の著作権を被告らに対抗することができない。
(2) そこで,被告らが背信的悪意者に当たるか否かについて検討する。
ア 被告らが,被告NEPらとMBCAとの間の本件協約締結の時点において,原告がMBCAから本件小道具等の著作権の譲渡を受けたことを認識していたことを認めるに足りる証拠はなく,原告の著作権の移転登録の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情があることも窺えないから,被告らが背信的悪意者に当たるということはできない。【その理由は次のとおりである。】
【イ 控訴人は,被控訴人らは,①平成17年10月30日ころには,AISCの A を通じて本件共同事業契約の内容を十分に理解していた,②被控訴人NEPの B が,平成17年12月8日にAISCの A から本件共同事業契約書の重要部分の日本語訳を受け取り,控訴人が本件小道具等の著作権を譲り受けているとの説明を受け,また,同日午後MBCAのCからも同様の説明を受け,これにより控訴人がMBCAから本件小道具等の著作権を譲り受けたことを理解した,③平成18年3月初旬ころに,MBCAと並んで控訴人も許諾権者の1人とする本件協約書草案を作成しており,控訴人がMBCAから本件小道具等の著作権を譲り受けたことを認識していたから,いずれかの時点においてMBCAから控訴人へ本件小道具等の著作権が譲渡されたことについて悪意であり,また,④控訴人がその後本件展覧会の中止等を求めたにもかかわらず,これに応じなかったのであるから,被控訴人らは背信的悪意者に当たる旨主張する。
しかし,上記①については,証拠によれば,AISCが控訴人との間で交わした平成17年10月14日付けの「MBCドラマ「大長今」共同事業契約書」と題する契約書には本件共同事業契約書の写しが添付されており,AISCの A が本件共同事業契約の内容を承知していたことは認められるものの,A が被控訴人らに対し同契約の内容について説明をしたか否かは証拠上明らかであるとはいえず,上記事実から直ちに,被控訴人らが平成17年10月30日ころまでにAISCのAを通じて本件共同事業契約の内容を認識したことを認めるには足りず,また,控訴人代表者のパソコン日誌抜粋における記載からも,被控訴人NEPらが本件ファンミーティングの開催に当たり,MBCAやAISCを相手方として連絡を取り,その協力を得ていたことは認められるものの,MBCAと控訴人及びAISCとの間の内部的な法律関係は,契約当事者ではない被控訴人らにとってはおよそ明確ではなく,控訴人がMBCAと何らかの契約関係にあることは推測できたとしても,控訴人がMBCAから本件小道具等について著作権の譲渡を受けているなどということの説明を受けていたとの事実を認めることはできない。他に被控訴人らが平成17年10月30日当時本件共同事業契約の内容を理解していたことを認めるに足りる客観的な証拠はない。
また,上記②については,控訴人代表者作成の陳述書にその趣旨の記載があるものの,同代表者のパソコン日誌抜粋には,B が本件共同事業契約書の日本語訳を受け取ったなどの記載はなく,他に上記②の事実を認めるに足りる客観的な証拠がないことからすると,上記各証拠から直ちに控訴人主張事実を認めることはできない。
さらに,上記③については,】確かに,前記前提事実に,証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,被告NEPらが,本件協約の締結前に,MBCAのほか,【AISC】及び原告も当事者とし,MBCA,AISC及び原告が本件展覧会の開催を許可することなどを内容とする【本件協約書草案】を作成したこと,原告は,【平成18年4月20日ころから】,数回にわたり,被告NEPらに対し,本件共同事業契約があるので本件展覧会を原告に無断で開催することは原告の権利を侵害する違法なものであるから損害賠償を求める旨等を記載した警告書を送付したが,被告らは,これに応じることなく【本件展覧会の開催を継続した】ことが認められる。
しかしながら,【本件協約書草案】には原告が本件小道具等の著作権を有することに関する記載はなく,被告NEPらが原告に対して何らかの対価を支払うべきものとするような記載もないのであって,このことに,原告が被告NEPらに上記警告書を送付したのが本件協約の締結後であることを併せ考えると,被告らが,【本件協約書草案の作成のころや,】本件協約の締結の時点において,本件共同事業契約の存在やその内容等を認識していたとは即断することができないし,仮に被告らが本件共同事業契約の存在等を認識していたとしても,その内容をどの程度認識していたかが判然としない上,本件共同事業契約は,契約期間を商品の販売開始日から3年としたり,商品の売上高に応じて原告がMBCAに金員を支払うとしているのであって,利用の許諾を内容とする契約と解する余地があるから,被告らが,原告が本件共同事業契約によりMBCAから本件小道具等の著作権の譲渡を受けたことを認識していたともたやすく認め難い。
