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著作権判例セレクション
【コンテンツ契約紛争事例】合意管轄の有効性を認めなかった事例
▶平成17年12月08日大阪地方裁判所[平成17(ワ)1311]
(注) 本件は、写真の著作権者であると主張する原告が、被告Jとの間で、その写真を第三者に使用させるための受委託契約を締結していたが、①同被告が、上記契約の終了後に、原告の許諾なく、第三者が発行頒布したパンフレットに当該写真を使用させ、②同被告の代理店であった被告Iが、上記契約の終了後に、原告の許諾なく、被告Dが発行頒布したパンフレットに当該写真を使用させたところ、これらはいずれも故意又は過失による原告の著作権(複製権)侵害であると主張して、被告らに対し、損害賠償を、被告Dに対し、パンフレットの頒布差止め及び廃棄を、それぞれ請求した事案である。
なお、原告は、被告Jとの間で、「JALフォトサービス写真受委託契約書」を締結し(「本件契約」)、同被告に本件写真を委託した。本件契約には、①原告は、自己の写真の利用促進のため、写真を同被告に委託し、同被告がこれを受託すること(第1条)、②同被告は、原告から委託を受けた写真を、第三者に有償で貸与して利用させる等の態様で利用すること、(第2条2号)、③同被告の受託業務手数料は原則として同被告の定める使用料金表による利用対価の40パーセントとし、カタログに掲載された写真については、利用対価の50パーセントとすること(第5条)、④「本契約に関して訴訟の必要が生じた場合に東京裁判所のみを管轄裁判所とします。」(第18条)、等の条項があった。
本件契約の締結と本件写真の受託後、被告Jは、被告Iに対し、本件写真についての貸出代理業務を委託し、本件写真のデュープポジを引き渡しが、その後、原告と被告Jは、本件契約を合意解除し、同被告は、本件写真を原告に返還した。
1 争点(1)(当裁判所が本件訴えについて土地管轄権を有しないとして、本件訴えは却下されるべきか)について
(1) 被告らは、当裁判所が本件訴えについて土地管轄権を有しないから、本件訴えを却下すべきであると主張する。
しかしながら、受訴裁判所が土地管轄権を有しないときは、事件を管轄裁判所に移送すべきものであって(民事訴訟法16条1項)、訴えを却下すべきものではない。
よって、被告らの本案前の主張は理由がない。
(2) もっとも、上記のとおり、受訴裁判所が土地管轄権を有しないときは、事件を管轄裁判所に移送すべきものであるところ、被告らは本案前の答弁をしていることにより、民事訴訟法12条による応訴管轄は生じていないから、本件訴えにつき当裁判所が土地管轄権を有しているか、職権により判断する。
ア 被告Jに対する本件訴えは、本件契約の終了後に生じた著作権侵害の不法行為による損害賠償の請求である。
そして、本件契約の第18条は、「本契約に関して訴訟の必要が生じた場合に東京裁判所のみを管轄裁判所とします。」との条項となっている。
そこで検討するに、確かに、本件契約の合意解除により、本件契約による上記管轄合意の効力が失われるとは解されないものの、本件訴えに係る著作権侵害の不法行為は、本件契約の終了後に生じたものである。
したがって、このような紛争についてまで、上記「本契約に関して訴訟の必要が生じた場合」に該当すると解することはできず、上記管轄合意の効力は本件訴えには及ばないものと解するのが相当である。
イ なお、本件契約は原告と被告Jとの間でされたものであるから、その管轄合意の効力が被告I又は被告Dに及ばないことは当然である。
ウ そこで、各被告に対する本件訴えについて当裁判所が土地管轄権を有するか検討する。
被告Jに対する本件訴えは上記アのとおりであり、被告Iに対する本件訴えも同様である。
また、被告Dに対する本件訴えは、著作権侵害の不法行為による損害賠償の請求と、著作権法112条1項及び2項に基づく本件パンフレット2の頒布の差止め及び廃棄の請求である。
ここで、原告の住所地は肩書地である大阪市である。したがって、各被告に対する損害賠償請求に係る、不法行為による損害賠償債務の履行地はいずれも大阪市となり、民事訴訟法5条1号により、それぞれ当裁判所が土地管轄権を有するものである。
したがって、被告Dに対する著作権法112条1項ないし2項に基づく各請求についても、民事訴訟法7条本文により、当裁判所が管轄権を有することとなる。
(3) 以上のとおり、被告らの本案前の主張は理由がなく、当裁判所は、本件訴えについて管轄権を有しているものであるから、以下、本案について判断を進める。