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著作権判例セレクション
【著作者人格権】 法116条の意義と解釈/「敬愛の情に基づく」差止等の請求は認められるか
▶平成13年01月30日東京地方裁判所[平成6(ワ)11425]
三 争点3(原告によるP18の著作権の承継)について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、P18の死後、その著作物についての著作権は、妻であるP20が相続により承継したこと、原告は、右著作権の二分の一の持分を同人から遺贈により取得したこと、が認められる。
したがって、原告は本件絵画1を含むP18の著作物について著作権の二分の一を有している。
四 争点4(P18に対する敬愛の情に基づく請求の当否)について
1 原告は、①原告がP20の秘書として同人に仕えたこと、②同人の死後も一貫してモーリス・ユトリロ・アソシエーションの会長としてP18の著作物の保護等の活動に携わっていることなどを挙げて、原告のP18に対する敬愛の情は、人格権として不法行為法上の保護に値する旨主張する。
2 一般に、条文(民法710条)に明文で規定されている身体、自由、名誉といった権利のほか、一定の個人の人格に関わる権利ないし利益は、「人格権」と呼べるか否かは別として、不法行為法上の保護を受け得る場合があると認められる(最高裁昭和63年2月16日第三小法廷判決参照)。そして、当該権利、利益が不法行為法上の保護を受け得るかどうかは、個々の権利、利益の内容に照らし、具体的に検討する必要があり、その際には関連する法の規定をも斟酌するのが相当である。
3 ところで、著作者の死後における人格的利益の保護に関する規定である著作権法116条は、著作者の死後における人格的利益の保護の実効性を期するため、著作者の人格と親密な関係を有し、その生前の意思を最も適切に反映することができると考えられるその配偶者若しくは二親等内の血族又は著作者の遺言で指定された者が、その著作者人格権の侵害となるべき行為に対し、差止請求権又は名誉回復等措置請求権を行使し得ることとしている。そして、著作者人格権が、もともと著作者の一身に専属し、譲渡することができない権利であること(著作権法59条)からすれば、著作権法116条に定める遺族等以外の者は、著作者の死後において著作者人格権を保護するための措置を執ることはできないことはもちろん、その人格的利益の保護を求めることもできないと解するのが相当である。また、請求の主体の点をおくとしても、原告主張の事実をもってしては、いまだ、原告のP18に対する敬愛の情は、私的な感情にとどまるものであって、法的な保護に値する利益と認めることはできない。
4 以上によれば、原告のP18に対する敬愛の情に基づく差止め、損害賠償及び謝罪広告掲載の各請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。