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著作権判例セレクション

【著作権侵害総論】ソフトウェア及びデータベースの特定性の問題

▶平成281027日東京地方裁判所[平成27()24340]▶平成29628日知的財産高等裁判所[平成28()10110]
() 原告は,本件事業を行うに当たり,本件ソフトウェアを利用して,特定の小売業者と他社の原価を比較することで当該業者の仕入効率の良否を判定するための文書(「本件診断書」)を作成し,これを当該小売業者に対して交付するなどしていた。

4 争点(3)(被告による本件ソフトウェアの著作権侵害等の有無)について
(1) 原告は,原告が本件ソフトウェアの著作権を有するところ,被告が同著作権(翻案権)を侵害して被告ソフトウェアを作成した旨主張する。
しかし,原告は,被告が被告ソフトウェアのソースコード(乙7)を任意に証拠提出したにもかかわらず,同ソースコードと本件ソフトウェアのソースコード(訴状添付のもの)を対比して,被告ソフトウェアと本件ソフトウェアのソースコードの記述内容が共通しているか,ひいては被告が本件ソフトウェアを翻案したといえるかを何ら具体的に主張立証しない。【しかも,本件ソフトウェアと被控訴人ソフトウェアを比較すると,モジュールの名前及び数が全く異なる上,モジュール内で使用されている変数,関数,サブルーチンの名前もほとんど異なるのであるから,被控訴人ソフトウェアを作成した者が,控訴人に過去派遣されていたベトナム人のプログラマーであったという事情を考慮しても,被控訴人ソフトウェアは,少なくとも被控訴人が独自に作成したものであって,被控訴人は,本件ソフトウェアに依拠せずに,被控訴人ソフトウェアを作成したものと認められる。
したがって,被控訴人ソフトウェアの作成は,本件ソフトウェアに依拠したものと認められず,本件ソフトウェアの著作権を侵害するものとはいえない。】
原告によれば,本件診断書は,小売業者の仕入効率の良否を判定することを目的とした書面であるが,仮に上記判定というアイデア自体が斬新なものであったとしても,同アイデアを前提として具体的に表現すると,概ね,どの業者がどの商品をどの程度の価格で仕入れてどの程度の価格で売却し,どれだけ利益が出たか等を記載した上で,各業者の数値を比較するための表形式のものとなり,誰が作成しても大差ないものと解される。
そして,原告は,被告ソフトウェアと本件ソフトウェアのソースコードの記述内容が共通しているかにつき,ソースコードの対比によって具体的に主張しておらず,被告ソフトウェアのどの部分に,誰が作成しても同じにならない程度の創作性があるかは不明であって,結局,被告による著作権侵害を認めることはできない。
(2) この点に関し,原告は,被告ソフトウェアのソースコード(乙7)に係る電子データが収納された記録媒体の提出を求めて文書提出命令の申立てをしている(平成28年4月13日付けのもの)が,既に紙媒体で提出されたものについて,重ねて電子データの提出の必要があるとはいえない。
原告は,紙ではソースコードの連続性がないため,重要部分の抜き取りや隠ぺいが容易であるなどとも主張するが,被告がこのような行為を行ったと疑うに足る特段の事情は存在しない。被告は,被告ソフトウェアから後述の「ジャコスモード」を除去した点についても,「被告の仕入会参加企業が,いずれもJICFSコードではなく,各企業独自の商品分類に従った分析のみを希望し,JICFSコードを用いる必要性がなくなったためである」旨説明しているところ,この説明内容には相当程度の合理性があり,被告が上記除去によって何らかの隠ぺいを図ったものとは認められない。
以上の事情から,当裁判所は原告の上記申立てを却下したものである。
このほか,原告は,①被告ソフトウェアが収納されたCD,及び②同ソフトウェアの製造委託に当たり作成された提案依頼書,システム提案書,契約書,要求仕様書,要件定義書,基本設計書(外部設計書)ないしこれらと同様の機能を果たす文書についても提出を求めて文書提出命令の申立てをしている(同月19日付けのもの)。しかし,上記①のCDについても,前記のとおり,被告が既に被告ソフトウェアのソースコードを紙媒体(乙7)で提出した以上,重ねて同ソフトウェアが収納されたCDを被告に提出させる必要性はない。また,被告は,上記②の各文書はいずれも存在しない旨主張しているところ,原告は,これらの文書の存在を窺わせるに足りる事情を指摘していない。
以上の次第で,当裁判所は,原告による上記文書提出命令の申立てについても却下したものである。
(3) なお,前記のとおり,被告は,原告作成の本件診断書には不具合があるとして,自らベトナム人プログラマーであるCに対し,被告ソフトウェアを作成させたことが認められる。この点に関し,原告は,被告が,原告の元従業員であったCを通じて,原告の本件ソフトウェアを冒用し,被告ソフトウェアを作成したものである旨主張する。しかしながら,原告の元従業員が被告ソフトウェアを作成したという事実のみによっては,被告が原告の本件ソフトウェアを翻案したとは認めるに足りない。
このほか,原告は,本件メール添付の被告ソフトウェアの起動画面等のうち,「Data」のタブ画面に「ジャコスモード」「Jacos」との記載があることを指摘するが,前記のとおり,「ジャコスモード」はJICFSコードを意味するものと認められ,原告指摘の上記各記載によって,被告による本件ソフトウェアの翻案の事実が認められるものでもない。
以上のとおり,被告が本件ソフトウェアの著作権(翻案権)を侵害したことを前提とする,本件ソフトウェアの使用の差止め,及びその記憶媒体の廃棄を求める旨の請求はいずれも理由がない。
(4) このほか,前記2のとおり,原被告間において本件合意2が存在したことを認めるに足りる証拠もないから,被告が同合意に違反したとも認められない。
5 争点(4)(被告による本件データベースの著作権侵害等の有無)について
(1) 原告は,原告が本件データベースの著作権を有するところ,被告が本件データベースを利用して被告ソフトウェアを作成することにより,原告の著作権(翻案権)を侵害した旨主張する。
(2) しかし,原告は,本件データベースを「原告が収集した原告とつながりのある各小売業者の商品の仕入価格・販売価格に関する情報を体系的に構成したデータベース」と定義するが,前記のとおり,本件情報(原告が収集した原告とつながりのある各小売業者の商品の仕入価格・販売価格に関する情報)が特定されていないのであるから,本件データベースも同様に十分特定されていないというべきであり,ひいては使用の差止め及びその記憶媒体の廃棄を求める対象も不特定である。この点に関し,原告は,訴状附属書類6記載のものを参考例とするが,これをもって,本件データベースの内容が特定されたとは到底いえない。
このように,被告が本件データベースの著作権(翻案権)を侵害したことを前提とする,本件データベースの使用の差止め,及びその記憶媒体の廃棄を求める旨の請求は,対象の特定を欠き,不適法であるから,同請求に係る訴えは却下を免れない。
(3) なお,仮に本件データベースの内容の特定の点を措いても,原告は,本件データベースが,著作権法12条の2第1項所定の「データベースでその情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するもの」に該当することについて具体的に主張せず,またこの点についての立証もないため,本件データベースが「データベースの著作物」に当たるとは認めるに足りない。
また,仮に本件データベースの著作物性の点を措いても,原告は,本件データベースにおける情報の選択又はコンピュータ検索のための体系的構成における創作的表現が,被告のデータベースにおいて無断で利用され,同創作的表現が再現されているといえるのかについて,何ら具体的に主張立証していないため,本件データベースの著作権侵害は認められない。
以上からすれば,本件データベースに関し,被告による著作権(翻案権)侵害があったことを前提とする原告の請求は,いずれにしても理由がない。
(4) このほか,前記2のとおり,原被告間において本件合意2があったとは認められないため,被告が同合意に違反したとも認められない。
6 結論
以上によれば,原告の請求のうち,別紙却下請求目録記載の請求に係る部分は,対象の特定を欠き,不適法であるから,同請求に係る訴えをいずれも却下し,原告のその余の請求は理由がないからこれらをいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。

