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著作権判例セレクション

【過失責任】 広告主(パンフレット製作会社の顧客)の過失責任(注意義務違反)を否定した事例

▶平成171208日大阪地方裁判所[平成17()1311]
() 本件は、写真の著作権者であると主張する原告が、被告Jとの間で、その写真を第三者に使用させるための受委託契約を締結していたが、①同被告が、上記契約の終了後に、原告の許諾なく、第三者が発行頒布したパンフレットに当該写真を使用させ、②同被告の代理店であった被告Iが、上記契約の終了後に、原告の許諾なく、被告Dが発行頒布したパンフレットに当該写真を使用させたところ、これらはいずれも故意又は過失による原告の著作権(複製権)侵害であると主張して、被告らに対し、損害賠償を、被告Dに対し、パンフレットの頒布差止め及び廃棄を、それぞれ請求した事案である。

2 争点(2)(被告Iの過失の有無)について
前記のとおり、被告Iは、被告Jから、本件契約が解除されたことの通知を受けたにもかかわらず、その後に、本件写真のデュープポジを貸し出し、本件使用2に至らせたものである。
したがって、この点において、被告Iに過失があることは明らかである。
3 争点(3)(被告Dの故意又は過失の有無)について
(1) 被告Dが、本件使用2について、故意を有していたと認めるに足りる証拠はない。
(2) そこで、過失について検討する。
ア 被告Dは、コーヒーの焙煎加工及び販売その他を目的とする株式会社であり、宣伝広告の広告主となることはあっても、自ら広告を制作することを業とする会社ではない。
このような会社が、少なくとも、顧客として、パンフレット製作会社にパンフレットの製作を依頼して、完成したパンフレットの納入を受けてこれを頒布するにあたっては、そのパンフレットに使用された写真について、別に著作権者が存在し、使用についてその許諾が得られていないことを知っているか、又は知り得べき特別の事情がある場合はともかく、その写真の使用に当たって別途著作権者の許諾が必要であれば、パンフレット製作会社からその旨指摘されるであろうことを信頼することが許され、逐一、その写真の使用のために別途第三者の許諾が必要か否かをパンフレット製作会社に対して確認し、あるいは、自らこれを調査するまでの注意義務を負うものではないと解すべきである。
なぜならば、一般に、パンフレット製作会社がパンフレットの製作にあたって使用した写真が、誰の撮影に係るものであるか、顧客には直ちに知り得ないものであり、その著作権についても、当該撮影者が有していたり、第三者に譲渡されていたり、あるいは既に消滅していたりと、様々な状況があり得るのであって、これも顧客には直ちに知り得ないものであるからである。
したがって、特段の事情のない限り、顧客としては、パンフレットに使用される写真の著作権については、パンフレット製作会社において適切な対応がされていると信じ、その写真を使用することが他者の著作権を侵害するものではないものと考えたとしても、注意義務に違反するものとはいえない。
イ 本件についてこれをみるに、同被告が、本件使用2に際して、本件写真について、著作権者が存在し、その許諾を得ていないことを知っていたことを認めるに足りる証拠はなく、また、そのような事実を知り得べきであったという特別の事情が存在したことを認めるに足りる証拠もない。
以上に照らせば、同被告には注意義務違反は認めることができず、したがって、本件使用2による原告の著作権(複製権)侵害について、同被告に過失を認めることはできない。
(3) よって、その余の点につき判断するまでもなく、被告Dに対する損害賠償請求は理由がない。
4 争点(4)(損害の額)について
(1) 財産的損害について
ア 原告は、著作権法114条3項により、原告が被った損害を算定すべきとする。
著作権法114条3項の「受けるべき金銭の額に相当する額」を算定するに当たっては、侵害行為の対象となった著作物の性質、内容、価値、取引の実情のほか、侵害行為の性質、内容、侵害行為によって侵害者が得た利益、当事者の関係その他の当事者間の具体的な事情をも参酌して算定すべきものである。
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ウ 以上の事実を中心に、本件に表れた諸事情を総合考慮すると、本件各使用による複製権侵害について原告が受けるべき金銭の額としては、本件各使用のそれぞれについて3万円と認定するのが相当である。
エ 原告は、一般的に、写真の無断使用の場合、その使用料は通常の使用料の10倍とされるのが通常であると主張する。
しかしながら、原告がその証拠として提出する、日本写真家協会会員用の写真借用書控によっては、一般的に原告主張のような慣行があるものと認めるには足りない。
また、証拠として提出されている写真貸出業者の料金表のうち、アマナの料金表には、無断使用の場合には使用料定価の10倍の額を損害として請求する旨の記載があるが、被告J、JTBフォト、PANA通信社の各料金表には、そのような記載がなく、他に、原告主張の慣行があると認めるに足りる証拠はない。
(2) 精神的損害について
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(3) まとめ
以上のとおり、本件各使用による原告の著作権(複製権)侵害により原告が被った損害の額としては、いずれも財産的損害として、各3万円の限度で認められる。
そして、本件使用2による著作権侵害については、被告Jと被告Iの共同不法行為というべきである。
したがって、原告の損害賠償請求は、上記両被告に対して連帯して3万円(本件使用2の分)及び被告Jに対して3万円(本件使用1の分)のそれぞれの支払いを求める限度で理由がある。
5 争点(5)(頒布差止及び廃棄請求の当否)について
被告Dは、本件パンフレット2の頒布を既に終了し、遅くとも平成16年8月31日までに、自己所有分の在庫は廃棄したと主張し、これに沿う証拠として、廃棄確認書(乙11)を提出する。
上記乙第11号証は、同被告代表取締役が平成17年10月5日付けで作成したものであり、「当社は、平成16年8月31日までに、当社物流センターに在庫してあった、P1氏が著作権を有するキラウェア火山の写真を掲載した『あなたのための楽園』と題するパンフレットの全てを廃棄いたしました。」と記載されているものである。
そこで検討するに、同号証の記載内容を前提とするとしても、同被告の「物流センターに在庫してあった」本件パンフレット2の全てを廃棄したというにとどまり、それ以外に同被告が本件パンフレット2を保有しているか否か等は、必ずしも明らかとはなっていない。したがって、同号証のみによっては、同被告がその保有するパンフレットの全てを廃棄したと認めるには足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって、同被告がかつて本件パンフレット2を保有し、頒布した事実が存在することに照らせば、同被告に対し、著作権法112条1項に基づき、将来の侵害の予防として、本件パンフレット2の頒布差止めを求める請求、及び、同条2項に基づき、将来の侵害防止に必要な措置として、本件パンフレット2の廃棄を求める請求は、いずれも理由がある。