【そして,証拠及び弁論の全趣旨によれば,ソウル高等法院は,平成23年7月7日,控訴人のMBCAに対する本件共同事業契約違反による損害賠償請求事件について,MBCAが平成18年4月27日と同年6月1日の2回にわたり,控訴人に対し,控訴人の商品売上高の精算報告義務違反を理由に本件共同事業契約を解除する旨の意思表示をしたこと,及び控訴人の同精算報告義務違反があったため,MBCAによる同年6月1日の解除を有効と認めたこと,また,MBCAが同年4月7日に控訴人を排除して被控訴人NEPらと本件協約を締結し,その頃開催された本件展覧会についてMBCAが単独で被控訴人NEPらから展示品の貸与料4000万ウォンを受領したことについて,本件共同事業契約違反であることを認め,その金額から経費等を除いた1364万ウォンが,控訴人がMBCAの同契約違反により被った損害であるとして,MBCAに対しその支払を命じた判決をし(なお,同判決では,本件小道具等に関する著作権侵害に基づく損害賠償請求については,本件小道具等について,著作物性を認める資料が不十分であるとか,著作物とは認められないなどの理由により,著作権侵害を理由とする損害賠償請求がすべて棄却されている。),同判決は,その後上告が棄却され確定したことが認められる。このように,MBCAは,本件協約の締結の直後である平成18年4月27日には,控訴人の契約違反を理由として本件共同事業契約を解除する意思表示をしていること,及び,同年3月に作成された本件協約書草案では,控訴人とAISCもMBCAと並んで許諾権者として記載されていたのに,本件協約ではMBCAのみが許諾権者とされたことなどからすると,MBCAは,本件協約を締結するころには,控訴人の精算報告義務違反などの事情があったため,被控訴人NEPらに対し,本件共同事業契約の効力を否定し,控訴人が本件展覧会の開催に何らの権利もない旨を伝え,MBCAのみを許諾権者として本件協約を締結することを強く勧めたことが推認される。これを被控訴人NEPらの立場からみると,MBCAが本件小道具等について所有権のみならず,著作権等の何らかの権利が生じるとすればその権利をもともと有していたのであるから,MBCAがその著作権等の権利を譲渡契約により第三者に対し移転しているかどうかは,著作権譲渡の移転登録などの公示手段が具備されていない限り,これを客観的に確認する手段がないのであり,MBCAが同譲渡契約の効力を否定している場合には,被控訴人NEPらとしては,MBCAを信頼して本件小道具等について本件協約を締結し,本件展覧会を開催したとしてもやむを得ないところである。
以上によれば,被控訴人らが,控訴人に本件小道具等の著作権があることを知りながら,MBCAと共謀してこれを否定したと評価すべき事情も見いだし難いし,被控訴人らが控訴人の著作権の移転登録を妨げたといった事情も何ら窺えないのであって,被控訴人らについて,控訴人の著作権の移転登録の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情があるということはできない。よって,被控訴人らが背信的悪意者に当たるとの控訴人の主張は採用することができない。
なお,証拠及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人NEPらは,本件協約締結後の平成18年4月下旬から同年7月上旬ころまでの間,MBCAと控訴人との間に本件共同事業契約が存在することを前提として,控訴人との間で,本件展覧会に関して被控訴人NEPらが控訴人から許諾を受け,その対価として一定の金員を支払うことなどを内容とする契約を締結するために交渉を重ねていたこと,被控訴人NEPらがこれらの交渉をしたのは,控訴人との紛争を円満に解決するためであり,そのためにMBCAに対し支払う予定の金額の一部を控訴人に支払う趣旨の提案をしたものであるものの,MBCAの同意が得られなかったことや,当時は本件共同事業契約の解除の有効性も明確ではなかったことから,交渉が不成立に終わったものであることが認められ,これらの本件協約締結後の経過を見ても,被控訴人らに控訴人の移転登録の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情があったものということはできない。】
原告の上記主張は,採用することができない。
(3) したがって,【仮に本件小道具等の全部ないし一部が著作物であると認められるとしても,】原告は,本件小道具等の著作権の移転登録を経由していない以上,これを被告らに対抗することができない。
2 以上の次第であって,原告の請求は,その余の点につき検討するまでもなくいずれも理由がない。
3 よって,原告の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

[控訴審同旨]
当裁判所も,被控訴人らは背信的悪意者には当たらないから,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり原判決を補正するほかは,原判決記載のとおりであるから,これを引用する。