[控訴審]
1 当裁判所も,控訴人の請求のうち,原判決別紙却下請求目録記載の各請求に係る部分は,いずれも請求の特定を欠くため不適法であり,その余の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり補正し,後記2において当審における控訴人の主張に対する判断を加えるほかは,原判決…に記載のとおりであるから,これを引用する。
()
2 当審における控訴人の主張に対する判断
控訴人は,当審においても,本件情報及び本件データベースは特定されている上,本件競業禁止合意及び本件利用合意並びに本件ソフトウェアに係る著作権侵害がいずれも認められるにもかかわらず,これらを否定した原審の判断には誤りがあるなどと繰り返し主張する。
しかしながら,控訴人は,当審に至っても,本件情報及び本件データベースにつき具体的な特定をすることなく,かえって,これを書面で明確に特定することは不可能を強いる措置であるなどと主張しており,また,本件競業禁止合意及び本件利用合意についても,被控訴人代表者であるBの人物像等をいうにとどまり,これを裏付ける新たな証拠を提出するものではない。さらに,控訴人は,本件ソフトウェアの著作権侵害についても,原審において,被控訴人ソフトウェアのソースコード(乙7)が証拠として現に提出されたにもかかわらず,当審に至っても,これと本件ソフトウェアを比較対照するなどの具体的な主張を一切行っていない。かえって,当審においては,被控訴人が上記ソースコードの電子データを提出せず,控訴人の比較対照の作業を妨害していると主張して,当該妨害行為から本件ソフトウェアと被控訴人ソフトウェアは本質的特徴を共通にすることが推認されるなどと主張する。
上記の事情に鑑みると,前記引用に係る原判決が説示するとおり,控訴人の主張は,具体的な裏付けを欠くもの又は憶測の域を出ないというべきである。そのほかに控訴人の当審における主張を改めて十分検討しても,原審における主張を裏付けなく繰り返すものにすぎず,前記判断を左右するに至らない。控訴人の上記主張は,採用することができない。
第4 結論
以上によれば,原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。